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10話 家政婦になりませんか……?

 

「ねえ、ロアくん。もう、うちで家政婦しない……?」


「そ、それはありがたい申し出ですけど……」


 テーブルに着いているグローリアさんが、真剣な顔で僕を家政婦にしてくれると言ってくれていた。

 テーブルの上には、空になったお皿が置いてある。食後のことだった。グローリアさんはナプキンで口を拭いている。その顔は満足そうだった。


「私、ご飯あんまり食べない方なんだけど、ロアくんが作ってくれた肉じゃがは何回もおかわりしてしまったわ。だって美味しかったんだものっ」


「うん。めちゃくちゃ美味しかった……!」


 ルルナさんも肉じゃがが盛り付けられてあった皿を切なそうに見ながらも、そう言ってくれている。

「あと三杯ぐらいおかわりしたかったかも!」ともっと食べたいと言ってくれた。


「掃除もできて、ご飯も作れて、おまけに気もきくし、私、ロアくんがそばにいてくれたら、毎日家に帰ってくるのが楽しくなると思うの。だから、どう……? もうこのまま一緒に暮らさない? 結構本気なのだけど」


「グローリアさん……」


 ぎゅっと僕の手を両手で握りながら、上目遣いをするグローリアさん。

 握られている手は温もりがある、優しい握り方だった。

 なんだか安心感もあって、僕は緊張しつつも、落ち着いた気持ちになっていた。


 でも……。


「ごめんなさい……。僕には帰らないといけないところがありまして……」


「あ、ううん。こっちこそ、ごめんね。ロアくんにはロアくんの事情があるのだものね」


 ふいに、ラフィネのことが頭に浮かんできた。


 ラフィネは、僕の帰りを待っていると思う。

 窓の外を見てみると、もう暗くなり始めている。


 夜だ。


 いつもならこの時間の僕は、ラフィネと一緒にいる。

 そして縛られて、蝋燭を垂らされて、強くなるための特訓をしている時間帯だ……。


 ラフィネは今、どうしている頃だろうか……。

 蝋燭に火を灯している頃だろうか……。僕がダンジョンから戻ってくるのを待ってくれているだろうか……。


「では、僕はそろそろ……」


「もう遅いし、今日は泊まって行けばいいじゃん」


 と、席を立とうとしていた僕に、そう言ったのはルルナさん。


 僕がこの家に招いてもらったのは、着替えを用意してもらうためだった。

 だから、長居しても迷惑だし、用事を済ませたらグローリアさんにお礼を言って、お暇しようと思っていたのだけど……。


「そうよ。ロアくん。今日は泊まっていきなさい。明日になったらロアくんのお家一緒に探してあげるから、そうしよ?」


「それで……いいのでしょうか」


 グローリアさんが優しい言葉をかけてくれる。

 だけど、僕は迷ってしまった。

 きっとこういうところが、情けないのだと思う。


 そんな僕に、グローリアさんは迷惑じゃないと言ってくれる。


「ロアくんなら迷惑じゃないわ。むしろ逆よ。ぜひ、泊まっていってほしいわ。それで、長居するのが迷惑かもって思ってるなら、明日は朝ごはんとか作ってくれると、嬉しいかも」


「そ、それでしたら……お言葉に甘えさせていただいてもよろしいでしょうか……?」


「もちろんよ。私もなんだかロアくんと一緒にいると落ち着くもの」


 そう言った今のグローリアさんは、ラフな格好をしていた。

 お風呂上がりということもあって、薄着だし、心なしか距離感も近くなっている。


「なんだか弟ができたみたいで、いいかもっ。ね、ロアくん」


「私もお兄ちゃんができたみたいで、嬉しいかも」


「あっ、だ、だめですよぉ……っ」


 グローリアさんが僕を抱きしめてくれる。

 ルルナさんが僕の腰の上にこっち向きに座って、ぎゅっと抱きしめてくれる。

 僕は二人に抱きしめられて、柔らかさを感じた。いい匂いに包まれて、頭がふわふわと夢見心地になった。


「ロアくん。私、もう、ロアくんに一生ご飯作ってもらって、養ってもらってもいいかも。ロアくんなら家事とかもしてくれるし、毎日ロアくんのお味噌汁飲みたいな」


「ルルナさん……。でも……僕、お金ないですし……」


「お金なら私がたんまり持ってる。だから、考えてくれると嬉しい」


「まったく……ルルナは甘えん坊なんだから」


 その後、僕はルルナさんを抱えたまま、ルルナさんの部屋にお邪魔することになった。


 寝るのは一緒の布団。

 僕はルルナさんに抱き枕のように抱きしめられて眠ることになり、いつもとは違う布団の匂いに包まれると、僕の意識は微睡の中に溶けていくのだった。


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