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7話 賢者様が住んでいる。

 

「とりあえず、ここまでくればもう安心でしょう」


「ほ……本当にありがとうございました……」


 青い空が視界に広がっている。

 新鮮な空気が口いっぱいに入ってくる。


 ここは、ダンジョンの外だった。

 僕はようやくダンジョンの外に出ることができていた。


 僕のそばにはグローリアさんたちがいて、うんうん、と見守るような目をしてくれている。

 僕は結局、グローリアさんたちにダンジョンの外まで連れてきてもらった。自分一人でダンジョンから出ようとした僕だったけど、途中で触手に襲われてしまったことで、グローリアさんたちが助けてくれて「こうなったら一緒に外まで行こう」と申し出てくれたのだ。


「でも、ロアくんは逆に幸運の持ち主なのかもしれないですね。だってあの触手、レアなやつで、噂にはよく聞くけど滅多に出会えないモンスターですもん」


「そうよね。私も実物は、今日初めて見たわ」


 グローリアさんが数分前の出来事を、思い出すように言った。


 あの触手は、どうやら優秀な素材にもなるようで、食用にも使われるみたいだった。それを材料として作られた料理は大変美味と知られていて、世の美食家たちがこぞってこれを追い求めているみたいだった。


 それ故に、バニラさんはあの触手をいくつか回収して持ってきていた。


「でも、ロアくん。本当にこれ貰ってもいいの……? 一応、ロアくんに所有権があるから、ロアくんが持って帰って売ってもいいのよ?」


「あ、いえ、僕は……」


「そう? それなら、いいけど……。でもありがとっ」


 バニラさんが僕の頭を、優しく撫でてくれる。


 僕が触手の残骸をいらないと言ったら、バニラさんは喜んで、グローリアさんの手によって切り刻まれた触手を持って帰ることにしたのだ。

 そして、それから一緒にここまで帰ってくる最中に、色々話をして僕のことを撫でてくれるようになった。


「それでバニラはこれからどうするの? ギルドに帰るのでしょう? 転移の魔道具使うかしら?」


「あ、はい! ありがとうございます!!」


 グローリアさんが取り出したのは転移の魔道具。それをバニラさんに渡した。


「転移の魔道具はダンジョンの中だと使い辛い時があるから、外に出て使う方がいいの」


 そうグローリアさんが僕に教えるように言ってくれた。


 僕の幼馴染のラフィネは、ダンジョンの中でも軽々と転移の魔道具を使いこなしたりしていた。

 でもあれは、魔導剣士パラディンのスキルがあるからその補正がかかっていて、普通ならあんなことはできないのだ。


「ロアくんも、もうおうち帰るのだったわね。気をつけて帰りなさいよ。帰り道分かる?」


「あ、はい! コンパスがあるので」


 僕はコンパスを持っているから、帰り道はばっちりだ。

 そのコンパスは、唯一僕の自慢の持ち物で、これがあれば帰り道も迷わずに行くことができるのだ。


 そのコンパスは僕のポケットの中に……、


「あ、あれ!? ない!?」


 ……僕は焦った。

 コンパスがどこにもなかったからだ。


 もっと言うなら、ズボンもなくて、ポケットすらない。


 なぜなら、ダンジョンで僕のズボンは溶かされてしまっていたからだ。


「「……あっ」」


 お察し、と言った感じて、僕のことを見る彼女たち。


「不憫な子……」


「どこまでも災難が襲いかかる……」


「うう……何で””」


 こればかりは、僕も落ち込んでしまった。


 あのコンパスはそれぐらい、僕にとっても重要なものだったのだ。


 何より、あのコンパスがないと、僕は家に帰ることができない……。


「……もう、しょうがない子ね。こうなったら、いいわ、ロアくん。とりあえずうちに来なさいな。そこで、服ぐらいは用意してあげるから、それからゆっくり考えましょう」


「で、でも、そんなの悪いです……」


「遠慮しないの。こういう時ぐらい、誰かに甘えてもいいと思うわ」


 グローリアさんが、目尻を下げて、気遣うように言ってくれる。


「では、私はギルドに帰りますね」


 それからバニラさんは、転移の魔道具でギルドへと転移したみたいだった。


「じゃあ、ロアくん。馬に乗って帰るわよ。転移の魔道具は一人用だし、登録してないところにはいけないから、ロアくん、また置いてきぼりになってしまうわ」


「す、すみません……」


 結局、僕はグローリアさんに甘えさせてもらうことになってしまった。


 そしてグローリアさんが魔法陣を地面に描くと、そこから出現したのは、純白の綺麗な馬だった。


「ほら、落っこちないように、私の前に乗りなさい」


「は、はい……」


 僕が前、グローリアさんが後ろ。


 その後、グローリアさんが僕の後頭部を自分の胸に抱くようにギュッとしてくれると、一緒に馬に乗って大地を駆け始めてくれた。


 そして、数時間後。

 ほどなしくて見えてきたのは、小高い丘に立っていた一軒の家で。


「私、賢者と住んでいるから、ロアくんも仲良くしてあげてね」


「賢者……」


 賢者……。

 賢者がいる……。


 その紹介に僕は頭を巡らせつつも……。


 その賢者様がいると言われる家に、到着したのだった。


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