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違和感を辿って


「トランプで出来るイカサマは大きく分けて二つある。あらかじめトランプに細工をするか、マジシャンのようにカードを巧みに操ることでプレイヤーを騙すイカサマか、おそらく五十嵐はどちらかもしくは両方のイカサマを行っている可能性が高い」


英二は五十嵐さんのイカサマを断言する。その言葉に一緒にいる歩も同意する。


「五十嵐さんはそんなことしない」


「お前の気持ちも分からなくない。イカサマしたくなるほど嫌われてたなんてつらいもんな」


「全部言った!!認めたくないことを全部言った!!!」


「まあ落ち着け潤也、五十嵐はゲームで勝てれば付き合うと言っているんだ。好かれる努力は付き合ってからでもいいんじゃないか?、今は勝負で勝つことだけを考えろ」


「なんか君ら楽しんでない?僕だって傷つくときは傷つくんだよ?」


「潤也が傷ついてもおれたちは傷つかないからな。楽しければそれでいい」


「同意」歩も英二に同調する。


「きさまら、、、!!」


「それで潤也、話を戻すが、イカサマがあったという事実を照らしてみて五十嵐に何か不審な動きはなかったか?」


「不審な動き?、うーん、特にはなかったような…。さっきも言ったけど気になったのは、何でその日するゲームが決まってるのに、さも今思いついたかのように競技を発表して、教卓の下にトランプとかチェス盤を取りに行かせるんだろう」


「そういえばそんなこといってたな。確かにおかしい。あらかじめその日、大富豪で決着をつけるつもりなら、トランプくらい持ち歩いててもおかしくなさそうだな」


「あっ、どうした潤也、何か思いついたか。そういえば言われてみるとおかしかった所があった」


「なんだ」


「大富豪をしようってなった時なんだけど、カードの配り方が変わってたんだ」


「カードの配り方?」


「うん、普通、四人とかで大富豪をする時、一枚一枚カードを四つの組を周るように配るよね」


「ああ、だいたいそうだな。そう配った方がカードがバラけやすいし1組何枚で公平かということを考えなくていいからな」


「うん、そうだよね。でも五十嵐さんは違った。僕のカードを配り終えてから自分のカードを配ったんだ」


「ん?どういうことだ」僕の言葉が理解できなかったのか英二はこちらを向いて腕を組む。


「ええっ?んーと…」

潤也は答えに窮し、言いあぐねていると、矢継ぎ早に「というかそもそもの話なんだが。二人で大富豪ってどうやるんだ」と英二が聞いてきた。


「ああ、そういえば説明してなかったね。大富豪に関しては、特殊なルールだったよ」


「特殊なルール?」英二が聞き返す。


「トランプを6組に分けて裏返しておいて、その後に、一人三組ずつ持つように分けて、お互いそのうちの一つを手札として持って普通に大富豪するんだ。一つ目が上がったら二組目のカードの組を取ってそのまま連続して戦うんだよ。最終的に早く三回上がった方が勝ちってルールだった」


「なるほど。確かにそれなら二人でも大富豪が成立しそうだな。二人で二組に分けてもお互いのカードがまるわかりで面白みにかけちまうからな。それで何がおかしかったんだ」


「ええっと、カードを六組に分けるなら最初から六つの組に一枚一枚周るようにカードを配ればいいのに、始めは僕の三組にカードを一枚一枚おいていって三組とも九枚になったところで、自分の三組のカードに一枚一枚カードを配っていったんだ。その時はぼんやり変わった配り方だなとしか思ってなかったんだけど、今考えてみると相当おかしかった」


「そうだな、確かに不自然だ。その配り方だと、瞬時にトランプの総数がジョーカー2枚を含めて54枚あり、かつカードを均等に六つに分けるため一組が万枚かということを計算しなくてはならない。そんな面倒なことをしなくても一枚一枚周るように配れば済むことだ。おそらくそこらへんが鍵だな」


