第10話 世界崩壊
いろいろと説明回。
あれ?入口バリケードに人がいないぞ。不思議に思いながら中に入ると何やらモール内がざわざわしている。そして、館内放送で奈良さんの声が聞こえてきた。
『皆さん、突然のことで非常に混乱していることと思いますが、まずは落ち着いて情報を共有しあいましょう。想像を超える災害が起きている以上、この先どうやって生き延びていくかを考えなくてはなりません。3Fホールに集まってください。繰り返します…。』
「何があったんだろう。とりあえずホールに向かおう。」
移動途中で出会った人に何があったか聞いてみたところ、なんとネットが復旧したらしい!俺は慌てて宿泊スペースへ戻り、スマホを手に取りホールに急いだ。通知はXitterだけ。おかしいと思ったが、まずは奈良さんの話を聞かなくては。はやる気持ちを必死に抑え、ホールにたどり着いた。
奈良さんが話した内容を簡単にまとめるとこうだった。
・つい、30分ほど前にインターネットが復旧
・一方、電話はいまだにつながらない
・警察や市役所などに問い合わせメールを送ったが返信はない
・ナイン&Jモール本社および各店舗へメールを送ったが、返信があったのは北海道と島根、鹿児島にある3店舗だけで、本社とは連絡がつかない
・連絡がついた店舗も混乱していて、避難者が集まっていることだけがわかった
・SNSはXitterだけが利用可能
しかし、投稿することはできず、ライブルームも利用不可
DMを知人・友人に送信しようとすると3人に送った後、4人目には送信不可になった
・Glugle検索は可能だがWebページは3/23以降更新されているものはない
「私たちが集めた情報は以上だが、何かほかにわかったことがある方はいらっしゃいますか?」
奈良さんの問いかけに、何人かが手を挙げて話し始めた。すると更に恐ろしいことが分かった。
・海外の知人にXitterのDMを送ろうとしたところ、『そのアカウントは消滅しました。』という見たことがない不穏なメッセージが表示された
・タグ『#世界崩壊』がトレンドワード1位になっている
・『#世界崩壊』で投稿を検索すると学校やショッピングモールなどに避難している人の投稿ばかりヒットする
・自衛隊基地や警察署がアクマに襲われ、壊滅したという投稿が複数あった
・投稿することはできたが、2件投稿した後、『本日はこれ以上投稿できません』という表示が出た
・海外アカウントを検索すると、アメリカやヨーロッパの投稿がほぼゼロに近く、中国やインドなどからの投稿は少なからず見られる
・発電所や変電所、浄水場や基地局など主要インフラを司る施設の周りは見えない壁のようなものがあって近づけないという投稿が複数みられる
・世界中にアクマが出現している
情報が共有されるにつれ、避難者の顔が絶望に染まっていくのがわかった。そう、三日前のあの夜、世界は終わりを迎えたのだった。
その後は、もう誰も何も声を出すことができなかった。奈良さんが一言だけ、本日はもう休みましょうと集まった人々を解散させただけだった。
俺もコッチーとレベッカと共に宿泊スペースに戻るのだった。
宿泊スペースは静かだった。だが、遠くですすり泣くような声が聞こえることがある。みんなどうしていいのか分からないのだろう。泣くことすらできない人も多いのではないだろうか。俺も息が詰まりそうになる。
そんな時、レベッカが小声で話しかけてきた。
「外の風にあたって話をしましょう。」
コッチーも小さくナーと鳴いた。
俺はコートを着て、そっと宿泊スペースを抜け出した。
最上階にあるレストランのテラス席にやってきた俺たちは、まだ春が来る前の肌寒い風を感じながら椅子に座る。
「話って?」
「んー、別に大した話じゃないわ。どうせ眠れないんじゃないかと思ったからよ。あそこじゃ話せないでしょ。」
「そうか、気を使ってくれたってこと?そんなに優しい奴だったんだ。」
「あったり前じゃない。私を誰だと思っているの?優しくて思いやりがあって、美しくて頼りになるレディよ?」
「ははっ、何か聞くたびに増えてない?それ。」
「ま、アンタが私に感謝するのは当然として、ニンゲンの世界、大変なことになってるみたいね。」
「ああ、そうだね。まだ実感がわいているかって言われると、ちょっとわかんないんだけどさ。集会の話を聞く限りだと、人間がたくさんいなくなってしまったんだろうなって思う。日本だって何人が生き残ってるのか分かんないよね。」
正直、実感なんてわいていないんだと思う。心が事実を受け入れるのを拒否しているかのように、何も感じない。心が固まって動かなくなっているようだ。
ただ、膝の上で丸くなっているコッチーのぬくもりだけが、自分が今ここにいることを教えてくれているような気がした。
