貴方が落としたのはどの聖女ですか?
泉の上に泉の精が現れた。
その左右には、ずらりと12人の同じ顔で同じ服を着た聖女が並んでいる。
「『選択の泉』か。それにしても端のは明らかに違うだろ!」
勇者は両端の聖女を指した。2人は服がはち切れそうな筋肉聖女とグラマラス聖女だ。
「それは貴方が決めることです。さぁ選んで」
「そ、そんなのわかりきっている。オレをかばって泉に落ちた心優しい聖女は……」
勇者は残り10人の聖女を見るが、残り10人はほとんど変わらない。
強いて言えば髪型が若干違う、か? 化粧の仕方も……って、そんなの覚えているもんか!
勇者は片手を挙げ「すみません。ヒントお願いします」。
「良いですよ。聖女のお好きな花は?」
10人の聖女はそれぞれ答えた。
「白ユリは思い出の花。いや、ピンクのバラも喜んでいたな。でも、ヒマワリ畑もラベンダー畑も好きだって」
「その4人の中から選びましょうか」
「う。追加のヒントお願いします」
「なにを聞きたいですか?」
「オレのことをどう思っているかで!」
無表情で「好きです」。
ため息に続けて「キライ」。
ニヤニヤして「あったま悪そう」。
恐ろしそうに「人前ではとても口に出きません」。
「え。これ『好き』で正解?」
「ファイナルアンサー?」
「ううっ」
勇者の視線がグラマラス聖女に向いたのを、泉の精は見逃さなかった。
「他の聖女にも質問して良いのですよ?」
「じゃあ、両端の聖女に聞きます。オレのことどう思っていますか?」
鼻で笑いながら「弱そう」と、筋肉聖女。
「おいしそう」
グラマラス聖女の蕩けるような微笑みに、勇者はぐらりと傾いた。
「『選択の泉』で選んだ相手は、元の方と違っていても、元からその方だったことになりますよ」
「それって」
「明らかに違う相手を選んでも良いのです」
勇者の心は決まった。勇者がグラマラス聖女の手を取った瞬間、勇者とグラマラス聖女はかき消えた。
「選択神様、ありがとうございました。これで勇者様を選び直すことができます」
『選択の泉』とは、異世界を股に掛けるマッチングシステム。
王族勇者聖女など立場的にパートナーを変更しにくいはずなのに、あまりにも多い婚約破棄に心を痛めた神々が作ったシステムだ。
世界には自分と同じ顔をした人間が3人いるのだ。異世界や並行世界まで含めば、その数は相当数にのぼる。
希望すれば候補者が集められ、選択者が選択した世界に行った隙間に新しく入れられる。
「新しい勇者はこちらから選んでくださいね」