英二は顎に手を当て、考えている様子だった。


「どうして片方ずつ配るやり方にしたんだろう」


「そうだな、んー、こういう時は、逆に考えてみよう」


「逆に?」


「ああ、五十嵐はそう、配らざるを得なかったとしたら?そうしなければならない理由があった」


「なるほど」そういう考え方もあるのか、と素直に感心する。それと同時にちょっと数学に似てるなと感じたがすぐに理解されるとは思えなかったので口には出さない。


「純也、その時の手札はどんな感じだったんだ?」


「びっくりするくらい弱かったよ。3組目のカードに辿り着く前に負けるくらい」


「具体的にはどんな感じだった?」


「えっと、1と2とjoker、あと絵札はほとんどなかったかな。ボロ負けだったよ」


「ははっ、もしかしたら3組目に強いカードが何枚か入っていたのかも知れないが、それは完全にその時点でカードを操作されていたと考えるべきだな。おそらく、3組目のカードも弱いカードで敷き詰められていただろう。6組中、2組のカードの束が、そんな手札なら十分イカサマを疑っていい。つまり、始めに純也に配ったカードはほぼ全て弱いカードだったいうことだ」


手を広げ、残念だったなと言いたげに英二は言う。


「ということはカードを配る前のカードの束の上半分が全て弱いカードで固められてたと考えられる…。そして五十嵐はそのことを知っていた。もしくは、そうなるように仕向けていた」歩が続けて口を開く。


「でもどうやって?。カードは五十嵐さんが用意したものじゃなくて教卓に置いてあるやつを使ったし、シャッフルも五十嵐さんだけじゃなくて、僕も何度かしたんだ」


「そうか、そうなると…」

英二は顎に手を当て目を上に動かす。


「いや、待て、もしかして…、純也!いまシャッフルは自分もしたと言っていたが、もちろん五十嵐もしたんだよな?その時の順番はどうだったんだ?」


「順番?ええっと、まず五十嵐さんが切って僕に渡されて、その後、また五十嵐さんが切って配り始めたよ。その、最後に切った時、何か言われなかったか?、空がきれいよ見てみて?だとか、何か言われなくてもいい、五十嵐のシャープペンシルが床に落ちたとか、何か起きなかったか?」


「えぇー、うーん、そんなこと言われてたって、特に何も起きなかったよ、時間を聞かれたくらい。いま何時かしらって」


「やっぱりか!」


「それがどうかしたの?」


「いいか、おれの推理はこうだ。五十嵐蒼葉はおそらくトリックトランプを使っている」


「トリックトランプ?」


「ああ、普通のトランプは長方形の形をしているがトリックトランプは気づけない程度に台形の形をしている。あらかじめカードを強いカードと弱いカードの二つに分けておき、お互いのカードを前後逆さまに重ねて用意しておく。そうすれば、そのあとどれだけカードを切ったところで最後にカードの側面を沿うように指を這わせ、引っ張り上げるだけで台形特有の長い長辺が指に引っかかり、弱いカードだけをいともたやすく選び分けることができる。それも、数秒でだ。引っ張り上げた後、二組のトランプを上下に重ねてしまえば上半分を弱いカードの集まり、下半分が強いカードの集まりに選り分けることが出来てしまうわけだ」


「へぇ、良く知ってるねそんなこと」


「博学」潤也と歩は英二の熱弁に感嘆する。


「でもそんな素振りしてるようには見えなかったよ」


「ああ、そりゃそうさ。お前はその現場を直接見ることが出来なかったんだからな。五十嵐はその最後の詰めの作業を見られたくなかったから、純也に時間を聞くことで注意を逸らしたんだ。その一瞬の隙にカードを分けた。あとはお前のいった通り、おかしなカードの分け方をしたってところだろう」


