第二十話 彼の理由
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【急所特攻・Ⅳ】
執拗に急所を狙う、悪魔のようなあなたに贈る称号。
急所への攻撃成功時、威力を20%上昇
【狙撃手・Ⅳ】
山の向こうでも射程圏内。
魔法の射程を40%延長
【雷鳴の魔女】
雷属性の魔法で多くの敵を倒したあなたに贈る称号。
雷属性の魔法の威力上昇。
【一人前の魔女】
Lv50到達報酬。もう見習いとは言わせない。
百回以上使用した基礎属性魔法の詠唱破棄が可能になる。
【挑発上手】
敵に笑顔で中指立てられるあなたへ贈る称号。
魔物からのヘイトを集めやすくなる。
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魔女リティのレベルは62まで上昇し、称号もいくつか手に入った。ワイバーン狩りの収穫は上々と言えるだろう。
魔法陣 《ブラキオン・ワイバーン》が八つ、その他素材が計十四点。後者は魔女リティが持っていても使い道がないので、昼行灯での注文ついでに売ってきたあとのこと。
「じゃあはい、シャンデリア。これが腕力強化の魔法陣――その名も《腕頑尖爪》だよ」
「もうちょっと他の名前無かったの?」
思わずと言った調子でラピッドが突っ込むが。
「やっほう! ありがと、リティ! これでイベント戦の準備は万端だね!」
「嘘でしょあんたノーコメントなの……?」
「どういたしまして。あ、本番前に一回試し打ちしといてほしいかな。本番で問題が起こっても困るかんね」
「りょーかい! 鉱石掘るついでに使ってみるよ! じゃあわたし行ってくるねー!」
言うが早いか、ばびゅんとアトリエを出て言ってしまったシャンデリア。確かな満足感と共に苦笑しながら見送っていると、むにぃ、と両側から頬をつつかれた。
「ええなぁ、シャンデリアちゃん。リティちゃんから三つも魔法陣もろとる」
「そうね……名前のセンスはともかくとして。あんた、シャンデリアばっかり構ってるけど、あたしたちには何もないわけ?」
ハルル一人かと思いきや、右からハルル、左からラピッドがそれぞれ掌で挟んできていた。ぐにぐにと両側から頬を弄ばれて、魔女リティが困惑する。
「だ、だって二人は手を加える余地がないというか……十分強いかんね」
「……そ、そうかしら」
褒め言葉一つで気勢を削げるあたり、ラピッドはもしかして相当チョロいのかもしれない。
「あはは。要するにやリティちゃん。強い弱いやのうて、ちょっぴり不公平やない? ってラピッドちゃんは言うとるんよ」
「何でもかんでもあたしの言葉にしないでくれる?」
「できれば、うちらもリティちゃんが作った魔法陣が一個ぐらい欲しいなぁ思っとるしな」
「え? でも三つの枠埋まってるんじゃないの?」
「問題ないわよ。大した魔法陣もセットしてないし」
「ラピッドちゃんのテンションとかモチベーションにも関わりそうやし、できたらお願いしたいなぁ」
「ハルルーっ! あんた何かとあたしを引き合いに出すのやめなさいよぉ!」
「ふふ……うん、わかったよ。それじゃあ本番までに何か作っておくね」
「やった! 楽しみやね、ラピッドちゃん!」
「ふん……がっかりさせないでよね」
「………………………………」
◆◆◆
クロワッサンは思わず叫んだ。
「リッちゃん、みんなとの距離が近すぎませんかっ」
「えっ、また?」
二人でレベリングに来たのは集落より東、密林フィールド。二人きりだと言うのに珍しくドキドキしていないのは、先刻の後輩たちに懐かれている魔女リティの姿が、クロワッサンの中で喉に刺さった小骨のように引っかかっているからだろう。
一方で以前も似たような嫉妬をぶつけられた魔女リティはと言えば、きょとんとした顔を浮かべていた。なお視界はミツメと共有中なので、クロワッサンの赤い顔は見えていない。
「距離が近いのは向こうから近づいてくるからだと思うんだけど」
「物理的な距離と言うか、精神的なもののことだよぅ……」
(そっちも羨ましくはあるけど!)
「イベント戦を考えたら、仲がいいのはいいことなのでは……?」
「そうなんだけど、そうじゃないの……っ!」
べしべしと箒を叩きながら無茶苦茶なことを言っている自覚はあるが、クロワッサンとて必死なのである。
「なに、まさかとは思うけど、可愛い後輩を取られたみたいで先輩として嫉妬してるの?」
(逆だよ! リッちゃんを取られたみたいであの娘たちに嫉妬してるの! って最低か私は!)
