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 私は仰天した。

 マリアが私の作ったドレスでデビュタントに臨みたいと言い出したからだ。

 この国、オルテアでは貴族の子女は十五歳になる歳にデビュタントに出席する。

 マリアは十四歳、来年デビュタントに参加することになる。

 デビュタントは様々な家格の貴族の子女たちがこぞって家の権威をかけて美しく装い、社交界にデビューする場だ。

 そんな場所に私の作ったドレスでマリアが参加する…!?


 一瞬、黄色の菫をイメージしたドレスと、それを着てデビュタントに参加するマリアの姿を思い浮かべた。

 マリアは美しい明るいブラウンの髪の持ち主で、透き通った白い肌が可憐だ。母に似た丸い眼もくりくりと丸く瞳は色素の薄い茶色で透き通っている。そんなマリアが私の作ったドレスでデビュタントに参加するなんて、なんて素敵なんだろうと思ったところで我に返る。


「お姉様、でもそれは、お父様やお母様がお許しにならないのではない?私のドレスを好んでくれるのは嬉しいけれど、私はあくまでも趣味で作っているものだし…。」


 私が言いよどむと、マリアは「そうね…。」と困り顔でうつむいてしまった。

 私が言いよどんだのは、自分で作りたい未練があるからだったのだが、マリアはそう受け取らなかったらしく、断りきれずに言葉を探していると捉えたようだった。


「エリザベスが大変なら諦めるわ。ただ、私あなたのドレスがとても好きで憧れていて…。デビュタントに着ていくならエリザベスのドレスがいいなって、ずっと思っていたの。」


 困ったように笑うマリアを見ると胸が痛む。


「お父様とお母様に、お話だけしてみましょうか?」


 そう告げると、マリアの表情が途端に明るくなる。


「本当に!?そうよね、聞いてもないのに決めつけてはいけないわよね!」


 嬉しい、とマリアは私の両手を握って上下にぶんぶんと振る。

 良家のお嬢様がその行動ははしたないのではと困惑しつつ、マリアの行動が喜びから来ていることを考えると咎めるのも気が引けてつい、そのままにしてしまったところに父の声が鋭く響いた。


「マリア!なにをしている!」


 お父様の声にハッとした表情のマリアは、ぱっと手を引っ込めてほんの一瞬気まずそうな顔をしたと思ったら、次の瞬間にはお父様に向かって小さくカーテシーをする。


「お父様、ご機嫌麗しゅう存じます。嬉しいことがありまして、少し興奮してしまいましたの。ですが令嬢としてみっともない振る舞いでした。申し訳ございません。」


 先ほどとは打って変わって、令嬢らしい受け答えをするマリア。その姿に、私は呆気にとられてしまった。

 マリアは我がウィンダーバーグ家の嫡女だ。次女の私と違い将来の領主として期待されている。


「そうか、わかったならばよろしい。二人とも、あまり暗くなる前に邸に入りなさい。いいね。」


 お父様はそう言うと執事を連れて邸の玄関に向かい、帰っていく。

 今日は王宮へ出仕する日だったから、恐らく丁度帰ったところにマリアの腕ぶんぶんを見かけたのだろう。

 父であるアーノルドは母キャサリンと違って厳格なタイプなので、特にマリアには厳しい。それだけ期待しているということなのだろうけれど。


 はい、と二人でお父様に返事をしたところで、マリアがこっそりと私に耳打ちしてくる。


「いつお父様とお母様にお話しようかしら。お母様がご一緒の時がいいわよね。お父様お一人の時では、にべもなく断られてしまいそうだわ。」


 そう言ってにっこりと笑うマリアを見て、(鷹揚なようで意外と抜け目ないところがあるのよね…、これが将来の領主に大事な駆け引き上手ってことなのかしら)とこっそり苦笑いした。

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