第四話 初めての合成
本日一話目
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名前:魔女リティ
Lv:7
MP:260 / 800
魔法攻撃力:220(+5)
魔法防御力:160
飛行速度:130(+5)
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名前:クロワッサン
Lv:7
MP:670 / 1250
魔法攻撃力:190(+5)
魔法防御力:190
飛行速度:190(+5)
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「いやMPの差!」
集合時間になったので、集落北の平原フィールドへ移動した二人は、戦果の確認がてらステータスを見せ合っていたのだが――その差に魔女リティは思わず叫んだ。
なお、ステータスの横に足されている数値は、装備補正値を表す。例えば魔女リティの場合、魔法攻撃力の合計値は225ということになる。
「意外と差がついたね……MPだけ初期値が500、他は100でスタートだったよね?」
「そうそう。選んだ基礎属性でステータスの伸び幅が違うかんね、まぁ調べてたし分かってたことではあるんだけど……流石ステータス特化の無属性だね」
「あ、無属性なのは分かってたんだ」
「さっきの戦いで基礎術式使ってたし」
「あー、そっか。うーん……雷属性はステータスちょっと低めかな?」
「全体的に見ると低めかもしれないけど、その分基礎術式が強いイメージかな。範囲こそ狭いけど射程はあって威力も高いし」
「なるほどー……それにしても」
ステータスの項目を眺めながら、クロワッサンが苦笑する。
「すごくシンプルだし、HPがないのってすごい違和感あるね」
「ちょっと分かる」
敵の攻撃を受けると減少し、HPが0になると戦闘不能になるというのが一般的なゲームシステムであると言える。
ならば、ウィッチクラフト・オンラインでは何を以て戦闘不能とするのか?
その答えは、「MPが0になったら」、となる。
つまり、MPとはプレイヤーの生命力でもある。魔法を使えば減少し、ダメージを受けても減少するのだ。
「チュートリアルでもMP残量には気をつけろって滅茶苦茶言われたかんね。耳タコだよ耳タコ。あとは……魔法陣だね」
システムが思考を検知して、どこからともなく分厚い本が現れた。
手をかざすだけでぱらぱらとひとりでに開き、魔導書の各ページにじわりと魔法陣が浮かび上がる。次いで表示されたウィンドウには、魔法陣の名前や効力が表記されていた。
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○《ワイルドボア》 消費MP:5 所持数:14
近距離の敵に、ノックバック効果を持つ衝撃波を放つ
○《ハウンドウルフ》 消費MP:6 所持数:7
短距離の間、任意の対象の痕跡を追える
○《ホークアイ》 消費MP:5 所持数:5
少しだけ遠くが見えるようになる
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「流石に大した効力の魔法陣はないね」
「まだ序盤の敵から獲得できる能力だかんね」
WCOにおける目玉、倒した魔物から得られる“魔法陣”は、魔物の能力の一端を抽出したものだ。当然戦闘で使用することも可能だが、特に序盤で手に入る魔法陣の効力など大したものではない。
しかしそれも当然と言えよう――魔法陣は、合成して使用することを前提としているのだから。
「……チームメイトの人たちってまだ来てないよね?」
「そうだね……それらしい人は来てないかなぁ。そろそろ時間だけど」
「時間があるなら、ちょっと合成してていい?」
「もちろん」
WCOの目玉――ウィッチクラフトシステムによる魔法陣の合成。
ベースとなる魔法陣に、最大九つの魔法陣を素材として合成することが出来るシステムだ。極端な言い方をすれば、「自分の理想の魔法が作れるシステム」となる。
「まずはベースを選択」
