ギバル 故郷の悪魔 1
その1
あたしはミロン、いつもは母ちゃんが案内をしてるが、仕事中に谷へ落ちて大ケガしたから仕事が出来ない。
あたしが代わりに仕事をしてるんだ。
仕事は旅人の道案内。
今居る山道は大昔にあった異族の住居のせいもあり穴や通路が沢山有り、旅人が迷うコトがあるので、山に住むあたしの家族は道案内の仕事をしてる。
「案内人さん、村まであとどれくらいかな?」
「そうだね、陽があと三度ほどかたむいた頃かな」
「そうなの、じゃあなたは帰りは夜になるわね」
「はい、だから帰るのは明日の朝です」
「村に泊まるのね」
「はい、村に親戚が居て、そこに。で、帰るときに宿により山を下る人の案内を」
「なるほど、じゃ帰りもあなたに頼もうかしら」
「え、でもお客さんは何日か村に滞在するのでは」
「ええ、ダメかしら。あなたの村の滞在費も払うわよ」
「あたしは、いいですけど村にも案内人が居ますよ。わたしの滞在費を出すより安くすみます……。あ〜でも村の祭りに行くんですよね。帰りは案内人の取り合いになるか、一人の案内人に何組かが、とか……」
「でしょう。なら、私はあなたをここで予約します。ダメですか?」
「いえ、あたしとしてはどうせ帰るのだから仕事をして帰る方が」
「じゃ決まりね。予約賃出しとくわ」
「予約とか、ありませんからいりません」
母ちゃんの代理のはじめのお客さんがこの人で良かった。
あたしは山羊に乗ってるけど、お客さんの乗り物は、初めて見る生き物だ。
おじいちゃんは、アレの小さいのを砂漠で見たと。
鎧ネズミだそうだ。似てると言ってたけど。
お客さんが乗ってるのは大きい鎧ネズミなのか?
わたしの山羊の三頭分くらいあるかしら。
背に木で作られた椅子が乗ってて、その上に寝ながら乗れる。その後には荷物が、楽器のような物も。この人は音楽家なのかしら?
着てる服は白くてヒラヒラしてる。見たことは、ないが大金持ちが着るドレスというものかしら。
大きな帽子で、しかも閉じていた布を開いた物で陽を防いでる。アレはなんだろ。
髪も初めて見る色。陽にキラキラ光ってる。
瞳は緑色だ。
何もかも、わたしが見たことのない女の人だ。
もし、天使というのが存在したらこんな人なのかしら。
村の祭りが目的と。楽器を使った仕事の人?
「仕事頼む時に聞かなかったけど、あなたのお名前は?」
「わたしはミロンといいます」
「ミロン……。美味しそうな名ね。旅先で食べた果物と同じ名だわ」
「そうなんですか。わたしは山に咲く花の名だと親が言ってました」
「花の名……。どっちにしても、いい名前ね」
「あの……失礼ですがお客さんはお名前は? あの、どんなお仕事の人なんですか。すみません、わたしたちは案内人はお客さんには余計なことは聞くなと言われてまして……。でも今まで目にしたコトのないお客さんを見て」
「あら、なんでも聞いて、かまわないわよ」
「いろんな理由有りで山に登る人が居るので……と」
「ふ〜ん」
「普段なら、案内人の名前さえ……言いません」
「気にしないわ。私はローラ・レイ。歌って踊れる吟遊詩人よ」
「あの、吟遊詩人ってなんですか?!」
「そうね……。人によって違うけど、ただ歌を作って旅をして、あちこちで自分の歌を披露してまわる人や。お金持ちの家で毎日、主に歌を聞かせてる人も居るわ。あと、各地で知ったお話を歌と踊りでみんなに披露し歩いてる者も。それ、私だけど」
「それで楽器を。あの、村の祭りに行って披露するんですか?」
「ホントは、祭りが目的ではないの。友達のお墓参り。なんだけどね。たまたまお祭りの時期に。まあひと稼ぎすることになるかしら」
「あの……お客さんは、村には?」
「初めてよ。ある友人に、村にお墓が有ると聞いてね……。下の町でいろいろ聞いたの。あなたたち案内人のコトも」
「そうですか、あたし歌や踊り好きなんです。祭りでするんなら楽しみです」
山に陽が近づく頃に村に着いた。
