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 私はドレスが好きだ。

 綺麗なレースも、輝く宝石も、荘厳な刺繍も。

 そして、それを身に纏う女性の姿が大好きだ。

 だから私は何を言われてもドレスを作りたい。作り続けたい。

 それが私、エリザベス·ウィンダーバーグのエネルギーになるのだから。



 私の好きなことはドレスを作ること。

 着飾ることではない。

 生地から選んで宝石を吟味し、ドレスのイメージに合う刺繍をするところまで、全て自分ひとりの手で行うのが好きだ。

 普通はドレス工房があって、お針子さんたちが分業制で行うものだけれど、それでは満足できなくなったのはいつの頃からだったか。

 あれは九歳の頃、青薔薇の刺繍があまりにも上手く行ったものだから、これをハンカチだけに収めてしまうのは勿体ない、もっと大きな…そう、ドレスの刺繍にしたらきっと、とても豪華で美しくて、それでいて清楚な雰囲気になるのではと思いつき、出入りのドレス工房の主だったハンナにイメージを語り、


「ラフを描いてみましょうか?」


 と言われたのを皮切りに全工程に参加させてもらい、胸元に青薔薇が咲き誇る、真っ白なドレスを作り上げたのだった。


 それから私はその時のことを思い出しながら、自作でドレスを作るようになった。

 貧乏貴族である両親は私が布やレースを買い込むのを渋ったけれど、一人でドレスを作るぶんには手が早くない私では、消費がそこまで大きくないということと、自作のドレスと工房に発注するドレスとでは金額が全然違う、つまり私のドレスが安上がりだということが分かってからは、金額に上限をつけたもののある程度は黙認してくれていた。

 作ったものは私しか着ていなかったし、デビュタントもまだだったから邸の中でしか着用しない、というのも大きかったと思うけれど。


 それから三年ほど経ったある日、邸の庭のベンチでのんびりと過ごしていると、姉のマリアが言いにくそうに声をかけてきた。


「ねえ、エリザベス。あなたの作るドレスのことなんだけど…。」


 私は首を傾げた。ニ歳上の姉、マリアとは仲も良い。鷹揚で優しい姉。

 だが、こんなふうにもじもじとしているマリアは見たことがない。

 しかも、内容がわたしのドレスについて、である。

 私は私の作るドレスにある程度満足していたが、それはやはりある程度であって、工房のお針子さん達の仕事には劣ることを自覚していたし、だからこそ両親は邸の中でだけ着用を認めてくれているのだということもわかっていた。

 だから真っ先に私の頭に浮かんだのはこれだった。


「お姉様!もしかして私センスが無いかしら!?」


 マリアがなにか言い始めるより前に、焦った私はそう言い募った。

 マリアは鳩が豆鉄砲を食ったような表情で私を見ている。


「わかっているの、所詮は素人だもの。ハンナから色んな図録を見せてもらって作っているけれど、誰かに評価されたことなんて一度もないドレスよ!私は好きだけど、そもそも私のセンスが壊滅的ってこともあり得るし…!」


 私はそこまで言って頭を抱えた。

 これは作りながら何度も頭をよぎることだ。そのたびにその気持ちを打ち消して、一針一針縫ってきた。

 作ったドレスを唯一母は褒めてくれるが、使用人たちは私が作ったドレスを批評するなんてとんでもないと思っているのかみんな口を閉ざしているし、ハンナには図録を見せてもらったりはするものの、作ったドレスをまだ見せたことはない。

 ハンナから作ったものを見せてほしいと言われたことはあったが、タイミングが悪く私が熱を出してしまったため、まだ見てもらったことがないのだ。


 なので、自分のドレスが他人からどう評価されるのか…、それは私が一番知りたくて一番恐れていることでもあった。

 それを、マリアが、しかも、言いにくそうにしながら触れてきたものだから、私の脳内は一瞬パニック状態に陥ってしまったのだった。


「あ、あのね、エリザベス。違うのよ。」


 マリアは困惑したように、それでも穏やかな調子は崩さずに頭を振った。


「私、あなたのドレスが好きなの。私のドレスを作ってもらえない?デビュタント用に。」

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