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腹ペコアンドロイド


「ああ、何で急に昔のことなんて。・・・もう、何回死んだか覚えてもねぇのに。初めての死の記憶だけは鮮明に頭に張り付きやがる」


 酒場から出たヴァニクは、道の真ん中で頭を抱えていた。彼は、これまで何十回と死を経験しこの世界をやり直していた。それはあまりにも途方もない時間、何度くじけ、絶望したかなんて覚えていない。しかし、彼は絶望することに絶望したのだ。何度、今置かれている状況を憎んだところで、この状況は変わりはしない。その結論に至るまで、彼は何度死んだのだろうか。


「今回の択。正直これがだめならお手上げだ。また一から、フラグとイベントをあさらなくちゃならねぇ。これで終わってほしいものだ」


 ヴァニクは、何十回と死ぬ中で、このゲームをクリアへと進めるルートを一つづつ試したのだ。そして行き着いた答えが。


「ドイルさんに会わずに、壁を越え。ギャリオスが例のポイントに到達する前に立ち入り禁止区域を超える。これしかない。いったいこの答えにたどり着くまでに何度チャートを組みなおしたことか」


 ヴァニクの立てたチャートは次の通りだ。依頼の受注中にドイルさんと会わないために、酒場で時間をつぶす。この酒場で時間をつぶすというイベントには、依頼終了後、酒場の親父に一食おごってもらえるというフラグにつながる。ここでドイルさんを避ける理由は、ドイルさんに会うことでドイルさんに確定の死亡フラグが立つと予想されるからだ。

 そして、壁を超える。この時もドイルさんに会わないことが条件となる。しかしドイルさんは受注後すぐに壁に向かうので、時間をつぶせばいい。壁を超えた後は最速で立ち入り禁止区域まで行く、ギャリオスは何らかをトリガーとする登場ではなく、時間によるものだと断定したからだ。そしてここからが未知数、立ち入り禁止区域に入る。立ち入り禁止区域があると思われるエリアは、地図上には存在していない、よって人的ではなくゲームシステム的なものだと予想できた。システムであり、視界の上からの立ち入り禁止表示だとすれば、無視して進めるのではないかと予想し、今回はそれを試す。

 といった形だ。これ以前にギャリオスの討伐も視野に入れたが、どんなに装備を整えても傷一つ与えられないことから、討伐を断念した。


「我ながら、最善策。このチャート通りに攻略する。今回こそ、このクソシナリオを進めてやる」



 そして、ヴァニクは無事ドイルと鉢合わせることなく壁を越えた。鉄の森を最速で駆け抜け指定のポイントへ到着。開けた空から覗く晴天がヴァニクをあざ笑うかのように思えた。


「ここからだ、ここからが未知数。可能性は、試行回数分の一。いや100%だ!」


 ヴァニクは立ち入り禁止区域を目指し駆け抜ける、視界がぼやけ、耳障りな砂嵐音が脳内に響き渡る。そしてあの看板。黄色い立ち入り禁止の看板。


「超える、超えてやる!グ、グ、グァァァアアアア」


 手を伸ばすほど、頭痛がひどくなる。ヴァニクは頭を押さえながら懸命に一歩一歩前へと踏み出す。そして、指先が看板に触れたとき、すっと頭痛が消えた。視界が晴れ渡り・・・


「越えた!超えたぞ!・・・あり?」


 足場がない、ヴァニクは勢いあまって足を踏み外したのだ。


「これも、トラップ!?」

 ドスン!



「また、死んだのか?」

 

 ヴァニクが目を覚まし見上げたのは、あのいやというほど見た家の天井ではなかった。木漏れ日あふれるひんやりとした、鉄の木々の根の上。


「死んで・・・ない?・・・八ッ!死んでない!生きてる!よっしゃー!超えてやったぜ!・・・だが、問題はここからだ。これが正規ルートなのか。それが問題だ」


 ヴァニクは一度冷静になりあたりを見渡した。先ほど落ちてきたであろう崖の高さは役4メートル登ろうと思えばギリギリといったところだ。そして、この崖の下には大きな鉄の木が立っていた。その木の根間に自然にできたとは思えない大きな塊が埋まっていた。


「ん?・・・これだけ周りと少し違うな。カプセル?」


 ヴァニクは、木の根元にいきそのカプセルのようなものに近づきほこりを払った。


「SC-003?こ、これは。・・・女の子!?」


 ヴァニクがカプセルの上部のほこりを払い、ガラス越しに中を覗くとそこにはきれいな黒髪を持つ少女が静かに眠っていた。


「に、人間?でも・・・よく見えないな」

 

 ガチャ


 ヴァニクが、もっと詳しく見ようと体を乗り出した時だった。おいていた手が何かのスイッチを押したようだった。プシュー、という音とともに、あぷセルのふたが開き始めた。


「あ、あれ‼なんかしちゃった!?・・・待て待て、心の準備がーーー」


 ブオン


 重低音とともに、カプセルから少女が起き上がる。しかし、彼女の身体は・・・

 ヴァニクは一瞬で血の気が引いたの感じた。冷や汗をかきながら反射的に少女の頭部に銃口を向けていた。


「てめぇ・・・何もんだ?」

 

