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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第七章 粘土人間と終わりの挨拶
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総力戦

 私たちは再び勇者と悪魔の戦いに目をやった。

 少しの間目を離していただけなのに、戦いはますます熾烈を極めている。こりゃ手伝いたくても素人の私には割って入る余裕なんか無いかもしれないぞ。


「ククク……勇者か。想定外のお客様だが、吾輩のショウに付いて来られるかな?」


 ゲッペルハイドはフィオナ王女の攻撃をひらりとかわし距離を取る、そして両手を広げ高らかに叫ぶのだった。


「さあ、これぞエンターテイメント! 狂おしきショータイム!」


 その声に合わせ、空間を裂きどこからともなくサーカスの出し物が姿を現した。

 王城の広間はサーカステントのごとく飾り付けられ、玉に乗るピエロ、猛獣と炎の輪、空中ブランコ、素晴らしい演目の数々が見る者の目を引き付ける。

 問題は、こんな所で見るべきものではないという事と、どの演目もどこか危険を孕んでいそうな不気味な雰囲気である事かな。


「さあさあご覧あれ、最初の演目は道化達の凶刃! 神聖なる乙女の切断ショウ!」


 うわあ、出てくる出てくる。

 いつか見たような気持ち悪いデザインのピエロたちが、床に広がる黒い影からボコボコと湧いて出てくる。それを含めて気持ち悪い。

 手にはギュインと回転する刃を持ったカラクリの剣、あれでフィオナ王女をバラバラにしようっていうのだろう。


 フィオナ王女の強さなら問題ない……けど数が多いぞ! 凄いペースで打ち倒してはいるけど、それ以上にピエロが湧いて出てくる。この状態でゲッペルハイドまで相手にできるのだろうか!?


「リプリン、大変だよ! 助けに行かないと!」

「わかってる。でも私たちはまだここにいるべきなんだ」

「でも……!」

「信じてアリカ、勇者と神の力を」


 なんて、焦るアリカをなだめてはいるものの、私自身も気が気じゃなかった。

 ここで待機しているのは謎の声に導かれているせいだけど、ゲッペルハイドのように相手に信じ込ませる能力を持った罠である可能性だって無きにしも非ず……?

 でも、さっきの声はやっぱり違うと信じたい。ああ、でも目の前の危機はどうしたって気になるぅ!


 シャキーン!


 と、思い悩んでいたその瞬間、複数のピエロがほぼ同時に一刀両断され消滅した。

 フィオナ王女がやったわけじゃない、だって斬られたのは彼女の背中側にいた奴らだから。いくら勇者でもそんな器用なマネはできないと思うし。


「切断ショーだって? だったらオレも得意だぜ」


 サーカスと化した広間に、ピエロを斬ったであろう人物が宙を舞い颯爽と着地した。

 あの口調と小柄な人影は――


「あっ、シュイラだ!」


 アリカの言う通り、サムライゴブリンのシュイラだ。ふう、無事だったんだね。


「悪いな、わけわかんねー構造してるから迷って遅れちまった」


 かっこいいなあ。これだけかっこいい登場すると、シュイラ大好きなフィオナ王女が飛びついて来ちゃうんじゃないの?


「お姉様、来てくださったのですね」


 しかしフィオナの反応は思ったよりあっさりしていた。今は勇者としてのお仕事モードというわけなのだろうか。

 なんにしても、勇者にひとり仲間が加わるだけで状況は一転。凶悪ピエロが群れをなした程度では苦にもならない様子だった。


「オレの刀は地獄行きの片道切符だ。有難く受け取れ! 無明荒野(ムミョウコウヤ)!」


 シュイラが目にも止まらぬ速さで刀を振るうたび、三人、四人とピエロが裂けて消えていく。どれだけ湧いて出てこようがシュイラの斬るペースのほうが速いぞ!


「飛び入りも歓迎である。ならばご覧にいれよう、次なる演目は天を舞う妙技! 牙と翼のシンフォニー!」


 ゲッペルハイドがまた号令をかけると、何体かのピエロが風船のごとく弾けて割れた。

 ただ割れたわけではなく、ピエロは子犬ほどの小さいピエロに分裂したようだ。それも背中に天使の羽を持ったかわいいピエロに。


 ……いや、前言撤回。かわいくない。

 よく見たら顔だけピエロメイクの獣だった、ちょっと潰れててブサイクなやつ。牙と翼のシンフォニーってそう言う事?

 ついでに顔が獣に変わると同時に、羽もいつの間にかコウモリっぽくなってる。もはやかわいさなんか欠片も残ってないじゃんよ!