魔女リティが選択したのは《ホークアイ》。これは視力に優れた鷹型の魔物から獲得した魔法陣だ。
宙で開いた魔導書の上に、幾何学模様の魔法陣が出現する。
「次に素材を選択……まぁこれも《ホークアイ》なんだけど」
さらに四つの《ホークアイ》を素材として選択すると、先に現れていた魔法陣の周囲に、四つの小さい魔法陣が出現した。
「で、合成開始っと」
中心の魔法陣がゆっくりと回転し始め、それに合わせて周囲の小魔法陣も回転し始める。歯車のように動きが連動した五つの魔法陣は、やがて光を放ち始め――光が収まったころには、一つの魔法陣と化していた。
「……できた。これがないと始まらないからね」
魔女リティは表示されたウィンドウを見てにまっと笑う。
【魔法陣の合成が完了しました】
【名前を決めてください】
魔物からドロップする魔法陣は、デフォルトで元となった魔物の名前を冠しているが、合成後は名前を好きに変えることが出来る。
「ふむ……じゃあ《鷹ノ目》で。……どれどれ」
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○《鷹ノ目》 消費MP:25 所持数:1
一定時間、かなり遠くまで見えるようになる
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「ふふ……今の僕には必要不可欠な魔法陣だね」
「あ、リッちゃんが欲しかった魔法陣ってこれ?」
「そうそう」
援護狙撃を主とするのが魔女リティのスタイルだが、《ライトニング》……また、その上位の攻撃魔法の射程距離に対して、狙いをつける目には限度がある。それを補強するための魔法陣は序盤で獲得しておきたかったのだ。
さらに、この魔法陣にはもう一つ、隠された力がある――
「あとは《《こっち》》もまとめておこうかな」
「あっ……おーい、こっちこっちー!」
魔女リティがウィンドウを操作する傍らで、突然クロワッサンが手を振る。
「おっと……もう来ちゃったか、じゃあちゃちゃっと合成済ませとこう」
魔女リティが合成を終えるのと、その人物が到着するのとはほぼ同時だった。
「先っ……こほん。えっと……クロワさん、ごきげんよう」
「ラピッドちゃん……だね、お疲れ様。こっちでは初めましてだね! 二人はまだなの?」
「今日は別行動だったから現地集合ってことになってるの。じきに来ると思うわ」
やってきたのは、赤い髪のツインテールが特徴的なプレイヤーだった。立ち居振る舞い、喋り方。気の強さがそこかしこから滲んでいる、そんな印象を受けた。
そんな彼女の吊り目がじろりと魔女リティに向く。
(……なんだろ、やけに睨まれてるような……?)
「これが例の助っ人?」
「そうだよ! とびっきりの人材なんだから!」
「……このちんちくりんが?」
「こ、こらラピッドちゃん! 初対面でなんてこと言うの!」
「これは失敬。あんまりにも強そうに見えなかったから」
ハハハ、と魔女リティから乾いた笑いが漏れる。その胸中を一言で言うなら「なんだこいつ」である。
「これはずいぶんなご挨拶だなぁ。そういうそっちこそ、ずいぶん《《可愛く》》見えるけど?」
「は?」
「ともかく、はじめまして、魔女リティです。どうぞ、よろしく」
「ふん……ラピッド・ファイアーよ」
憮然とした表情で、握手にも応じない。皮肉一つでずいぶんと嫌われたものだなぁ、と魔女リティは苦笑する。
一方、お世辞にもいいとは言えない雰囲気に、クロワッサンがあわあわし始めた。
「……ずいぶん余裕あるみたいだけど、あんた本当に強いんでしょうね? あたしたち、本気でイベント上位を狙ってるんだけど」
「レベルならともかく、見た目で判断するのに?」
「もう、二人とも!? なんでそんなに喧嘩腰なの!?」
流石に見かねたクロワッサンが乱入。腰に手を当て頬を膨らますその様は、本気で怒ってはいるのだろうが、妙に愛嬌のある姿だった。
「特にラピッドちゃん! 初対面の人には敬語を使うとかあるでしょ!? ましてやリッちゃんは私と同い年だよ!」
