1話 今から私はあんたをここに置いて行きます!
ぽたり、ぽたり、と、滴るものがあった。
それはロウだった。熱々に熱された、蝋燭のあの蝋だ。
それが溶けて、液体状になったその白いロウが、ぽたり、ぽたり、と滴っている。
裸に剥かれた、僕の胸へと……。
「ううぅ……っ、あぁあ……””っ。あつ……っ、あつ”いよ”……っ」
ロウを垂らされた僕は、そんな情けない声を上げることしかできない。
「……っ、ほんと可哀想な鳴き声ねっ。私、何だかよだれが出てきっちゃった……っ」
日が差し込まない部屋の中で、僕にロウを垂らしている人物が恍惚な表情で笑っていた。
「やめてよぉ……っ、僕、死んじゃうよぉ……っ」
「生意気なこと言わないの。ほんと……生意気なんだからっ。そんなあんたの肌を、クリップで挟んでやる」
パッチンっ。
彼女はクリップを取り出すと、それで僕の肌を挟んでいた。
パッチンだ。
ラフィネはよくパッチンをしてくるのだ。
「あんたは、パッチンが好きだものねっ」
痛い。痛い。
そう言っても、彼女はやめてくれない。
もっと強く挟んでくる。このままじゃ、僕の肌が取れてしまいそうだった。
「ラフィネ……っ。ラフィネ……っ。もう、こんなことだめだよ……っ」
僕は啜り泣きながら、どうしてこんなことになってしまったのだろう……と、彼女とのことを思い出していた。
僕とラフィネは、ずっと昔から一緒にいる幼馴染だった。
同じ出身地の僕たちは、仲が良くて、いつも一緒に遊んでいた。
艶やかな金色の髪。それは黄金のように綺麗で、ラフィネは王女様みたいに美しい子だった。
小さい頃からそうだったラフィネは、僕のことを弟分みたいだと思って接してくれていたんだ。
そして14歳になった僕たちは、村を出て冒険者になった。
そして……今に至るというわけだった。
「力が欲しいのでしょう……? だったら、これは必要なことよ!!!」
「ろ、ロウはもうやだよぉ……」
ぽた……ぽた……。
「あつ”い……っ。あ、あついよぉ……”」
ロウが垂れてきた。
僕の剥き出しの白い素肌を汚すように、ぽたぽたと、ぽたぽたと……それは降り注ぐ雨のようだった。
彼女がこうやっているのは、僕のためだ。
僕に力をくれているのだ。
ひ弱な僕は、力が欲しかったのだ。
だけど、力と引き換えに、僕らは大切なものを生贄にしてしまったのだ。
変わってしまったのだ……。
あのお姫様みたいに可愛いかったラフィネは、女王さまのような艶かしいラフィネに……。
でも、ラフィネは優しいところもあるんだ。
「可哀想……、可哀想なロア……」
ロアというのは僕の名前だ。
「こんな、肌にロウを垂らされて、熱そう……。すっごく熱そう……っ」
「ラフィネ……ラフィネ……っ」
ラフィネが僕の素肌を指でなぞってくれる。
つつー、としたその指使いは、僕のことを全部知ってくれている指使いだった。
「可哀想なロア……っ。でも、大丈夫。大丈夫だからねっ。私が守ってあげるからね……?」
ラフィネはこうやって僕のことを心配してもくれるのだ。
「ほぉら、じゃあ、体が汚れちゃってるから、お風呂に行きましょう。一緒にきれいきれいできたら、ご褒美あげるね」
「う、うんっ。ぼく、頑張るよ……」
その後、僕はラフィネと一緒に頑張ってきれいきれいした。
今日のラフィネの肌は、甘い香りがした。ラフィネはいつも僕と一緒に裸になってお風呂に入ってくれるのだ。
そんな僕のことを、ラフィネはお風呂の中でたくさん褒めてくれた。
「いい子……っ。いい子……っ。ロア、いい子……っ」
ちゅ……っ。
そのご褒美は、とても愛情を感じるもので、僕は幸せ者だった。
* * * * *
それから、数日後。
その日の、僕たちは一緒にダンジョンへとやってきていて。
そして、ラフィネはにっこりと笑うとこう言ったんだ。
「じゃあ、今から私はあんたをここに置いて行きます!!」
「え”……っ、ええぇぇぇぇ……””””」
まるでダンゴムシのように、ぐるぐる巻きにされた状態で。
僕は……捨てられようとしていた。
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