3話 神秘がつまっていた。
ギルドが勢力を上げて調査した結果、脅威度を定めたダンジョンがある。
その名も、『獄地の地獄』というダンジョン。
脅威度、なんとZランク。
未だ、ボスを倒して生きて帰ってこれた者はいないと言われているダンジョンである。
足を踏み入れたが最後、死ぬ。
そのダンジョンの中盤辺り。
僕は頑丈な紐でぐるぐる巻きにされた状態で、ラフィネに捨てられようとしていた。
「今日はロアのために、特別なレッスンをしてあげます。私は今からここにロアを置いていきます! だから、ロアはちゃんと私の元まで帰ってくるの。いい?」
「死んじゃうよぉぉぉぉぉおお””……」
僕は情けない声で「捨てないで」と懇願していた。
「帰って来れないよ……。僕、死んじゃうよぉぉぉ……””」
「大丈夫よ。確か最近Sランクに昇格した冒険者……名前はなんだっけ。ああ、そうそう、グローリアって女の子が一人でこのダンジョンのここまで来れたっていう噂だし、ロアも聞いたことがあるでしょ?」
「う、うん……。この前ギルドで言ってた……」
ギルドで噂になっていた。
冒険者のグローリアという少女がいるということを。
「だから、ロアも大丈夫よ。これで、強くなれるわね」
そう言うラフィネは、頬を赤く染めて蒸気させていた。
ラフィネは僕を強くするために、僕をここに捨てようとしているのだ。
「忍耐力をつけるの! ここはそれにうってつけよ! ほら、あそこをご覧なさい!」
「うぇぇぇぇぇ……”””」
にゅるにゅるにゅる……。
僕は思わず鳥肌が立ってしまった。
数メートル先の地面。そこにいたのは、にゅるにゅると動いている触手のモンスターだ。
紫色の、ブニブニな触手。
表面は粘液でコーティングされていて、テカテカになっていた。
あれに近づいてしまえば、たちまち触手に引きずり込まれて、ニュルニュルと大変なことになってしまうらしい。実際にそれで、戻って来れなくなった人がいると言われている。
あの触手はそれほど恐ろしいものなのだ。
「そこにロアを投げ込みます」
「うあああああぁぁぁぁぁん……”””」
僕は情けない声で泣くことしかできない
しかし、これは決定事項のようで、覆りようもない事実みたいだった。
「私はロアのためを思ってこうしてるのよ……? 分かって……?」
「僕、嫌だよぉぉぉ……””」
「なぁに言ってるの! もう、あんな思いをしたくないのでしょう!? だったら、力を手に入れないと!」
「力の前に、大事なものを失ってしまうよぉぉ……」
あの触手に放り込まれてしまったが最後、僕は戻れなくなる。
大事なものを失ってしまうのだ。
考えただけで、僕は思わず下半身に力が入ってしまった。
しかし、それでも……。
「私はもう迷わない!! あんたのために、悪役になってやる。そして、ロアが頑張って戻って来れた時は、ご褒美をあげるっ。ねえ、いいと思わない……? ……思うでしょ?」
「ラフィネ……っ。僕、苦しいよ……っ」
僕は胸に痛みを感じ、動悸が激しくなった。
「はぁ……っ。はぁ……っ。はぁ……っ」
「ああ……可哀想なロア……。でも、その顔もとっても可愛いわっ。ちゅっ」
ラフィネは僕にキスをしてくれる。
とても深くて柔らかい、こくまろのキスだった。
近づくラフィネの顔。ラフィネは恍惚とした表情で、綺麗な目をしていた。
まるで宝石のような金色の眼差しだ。暗いダンジョンの中でさえ、それが輝いている。
そんなラフィネは優しく、深くまで口づけをしてくれた後、僕の頭を優しく撫でてくれて、それからぐるぐる巻になっている僕をお姫様抱っこしてくれると、触手のモンスターのところに近づいた。
そして……。
「じゃあ、投げるから!」
「うわあああああああああああああぁぁぁん……”””」
ひょいっと、僕を触手のモンスターのところに捨てたのだ。
次の瞬間、にゅるにゅると触手が動き始め、あっという間に僕のことをがんじがらめにした。
「うおおおぉぉぉぉ”……ぉぉぉぉ””……! 溶けちゃう……”””」
「ああ……可哀想……っ。可哀想なロア……っ」
空中に吊り上げられて、触手に飲み込まれる僕を見ながら、ラフィネはうっとりとした表情で恋人の門出を祝うように涙ぐんでいた。
その直後。
触手の先っぽから謎の分泌液が出てきて、僕の服が溶け始めていたのだった。
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「こっちでしょうか……」
その時、とある少女がZランクの脅威度を誇ると言われているダンジョンへと足を踏み入れていた。
彼女は、最年少でSランクに昇格した冒険者で、名前をグローリアという。
赤い髪を揺らして歩く彼女は、凛々しくも美しくて、見るもの全てを惹きつける少女だった。
「グローリアさぁん……っ。待ってくださいよぉ〜」
「もうっ、だからついてきたらだめだって言ったのにっ」
もう一人、少女がいた。
やや内気な見た目をしている、歳のほどはグローリアと同じぐらいの16歳の少女だ。
彼女は今回、色々あってグローリアの冒険に同行させてもらうことになっていた。
グローリアはため息をつきつつも、彼女が自分に追いつくまで待ってあげることにした。
そんなグローリアが今回、このダンジョンに潜っている理由はズバリ、神秘と出会うためだった。
冒険者やダンジョンには、神秘や夢や希望が詰まっているのだ。
「しかし、今日はなぜか不愉快な空気が漂ってきます」
薄暗いダンジョンの通路を歩きながら、顔を顰めて不愉快な雰囲気を感じるグローリア。
ここはダンジョンの中腹辺り。耳を澄ませると、どこからか人の声が聞こえる気がするのだ。
「これは……ひ弱な男の子の声……?」
とりあえず、グローリアはそこに向かってみることにした。
もしかしたら、神秘と出会えるかもしれないと思ったからだ。
そしてたどり着いた場所で……グローリアは発見してしまった。
「や、やぁぁぁぁぁああ! 人だぁぁああ……”””。見ないでぇぇぇぇ……”””」
「……!」
そこにあったのは、触手に絡みとられている一人の男の子の姿だった。
ニュルニュルと蠢く触手に動けなくされているその男の子の服は溶けて、色々丸見えになっていた。
それゆえに、グローリアの目に入ったものがあった。
溶けたズボンの下。
「し、しんぴ……!」
「うわああああああああぁぁぁん……””””」
くしくも、その日、グローリアはダンジョンに眠る神秘を解き明かしてしまったのだった。