第96話 デミ=ニグラス
会話回が続きます
『レベッカが感じた存在は、クトゥルヒだと思う。一応、ぐるっと見てきたけど、マンションがあった場所全体があの巨大樹になっているの。入口みたいなものが一か所あって、そこにクトゥルヒが2体門番みたいに立っていたわ。さすがに気が付かれずには入れなそうだったから、中はどうなっているか分からないの。』
「クトゥルヒがいるなら確定ね。あの樹が邪神関連ってことは。」
「あの樹自体が邪神の眷属なのかな?あの樹を使ってプラーナを集めてるってことでいい?」
「そう考えるのが自然ね。ただ、周囲からプラーナを集めるんだったら、この区域だけというのは非効率すぎるわ。多分だけど…マルガから吸っているわね。」
「えっ!?そんなことできるの?レベッカだって近づきすぎたら飲み込まれて流されちゃうって…」
そうだ、レベッカが修行の時に言っていた。プラーナ・マルガは大いなる流れ。そこに手を伸ばすことは魂が流されてしまう危険性があるはず。たとえ邪神の部下だからってそんなことが出来るとは思えない。クトゥルヒとは何度か戦ったが、そこまでのことが出来るような奴らじゃなかったはずだ。
「だからこその巨大樹なんでしょうね。プラーナを吸い取ることに特化している存在なのか。そしてプラーナを集めているってことは、それを何かに使っている。」
『何かって…ここで何かを作っているって雰囲気ではなかったわ。』
「プラーナをたくさん使うことって何だろう?」
「プ、プラーナって、エ、エネルギーですよね。大きなものを、う、動かすとか。大量破壊、へ、兵器みたいなものとかでしょうか?」
「…最悪のケースって何だと思う?」
「人類が滅亡すること?せっかくわたし達やみんなで頑張ったのに…」
「いや、この星は人類だけのものじゃない。神々が守ってくれたものだ。神様たちも含めてこの星が生んだ存在が消し去られること。それが出来るのは…邪神か。」
『邪神の復活!?』
「そう、最悪は邪神の復活よ。ここで吸い取っているプラーナは邪神の封印を解くために使おうとしていると考えるのが、一番可能性が高いと思うわ。」
俺達の住んでいた場所をそんなことに使うなんて。やはりクトゥルヒ達は許すことが出来ない。
『ねぇ、なんでこの場所だったの?プラーナ・マルガからプラーナを吸い取るのって、ここじゃないとできなかったの?』
「さすがに私にもわからないわ。でもどこでもできるなら、もっとたくさんこの樹を植えているんじゃないかしら。これだけのものだから数が用意できなかったとしても、日本を横断してたった一本しか見つかっていないのはおかしいと思う。」
「そ、その、一旦戻りませんか?このまま突撃するのは、さ、さすがに危険すぎる気が…。」
レンの言うことはもっともだ。だが、クトゥルヒ達がこんなところにこんなものを出現させなければ…父さんや母さんは!このままあいつらをこの手で…!