 少女は、銃口を気にせずヴァニクのほうを向いて、口を開いた。


「私は、思考型アンドロイド、SC-003です」

「アンドロイド。つまりお前もグロウリスか?」


 そう彼女の顔から下は白く輝く機械の身体だったのだ。


「正確には、グロウリスではなく、非常用グロウリス抑制機構。です」

「抑制機構?」

「イエス、マスター」

「ま、マスター?お、俺がか?」


 ヴァニクは銃を下ろし、少女への警戒態勢を』一度解いた


「イエス、マスター。起動スイッチを押したのはあなたですよね」

「す、スイッチ。・・・あ、あのときか」

「ですが、私のキーが解除されたということは、グロウリスたちに異常が起きたということです」

「異常、今のグロウリスたちの行動は平常時のそれとは異なるということか」

「イエス、マスター。しかし、私の兄弟たちもいまだに起動していません。これは甚大な不具合です」


 異常。そう言われたが。ヴァニクには心当たりがなかった。どうやら彼女には仲間がいるらしくその仲間は起動していないという。


「なぁ?」

「どうかしましたか、マスター」

「グロウリス、平常時っての聞かせてくれないか。どこが異常がわかるかもしれない」

「了解しました。まずグロウリスは、三つの種類に分類されます。一つは太陽の光をグロウリスすべてを動かすためのエネルギーに変換する、「発電種」。そして、作られたエネルギーを蓄える「蓄電種」。そしてそれらのエネルギーを使用する「放電種」。この三種はともに共存しています。そして有事の際、それぞれが協力して対処します」

「グロウリスがグロウリスを押そうなんてことは」

「あり得ません。もしそんなことがあるとすれば。それが異常です」

「そうか」

「まさか、そのようなことが起こっているのですか!」


 今まで、平坦だった少女が、初めて声を荒げた。その時だった、


 バコンッ!


 という破砕音とともに、崖の上の木をなぎ倒し、いやになるほど見た化け物の顔が現れた。


「ギャリオス!?、なんでここまで!」

 

 ヴァニクが咄嗟に銃に手を掛けるのをそっと少女が止めた。


「待ってください、マスター。この始末は私の仕事です。下がってください」

「お前・・・わかった」


 少女の、顔には友を殺すような覚悟に満ちた表情が浮かんでいた。


「異常検出、異常対処プログラム起動」


 彼女はそういうと右腕をギャリオスに向けた。すると、右腕に亀裂が入り青白い光があふれだした。次の瞬間、


 ガコン。ガシャン


 機械音とともに、腕が開き銃口のようなものが現れた。あたりの空気を吸い込むような音とともに銃口に陽炎のような靄がかかる。

 ギャリオスが銃口に集まるエネルギーを感じ取ったのか。叫び声をあげ少女に向かい突進してくる。


「危ない!」

 

 思わず、ヴァニクが飛び出そうとした瞬間だった。少女の銃口から青白いレーザーのようなものが照射され、ギャリオスの半身が消滅した。赤く光っていた目も光を失い、ギャリオスは無造作にその場に倒れこんだ。


「終わりました、マスター」


 少女がそういうと、右手に銃口を収納して振り返った。少女は口から白い煙を吐き出し微笑む。


「お、お疲れ」


 しかし、少女はふらふらと体を揺らし後ろに倒れこみそうになったところを、ヴァニクが抱きかかえた。人肌のようなぬくもりを感じた。


「大丈夫か!?」

「少し、エネルギーを使いすぎました。マスター、先ほどのグロウリスのそばまで運んでくださいますか」

「ん?別にいいが・・・何をする気だ?」


 少女の言う通り、ギャリオスの死体の横に少女を座らせると、


 ガリ、ボリ、バキ


「はぇ!?]

 

 少女はギャリオスを食べ始めたのだ。装甲をはがし口へ運び、銅線やチューブをまるで麺類を食べるかのようにすすっていく。


「た、食べるんだ・・・」

「食べます。私の体内にはどのようなものでも接種しエネルギーに変換する機構があります。ですから、バキン、食べます、ちゅるり」

「わかったわかった、わかったから食べながらしゃべるな」


 ギャリオスを黙々と頬張る少女を見ながら、ヴァニクが言った。


「お前、これからどうすんだ?」

「これからですか?・・・そうですね、マスターと一緒に今起こっているこの異常事態の原因を探るでしょうか」

「俺と一緒・・・、これが正規ルート?だが、ギャリオスを結果的には討伐?できたわけだし、誰も死んでないところから考えると、やはりこれが正規ルートなのだろうか。だとしたら、当面の目標は彼女の言った通り、今この世界でグロウリスたちに起こっている異常の謎を解くことになるのか」

「どうかしましたか?マスター」

「いや、俺と一緒に来るってことは、人間側に着くということだがそれでいいのか」

「人間側?もとより、私は人に仕えるために作られたものですから」

「ふ~ん、まぁ、どちらにしろ、名前はいるよな」

「名前?コードネームでしたら SC-003」

「そうじゃなくて、人間の名前だよ」

「人間の、名前?」

「そうだな・・・ミーシャなんてのはどうだ」

「ミーシャ・・・」

「ああ、ミーシャ。なんとなくだけどな」


 少し、目をつぶった後、少女が言った。


「ミーシャ。いい名前だと思います。マスター。ありがとうございます」


 そういって、少女、ミーシャが微笑んだ。銅線をすすりながら。

 

 ちゅるり



〈セーブ中・・・〉

こんにちは神奈りんです。この度はこのお話に目を通していただき誠のにありがとうございます。よければ今後ともよろしくお願いします。

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