第104話 機能停止
俺とレベッカ、レンの面攻撃でヴォーツは完全に足を止める。二つの盾を合わせることでかなり広い範囲を守れるようだ。しかもこちらの攻撃ではビクともしていない。これだけの攻撃にも全くこたえる気配がなく、完全防御というにふさわしい。悔しいがどう考えても正面突破は無理だな。
「これもおまけよ!」
レベッカはヴォーツに風弾を放つだけでなく、弓なりの攻撃を追加する。攻撃はヴォーツの頭を超えてヴォズーリに向かう。それをヴォズーリは炎の矢で迎撃し始める。いい感じに敵二人を釘付けにできている。それを確認したコッチーが雷身で三貴衆の後ろに移動した。
『見え見えなんだよぉ!』
多面攻撃を読んでいたのか、背後に現れたコッチーにヴォーワンが反応。剣を構える。さらにヴォーツも後ろに意識を向け、両面を防ごうと動き始める。この波状攻撃でも片手で防げるのか!?
「片手で防げるもんかぁ!水穿破!!」
ミコトが水穿破を放ち、ヴォーツの意識をこちらに向かせる。さすがに水穿破は片方の盾では防ぎきれないようで、両手の盾を合わせて防御に集中。そのためにプラーナを集中していたのか。さすがの勝負勘だ。
「お前もこっちに集中しろ!」
俺はバレットを放つのをやめず、足からプラーナを伝わせヴォーワンの足元から木槍で攻撃。しかしヴォーワンの剣によりあっさりと切り払われる。
『ガハハッ!無駄無駄ぁ!』
だが、ヴォーワンの意識が一瞬逸れた瞬間にコッチーは最大火力でイカヅチを放っていた。
ニ“ャーーーーー!!
ズガンと重たい音を響かせてイカヅチが背後からヴォーツに突き刺さる。ヴォーワンとヴォズーリが驚愕の表情を浮かべる。その隙にミコトが飛び上がっており、空中で回転した勢いのままにヴォーツにとどめの踵落としで粉砕。
俺も突撃し、ヴォズーリに半分になった棍で腹部に突きを放つ。九の字に折れ曲がり苦悶の表情を浮かべるヴォズーリを背負い投げの要領でレンの方に投げ飛ばす。レンは放り投げられるヴォズーリを大上段の構えで待ち構え、プラーナを最大まで込めた日本刀で一刀両断にした。あの日本刀、凄い切れ味だ。プラーナの通りも木刀とは比較にならないな。
「アンタもここまでよ!」
レベッカが隙をさらしているヴォーワンの両腕をプラーナの鎖で縛り付け、剣を振るえなくする。それを見たコッチーが雷爪で斬り裂く。胸を切り裂かれ瀕死のヴォーワンの頭をミコトが蹴り抜き、ヴォーワンは地面に倒れた。
断末魔を上げる暇もなく、三貴衆は、黒紫のドロドロになって溶け、床にシミを作った。奴らの持っていた剣、盾、杖も一緒に消えていった。あれもクトゥルヒ達の一部だったのだろうか。
「よし!」
「連携はわたし達の方が上手だったね!」
「こいつらを倒しただけで終わりじゃないわよ。プラーナの吸収を送信を止められるかしら。」
『向こうの管制室みたいなところを調べないと。でも秋田さん達も心配だね。』
「わたしとキヅナさんで秋田さんたちの援護に向かいましょう!」
俺とレベッカ、レンで管制室へ。ミコトとコッチーが秋田さんたちの援護に向かう。管制室と広間を隔てていたのはガラスのように透過性があるが、どこか木材のような柔らかさがある不思議な素材で、入口部分だけぽっかりと空いた部分があった。
「な、なんだか人間の機械の、よ、ようですね…」
ヴォズーリが人間の技術を組み合わせたみたいなことを言っていたから、本当にコンソールは人間の機械なのかもしれない。だが、コンピュータに詳しい人が必要かな。
「た、多分、こことここの、せ、設定を…こう。あっ、多分止まりましたよ。」
レンが何やらコンソールをいじって操作すると、ディスプレイに映し出されていたプラーナを吸収していたと思しき表示が止まり、数字がゼロになる。また、どこかに送られていたような表示もすべての項目がゼロになっていた。
