第27話 素敵なプレゼントが届きました
新学期が始まって、あっという間に半月以上が経過しました。新入生たちは少しずつ学院での生活に慣れた様子です。エメリナ・ガーデンが出会いの場になっているという噂は彼らにも届いたらしく、チラチラとどんなものか確認しに来る姿が見られます。
入学式では生徒代表挨拶をさせられましたし、知らないうちにエメリナファンクラブなるものが結成されてるし、それもこれも全部アーサー様がいらっしゃらないせいです。うーいらいらします。
というわけで、寮にある私の部屋でマリナレッタさんとお茶を飲みながら現実逃避を。
「ふふ、今日もご機嫌斜めですね」
「だって聞いてくれる⁉ みんなずっとトムスンデーの話しかしないのよ?」
「もうすぐですからね、あと半月きりましたし」
「どんなドレスを着るだとか、誰のエスコートで参加するだとかって話はね、たくさんしてくれて構わないの。みんな幸せそうだし」
「そうですね」
マリナレッタさんが苦笑しながらクッキーを口に運びました。そうね、それ美味しいのよね。はい、私も食べます。ぽりぽり。
「合間にチラっと憐憫をのせた視線を寄こすのはホントやめてって思うわけ」
「皆さん心から心配してらっしゃるんだと思いますよ」
「それはわかるけど!」
アーサー様は王太子ですから今までも公務で遠方へいらっしゃったことはあります。なので友人たちも彼の姿がないことについては何も言わないんですけど……。お戻りになるのがいつかわからないって言ってからは「トムスンデーもひとり……?」みたいな顔で急にこう、腫れ物扱いなんです!
さらにもう一枚クッキーを口に放り込みました。真ん中にドライフルーツがくっついていて、ほのかな酸味が後をひきます。なので、もう一枚。
「夏休みの間、伯爵令息ズとダンスのほかにも一緒にお勉強したり、礼法で教えてもらえないような些細なマナーを教えてもらったりしたのでしょう?」
「令息ズ! ふふっ、エメリナさまの表現……アハハ」
「だって私まだ見分けがつかないもの。それで、医務室へ連れて行ってくれたのがどちらかわかったの? それとも、その件に関係なくどちらかに好意が傾いたりは?」
マリナレッタさんは、まるでポンッと音でも出たかのようにお顔を赤くしました。これは絶対に心当たりがあるお顔ですね! さぁさぁアーサー様みたいな不実な男の話はさておいて、キュンキュンする話を聞かせていただかないと。あのエロティカ事件のせいで図書館で恋物語を探すのを躊躇してしまって、トキメキが不足しているんです。
「こないだ、困ったときに最初に手を差し伸べてくれるのは必ずレッフリードさまだって気づいたんです」
レッフリード誰? どっち? あ、でもお顔は一緒だしどっちでもいっか!
「それでそれで?」
「好きな花や色を覚えててくださったのもレッフリードさまで、それで、パーティーにはレッフリードさまとご一緒できたらいいなって思うんです」
「きゃああああああああああああっ! いいわね、そういうのちょうだい。他に何かキュンキュンするような話題はないの?」
「エメリナさまそういう感じの方でした?」
「……コホン。失礼」
無意識に前のめりになっていた姿勢を正し、紅茶と差し湯をカップへ注ぎます。
双子の間で決闘とかにならないかしら。あ、駄目ね。それはさすがに脳みそがフィクションを求めすぎているわ。でもこれ、系譜としては「私のために争わないで」ですよね、胸が高鳴ります。さすがヒロイン、正規のルートじゃなくてもちゃんとドラマチックな展開を用意してくれるなんて!
「エメリナさま、笑みが隠れていません」
「だってぇ」
と、そこへノックの音です。いらっしゃったのは学院内で雑用を務める用務課の方。私宛に大きな荷物が届いているとのことで、運び入れてくださいました。女子寮ですから女性ばかりで大きな荷物を運んでいらっしゃいます。抱えきれない大きな箱がひとつと、他に大小様々な箱がいくつか。一体なにかしら?
部屋の外では他の寮生も何事かと室内を覗こうとしているようですね。まったく、はしたないと言わざるを得ません。
用務課の方々が立ち去って部屋の扉を閉じると、マリナレッタさんはその荷物の大きさに感嘆の声をあげました。
「こんなの、あたしの部屋だったら入りきらないです」
「そんなに狭いの⁉」
日本のワンルームを思い出してしまいますね。私の前世の部屋も六畳くらいで、ベッドとテーブルと小さめの棚を置いたらそれまででした。まさかそこまでではないでしょうけど。
マリナレッタさんに急かされて、荷物を開封していきます。まずは最も大きな箱からです。
「え……これって」
「わぁ! すごい、素敵です!」
ドレスでした。灰赤色の絹は落ち着いた印象ですが精緻な銀糸の刺繍が華やかに仕上げています。他の箱も、ドレスに合わせるにふさわしいデザインのグローブや靴、それにアクセサリーでした。
「差出人を確認しなくてもわかりますね、王太子殿下ですよねっ?」
マリナレッタさんのウキウキした声に、私は頷きながらメッセージカードを手に取りました。
『エメリナ、覚えてるかな。ドレスを贈ると約束したよね。聖トムスンデーでは是非これを纏ってほしい。そして、俺にエスコートさせて。アーサー』
ちゃんと間に合うように戻って来てくださるってことですよね。
ホッとしたらなんだか泣けてきました。泣きませんけど。私も過去の私に倣って王妃になる覚悟と矜持を持ち直すんですから。
ガラス細工みたいにそっとドレスを持ち上げたとき、外がにわかに騒がしくなりました。次いで聞こえて来たのは情報通な友人の声。
「ヘリン公国との国境で暴動ですって! ヴァルミレー・ヘリン間で戦争になるかもって」
ドレスを取り落としてしまいました。




