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8話 掃除上手の男の子

 

 魔法と魔術。

 その両方を極めた者がいる。その人物を賢者という。

 表舞台には姿を現さないものの、賢者が行ったという伝説はいくつもある。


 人々を飢餓から救ったり。襲ってくる凶暴な魔物を、一撃で倒したり。


 どんな見た目なのかは、分からない。年齢も分からない。


 それでも、言い伝えられている賢者様は、知的な女性だったと聞く。


 だから、僕も賢者様というのは、大人っぽい女の人だというイメージを漠然と抱いていた。


 それで……。



「今、帰ったわよ」


 帰り着いたグローリアさんが、玄関のドアをノックして家に入った。僕もその後に続いた。


 すると、声が聞こえてきた。


「ただいま……。今日のご飯、何?」


「ねえ、いきなりそれなの……?」


 それは、気怠げな声だった。

 見てみると、部屋のベッドの所に寝転がっている幼い少女がいた。

 ダボダボな寝巻きのその少女は、頭をかきながら面倒くさそうに、顔すらこっちを向けなかった。


「ねえ、ちょっと……部屋が汚いのだけど!」


 部屋の様子を見たグローリアさんが起こった。

 部屋には、物が散乱していて、あちこちに飲み物の容器と、本が乱雑に置かれていた。


「ルルナ! いつも言ってるじゃない! 部屋を散らかさないでって」


「ごめんごめん……。いま片付けようと思ってたところだったの……」


「絶対うそ!」


「それでその男の子……誰? もしかして、グローリアの彼氏?」


「違うわ。ロアくんよ」


「そう……。よろしくロアくん」


「は、はい……」


 すんなりと受け入れられた僕。


 ……ここに連れてきてもらう時もそうだったけど、すんなりと進んでいく。

 なんというか、彼女たちには自身と余裕があって、迷いなんてないように思う。

 僕はどちらかといえば優柔不断だから、即断即決をできる人はかっこいいと思った。


「紹介するわ。彼女はルルナよ。あれでも一応賢者なの。今は……そうね。難しい時期だから、そっとしておいた方がいいと思うの」


「それ、引きこもりにいうやつだろ」


「……事実だけど」とルルナさんは大して気にした様子もなく、グローリアさんの言葉に頷いていた。


 青い髪。見た目は、ぱっと見、幼い女の子だ。

 ぶかぶかな服を着ていることもあって、小さく見える。それが賢者ルルナさんという人みたいだった。


「とりあえず片付けなさい。お客さんが来たのだから、これだと足の踏み場もないわ」


「片付けは……無理だ」


「ねえ、なんで……?」


「疲れてるから……」


「夕方まで寝てるからでしょ!」


「かも」


 寝過ぎで疲れたというルルナさん。


「ごめんね。ロアくん。汚いところで。すぐに片付けるから、とりあえず座ってて」


「そんなこと言わずに、せっかくだし、その子に掃除を手伝ってもらえばいい」


「……ねえ、お客さんになんで平気で、そんなこと言えるの……?」


 グローリアさんが呆れた顔で、コツンと、ルルナさんの頭をチョップした。


「あの……もしよろしければ、お手伝いをしましょうか……?」


「え! いいの?」


「はい……。色々お世話になっていますので……」


 ダンジョンで助けてもらった時も、ここまで連れてきてもらった時も。

 グローリアさんにはお世話になりっぱなしだ。

 だから、せめて、できることであれば、やりたかった。


「じゃあ……お願いしようかな?」



 その後、僕はグローリアさんと共に掃除に取り掛かった。

 床に落ちている本を拾い、タンスに直していく。番号がふってあったからその通りにしまっていった。

 あとは床の雑巾掛けをして、細かいところの埃もとっていって……、


「この子、掃除めっちゃ上手いんだけど」


「ホコリ一つ残ってないし、すごいわ」


 二人が感心したように、そう言ってくれる。


 昔から掃除だけは上手くできるように昔から頑張ってきたので、ある程度なら得意だった。

 それに、掃除は嫌いではなかった。

 目に見えて、変化が実感できることだからだ。


 こびりついた汚れを落とすと綺麗になるし、何より心がスッキリする。そしたら、気持ちも軽くなる。


「じゃあ、私、お風呂掃除をしてくるわね。そのままお風呂に入ってくるから、ロアくんもあとはルルナにやらせて、ゆっくり休憩するといいわ」


 グローリアさんは、僕にお茶を出してくれて、その他にもおもてなしの物を用意してくれると、お風呂へと向かったようだった。


「ねえ、ロアくん。お腹減った。ご飯作って」


「ご、ご飯ですか……?」


 ぐいぐいと僕の服を引っ張って、ご飯を食べたいというルルナさん。


 その仕草は小さい子の仕草のように見えて、彼女は僕の背中をよじ登ると、そのままキッチンまで案内してくれるのだった。


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