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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第一章 粘土人間とトレジャーハンター
9/91

一つ目巨人は好みに合わない

 危険がいっぱいのダンジョンとはいえ、ここまでピンチが重なるのはそうないのではなかろうか。

 不幸体質の美少女に免じて、なんとか見逃してもらえないかなあ。


「…………」


 サイクロプスはそのひとつ目で、私をよく見るかのようにじっと睨んでいる。

 体も大きければ目も大きい。

 そんなに姿を映してもらっても何も無いよ、服屋の鏡じゃないんだから。


 沈黙と視線に耐えかねて目を逸らすと、今度は周囲の状況が見えてそれはそれでゾッとしてしまった。

 そこはダンジョンの中でも広めに作られているホールのような場所。

 周囲にはかなり古いと思われる戦いの跡が見られ、武具や骨といったものが散乱しているのがわかる。

 これってどう考えてもこのでっかいのに挑んで返り討ちにあった冒険者だよね……?

 ひいぃ、違います、私は冒険者ではなく迷子です、力試しとかしませんから!


 恐怖が限界に達して思わずその場から逃げ出そうとした。

 しかし足がもつれてうまく逃げられない! 私は意図せぬ方向にステンと、いや、ベチャッと転んでしまう。


 でも、それはある意味幸運であった。

 私が転ぶと同時に、サイクロプスのこれまた大きな拳がさっきまで私のいた場所に振り下ろされていたのだ。

 ドォーン! という激しい衝突音が威力の大きさを表している。ここらに転がっている骨の人たちを葬ってきたであろう剛腕だ、絶対に食らいたくはない。


 ああ、今の私はこんな見た目なんだし、同じ魔物って事にして見逃してもらえないかなあ。

 ……なんて甘い考えは捨てましょう。

 魔物同士で仲がいいなんて保証はどこにもないし、考えてみれば私を追いかけてきたトカゲたちはここまで入って来ていない、つまり目の前のこいつが怖いからって事だよね。


 さっきの一撃は明らかに私を狙っていたし、残念ながら和解の道はないだろう。

 で、この巨人は私をどうしたいんだ? もしかして……食べる?

 うっ……、怖い想像しちゃった。もし食べられたらどうなるんだ。


 噛み砕かれて飲み込まれる……のは確実。体の形はいくらでも治るとはいえ、消化されても生きていられるものなのだろうか?

 いや、それ以前にそんな事になったら苦痛で精神の方がもたない。

 それにどうあっても行きつく先はウ〇コじゃないか! 乙女に何てことしてくれるんだコンチクショウ!


 逃げ、逃げるんだ、それしかない!

 サイクロプスは寝起きで機嫌が悪いのか、意味もなく叫んだりドスドスと見境なく暴れまくっている。

 おかげで揺れるし埃は立つわで足元も視界も悪い。要は逃げにくいんだよ。


 時間的な余裕はない、私はおぼつかない足取りでなんとかその場を離れようとする。

 そのうちに、怒れる巨人の腕が石柱らしき残骸に当たり、砕けた破片が矢となって私に襲いかかってきた。

 素人かつ動きの鈍い私がとっさにかわせるはずもなく、飛来した石片は私の片足を歪にえぐり取った。


「……うっ」


 だ、大丈夫、ダメージはない。これくらいならまた元に戻る。

 しかし感覚がだいぶ生々しくなってきている、少しだけ痛みも感じた。

 くそっ、かなりマズイ状況にある、こんな時に痛覚は戻らなくていいんだよもう! 


「ガアアア!」


 さらに気合の入った雄叫びひとつ。

 見ればサイクロプスはその両手で岩を抱え上げているではないか。

 岩の大きさは私の体より大きい。え、ちょ、まさかそれ投げる気!?


 ブンッと風を切る音が聞こえ、大岩がこちらに向けて飛んでくる。

 どう見ても直撃コース。ぺちゃんこにはさっきもなったけど、痛みを伴うとなるとどうなるかわかったもんじゃない。

 確実なのは酷い目にあうという事だけ。私は観念して目をつぶった。


 …………。

 ……ん? しばらく待っても岩が飛んでこない。

 恐る恐る目を開けると、そこにあったのは片刃の剣を構える緑の人影。

 この人は……そうだ、シュイラだ。シュイラが岩を一刀両断し、直撃するのを防いでくれたんだ!


「シュ、シュイラ……さん?」

「おう、やっぱオマエがリプリンか。変わった見た目してるとは聞いたが、実際見てみるとなかなか面白いな」


 はい、そうです。好きで変わった見た目なわけじゃありませんけど。

 とにかくありがたい、助けが来たのとシュイラに間違って攻撃されずに済む事のふたつ合わせてね。


「ごめーん、遅れた! でも間に合ったよね!」


 さらに響くはアリカの声。アリカもここに駆けつけてくれたらしい。

 ロープのような武器でサイクロプスを牽制し、こちらに注意が向かないように頑張ってくれている。ありがとう!


「アレも面白いだろ? 自在剣って言ってな、短剣に繋いだロープに魔力を流して手足のように操る武器なんだ」


 サイクロプスと戦うアリカを指し、さも余裕ありそうにシュイラが言う。

 なるほど、確かにロープが生き物のように変幻自在に動き、様々な角度からの攻撃で相手を見事に翻弄している。


「アリカはぼんやりしてるように見えるが空間認識能力がずば抜けててね。常人なら二本が限界だが、アイツは六本同時に扱える。十八歳にして大したもんだよ、自在剣の中でも業物の〈ファンタスマゴリア〉を振るうだけの事はあるのさ」


 ほへえ、ホントに凄いんだね。

 というかあいつ十八歳だったのか、もうちょっと幼いかと思ってた。私が十四歳だから四つも上って事になるのか……、とてもそうは思えない。

 ま、実年齢なら今は私の方がはるか上なんだから、ここは同じくらいって事にしておこう。


 それはそうとシュイラさん、見ててひとつ気になる事があります。


「あの、それは凄いんですけど、見てるとロープ一本しかないような気がするんですけど……」

「あん?」


 私に言われ、シュイラは目を細めてアリカの様子を伺っている。


「……確かに、一本だな」

「一本ですね」


 私も一緒になって確認するが、やはり自在剣のロープは一本しか見えない。

 そのせいかだんだんとアリカが押されはじめ、その様子を見たシュイラが声を張り上げた。


「おいアリカ! 他の自在剣どうした!」

「だってキノコ狩りだって言うからー! これしか持って来てないのー!」


 アリカの返事を聞いたシュイラは頭を抱える。

 何となくだけど、そのお気持ちわかります。


「はあ……、油断するなと言ってるのにあの半人前め。仕方がない、オレも加勢するから巻き込まれないよう離れていろ!」


 そう言うとシュイラは自身の体格ほどもある刀を力強く握り直し、アリカの援護をするべくサイクロプスへと切り込んでいった。

 あれがサムライってやつか……、かっこいいなゴブリン。

 なんだかいける気がしてきた。


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