あたしの親戚の家の前でローラさんに、案内料をもらうと。
「ミロンさん、宿は何処かな? 皆、同じような家でどれが宿だか、看板も無いし」
「お客さんも、今夜からの祭りに?」
あたしが着くと顔を出した叔母さんが。
「ええ、叔母さん。そうなんだけど。やっぱり……」
「小さな村だし、宿はもういっぱいで泊まれないわね。泊まれても納屋で数人とざこ寝よ。お客さんのような方はソレは……」
「そうだ、叔母さんこの人を泊めてあげて。あたしはドコでも寝れるから」
「ミロンさん、私は泊めていただけるのなら何処でも。あ、ソコの納屋でもいいです。ジローと一緒に野宿とかしてますから」
「納屋でもいいのかい?」
「叔母さん、納屋へはあたしが……」
「大丈夫だよ、ミロンさん。今夜から祭りなんだよね。寝ないかも。あの、私の乗り物のジローを寝かせてもらえます。お代は払いますから」
村の広場に火が焚かれて。村人の笛の音で女たちのダンスが始まった。
村の英雄が、三年に一度旅から帰ってたのでおこなわれる祭だ。だから祭りも三年に一度。
祭り日は収穫した野菜や酒が振舞われる。
わたしが生まれた頃は村だけの祭りだったらしいが、母ちゃんが案内をはじめた頃に他からも人が来るようになって来た。
それで案内の仕事も増えたのだ。
さすがだな、こんなトコでは見たことない美しいローラ・レイさんは皆の中で輝いて見える。
深夜になる頃、村人のダンスが終わるとローラさんは立ち上がり消えかかる火の前で踊り始めた。
あの白いドレスをヒラヒラさせながら見たことないダンスを踊ると、村人の笛が鳴りローラさんも持ってきた楽器を弾きながら踊り歌を。
アレが歌って踊れるというローラさんの姿ね。
久々の母ちゃんの代理仕事で疲れが出たあたしは、叔母さんんチに帰って寝た。
朝、いつ帰ったのか、納屋の鎧ネズミの上の椅子でローラさんが寝てた。
椅子の背もたれは後に倒れて寝台みたいになるんだ。荷物が枕に。
旅慣れてるのねこの人は。
祭りは三日つづく。
三日目の朝からローラさんが人を集めてお話を始めた。
「コレから話すのは、この辺の山の麓の村や町で聞いた勇者の話ね。ノノ・ナンムのお話。みんな、知ってるかな」
「いくつか、爺さんに聞いたことある女の戦士だろう」
「そう、聞いたことあるのね。勇者ノノ・ナンムのパナ族の相棒のロッシュと彼の故郷に帰っときの話よ」
「オレが聞いたのはバレミアの暴れ者を倒した話だ。その後話か?」
「そうね……。ジャジャジャーン。バレミアの都を出たノノ・ナンムとロシュは、ある町の食堂で自分たちのウワサ話を耳にしました」
∇
「知ってるか、あの砦の四凶将軍を殺したのは大斧使いの大男バーサーカーなんて嘘だぞ。四凶将は白昼堂々、都の中で暗殺されたんだ。ソレも女の殺し屋にだ!」
「女ぁあ……。白昼堂々、暗殺って意味わかんねぇなあ〜。魔族かなんかか、ヒト族じゃ無理だろ」
「ああ、ムキムキの女の殺し屋でよ。闇の世界じゃ腕利きの殺し屋で名のある奴だってよ」
「ああ、確かにレイは、暗殺者だったけどムキムキ女じゃなかったよね。まあ大男のバーサーカーよりマシだけど。なんでああいうホラ話は変なふうに変わるのかな。誰が流してんだろう」
「あの、おとこみたいのじゃない。アレを聞いてる連中の誰かがまた、変えて話すのよ。そしてまた大男にもどったり……。ロッシュはウワサの主人公になりたいの?」
「いや、あのウワサの大魔法使いのラン・シシィマールは、飯もゆっくり食えないくらい有名人になって大変だと聞いたよ。有名にはなりたくないね。オレは飯はゆっくり食いたい」
「ロッシュは有名になるって村を出たんじゃなかった?」
「有名にも、いろいろある。あ、おねえさん。メェ〜ドラゴンのシッポスープ二人分と……」
「カオ豆のあったかい汁も二つ追加ね!」
「汁はまんまのしか無いよ」
「温めてよ」
「面倒だよ、火を使うなら値段は倍よ!」
「なら、まんまでいいわよ!」
つづく




