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4.聖装戦姫ミサト

 チッチが虚空を見つめると、ポンと小さな音がして、煙と共にピンク色の布が現れる。ヒラヒラと落ちていくそれを、美里は思わずキャッチした。

 柔らかい手触りの、四角い布。天井の照明にかざすと薄っすらと透けた。

 ただの布なのに、なぜかほんのり温かかった。


「これは?」

「聖装の元だ。これを羽織るように背中にかければ、聖装が君の体を覆って聖装戦姫ミサトへと変身できる」

「これが、変身のためのアイテム……」


 美里だって変身ヒロインのアニメは小さい頃から見ている。それに出てくるアイテムに比べれば、布っていうのはかなりシンプルでらしくない物。

 けど、魔法が当たり前の世界で使われる道具っていうのは、こういうものなのかも。


「わかった。やる!」


 決心したなら、あとはやるだけ。布を背中にかければ、温かな光が全身を包み込んだ。


 布が形を変えていき、服のようになる。ピンクを基調としたヒラヒラ多めの衣装は、美里の体のサイズにぴったりだった。

 ふんわりとしたスカートは動きやすくて、肩を出したトップスは少し恥ずかしかったけど、それよりも体中にみなぎってくるパワーの方が気になった。

 今のわたしは強い。なんでもできる。そんな確信が沸き起こった。


「行こうチッチ! どうやって戦うのか教えて!」


 呼びかけながら、窓を開けて雨の降る外に飛び出す。

 冷たい雨に打たれているのに、身に纏った聖装が温かくてきにならなかった。


「敵に手をかざして魔法を放つんだ!」

「うん! ……それだけ!?」

「まだ難しい使い方はわからないだろ!? 大丈夫だ! この地には魔力が大量にある! 無尽蔵と言っていい! それを使うんだ!」

「う、うん! やってみる! えい!」


 道路を走って怪物まで近づきながら、手のひらをかざして念じる。

 思ったより簡単に、手のひらから光る球体が作れた。さらに念じると怪物へ向けて放たれ、首のあたりに命中。


「やった! うまいぞ!」

「あ、ありがとう!」

「けど油断するな! マジックビーストがこっちに気づいた」

「本当だ! ど、どうするの!?」

「打ち続けろ! 弱らせろ!」

「そんなこと言われてもー!」

「もっと大きな弾を作れ!」

「やってみるけど! もっといい指示出してくれると嬉しいのよ!」

「頑張れ!」

「そうじゃなくて!」


 でも、今はそれをするしかなさそうだ。念じれば魔力はたしかに大きな塊になって、怪物の頭にぶつかった。

 繰り返そう。何度も何度も。すると怪物も怒ったのか、こっちに向かって踏み出してきた。


「きゃー!? こっち来ないで! どうしよう!?」

「撃ち続けろ!」

「チッチさっきからそれしか言ってない! うわーっ!」


 怪物から逃げながら攻撃を続ける。聖装のおかげか、普段よりずっと早く走れて怪物に追いつかれることはなかった。

 そして下から顎に向けられる攻撃を受け続けた結果、怪物の頭は大きく揺さぶられたらしい。殴られてるのと同じようなものだもの。


 意識が遠のいたのか、姿勢が崩れる。大きな頭が近くに迫る。


「頭を撃ち抜け! それか魔力を剣の形にして喉を切り裂け!」


 チッチが物騒な指示を出す。そんな無茶な。けどやるしかない。


「く、喰らえー!」


 作ったのは、また魔力の弾丸。けと球体じゃなくて、銃弾みたいに先を尖らせてみた。

 撃ち抜くってことは、銃みたいな形じゃないと駄目と思ったから。思った通りの形になってくれてよかった。


 銃弾の形が功を奏したのか、それは怪物の額を貫いた。


 死に瀕する恐怖や苦悶など一切なく、怪物はゆっくりと消滅していった。


「お、終わったー!」

「おい。まだ終わってないぞ」


 その場にへたりこんだ聖装戦姫ミサトの前にチッチがやってくる。


「ほら、立つんだ。そして手を空に向けろ。忘れろと念じながら魔力を手に込めるんだ」

「ええー……」


 何が起こるかわからないけど、チッチに言われた通りにした。

 確かに魔力が手から拡散していく感じがした。



 すると奇妙なことに、その日怪物が現れて暴れたことを、誰もが忘れてしまった。怪物のおかげで壊れた建物はそのままだけど、ガス爆発とかの事故のせいだと誰もが認識するようになった。


 怪物と聖装戦姫の存在を人々の記憶から消し、破壊の跡は偽の記憶で辻褄を合わせる。そんな魔法を使ったらしかった。


 これが聖装戦姫、この街で二十年前に戦っていた戦士の最初の戦いであり、人類が初めて魔法を使った記念すべき出来事でもあった。



――――



「ということがあったのよ」

「なるほど、わからない」


 昔を懐かしむようにしみじみと語る美里の話しが一区切りついたところで、僕の口からそんな言葉が漏れ出た。


「えー? ラフィオわからなかったの? 悪い奴がやってきて、モフモフも来て、美里さんがやっつけたんだよ!」

「いや、それはわかる」


 モフモフを強調するのはこいつの性質だけど、流れとしてはそんなものだ。

 変身ヒロインアニメにありがちな流れ。

 それはいいんだけど。


「美里さん。マジカという異世界は、まだあるんですか?」

「ええ。そこから来る敵は倒していったけど、マジカ世界の人間の多くは平和な人たち。今もこの地球をじっと見守っているわ」

「そうですかー」


 違う世界があること自体は別に驚かない。僕がいたエデルードは、神が土台だけ作って僕たちに設計を丸投げした世界。神が他に世界を作っていても、そういうものだと受け入れられた。


 問題は。


「マジカの人たちが、こっちに関わってくることはないんだな?」

「ええ。チッチは今も向こうと交流を持っている。その様子はないって言っていたわ」

「そうか。よかった……」


 僕と魔法少女は本来の敵と戦うので手一杯なんだ。他所の世界から介入なんてあったら、たまったものじゃない。手を出さないならそれでいい。

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