新王都ミザルーン・4
街中に警報が鳴り響いく。
ついに外壁が破られたんだ。
父さんが慌ただしく対精霊装備に身を包む。
玄関に向かい、家を出る直前に私を振り返った。
「母さんを頼む」
それは、私を「精霊使い」として認めてくれた証。
だから私もうなずこうとした。任せてよ、とそう言いたかった。
だけど言葉が出てこない。
任せるということは、もう自分では母さんを守れないと、そう思っているということ。
必ず帰ってきてね。また会えるよね。……死なないよね。
その言葉を飲み込む。
諦めるな。必ずまた会えると信じるんだ。諦めなければ必ず奇跡は起こる。
だから、笑うんだ。
それがあの子のくれた奇跡の魔法なんだから。
「もちろん。任せてよ」
父は頷き、家を出ていった。
その背中を私は強く目に焼き付けた。
いつでも思い出せるように。
母さんと共に最低限の荷物を持って街を出た。
人々の列に混ざって歩きながらも、私の中には、闇の中で聞いたあの声が残っていた。
あれは神様なんかじゃなかった。
もっと小さくて、かわいそうなくらいに泣いていた。涙もこぼれないくらいに絶望していた。助けを呼んでいた。そんな気がしたんだ。
炎に包まれるあの子の手を、私はにぎれなかった。
もう二度と同じ過ちは繰り返さない。助けを求める手を、私は絶対に諦めない。
たとえ届かなくても、必ず手を伸ばす。そうすれば、きっと助かったはずだから。
あの子は私に助けを求めてた。
だから私は行こう。
北へ。
あの声がした方へ。
それはやがて世界を変える少女の物語。
精霊使いでありながら、精霊ではなく、人間を信じ続けた精霊使い。
どんな時でも決して諦めず、笑顔で人々を励まし、人々を信じ続けた。諦めなければ奇跡は起こる。その言葉を行動で示し続け、そうして実際に奇跡を起こし続けた「太陽の聖女」の物語。
その物語は、たったひとつの偶然からはじまる。
1匹の精霊も扱えない最強の精霊使いが、とある少年と出会うことによって。