『ホオリちゃん…こっちを見て…』
「姉さん…」
『私もホオリちゃんと同じ気持ちよ。悔しいし、苦しい。絶対にあいつらは許せない…』
「でも怒りに任せて突っ込んだら駄目って…そう言いたいんだろ?」
「ホオリくん…」
ミコトもそんな目で見ないでくれよ。はぁ分かってるさ。いま無計画に突撃して何かあったらこの情報は誰にも伝わらなくなる。俺たちでどうにかできないから、少なくとも今は他の誰にもどうにもできないってことだし。そうなると邪神復活を阻止できなくなる可能性が高まってしまう。
「ここは確実につぶさないとまずいわ。」
「うん、わかってる。姉さんもミコトもレベッカも心配しすぎだよ。俺だってそこまでバカじゃないさ。」
「分かってるなら良いわよ。それにそろそろレンも限界だわ。次に来るときは連れてくるか、置いてくるか。連れてくるなら鍛えないとねぇ。」
「ボ、ボク…」
レンはついてきたそうなんだよな。怖がりっぽいのに。俺のことを尊敬とか言っていたけど、そんな理由だけでここまでするんだろうか?落ち着いて話を聞いた上で決めた方が良いかもしれない。強力な敵が出てきたら俺達もレンを守りながら戦う余裕がないかもしれないし。
「よし、いったん撤退だ。モールに戻ろう。」
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「なるほど、そんなものがあったのか…」
「敵の戦力が不明だと、こちらもどこまで戦力を集めるべきか判断が難しいですね。」
モールに戻った俺達は奈良さんに状況を報告。秋田さんや他の探索部隊の隊長を集めて情報共有と対処について話し合うことになった。俺達だけで攻略を行う方が万一の時の被害は最小になると思う。撤退する場合だけ援護してもらうような体制が良いのではと思っているが、さて…。
「例え、複数部隊で攻めるとしてもプラーナを吸収されないだけの守りが出来ることが最低条件よ。」
「秋田君、どうかね?」
「探索不可地域にはかなり前に一度行っただけなので、どの程度の精度と強度が必要なのか正確にはわかりません。しかし、ヤマナシ君で無理だったのなら、可能性があるのは部隊長くらいでしょう。」
あくまで可能性がある、なので全員無理であることも考えられるってことか。やはり複数部隊で攻めるのは厳しい気がする。
「探索不可地域外で撤退支援だけしてもらうというのは可能ですか?」
「ホオリ、妥当なところだと思うけど、外には結構強めのアクマが出るわ。あいつらの相手をしなければならないから、あの中に入れないならそれも厳しいんじゃないかしら?」
「月見里君は外のアクマをどの程度と評価しているかね?」
「しょ、正直ボクの実力だと正面から相手をするのは、む、難しいです。あ、でも、ホオリくんのバフを貰えたら何とかなるかもしれません。」
そういえばバフってどのくらい使える人がいるんだろう。あれのあるなしで相当戦いやすさが違う気がする。少しくらい格上でもバフ盛りならいけたりするんだよな。俺以外に使っているところはカイトさんが連れていたウサギくらいか?というか俺の三種バフはあのウサギの真似なんだよな。
「使える人はいないですね。そもそも原理が良く分からないのです。」
「他の人のプラーナに干渉する技術は難しいわよ。ホオリだって最初はどっかの神に教えてもらったでしょ。
まぁでも使えるに越したことは無いか…いいわ、私が教えてあげる。回復担当の方が覚えやすいと思うから、各チーム1人ずつ決めておいて。」
「む?ということは全体のレベルアップを図ることは決定でいいのかね?」
「ホオリの言う通り、最低でも撤退支援はあった方が良いわ。外のアクマに対抗できるレベルまで鍛えるのは決定でいいんじゃない?」
『あと、もし一緒に突入するならクトゥルヒを倒せるレベルじゃないと無理だと思います。』
「邪神の眷属とか言う存在か…宮城君、討伐例はあるのかね?」
「はい、ホーリーたち以外が倒したという情報は日本で一例、海外だとインドとミャンマーで一例ずつ確認できています。ただし、日本の一例は鹿児島で神の力を使ったという話なので人間の力ではないですね。ニッショウ君がその場に居合わせたという話は聞いています。」
「あいつらの強さってかなり個体差がありますよ。俺達が最初に倒したのは、今思うとそこまで強くなかった気がします。ただ、最後に呪いのような術を使ってくるので、その対策がないと仮に倒せてもこちらが全滅する恐れがあります。」
結局、最低限、外のアクマを倒せるくらいのレベリングは行うことになった。クトゥルヒの呪殺攻撃対策は、宮城さんがハリティー様やニャミニャミ様に相談する。
あとは、名古屋から上田さんの作ってくれた武器がいくつか届くそうなので、探索班の攻撃力は少し上がりそうだ。
明日からは全体の戦力の底上げを行うこととし、会議は終了した。
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