9話 料理上手な男の子
じゃがいもとにんじんと、玉ねぎとお肉が食料棚に入っている。
「これで作れる料理が食べたいな。ロアくん」
「これなら……肉じゃがでしょうか……?」
「おお、肉じゃが!」
僕の背中にいるルルナさんが、「お腹減ったな」と言ってそんなお願いをしてくれた。
「でも、他のお家のキッチンを使わせてもらってもいいのでしょうか……」
「いいよ。私も同居人だし、私が許可するよ。何より、グローリアがここに招いたのなら、ロアくんには特別な何かがあるのだろうし、私もそれを見てみたいかも」
「特別な何か……」
「それにグローリアもお風呂から上がったら何か食べたいと思うし、作ろ?」
「分かりました。では、作らせていただきます」
「ありがと」
僕はキッチンで包丁を研ぐと、早速、料理に取り掛かる。
料理はものすごく得意というわけではないけれど、一応、ある程度のものなら作れるようには練習した。
肉じゃがは昔から作っていた料理だから、作り方も迷わないと思う。
そういうことで、僕はまず、材料を軽く水洗いすると、皮を剥いていくことにした。
包丁を手で固定して、じゃがいも、にんじんの皮をスルスルスル……と。
玉ねぎは手で皮を剥けるので、そのまま剥いていった。
「手際いいね」
「ありがとうございます。具材はどれぐらいの大きさにカットしますか……?」
「大きめがいいかも」
「分かりました」
それからは、じゃがいもを半分にカットする。
にんじんも大きめにカットして、玉ねぎも大きめに。
そして、カットを終えると、フライパンに煮込み用のタレを入れていく。
すでに作り置きしてあるのが置いてあるとのことなので、それをフライパンになみなみに注ぎ、火をつけると沸騰するまで待った。
「完成のイメージは、ちょっと煮崩れしているのがいいかも」
「分かりました」
まず、お湯に投入するのはジャガイモだ。
ジャガイモが一番大きいから、味を染み込ませるために、じゃがいもを最初に入れることにした。
そして、この世界のにんじんは少し火が通りにくいけど、にんじんはにんじんの味がする方が良くて、硬めがいいとルルナさんが言ってくれたので、ジャガイモの次ににんじんを入れることにした。
「次は玉ねぎだね」
そして玉ねぎだ。玉ねぎはお好みで入れた。
そして、最後に肉を入れて、火を強火にして一気に沸騰させることにした。
「色々入れる前に肉をフライパンで焼いておくのもいいけど、この肉はこっちの方が柔らかく感じるから、私はこっちが好き」
沸き立つフライパンを見ながら、ルルナさんが好みを教えてくれる。
食料庫にはアスパラガスもあったので、途中でカットしたアスパラも入れることにした。
「色合いに緑が欲しかったし、アスパラ単体だったらあんまり好きじゃないけど、肉じゃがなら大丈夫なの」
「美味しいですもんね」
「うんっ」
嬉しそうなお返事だ。
ルルナさんは僕の背中におぶさりながら、ご機嫌そうに表情を輝かせていた。
キッチンには、香る醤油の煮立つ風味。
砂糖で味付けもしてあるから、ほのかに甘い香りもする。
途中で様子見のために、蓋をしたフライパンの様子を伺ってみる。
箸で、黄金色のじゃがいもを突くと、ぶすりと箸の先端がゆっくりと埋もれていった。
「味見したい」
「あ、では、こっちのを」
僕は小さめの具材を箸で挟むと、それをフライパンから取り出して、少し冷ましてルルナさんの口元に近づけた。
「ど、どうぞ」
ぱくっ。
「……うま!」
直後、ドサリと僕の背中におぶさっていたルルナさんが落っこちていた。
「味がいい感じについてて、美味しい! ねえ、もいっこ! 今度は、お肉がいい」
「じゃあ……こっちを……」
僕は箸で肉を挟むと、それを少し冷ましてルルナさんの口元に近づけた。
汁を吸ったお肉はまるで光り輝いているかのようで、ルルナさんは喉をこくりと鳴らすと、口を大きく開けて小さな舌でぺろりと舐めた。
ぱくっ。
「うま!!!」
あっという間の咀嚼。
刹那、彼女のお腹からは次の具材を求める可愛らしい音が鳴っていた。
「ロアくんも味見しよ? はい、どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
ルルナさんが具材を箸で挟んでくれる。
小さなピンク色の口で息を吹きかけると、火傷しないように冷ましてくれて、それを僕の口に近づけてくれた。
だから僕もそれを一口食べさせてもらって……。
「ほくほくしてます……」
「いい感じに、火が通ってるよね」
美味しかった。
口の中で自然に溶けて、味の染みたジャガイモの風味が綻ぶように広がっている。
甘じょっぱいその味は食欲を促進する味で、いい感じに出来上がりそうだった。
「ねえ、これ、全部食べて、またおかわり分作ろうよ。フライパン、もいっこあるし、だめ……?」
「あ、では、作りましょうか……」
「やった。ロアくん、優しいから、私、好きっ」
よしよしと小さな手で僕の頭を撫でてくれるルルナさん。
褒めてくれて、作った料理を美味しいと言ってくれて。やりがいを感じることができて、なんだか嬉しかった。




