無茶な血
3話 無茶な血
「だれだ!」
「名のってわかるほど有名人じゃねーわ」
現れたのは銀髪で白い大きな目の少年? だ。
何者だ? 私の他にも刺客を雇ってたのか?
「ガキがぁなめた真似を!」
仕込み杖の男は、ロープ使いの少年に斬りかかった。
「死ねっ!」
倒れたのは仕込み杖の男だった。頭巾が取れ長い牙がむき出しの頭がさらされた。明らかにヒト族の顔ではない。
単眼といい、あの牙といい。四凶はやはり魔族。
首を✕に斬られ鮮血が。
男の前には短剣を両手にした少女と地面にしゃがみこんだ少年が。
ふたりは、砦の壁を上がってきたのだ。
「ガブロー!」
「油断したな……ガブ。ガキだとあなどったな。あいつはもしや」
「侵入者だ!」
砦の兵士たちが押し寄せてきた。
「貴様ら、遅い!」
チッ、ここはいっぺんずらかるか。
刺客、レイ・ハリーオは、兵士の中に斬りこんだ。
強者の三凶を相手にするより楽と見たからだ、そのまま砦内に突入した。
その後をノノとロッシュが追った。
「ねえロッシュ、あのヒトが、倒した兵士のトコを逃げるってセコくない」
「いいから、いいから」
「まあ楽だしね。あのヒト、凄いわ」
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「ねぇおねいさん、せっかくひとり倒したのに、レイはなんで逃げるんだ?」
「傷を負ったし、思ったより強かった四凶。それに兵士たちが来たからね」
「多勢に無勢ってやつだよ、あんたバカね」
「うるせぇ。わかんねぇから聞いたんだよ」
「わからなかったら聞いてね。おねえさんの語りの勉強になるから」
「で、三人は逃げられたの?」
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王都のレイ・ハリーオの宿。
「おまえら、なんで私の部屋まで」
「おいらたち、行くトコないからさ。昨夜泊まった宿は出たし……って、あんた、あの四凶将に正面から一人で立ち向かうなんて無茶苦茶だなぁ」
「ああ、その点は私が奴らをあまく見ていた。自分の腕に過信していた。私もまだまだだ……」
レイの傷に包帯を巻きながらノノが。
「でも、凄かったわ。ザコ兵士なんか、いくら出てきても簡単に。出口まで怯まず堂々と門から脱出したもの」
「ああ、後ろから見てたが、あんた兵士は一人も殺してなかった。あの人数を相手にすげーと」
「ザコを殺っても意味はない。まああの時は助かった礼をいう……ところでおまえらは何者だ? 私と同じ依頼主か?」
「あなたの依頼主とか、知らないわ。あたしらは刺客でもないし」
「刺客じゃない……ならなぜ、あの場に?」
「実はあたしらモグリの殺し屋なの。無免許よ」
「もぐり……無免許? この仕事に許可などいらぬ。失敗したら死ぬだけだ」
「おいらは、ロッシュ・マーロ。って言っても知らないだろうけど。こっちは相棒のノノ」
「ノノ・ナンムよ、よろしく。あなたは?」
「ナンム! まさか、おまえナンム一族の者か?」
「ナンム一族? ナニそれ。まあ確かにあたしの親はナンムだと聞いたけど」
「聞いた? おまえの親は」
「知らないわ会ったことも見たこともないわ。育ての親に聞いただけ。だから姓はナンムと」
「そうか、ナニも知らないのか。ナンムは昔、世界を支配していた王家に仕えてた守護一族で、後に戦国になり裏の世界で行脚していた一族だそうだ。実は私にもナンムの血が」
とレイは長髪で見えなかったとがった耳先を見せた。
「あたしと同じだ」
短髪でも隠れた耳をノノも見せた。
彼女らはヒト族ではない。
「なるほどそれで、ノノもあんたも無茶なのか。それに動きが機敏だ」
女刺客は瓶の葡萄汁を一口して。
「あ、私はレイ、レイ・ハリーオだ。名ばかりあがり、まだまだ未熟者の刺客だ」
「!」
「わかるか? 追っ手が」
「多分……」
バギャ
クウオッオオ
部屋の扉を破壊し現れたのは鎧オオカミだ。
つづく