表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/13

5話 あなたは自由よ

 

 結局その後、色々あった結果、僕は触手から助けてもらうことになった。


「危ないのでジッとしていてくださいね」


 スパっ。


 彼女が微かに手を動かしたと思ったら、その時にはすでに切れていた。

 断罪される触手。僕はお尻から地面に落ちたものの、その直前に彼女がお姫様抱っこで僕を受け止めてくれたおかげで、僕は怪我一つすることはなかった。


「あ、ありがとうございます……」


「いいえ」


 服を溶かされている僕は、裸で彼女にお姫様抱っこされていて、まるで赤ちゃんみたいな格好になっていた。


 そして、その状態で彼女は名前を名乗ってくれた。


「私の名前はグローリアです」


「……!? グローリアさんって、あのグローリアさん!?」


「グローリアさんは、Sランク冒険者のグローリアさんですよ。ちなみに私の名前はバニラです」


 もう一人の少女、バニラさんが名前を名乗りながら教えてくれた。


 グローリアさんは赤い髪が綺麗な女の人だった。

 歳のほどは僕よりも少し上だと思う。

 軽装でありつつも、動きやすさを重視した煌びやかな装備に身を包んでおり、Sランク冒険者の風格があった。

 僕をお姫様抱っこしてくれている彼女は、軽々と僕の体を持ってくれていた。


 バニラさんも只者ではない雰囲気で、しかし、それは冒険者というよりももっと別の雰囲気だと思った。


「僕はロアです……。14歳です」


「14歳のロアくんですか。小さくて可愛いらしいわね」


「うう……」


 よしよし、と僕をお姫様抱っこしたまま、グローリアさんが僕の頭を優しく撫でてくれた。


「それで、あなたはどうしてこんなところにいたのですか」


「実は、色々ありまして……」


 とりあえず僕は、ここにいた状況を彼女に説明することにした


 これは、僕が強くなるために必要だったこと。

 そのために、僕がここにいたこと。


「……つまりあなたは厄介払いのために、このダンジョンに捨てられてしまったのですか……」


「あ、いや、別に厄介ばらいのためではなくて……」


 不憫そうな顔で僕のことを見るグローリアさん。


「ダンジョンで仲間を殺そうとすることはよくあることですもんね……」


「あ、いや、別に殺そうとまではされてなくて……」


 バニラさんも不憫そうな顔で僕のことを見ていた。


「まあ、いいわ。とりあえず、これであなたは自由よ。お行きなさい」


 彼女は僕を下ろしてくれると、解き放つように僕を自由にしてくれた。


「あの! 本当にありがとうございました! この御恩は必ずお返しいたします!」


「うん! もう捕まっちゃダメよ!!」


「はい!!」


 僕は彼女にお礼を言うと走り出した。


 ラフィネの元へと……!


 僕の新しい日々はこれからだった。




 * * * * * * * *




「行ってしまったわね……」


 グローリアは彼の後ろ姿を見送りながら、少しばかりの寂しさを感じていた。

 彼との関係はわずかな時間であったものの、それでも、別れというのは寂しいものだった。


「でも、意外でした。あのグローリアさんが、こんなに普通に話すなんて」


「……そうかしら」


「そうですよ! だってグローリアさん、知らない人にはものすっごく冷たいですもん!」


 バニラは昔のことを思い出すように言った。

 自分の時は、あまりもの冷たさに、グローリアのこと恐ろしかったのだ。


 グローリアはドライな性格をしている少女だった。

 誰とも口を聞かず、誰とも話さず、そういう孤高にいる少女で、だからこそ今回あの少年、ロアと普通に喋っていたのが意外ではあったのだ。


「気まぐれにそういう時もあるのよ」


「か、かっこいい……」


 グローリアはなんということはないといったふうに、少年が去った方向を見ていた。もうとっくに姿なんて見えなくなっていた。


「さてと。とりあえず今日の探索はここまでにしましょう」


「はい!」


 その後、二人は帰ることにして、グローリアが前、バニラが後ろを歩き、このダンジョンを出ることにした。


 今日のダンジョン探索で得たものは、わずかばかりの神秘の発見であった。


 これはグローリアの冒険者生活の中では、些細な出来事かもしれないが、それでも彼女は今日のことを忘れることはないだろう。


 そんなことを思いながら歩いていた時だった。


 ……彼女たちは、神秘と再会することになる。


「わああああああああぁぁぁん……”””! なんで、こんなにいっぱいあるのぉぉぉぉ””……!」


「「また、触手に捕まってる……」」


 じゅわ……っ、じゅわ……っ。

 そこかしこから立ち込める、炊き立てのご飯のような、ほかほかの湯気が漂っていた。それは、触手が放つ暖かい湯気だ。


 そして……無数に蠢く触手の中に、先ほど別れたばかりの少年が裸のままで絡みつかれていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