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ある鍛冶屋の悲劇~元公爵令嬢と生意気ネクロマンサー シーズン2~  作者: そら・そらら


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19/60

19.クソガキに折れる私

「というか、私と出会う前も遠出することはあったんでしょ? そういう時、どうしてたのよ」

「エドガーと行ってた」


 だろうな。


「彼と行きなさい」

「レオン、今回は山でしょう? 森をかき分けて坂を登るのは、聖職者の仕事ではありません。それに、ルイさんがいるではないですか」


 胸の前で菱形を作り、声真似をした。似てるけど。祈りのポーズを冗談で使うな。あと手を動かせ皿を洗え。


「まあ、言いそうではあるわよね」

「舗装された街なら、遠慮なく動き回るんだけどな。信者に馬車を手配してもらうとかして」

「体力がないというか、運動したくないのを突き詰めるとこうなるのね。とにかく、私は行かないからね」

「えー」

 とりあえず、この話はこれでおしまい。



 と思ってたのだけど。


「ぎゃー!?」

「おー。葬列で転ぶってことは、葬儀をするだけでは物足りないと見た」

「なんでよ! お葬式開いてもらえるなら感謝しなさいな!」


 次のお休み、ジャンの様子でも見に行こうかと鍛冶屋街の方へ歩いていると、お葬式の列に出くわした。

 逃げるのも悪いから、霊が満足しているか、そもそもいないことを祈りつつすれ違ったのだけど、失敗した。


「すいません。俺、アルディス地区の教会で働いています。エドガーの知り合いです。彼は、どうして亡くなったんですか?」


 レオンが葬列の中にいたシスターのひとりに話しかけた。

 エドガーの名を聞けば、彼女はレオンを信頼したようで。


「北の山の木こりさんですよ。斜面から滑落して、頭を打って」

「そうですか……」

「ここのところ、山で亡くなる人が増えているので、神父様も心を痛めています」

「山で? 鉱山開発に関連して、ですか?」

「ええ。木の下敷きになったり、岩に押し潰されたり。どうか、死後は安らかに冥界へ行ってくれるよう祈るばかりです」


 冥界に行かず私に憑いたんだけどね。どうしてくれるのよ。


「それに、こんな噂があるそうです。あの山には竜がいると」

「竜?」

「そうです。魔族の仲間の竜が生き残り、山の中で密かに隠れていると。ああ恐ろしい……」


 信心深いあまり、そんな迷信じみたことまで本気にしているシスターさんらしい。


 彼女はぶるりと身を震わせて、葬列と共に去っていった。いやいや。なによ。変な噂だけ喋っていなくなるなんて。

 そもそも、なんで突然竜が出てくるんだ。肝心なところを教えなさいよ。


 まあ、教会にいるシスターさんが山で何が起こっていてどんな噂が流れているかなんか、詳しく知ってるはずがない。

 噂を聞いた人が再度口にする噂なんか、信じられるものではない。


 ないのだけど。


「竜……」


 ああ。レオンが興味を持ってしまっている。


「なあルイ」

「行かないからね。というか、竜なんているわけないでしょ? 二百年前にいなくなったの」

「それはそうだけど。生き物だし、生き残りはいるかも」

「いないから」

「確かめに行きたい」

「う……」


 普段の生意気な口調じゃない。懇願するような、少し弱気な目をしている。

 年相応で、不覚にも可愛いと思ってしまった。


 会いたいんだろうな。本物の竜に。


 噂は噂でしかないけど、噂が立つなら何かしらのきっかけがある。

 事故に遭った労働者が、死ぬ間際に何かを口走ったとか。誰かが何かを見たとか。


 本当に竜である可能性は低い。けどレオンは何らかの希望を見出している。


 魔族戦争時代に取り残されたような、たったひとりのネクロマンサー。血の繋がった家族のいない子供。

 何かに縋りたい気持ちはわかる。


「ああもう。わかったわよ。とにかく、私とレオンそれぞれの希望を叶えられるよう、考えましょう」

「……うん」


 ふっと笑顔を見せたレオンも可愛くて、思わず抱きしめそうになった。けれど私がする前に、レオンの方から身を寄せてきて。


「ルイは家族と会いたくないんだよな。だから山には行きたくない」

「ええ」

「まずは情報収集だ。現場の指揮を公爵領の誰かが執ってるはずなんだ。それが誰かをリリアに調べてもらおう」

「そうね。でも、わかるかしら」


 リリアは王都にいて、公爵家の使用人はおそらく王都にはほとんどいない。

 公爵家も別邸を王都に持ってはいるし、そこの管理人はいる。けどその人物が本領の最新の情報を把握しているとは思えない。

 だからその方向から知るのは無理だろうな。


「となれば、神父かな」

「ええ。その方がまだいけそうね」


 今の時点で死者が複数出ているならば、教会でも話題になっていると思う。

 あくまで噂レベルの情報しか流れてこないわけだけど、監督者の人となりはわかるはず。


「帰ったらエドガーに頼んでみよう。それより今日は、ジャンを見に行くんだよな」

「ええ。……行ってくれるの?」


 別に、ジャンと約束したわけじゃないのに。今からエドガーの所へ行ってもいいのに。


「この件、鍛冶屋も係わってるかも」

「そうかしら。確かに道具を売りつけて儲けたって話だけど」

「そこの繋がりから、なにかわかる……かも」

「そうね。一応聞いてみましょう。……ありがとね」

「うん」


 レオンは私に身を寄せたまま、鍛冶屋街へ向かって歩みを進めていく。

 本当に鍛冶屋たちから本件の情報が得られるとは思ってない。けど、私は今日は鍛冶屋に行きたかったんだ。山について調べたいわけじゃない。


 レオンは、私のことを考えてくれてるんだな。

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