「この世界、ロカ・プラーナとアッシャーにさ、何が起きたのか、何が起きようとしているのか、調べてみない?ずっとここにいたら安心かもしれないけど、アンタはもっとたくさんのことを知った方が良い気がするわ。」
「何が起きようとしているか、か。それって、これからも変なことがたくさん起きるってこと?これで終わりじゃない?」
「能天気ねぇ。これって始まりに過ぎないわよ。この辺りだけの話かもしれないけど、ロカ・プラーナとアッシャーがつながっているにしては、弱いアクマしかいないんだもの。それに、アッシャーに残った神々がいないのもおかしいじゃない?」
「ん?全員ロカ・プラーナで眠りについたんじゃなかったの?」
「ほとんどの神がそうよ。でもかろうじて力を残していた神々はアッシャーを守るために残ったの。この星の力が戻って生命が育つまで守り手が不在だと、また何に侵略されるかわからないでしょ。邪神が一体とは限らないしね。まぁこれだけニンゲンが文明を発達させられたったことは、邪神は来なかったってことなんでしょうけどね。」
「そう言えば、その邪神ってなんなの?名前とか無いの?」
「名前ねぇ。今のあんたじゃ聞いただけで死ぬかもしれないわ。もっと強くなったら教えてあげる。ちなみに配下の軍勢はディープワンなんて言われてたわ。数がとにかく多かったから、力で勝る神々でも倒されるものがたくさんいたって。」
「とんでもない奴なんだね。」
「ええ、そうね。しかも、前にも話した通り滅んでないからね。」
「まさかそいつが復活したとか?」
「それはないわ。アレが復活していたらこんな程度じゃすまないわよ。それに封印から46億年程度しか経ってないから、復活まではまだまだかかるんじゃないかしら。
ただねぇ、残った神々がこの状況で出てこないのが不思議なのよね。」
「あのさ、神様ってそんな簡単にでてくるものなの?少なくとも現代科学が測定しうる限りにおいて、神様って観測されたことがないと思うんだけど。」
「ん?神を見たことがないの?それって…、簡単に出てこれないほど弱体化しているのか、封印されてたりもするのかしら。ホオリの知っている神ってどんなのがいる?」
「神様かぁ。トラータ教っていう唯一絶対の神様を信じている宗教があって、確かそれが世界で一番信者が多いんだったかなぁ。唯一神だから名前がなんだっけ?神様の下には天使っていう羽の生えた使者たちがいるんだけど、有名なのはミカエルとかガブリエルとか?」
「ミカエル?ガブリエル?聞かない名前ねぇ。新しい神かしら。この国には神はいないの?」
「日本の神様っていうと、アマテラスオオミカミとかスサノオとか?だったかな?」
「アマテラス!スサノオ!あの子達、そんなに有名になったの?イザナギの子供たちよね?」
「ん~あんまり詳しくないんだ。確かにイザナギとイザナミって日本を産んだ神様って言われてたかも。」
「あら~、イザナミ達ですら、その程度の認知度なのね。神の気配がしないわけだわ。このモールはまだマシだけど、少し離れると土地を守る力がものすごく弱いものね。」
「土地を守る力?」
「あーそっか、プラーナを知覚できてなかったから分かんなかったかぁ。このモールのある場所って、アクマが湧いているところに比べて土地を守る力が少し残っているのよ。だから雑魚アクマが寄ってこないのよ。」
「そんな理由があったのか。それって他にもあるのかな?」
「あるでしょうね。一応、神々が完全に消えたわけでもなさそうだし、力が残っているところはまだまだあるはずよ。ちょっと気になっているのは、トラータ教?神が一柱しかいないとか言ってるやつ。そこは危ないかもね。私たちの知る神がいない土地だと、今回の騒動で守りの力が働いてなくて、ニンゲンも一緒に滅んでいるかもしれないわ。」
「アメリカやヨーロッパからのXitter投稿がないのって、そういうことなのか?」
「まぁ行ってみないとわからないけどね。ただ、ニンゲンが神を忘れるくらい神の力が弱まっていたら、プラーナを知覚できないニンゲンじゃあ、今の状況には太刀打ちできないでしょうね。」
気が付いたら結構な時間、話し込んでいたようだ。さすがに少し寒くなってきたので、神様についての話はこれぐらいにして、いい加減寝ることにした。
知らないから分からない。分からないから何をしたらいいのか決められない。だったら俺は…。
エンカウント:なし
名前だけ登場 全員Lv不明:バレバレな邪神 / ディープワン / ミカエル / ガブリエル / アマテラス / スサノオ / イザナギ / イザナミ
一神教圏が壊滅的なのには理由があります。いつか語られる日が来るのか否か。
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