「でも待ってよ。僕は教卓に置いてあるカードを使ったんだよ?その場で思いついたゲームなら前もってそんな準備できな、あっ!」

自分で口にした言葉に驚く。だから、五十嵐さんはその場で思いついたような演技をしていたのだ。イカサマを悟られないように。


「そう、五十嵐は意図的にゲームを選んでいる。その日の内に教卓に置いてあるカードに仕掛けをすることなんて造作もないだろう」


「なるほど、僕の手札が弱かったのはそういう理屈だったのか。でもそうなってくると益々気になるね。どうしてそんな手の込んだことを、普通に振ってくれれば諦めも付くのに」


「あのなあ、お前はモテないからわからないかもしれないがな、少なからず相手を傷つけ無ければならない言動ってのはな、それをする側だってそれなりのエネルギーを消費するんだ。

自分には相手を袖に振る相応な理由があると納得できないと人として荒んでいくし、その荒みは人を遠ざける。楽しいこととか面白いこととかってのは人との繋がりがあってこそみたいなところあるからな。それは人生において大きくマイナスなんじゃないのか?。そういう意味じゃ五十嵐の案は潔くていいな。私に勝てたら付き合ってやろうなんてわかりやすくて、男前じゃないか」


「五十嵐さんは女だよう」


「そうじゃない。粋ってやつだ。まあ、イカサマしてる当たり腹黒いが、女はそれ位がちょうどいい。よかったな、潤也、五十嵐と付き合えそうで。素直に祝福するよ。おめでとう」


英二はふざけた顔で、拍手をするふりをする。

当然、その態度には祝福など微塵も感じない。面白がっているのだ。


「やっぱり、面白がってるとしか思えないんだけど。それにまだ、勝つ方法が見つかってないよ」


「イカサマをしようとしたら指摘してやればいいんじゃないか?やれやれ、イカサマをするならもっと上手くやりなよとでもいってやればいい」


「それ、心証悪くならない…?。それに、わざわざ僕と付き合うリスクを追ってまで勝負してくれてるんだからなんとかこう、向こうのルールにのっとった形で勝って、円満にお付き合いしたいなあ」


「それが円満な男女の中になると思っている潤也も大概」歩が口をはさむ。


「そうだなあ、イカサマを黙認して勝つとなると…、限られてくるんじゃないか。えーと何があったっけ。ババ抜き、チェス、将棋、ポーカー、大富豪、ブラックジャックだったな」


英二は指折りしながらゲームを数える。


「チェス、将棋は運が介在しないゲームだからまず勝てないだろうな。あと、そうだな、五十嵐が自由に手札を決められるなら、まずポーカーとブラックジャックで勝ち目はないな。あと残るはババ抜きと大富豪か」


「大富豪も勝てないんじゃない?強いカードは全部向こうが持ってるんだし」


「いや、案外そうでもない、大富豪は色々なローカルルールがある。むしろ手札が弱い方が強くなることもあるから、ルール次第では勝ちの目が全くないとは思えない。しかし、あるにはあるが、当然向こうのほうが圧倒的に有利なわけだ。余程のプレイングスキルがなければ勝つことは難しいだろう」


