2話 私があんたを強くしてあげる!!
べしッ、とビンタをされる。
振り向きざまに、もう一発ビンタをされる。
『こいつ、男のくせにワタシより弱いわ!!』
『みっともないったらありゃしない!!!』
「痛い……痛いよ……”」
思えば、昔から僕は痛い思いをしていた人生だった……。
まだ僕が村にいた頃、今よりももっと幼かった頃の事だ。
その日、僕は女の子たちから、取り囲まれていた。
村長の娘だ。姉と妹の姉妹で、二人は僕をビンタして、いつものように遊んでいたんだ。
『ほら! 言いなさい! 私の妹になるって!』
『三姉妹よ! あんたは私の妹として可愛がってあげるわ!』
「や、やめてよぉ……! いやだよぉ……!」
二人は、僕のいたいけな顔を見ながら、意地悪そうな顔をしていた。
そこからは裸足で僕のことを踏んできて、僕はなすすべもなく、二人の足の裏で顔を踏まれて、涙が枯れるほどに泣かされた。
『あはは!! 男のくせに、泣いてるわ!』
『このままおままごとで、赤ちゃん役をさせてやる!』
「いやだよおぉぉぉぉ”……!」
僕は、ベビードールから逃げるように、泣きながらこの場を去ろうとしていた。
しかし、相手は極悪非道な村長の姉妹だ。この二人は僕をいじめることを生き甲斐としている子達だ。
僕が反抗しようものなら、脱ぎたてのストッキングを僕の頭に被せて、引き摺り回したりするのだ。
「くさいよぉ……! くさくて死んじゃうよぉ……!」
『『誰が臭いですってえええええ!?!?!』』
激怒して、髪を逆立てる二人。
そんな、時だった。
「こらぁーー!」
『『ぐあぁ……!』』
拳。
直後、二人が地面に吹き飛ばされていて、僕のそばには一人の少女が腕を組んで立っていた。何を隠そう、ラフィネだ。
「私のロアをいじめるなんていい度胸じゃない! この場で、殺す……ッ!!」
『『!?』』
そのラフィネの殺気に当てられた二人は顔を青ざめさせて、逃げ惑うようにこの場を去っていった。
そして追撃したラフィネにボコボコにされて、顔をびちゃびちゃにして泣きながら帰っていった。
「ロア、もう大丈夫よ!! 怖かったね……頑張ったね!」
「……ありがとう……ありがとうっ、ラフィネ……」
「いいのよ。このくらい、なんてことないんだから」
ラフィネはそう言うと、僕を立たせてくれて、僕の頭からあの二人のストッキングを取っ払ってくれた。
それから、砂で汚れた顔を撫でてくれて、血が出ているかもしれない服の中も見てくれた。
丁寧に、丁寧に。
「くすぐったい?」
「う、うん。少し……っ」
「えへへっ、でも我慢しよ? ちゃんと見ないと、バイ菌入っちゃうんだから。私の大切なロアだもん。ちゃんと、私が見てあげるんだから」
ちゅ……っ。
と、ラフィネは僕に優しい瞳を向けてくれて、口づけをしてくれた。
とってもくすぐったかった。
「さ、じゃあ、帰るよ。ロア、ご飯ないでしょ? 私が作ってあげる」
「いつもありがとう……ラフィネ……」
「うん!」
夕暮れに染まる中を、僕とラフィネは手を繋いで帰った。
僕は一人で暮らしていた。
お父さんとお母さんは、僕を殺そうとした罪で、牢獄に収容されたから、それが僕の日常だった。
それで、ラフィネが気にかけてくれてから、うちに来てくれるようになって、ご飯も一緒に食べたりするようになった。
「それでね、今日、ロアの家に泊まってもいい?」
「う、うん。僕はいいけど……ラフィネのご両親はいいって言ってるの?」
「うん! 結婚してもいいって言ってた!」
「えええぇぇ……””。結婚!?」
「うふふっ。……あなたっ」
うふふ、と笑うラフィネ。
彼女は幸せそうだった。
「でも、もう少しで鑑定士がこの村に来るんだって。そしたらスキル、分かるね! ロア、いいスキルだといいね!」
「うん!」
話によると、もうすぐ国から派遣された鑑定士がこの村にやってきて、僕らのスキルを見てくれるとのことだった。
僕は強くなりたかった。
ラフィネにいつも守ってもらいっぱなしだったから、スキルを手に入れて、力が欲しかった。
毎朝、毎晩、体は鍛えているけど、なぜか全く筋肉がつかない僕の肉体。
もうすぐ成長期のはずなのに、体はなだらかな丸みを帯びて、肌なんて柔らかくなっていく日々だ。
だけど、僕は男だ。
かっこいいスキルを手に入れて、男らしくなりたかった。
そして、当日。
僕のスキルが鑑定された。
『彼のスキルは……分かりませんでした!!!』
『『ぎゃはははははは!』』
なぜか、分からなかったスキル。
村長の娘の姉妹は、お腹を抱えて大笑いをしていた。
僕は、ショックで口を開けることしかできなかった。
「大丈夫だよ!!! きっと強くなれるよ! ロアならいけるよ!!」
励ましてくれたラフィネ。
そのラフィネは魔導剣士『パラディン』のスキルを手に入れて、ますます最強になっていた。
それからのラフィネは、僕を強くするためにいろんなことをしてくれた。
そして、その結果……。
「ねえ、ロア……。今日は蝋燭を垂らして、ムチでぶって、紐で縛って、泣かないように、強くなろうね???」
「うわあああああああん。強さの種類が違うよぉぉぉ……”””」
ズレていた、何もかもが。