第115話 多分ウサミミがついていた
「カイトさん、皆さん無事でしたか!?」
鹿児島市にあるナイン&Jモールに到着し部隊の人たちが集まっているところで話を聞く。レンがメッセージで確認していた通り、陽動部隊は全員が無事。重傷者もおらず、回復術でケガも治療済みとのことだった。
肝心のカイトさんはまだ目覚めておらず、リコちゃんが付き添っている。お互い何が起きたのかを共有し合うことになった。
「実は私たちも何があったのか正確にはわかっていないのです。」
カイトさんが戦闘におけるリーダーだとすると、この人は部隊運営全般のまとめ役らしい。もともとは大隊長として部隊を率いていたが、実戦はカイトさんに譲ったらしい。
大隊長が陽動作戦に参加した隊員たちから話を聞いてまとめたところによると、俺達が魔人たちに苦戦していたこともあり、カイトさん達はかなり追い詰められていったそうだ。レンが伝えていた、歌が届く前に待ち伏せ部隊がバレットで攻撃し数を減らす作戦を繰り返していたが、倒す敵よりも増える敵の方が多くジリ貧だったらしい。
これ以上は引き付けられないと、撤退か玉砕かというところで、カイトさんが一人、殿を申し出たそうだ。いや、正確にはカイトさんと雪丸か。たった二人で100を超える天使の大群を食い止める。カイトさんらしいとは言え、無茶をする。
「ホオリくん、無茶しやがってみたいな顔をしているけど、ホオリくんだけは人のこと言えないからね。」
うわ、ミコトがジト目でこっちを見ている。すっごい見てる。めっちゃ見てる。多分、特定の業界の方にとってはご褒美かもしれないが、俺はそんな目で見られても嬉しくないぞ。
「ん、ゴホン、そ、それでカイトさんと雪丸が殿を引き受け、部隊の皆さんは撤退を開始したと。リコちゃんがよく納得しましたね。」
「いや、リコは自分も残ると言い張って聞かなかったから、無理やり彼女を抱えて撤退したしたそうだ。」
そして、敵に突撃していくカイトさんと雪丸だったが、その途中で雪丸がカイトさんに飛び付いた、というか体の中に吸い込まれた?ようなことが起きた。とは言っても、撤退する最中のことなので、カイトさん達を凝視していたわけではない。いつも以上に生太刀が光を放っているなくらいのことを後ろ手に見ていた程度で、実際に雪丸がカイトさんに吸い込まれたのか、カイトさんが何かをしたのかは分からない。
「魂を燃やしていたのね。」
「生太刀がいつも以上に光っていた、強いプラーナ込めていたってところが?」
「生太刀ってオオクニヌシから授かったものでしょう?あのウサギも眷属だし、神のプラーナを魂の力を使って引き出したと考えるのが自然でしょうね。」
雪丸って神様の眷属だったんだ。まぁ普通のアクマっぽくなかったし、遭遇したこともない。他の個体についても聞いたことがないし、言われてみれば納得だ。レベッカの推測によると、生太刀・雪丸がカイトさんの魂を燃やしたプラーナに呼応して神の力を引き出し、一時的に人魔合体のような状態になっていたのではないかとのこと。
神の力を人の身に宿すのは非常に危険なはずだ。鹿児島を救った女性もオオクニヌシ様の力を宿して消滅したという話だし、アメノムラクモを使ってヤマトタケル様を呼び出した男性も意識が戻っていない。俺はみんなとサクヤ様のおかげで助かったけど、それが無ければ消滅していたと思う。
「神そのものと一つになったわけでもないし、一時的に合体しただけであればカイトもそのうち目を覚ますと思うわ。一応、プラーナの流れが乱れていないかだけ、後で見に行ってみましょう。」
「ありがとうございます。我々の知識と技術ではこれ以上どうにもできず困っておりました。」
「リコちゃんも思い詰めていないか心配だし、わたし達で何かできればいいね。」
しかし、アクマと人が合体か…。俺達のアクマデバイスに表示されていた進化といい、プラーナは人間に対して何かしら肉体的にも影響を与えるものだということになりそうだ。さすがにこの場で進化のことを言えないので、別の場所でその辺も相談したいな。そう言えば、シーヴァル様が進化についても何か知っていそうな感じだったので、霧島神宮に戻った時でもいいか。
「レベッカさん、雪丸は特殊な存在ではあるが、人間とアクマが合体して人間の力をより強くするなんてことが可能なのだろうか?」
「やめた方が良いわよ。私たちアクマはあの妙な機械で力を得ることが出来ているけれど、それだって適当にくっつけていいものじゃない。それを存在として大きく異なっているニンゲンとアクマを合成するなんて何が起きるか分からないわよ。ニンゲンとしての意識を保てるとは思えないわね。」
大隊長さん、変なこと考えていないかな?アクマの力を使って人の力を底上げしようとか。それこそ悪魔の実験と言う気がする。でも、同じようなことを考える人がいてもおかしくない?宮城さんなら何か知っているかな。
「レンさん、人とアクマの合成なんて話、他の国も含めて話が出てたりするの?」
「い、いえ、ボクも情報部ほど知識はありませんが、い、今のところそのような話は、で、ていないと思います。むしろ、アクマ合成は強すぎるアクマを生み出してしまって、使い手の方が、こ、殺されてしまったなんて話があるくらいですし…」
『名古屋の悪魔たちも無理な合成のせいであんなことになったって話じゃなかったかな?』
現状では、アクマ合成はリスクの方が高いということなのだろう。そういう意味ではカイトさんは覚悟が決まりすぎていたと思う。何と言うか、見た目はワルっぽいのに中身は「漢」って感じなんだよな。強さに対する憧れと言うか執着みたいなものはちょっと怖いけど。
「まぁ今わかっていることはそんなところって事ね。私はカイトを見に行くから、ホオリとレンで魔人のことを説明しておいて。ミコト、行くわよ。」
『私はこっちに残るね。』
その後、俺達は大隊長さんに幹部天使が元は人間であったこと、魔人と呼ばれるアクマ化した存在であったこと。全員倒したので、天神にはもう天使はいないであろうことを説明した。シーヴァル様やヴェルディ様のことは言わずにおいた。あまり人に関わりたくないって言っていたしね。
レベッカたちはカイトさんと雪丸の状況を診てくれていた。やはりプラーナの流れが少し悪くなっていたので、流れを正してくれたそうだ。ミコトはリコちゃんのことを慰めてくれたらしい。自分が一緒に行けなかったことをとても悔やんでいたみたいだ。でもカイトさんからするとリコちゃんは一番守りたい人の一人なんじゃないかな。別にロリコンとかそういう意味ではなく。
金髪ヤンキーはウサミミ超人に変身した
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