「純也には無理」


英二と歩がタッグで全否定をしてくる。


そんなことはない。僕を侮るな!と僕の中の何かが燃え上がった。


「馬鹿にするな。今ここで僕の強さを証明してやる。牛丼をかけて勝負だ」


「ほう、いったな純也、超特盛を頼んで、お前の財布をすっからかんにしてやるぜ」


「おれは卵をトッピングさせてもらう」


「ふん、そういっていられるのも今のうちだ」

潤也はカバンの中から出したトランプを机に叩きつける。僕を舐め腐ったこいつらに目に物喰らわせてやるのだ。


「ルールはいつものでいいね」


「ああ、かかってこい、返り討ちにしてやる」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




30分後、潤也、英二、歩の三人はとある牛丼チェーン店に移動した。


「うまいな純也。飯代が浮いて助かる」


「感謝」


英二と歩は二人とも特盛牛丼をモリモリと食べる。


「あそこで英二が7渡しで3なんか渡してこなければ、うっ、うっ、僕の少ないお小遣いが…」


「まあ、そう落ち込むな。これで分かっただろう。お前には大富豪で勝つなんて無理だ。諦めろ」


「うう、分かったよう」


「となると、残りは、ババ抜きで勝つしか無くなるな」


「ババ抜きかぁ、僕苦手なんだよねえ。すぐに顔に出ちゃうし」


「落ち着け、純也。ババ抜きっていうのは案外奥が深い。相手がカードを透かしでもしてるなら話は別だが、カードがわからなければ、顔に出やすいという弱点も立派なブラフになる」


「そうなの?」


「ああ、昔、少し心理学に関しては勉強したことがある。教えてやるから、歩相手にやってみろ」


「ええっ、僕にできるかなぁ」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あ、英二」


自分の教室に向かうため、廊下を歩いていたら、前を歩く図体の大きいツンツン頭を見つけ声を掛けた。


「ん?、おー、潤也、調子はどうだ」


「んーまあまあかな。やっと馴染んできたってところ。吉牛家で教えてもらってから家でも図書館から借りてきた本読んだりして勉強してるよ。妹に相手とかもしてもらって」


「そうか、ならまあなんとか勝負にはなりそうだな」


「うん、頑張るよ」


歩いていると教室に到着し、引き戸を音を立てて開ける。教室には歩がいた。


「あ、歩、おはよ」


「おはよう」歩は答える。

僕に続いて後ろから入ってきた英二も歩の存在に気づき口を開く。


「歩、純也がババ抜き成長したってよ」


「当然。勝つためなら全力でやるべき」


「きっ厳しいなぁ。夏休みの宿題出してないくせに」


「それとこれとは別」


「となるとあとは、対戦内容をババ抜きまで進める必要があるな。できればこちらがイカサマを見抜いていることを悟られたくない」


英二は荷物を置いてこちらを向く。


「純也以外のやつが告白して敗北してくれるのがベストだな」


「どうして僕がいっちゃダメなの?」


「純也は顔に出るからなあ」


「バレる」


「かっ返す言葉もない」


「ババ抜きまでゲームを回すのにあと4回告白する必要があるのか。2回は前回無残に振られてた他のクラスの男たちを焚きつけるとして、頼むぞ、歩」


「任せろ」


「後、2人分の人柱をどうするかだな」


「英二、江間。頼みがある」

僕はいつになく真面目な顔で英二と歩に話しかける。


「「断る」」


「まだ何もいってないじゃないかー!!」


「お前が言い出すことなんてわかってる。俺たちに振られて来いっていうんだろ」


「頼むよ~。おまえたちしかこんなこと頼めないんだ~。仲間だろ~」


「あ~わかったよ」


「ほんと!?、えらく折れるのが早いね」


「最近出たゲーム機を買ってくれるなら考えてやろう。俺は妹の下着で手を打とう」


「ちぇっ、そういうことかよ。最近出たゲーム機って福沢さんが3人も必要なものじゃないか…。って今、聞き捨てならない発言があった気がする!!」


「使用済みだとなお嬉しい」


「聞き間違いじゃなかった。まごうことなき変態がいる。僕には友達の妹の下着を欲しがる変態と友達から金銭を巻き上げる守銭奴の友人しかいないのか」


「誰が、変態だ」「誰が、守銭奴だ」二人の声が重なる。

「それに、真っ当な報酬だろう」


「ここには、馬鹿しかいないのかよぅ〜。はぁ〜!!もう、!分かったよ!!ゲーム機も下着も持ってきてやるからお願いだ。やってくれ、頼む」


「おぉぅ。冗談で言ったつもりだったんだが、了承されたらされたで、ちょっと引くな」


「同意」


「もうなんなんだよぅ〜!!!」





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