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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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21.どっちつかず

 奥の工房からジャンも何事かとやってきた。


「階段あたりに隠れてろ。もうすぐ男爵家が来る」

「盗み聞きするなとは言わないんですね」

「止めてもやるだろ」

「そうですけど」


 やるのは主にレオンだし。私が保護者みたいな扱いを受けてるから、別に私に言われるのはいいんだけど。


 物陰に隠れつつ息を整える。アニエスは律儀にお茶を淹れてくれた。走ったおかげで喉が乾いてるのよね。ありがたい。


「なあジャン。もし、というかほぼ確信してるんだけど、夫婦の折衷案は決まっていないなら、息子に判断を委ねろ」

「ああ。そうだな。俺も、そうするしかないと考えている。だが息子は臆病者だ」

「勇気を出させろ。両親にすら逆らえない男が、貴族の社会でうまく生きられるはずがない」

「それを、そのまま言うのか?」

「表現はジャンに任せる」

「面倒だな」


 けど、ジャンはやる気のようだった。


 いやまあ、そうかもしれないけど。貴族の男性の生きる世界はつまりは政治の世界なわけで、優しいことが美点とは限らない場面はあるけど。

 でも、基本的には信頼と相互協力が求められる世界なわけで。特に今みたいな平和な情勢では、善良であるのはいいことだ。

 別に外部と戦争が起こってるわけでもないし、王位継承権で揉めてるわけでもない。次の王は、今の王の長男だ。次男はあんなことになったし。


 レオンはお金持ちが嫌いだから、評価が厳しくなる傾向にあるんだよな。


 やがて、表からノックの音が聞こえた。ヴィルオバル家だろうな。お金持ちだからか、心なしかノックの音すら優雅な気がした。

 緊張した面持ちのジャンが出迎えて、私たちはそれを観察する。


 さっきは後ろ姿しか確認できなかったけど、今度は顔つきもわかった。



 父親のヘルターは、善良そうな顔だった。街の土木関係の仕事を統括する役所の幹部だけど、相応の優秀さや人当たりの良さでのし上がったんだっけ。

 中年から初老にかかる年頃だけど、若い頃は現場の労働者とも関わりがあったのだろう。力で押さえつけるよりは、よく話をしてわかり合うことで協力体制を築く人なんだと思った。


 つまり、さっきレオンが言っていた優しさだ。それが成果に繋がる人だった。


 妻のローラの方も美人だな。がっしりした体格に負けないような、気の強そうな顔つきをしている。

 私も釣り目とよく言われるけど、さらに細い目のおかげで鋭さすら感じる視線を周囲に向けている。


 なんだろうな。怒ったような顔つきのジャンと対面すると、喧嘩してるみたいな印象を受ける。本当は違うのだとしてもだ。


 最後に息子のヘクトル。彼は。


「弱そうだな」

「ええ。体つきはともかく、顔つきはね」


 気弱そう。こんな、男らしい職人が大勢いる街に踏み込むこと自体にすら緊張感を隠せなく、居心地悪そうにしていた。

 あるいは武闘大会にも出たくないし、戦いの道具である鎧を着ることすら忌避感があるのかも。


「待っていたぞ。来い」


 そんな一家に、ジャンはそう声をかけて居間まで連れて行った。


「ジャンさん、男爵相手にあんな口調で接してるんですか?」


 ドヴァンは謙ってたのに。


「はい! お父様のジャニドさんが、ああいう感じだったので、踏襲することになりました。どうやら、昔気質の職人をイメージしたそうです。あ、お茶出してこないと」


 手短に言って、アニエスはキッチンまで小走りで向かっていった。

 それで、死ぬまでのめり込むなんて。本物の職人気取りか。そこまで卓越した腕は持ってなかったそうなのに。


 私の周りにいるはずの、姿の見えないジャニドの霊に目をやる。当然、返事はない。私は座っているから、転ばされることもない。


「それで、方針は決まったのか? 派手さと動きやすさ。男爵家の威光を形で示すか、勝負の勝ち負けで示すか」


 これはジャンなりに言葉を選んで選択を突きつけたということなのだろう。


 男爵家に威光があるのは間違いないし、それを形にする仕事も理解している。夫婦いずれの主張も一理あるから、そっちで解決しろと。


 そしてレオンの予想していた通りの結果になったらしくて。


「それなのですが……なんとかして、両方の意見を聞くことはできないでしょうか」


 遠慮がちに言ったのはヘルター男爵だった。遠慮というのはつまり、相手への敬意はあるから下手には出たくないけど、威厳は保ちたいとかそういう感情から出た態度だ。多少の配慮も混ぜているということ。

 そんなこと、実際に意見を聞いて仕事をしなきゃいけないジャンにとっては、余計な配慮でしかないのだけど。


「どちらも捨てたくはない。なんとか、両立させることはできないだろうか」


 雄々しい。あるいは敬語とは程遠い力強い話し方で頼み込んだのは妻のローラだ。

 この人、普段からこんな話し方をするのだろうな。他者に謙ることはしない、誇り高き騎士の家庭。


「誇りは大事だよな。それで他人に迷惑をかけるなら、ガキのわがままだ」


 レオンが小声で、前にも聞いたようなことを言う。

 ジャンの困惑具合を見るに、レオンの言い分はもっともだと思う。


「なるほど……つまり、あんたたちはお互いに意見を合わせることができなかったわけだ」

「そうではない。合わせようとしたが、お互いに譲れなかっただけだ」


 それを、一般的にはできなかったと言う。ローラはわかっていないようだけど。


「まったく……じゃあ、あんたたちに意見は聞かない。ヘクトルさん。君はどうなんだ」

「あ」


 急に話を向けられた、ヴィルオバル家の跡取りは戸惑った様子を見せた。

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