[2]
理解に苦しむ…この影たち、俺の影に掴まるように取り憑いている、俺の影に掴めない影が、俺を掴んでいる影に掴んで……
「動かないで」
そう言った彼女は、背負っていたものを手に取り、それを抜いた。
「か、刀!?」
「快刀"夢語"。安心して、人に危害は加わらないから」
信用出来ないし…
"カン"
少し考えている間に、その刀を、地面に振り下ろし、俺に取り憑いた影たちを、斬り始めた。
"ザーッ、ザーッ"
早朝にやっている時代劇のような綺麗な音ではない。ただアスファルトの音が響くだけだったが……
「斬れている……」
その影は、ことごとく真っ二つになって消えていく、それでもなお、聞こえてくるのは、地面の音。今になって怖くなり、思わず1歩距離をおこうとした。
"ザッ"
一瞬だった、すぐに痛みが生じてきた。
「動くなっていったのに、まったく」
「血が、出てるのか」
「ほっぺからね、止血するから、こっち向いて」
俺に取り憑いた影は斬ってくれたが、満足げな顔ではなかった。
「これで大丈夫」
「ありがとう」
「ねぇ、1つ質問させて」
「何?」
「あなた、過去にも経験したことあるよね」
「……何故わかった」
「冷静だったから」
「俺は驚いたぞ」
「それは、影にじゃない、影を斬った私に、でしょ」
「……高校生の頃にな、でも、信じた奴はいない。当然だ」
「ふーん、まぁ質問は聞けたし、今日はこれでいいや、また明後日ね」
「え、まだ話は!」
……一瞬だった。瞬きをした一瞬で、彼女は消えた。
ー4月14日ー
衝撃の土曜日はあっというまに過ぎ、社会に貢献する1週間が始まった。彼女は"また明後日"と言っていたが、どこで会えるのやら…とか考えてるときに現れるのがアニメあるある。
「お兄さん」
「これから仕事なんだ、話はまた今度」
「そうじゃなくて、これ」
「ん…芦の原高校に非常勤講師として……え?何言ってるんだ?」
「会社には伝えておいた、これからは学校の先生だね」
「まてまてまて、俺金融系の会社だぞ?なんでこんなメール…」
「この高校急な欠員が出ちゃって、社会科の先生を募集してたんだ、そこに、ね」
「ね、じゃないよ、だいたい面接とかもしてないし…」
「それ、今日」
「ん?」
「ここから電車で1本、私が連れてってあげる」
「え、ちょっと!」
ー芦の原高校ー
「採用だ!明日からよろ!」
「はい……」
何だこの茶番面接…ただ校長の趣味聞いてただけだった…ていうか、この状況なんだよ、なんで教員になってんだ俺は…
「クラスは、2年1、2組と、3年3組の日本史計12コマをお願いしまーす」
「お願いします…」
教員免許はあるけども…うーん……今の職場ブラックだし…いいきっかけなのかな。
ー自宅ー
「あっさりしてる」
「まぁブラックだし?タダで退職代行してもらったし」
「?退職にお金がかかるのか」
「最近は退職代行の会社があるんだ」
「へー初耳」
「…何でいるの?」
「今聞く?私一応幽霊?みたいな感じだから、しばらくお世話になる」
「風呂とか、ご飯もか?前の会社給料はそこそこもらえたから余裕はあるが…」
「よかったね、合法で女子高生飼えて」
「その言い方やめろ」
「安心して、彼女が来たら外で待ってるから」
「安心しろ、家に来てくれる彼女はいない」
「確かに、彼女いなそう」
「だから言い方…」
「でも、女友達はいるんだね」
そう言った女子高生は、右手から女物の下着を出してきた。
「あいつ、忘れていったのか」
「ここに下着忘れちゃうくらい、あなたのこと信用してるのね」
「あいつ昔から1人が嫌いで、彼氏と別れてから次の彼氏をつくるまでよくここに来るんだ」
「あなた、惨めだと思わないの?」
「もう慣れたし、どーせ彼女なんか出来ないし」
「あっそ、じゃ、これからよろしくね、先生」
「そういえば、名前聞いてなかったな」
「レンコ、あなたと同じ名前よ」
「よろしくな……レンコ」
ー4月15日ー
「みなさん!今日から我が校の一員となる、又山蓮子先生です」
「よろしくお願いします」
他の先生たちは、暖かく迎えてくれた。
ー3-3ー
「初授業、緊張してる」
「お前のお陰で大丈夫そうだ」
「レンコ!」
「はいはい」
"ガラガラ"
明らかにざわざわしてるな…そりゃそうか。
「えっとー、号令お願いします」
「起立、きょーつけ、れー」
全員が一斉に頭を下げた、久しぶりの高校ということもあって、高揚と緊張とノスタルジーでいっぱいだ。
「そこは懐古とか郷愁でしょ、なんで横文字?」
「お前心の中まで読めるのか…」
"ざわざわ"
やばい、変な奴って思われる。
「えー、今日から皆さんの日本史を担当する、又山です、よろしく。えっとー、速桂大から金融の会社を経て、学校の先生になりました。なんか、質問とかありますか?」
「彼女いますかー!」
「いません、けど、居候はいます」
「居候?」
「え?」
やば、余計なこと言った。
「居候って女ですかー?」
「お、男です、ギターで売れてやるとかいって、うちに住んでるんだよねー」
「嘘つき」
「うっせ、この関係はたからみたらアウトなんだぞ」
「先生の下の名前知りたいです」
「えっとー、蓮子っていいます。れんこ…くさかんむりに車にしんにょうで蓮、子は子供の子です」
「へー」
「女みたいな名前」
「でもいい名前じゃない?」
「蓮子先生だ!」
「蓮子先生ー!」
なんか、打ち解けてる?
「他に質問なかったら、あとは自習で」
そう言って黒板に自習と書き、教室の端に置いてある椅子を教壇の前に置いて座った。
「そーいえば、先生日本史教えられるの?」
「若干忘れてるかもだな、帰ったら昔の教科書見直すか」
「第二の人生の始まりだね、先生」
「今回は良い人生にしたいものだ」
"ざわざわ"
「蓮子先生、ずっと独り言喋ってる」
「すごい先生来たね」
その後、2年生のクラスも同じようにやり過ごし、1日を終えた。
「給料は12コマ分だからね、授業が3時間からとかだったら3時間までに来たらいいから、あと木曜日は授業入ってないから休みね、それじゃ、また明日ねー」
「お疲れさまでした」
外に出て自分の影を見た。
「今日は、いないようだ」