「じゃあ安心してもいいと思うけどな。僕みたいな取るに足らない一般人に、お嬢様たちがなびくなんてことないかんね」
「取るに足らないなんてことはありませんっ! リッちゃんはちゃんとしてます!」
「お、おう……あ、ありがとう、でいいのかな?」
想像以上に自己評価が低くてクロワッサンは呆れる思いだが、この幼馴染はこういうところがある。リアルでの可愛らしい容姿が、男としての自信を削っているのだろうことは想像に難くない。
しかし、別に容姿だって悪いわけじゃないのだ。言ってしまえば、可愛いだけなのである。容姿については趣味嗜好の問題だし、クロワッサンとしては“旭”ならどんな容姿だって構わない。なんなら今の幼女姿でも全然イケる。
それはそれとして周囲に女子が増えた今の環境、魔女リティにも後輩たちにも非がないのは理解しつつも、心中穏やかではいられないのである。まぁ呼んだのも自分なのだが。
(だ、だめだめ、今の私はかなり感じ悪い……ちょっと話題変えないと……)
「えーっと……そうだ。結局、リッちゃんがスタイルを変えた理由ってなんだったの?」
「……………………」
(……あれっ、沈黙? 何か地雷踏んじゃった……?)
いきなり静かになった魔女リティに冷や汗を流したクロワッサンだったが、やがて魔女リティが口を開いた。
「クロワッサンが理由だよ」
「私が?」
「昔から、サポート上手かったでしょ。敵の攻撃から守ってくれたり、敵を引きつけたりさ。あの動き方は、やたらと印象に残ってるっていうか……かっこよく見えたんだよね」
(ふへぁ!?)
いきなり褒められて、クロワッサンの心臓が飛びあがり、頬が一気に紅潮する。
「だから似たような動き方……仲間を守ったりとか、そういうのも試してた時期があったんだけど、僕には合わなくてさ。だからアプローチを変えて、行き着いた先が狙撃だったわけ」
「そ、そ、そ、そうだったの?」
「そ。だから、ラピッドたちが攻撃役だったのは幸いだったね。ラピッドの隣で、肩を並べてサポートできるんだから」
(あびゃっ……!)
正直なところ、クロワッサンにとって、幼馴染のサポート役への転向はちょっぴり残念だったのだ。
なぜなら、三日月の防御技能は、バトルで先陣を切る旭を守るためにこそ磨いてきたものだったから。
だが、魔女リティはクロワッサンと共にサポート役になれて幸いだという。
(だったら私も、それに応えないと……!)
「あの娘たちを勝たせてあげよう――っていうと、ちょっと上からかもだけど。一緒に頑張ろうね、クロワッサン」
「そ、そだねっ! がばろっ!」
「クロワッサンって時々言動が面白いことになるよね――うん?」
視界に何か映ったのか、魔女リティが小首を傾げる。
「……クロワッサン、ちょっと移動しない?」
「いいけど……何か見つけたの?」
「んー……しいて言うなら、サナギ?」
「サナギだね、これは」
「紛れもなくサナギですねこれは……」
魔女リティの案内に従って向かってみれば、そこにはサナギがあった。
それもただのサナギではない。二十センチはあろうかという大きなサナギであり、三日月型。おまけに淡く光っている。それがただのサナギでないことは一目瞭然だ。
「あ、これ見たことあるかも」
「そうなの? どこかのサイトとかで?」
「ううん、集落の大図書館」
「あー、第五ツリーだっけ? 大樹一本丸ごと図書館になってる」
「そうそう。ゲームだと、ああいうところに大事な情報とか隠されてたりするでしょ? 時間ある時にちょこちょこ覗きに行ってたんだ。魔物の情報とかも色々見れたし、称号も手に入ったよ」
「へぇ……時間あったら僕も行こうかな。それで、このサナギは?」
「えっと、確か月光蝶って名前の魔物だったはず。すごい魔力を蓄えてるから、羽化するときに魔物から狙われちゃうんだって。だから個体数が少ないレアな魔物だって――」
【遭遇クエスト!】
【月光蝶のサナギが羽化しようとしている】
【羽化の様子を見守りますか? ・はい ・いいえ】
「……リッちゃん、遭遇クエスト出た?」
「出たけど、僕すごい勢いで煽られたよ。【条件を満たしていません】【知識が足りないようだ】って」
「えっ、そうなの?」
「多分、図書館関係の称号持ってるかどうかがクエスト発生の条件なんじゃないかな? それで、やる? 僕の感覚的に、これクリアしたら使い魔になりそうな感じなんだけど」
「……やっていいかな?」
「いいんじゃない? 戦力が増すなら大歓迎だよ」
「じゃあ……お願いしますっ!」
【クエスト受領】
【クリア条件:十分間月光蝶の羽化を守り抜く】
【失敗条件:月光蝶へのダメージ超過】
【クエストを開始します】
【10:00……9:59……9:58……9:57……】
途端、サナギの表面にヒビが入り――同時に、周囲から魔物の唸り声が響いた。