「ここの表示って、3つの送り先があったように見えるけど、邪神の復活のためだけでなく、他にもプラーナを使っていたって事かな?」
「この絵は黒い仔山羊とか言われていたやつに似てるわね。」
「も、文字が読めないので、せ、正確かわかりませんが、一番上が最も比率が高く設定されているようなので、こ、これが邪神だったと思います。」
「送っていた場所は分からないわよね?」
「そうですねぇ。うーん、国外のようですが具体的な場所までは…。あっ、で、でも真ん中は日本のどこかのようですよ。ずいぶん近くみたいです。」
地図などが表示されるわけではないので、場所は分からずじまいだった。だが、黒い仔山羊は他のディスプレイにも表示があり、数の表示と思われるところが急激に動いていた。そして最後にはゼロになって止まった。
「ここの仔山羊の表示がゼロになったってことは、秋田さん達が全部倒したのかな?」
「プラーナの供給も、き、切ったのでこれ以上増えず、倒しきれたと考えるのが自然のようですね。」
これ以上、ここでできることはなさそうだったので、入口の方へ向かう。コッチーとミコトがこちらに向かって歩いてくるところだった。他のメンバーはどうしたかな。後ろには見えないが、誰も犠牲になっていなければ良いのだが。
「ミコト!そっちは大丈夫?」
「ホオリくん!黒いのは全部やっつけたよ!途中から増えなくなったけど、ホオリくんたちが何かしてくれた?」
「レンさんがコンソールを操作して止めてくれたんだ。頭がいい人ってあんなこともできるんだね。」
『へー、レンさんも凄いんだぁ。』
「秋田さんたちは?」
「みんな無事だよー!でも疲れ切っていて、その場で休んでる!」
姿が見えなかったのは部屋の外で休んでいるからか。誰も犠牲になっていないということで一安心。今後のことを相談して、撤退しよう。ここってこのまま放置で良いのかな。またクトゥルヒたちが攻めてきたりするのだろうか?
「秋田さん!お疲れ様です!皆さんのおかげでクトゥルヒ達も倒せましたし、プラーナの吸収も止められたみたいです!」
「おお、高屋君。お疲れさまでした。部屋から大きな音が何度も聞こえていたので少し心配していましたが、怪我をした人もいませんか?」
「俺達は大丈夫です。クトゥルヒ達は連携がかなり上手かったので苦戦しましたが、レンさんのアイデアもあって何とか倒すことが出来ましたよ。」
「そうですか。彼も頑張っているのですね。それは良かった。」
息子を心配するお父さんのようになっているが、レンを見ていると何となく気持ちが分かる気がする。年上なんだけど、どうも保護欲を掻き立てられるような雰囲気があるんだよな。
秋田さん達も多少の怪我はしていたものの、回復はすでにすんでおり、少し休めば帰還可能とのことだ。この場所をどうするか話し合ったが、壁や床を破壊することすらできないため、巨樹自体を切り倒すことも不可能だろうという結論になった。
クトゥルヒが再占領して、プラーナの吸収・送信を再開する可能性があるが、Xitterの上方では全国的にクトゥルヒの活動がほとんどみられておらず、こちらに向ける戦力があるかは分からない。
レベッカの話だと、探索不可地域を覆っていたプラーナを吸収するフィールドも消えているらしいから、再度稼働すればすぐに分かるだろう。万一、もう一度稼働するようなことがあれば再度攻略する方向でリーダー会にも話を通すと秋田さんが言っていた。
一旦の方針も決まったことで、俺達はモールに帰還するのだった。
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