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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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45.霊たちを送る

 ガラガラと木材の崩れ落ちる音が聞こえた。レオンがやったのね。


 当然、ありもしない指輪を探させられている見張りも聞いたし、何かあったのかと立ち上がって音の方に向かおうとした。

 そこには当然、レオンたちがいるわけで。


「お待ちなさい! あなたの仕事は指輪を探すことですわよ!」

「し、しかし……」


 うん。わかってる。この人の仕事は、夜の間に資材置き場を荒らす不届き者が出ないか見張ることだ。そして何か問題が起これば駆けつける義務がある。


「私は公爵令嬢ですわよ!? その私がやれと言っているのです! やりなさい!」

「あの、ですが。向こうで」

「やるのですわ!」


 あー。このお嬢様然とした喋り方、嫌だな。ちょっと前までは普通に話してた身で言うのもなんだけど、馬鹿馬鹿しすぎる。


 レオンに言われて普通の話し方に変えたの、感謝しなきゃな。


 私はそのまま押し問答を続けた。人のいい性格らしい見張りが困り果てているのを見て、そして私もそろそろいいかと思い始めた頃合いを見計らう。


「仕方ないわね。いいわ。行きなさい」

「……はい?」

「行きなさいと言っているのよ! 私が治める現場で何か問題が起こったのでしょう!? 確かめるのがあなたの仕事よ!」

「え、あ、はい? ……はい!」


 突然真逆のことを言い出した公爵令嬢に、彼は合点がいかない様子。けどこれが本来の仕事。

 音がしたと思しき方向へ駆けていった。


 うん、これでよし。私の仕事は終わった。めちゃくちゃなことを言ったけど、これで評判が傷つくのは私ではなく姉さんだ。

 その姉さんも、レオンによって大怪我をしたところだろう。永遠に口を閉ざしたいと思えるほどの恐怖と共に。


 騒ぎになる前に、私はひとり資材置き場から出た。

 結んでいた長髪も解いて捨てて、眼帯をつけて他人になりすます。なれているかは知らないけど、なんとかなるだろう。


 そういえば。私は永遠の別れになると思われる姉さんと、何も会話できなかったな。家族なのに。

 あまり、後悔はなかったのだけど。



――――



「これで未練は晴れたはずだ。遺してきた家族のことは心配だけど、各地の神父様が親身になってくれるから安心してくれ。ちゃんと冥界まで行ってくれよ。死者よあなたたちの冥福を祈ります。死後の世界が安寧であらんことを」


 レオンが教会から借りてきた塩の小瓶を持ち、早口で死者へのお願いと祈りを唱えるのを、ユーファは黙って見ていた。


 ルイとはこの資材置き場の外で合流するし、作戦の都合上遺体に取り憑いた霊はここでいなくなってもらわないと困る。

 ネドルたちに大怪我をさせたのを遺体の仕業に見せつけたいわけだ。


 幸い、レオンの祈りで死者たちは冥界まで行ってくれたらしく、四つの遺体はバタバタと倒れていく。


「よし行くぞ!」


 彼らに軽く塩を振りかけてから、レオンはユーファの肩を叩いて走る。


 見張りはルイーザが止めているのだけど、いつまでも止められるとは思わない。適当なところで行かせてやれと指示も出していた。

 いずれは人が大勢くるだろう。その前に逃げないと。


 資材置き場の周りは木製の柵で覆われている。大人の腰くらいの高さがあり、簡単には乗り越えられないもの。

 けど、一連の作業が終われば撤去される簡単なものだ。

 柵にナイフを突き立て、それを足がかりに難なく乗り越えてから、ナイフもしっかり回収。


「歪んだりは?」

「してない。このナイフは丈夫だから」

「そう」


 ナイフを大事にするレオンは、こういう使い方は好きではないかもしれないと尋ねたけど、問題ないようだ。

 大事にしているからこそ、道具への信頼があるのだな。


「見つけた。あそこ」


 建物の陰に隠れていたルイーザを指差した。レオンは、大して離れていなかった彼女が無事だとわかった途端に、口元を緩めた。


 本当に、あの人のこと大好きなんだな。



――――



「ルイ!」


 レオンの声がして、私はようやく仕事から解放された実感を得られた。

 単独行動とか、私にはちょっと荷が重すぎた。確かに姉さんを演じて見張りを釣り出す作戦はうまいと思うけど、私にそんな大役やらせないでよ!


「うまくいったみたいだな」

「ええ。ものすごく疲れたけど」

「実の姉なのに、真似するのは疲れるか?」

「とてもね。嫌いな相手だから」

「ごめん」

「別にいいのよ」


 霊のために必要な行為だ。



 背後で騒ぎになっているのがわかる。見張りが、さっきまで話していた相手が無残な姿で横たわっているのを見て驚き、人を呼ぶ声。

 大声を出して誰かに気づいてもらえないか試みてから、近くの建物の戸を叩いて住民を起こしているのだろう。

 私たちの存在は気づかれていない様子。そのまま教会まで、誰にも不審に思われることなくたどり着けた。



「死者たちよ。元凶は既に動けなくなった。これ以上の死者は出ないであろう。だから安心して冥界に行きなさい。行け」


 レオンの雑な祈りと塩で、私に憑いていた何人かの霊を送る。昨日の三人の遺体の霊も含めてだ。


「さっきの四人を送るのは、もっと丁寧な言い方してた」

「へえー」

「いいだろ。さっきは時間がなくて、確実に送れるように頑張ったんだよ。早く冥界に行けるように」

「もっと雑でも道は開けるんでしょ?」

「開けるのは確かだな。けど急いでる中でも、死者には丁寧に行ってほしいだろ?」

「理屈はわかるけど。じゃあこの霊も丁寧に送って差し上げなさい」

「あなたがたの死後の旅の安寧を祈ります。どうか安らかにお眠りください」


 やればできるじゃない。


 これにより、労働者の霊たちはしっかりと冥界へ旅立った。


 ひと仕事終えた私たちは、外が騒がしくなっているのを聞きながら、遅い就寝をするのだった。

 ただし、昨夜と同じく礼拝堂で寝るわけにはいかない。狭い物置で、寄り添い合うようにして眠った。

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