「相変わらず真面目ね、クロワさんは。あたし、ゲームの中では常に敬語使わないけど?」
「ごめん私の言い方が悪かったね、敬語は使わないまでも初対面から突っかかるのはちょっとよくないんじゃないかな!?」
「あらら~、珍しい。燐ちゃんと先輩が喧嘩しとるん?」
二人を見ていた魔女リティが、背後からぎゅむ、と誰かに抱きしめられる。驚いて上を見上げようとしたが、何か柔らかいものに視界が遮られた。
「ちょっとハルル、こっちではラピッドよ! いい加減気をつけなさいよね!」
「あらそうやった、堪忍やでりん……じゃない、ラピッドちゃん」
「ハルルちゃ、んっ……!?」
「先輩もごきげんよう~……って、これも良くないんかな? まぁええか……ところで、この可愛(ルビ:かい)らしい子はどちら様?」
「よくわかんない相手によく抱き着けるわねあんた!」
「は、ハルルちゃん? リティに何してるのかな……?」
「ちょうどええ大きさの可愛いのがおったら、とりあえず抱きしめたくなるやろ?」
「抱きしめるのは……百……百歩譲っていいにしても、その、む、胸を頭に置くのはよろしくないと思うのっ!」
「置いたつもりはあらへんけど、ちょうどええ高さやから綺麗に乗っかってもうたなぁ」
自分の視界を塞いでいるものの正体を知って、魔女リティの体が硬直する。
落ち着け、自分。いかにゲームとは言え、下手な反応をしたらチームからも追放されかねない……!
こんなことでせっかく誘ってくれたクロワッサンの面子を潰すわけにはいかない。魔女リティは努めて平静を保った。
「先輩もお胸もご立派やし、乗っけてみたらええんちゃう?」
「のののの乗っけないよ!?」
「あのー、とりあえず離してもらえると……」
解放された魔女リティが視界を取り戻す。ゲーム故にその手の感覚は曖昧に設定されているが、胸を乗せられていたという事実は男子高校生の精神に悪い。
一度頭を落ち着けて、やってきた二人目のチームメイトを見た。
青い髪のプレイヤーで、ラピッドとは対照的なのんびりとした雰囲気を纏っている。髪飾りを初めとした各種装備品は、どこか和風な意匠を感じるものが多い。
「初めまして、ハルルです。よしなに」
「魔女リティです、どうぞよろしく」
「ほんで、ラピッドちゃんと先輩は何を言い合っとったん?」
「あっ、そうだ! ハルルちゃんからも言ってあげて! ラピッドちゃんがリッちゃんに酷い態度を取ってたの!」
「あたしはこれが平常運転だけど? ハルルからも説得してよ」
「あはは、面倒やから却下。そういうのはリティちゃんがどう思っとるかやないの?」
ハルルからのキラーパスによって、二人の視線が急に魔女リティに向いた。
「……まぁ、正直いい気分はしてないけど。売り言葉に買い言葉だし、今回はお互いさまってことで」
「んむむ……」
魔女リティにそう言われてはこれ以上ラピッドを追及することもできず、クロワッサンが物言いたげに引き下がった。
「まあ、ラピッドちゃんがトゲトゲしてるんはいつものことや。こんなんやけど、根は悪い子やないんよ。ハリネズミみたいなもんやと思うて仲良うしたってな、リティちゃん」
「だれがハリネズミよ! あと保護者みたいなこと言わないで!」
「ところで、シャンデリアちゃんはまだなんやね」
「あたしたちの中で一番速いクセして一番遅いとか……」
(ハルルって娘、ずいぶんマイペースだな……ん? なんだこれ、地響き?)
魔女リティがそれを感じ取って間もなく、状況が激変した。
「二人ともぉぉぉぉぉぉっっっ!! てーつだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
突然の救援要請に全員がぎょっとして声の方を見れば、緑の髪の小柄な魔女が、超特急でこちらへすっ飛んでくる。
そしてそれを追うのは、一つの巨大な影。太く発達した二本の巨腕で大地を穿ちながら、体を引きずるように迫る怪物。
人なら丸呑みできそうな、トカゲにも似た頭部を持つその魔物は、ファンタジーにおける強者の代名詞――ドラゴンにとてもよく似ていた。
今日も三話連続投稿します。
次は二時間後です。