 おっといけない、今はかわいさなんてどうでもいいんだった。

 羽ピエロは小さいだけにかなり素早い。鋭い牙と爪を持ったやつらが高速で群がってくるなんて、夏場の害虫の比じゃないうっとうしさだよ。


 シュイラもフィオナ王女も片っ端から切り捨ててはいるけど、やはり数で押されている。せっかく押し返したと思ったのに! 見ていてムズムズする!


 ブーン


 ――ん、あれは虫かな?

 どこからともなく大きなコオロギが飛んできて、シュイラたちの目の前に下りてきた。


 キィィィィィン!


 ギャー! なんという高音! ていうか超音波!?

 突然出てきたでっかいコオロギが爆発したかと思えば、とんでもない大音響で頭を揺さぶる高音をぶっ放すんだもの。離れた場所にいる私ですらクラクラしてるんだ、シュイラたちもフラフラしちゃってるよ。

 まあ、羽ピエロもほとんど落ちて動かなくなったみたいではあるけど。


「うふふ、ボクの騒音蟋蟀(クリケット)はいかがでしたかぁ? 敵味方の区別がつかないからあまり使いたくはないんですけど、王女様なら問題ありませんよねぇ?」


 また誰か入ってきた、今度はクラリッサだ。

 虫の羽でブーンと飛んじゃってまあ、怪人化しても使いこなしてるじゃないか。


「ええ、クラリッサ。私は問題ありませんわ、お好きなだけ魔導矢を放ってよろしいですわよ! ところで……」

「なんでしょうかぁ?」

「その、クラリッサ……なのですよね?」


 あ、王女様も半信半疑だった。そりゃ怪人化してるからね、仕方がないよ。


「……やれやれ。どうやらボクがこんな姿になったのも、元を辿ればそこのキンキラお目目のせいみたいですねぇ。ちょっとバラバラにして蟻の餌にでもなってみますかぁ!?」


 ボッ!


 挨拶がわりにと放たれたクラリッサの魔導矢がゲッペルハイドをかすめる。

 言ってる事もやってる事もちっとも騎士っぽくないけど、今はそれがむしろ頼もしい。


「千客万来、サーカスも最高潮! さあさあ刮目せよ、此度の演目は天を裂き地を砕く巨獣! まさに悪魔の如し!」


 杖を振るうゲッペルハイドの言う通り、地響きと共に床が大きく割れた。そこから現れたのは長い鼻を持つ巨大な獣。

 えーと、あれって確か象とか言うんだっけ? 実際に見るのは初めてだけど……ちょっとでかくないか? ホールはサーカステント化しているから広さは十分にあるけれど、いかにも人喰いますって顔した納屋くらいの大きさの象が自由に暴れられるのはちょっと困った事なんですが。


「ぬぅん!」


 ドガッ!


 鋼のような皮膚を持つ巨大な獣にさすがの勇者一行も苦戦を強いられる……と思いきや、その勇者一行にはまだメンバーが隠されていた。

 私が何度かぶち当たった「でかいものにはでかいもの」という考え方、それを体現してくれる頼れる騎士のお出ましだ!


 そう、リザードマンのオウテツさん!

 どうやらクラリッサと同時くらいに辿り着いていたらしく、巨象が現れた途端にすぐさまがっぷり対応してくれた。

 中途半端に巨大化した体は戻っていないようだけど、まさかこんな形で役に立つとは人生わからないものですね。


 ゲッペルハイドの放つ『演目』の数々を、勇者一行はそれぞれの特技を生かし次々に打ち破っていった。

 傍から見てるとすごい阿鼻叫喚。サーカスどころかもう何が何だかわからないくらいの混雑っぷりだった。

 その混乱の中でもさすがは勇者、数々の『演目』に混じり合間を縫った団長自身の攻撃を的確に受け止め、さらには鋭い反撃で確実にダメージを与えている。


「今こそ勝利の時! 一気に決めます!」


 フィオナ王女が光り輝く槍を掲げ、我を見よとばかりに高らかに叫んだ。

 光はシュイラたちを包み更なる力を与える。戦闘による消耗もなんのその、勇者とその仲間たちは力を振り絞り、悪魔の『演目』を跡形もなく討ち滅ぼす。


聖なる金剛の槍(セイクリッドランサー)!」


 カッ!


 勇者の光は更に輝きを増し、掲げる槍と共に悪魔へと突き進む。勇者はその身の全てを一筋の光の槍へと変え、全霊をもって悪しきものを貫いた。


「うおおおお……」


 地の底から響くような声が聞こえる。これはゲッペルハイドの断末魔なのか? 眩い光で何も見えない。

 徐々に光が収まっていき、そこに見えたのは凛々しき勇者の立ち姿と、聖なる槍に貫かれ地に伏す悪魔の姿であった。


「悪しきものよ、この地より去り魂の世界へと還るがよい、ですわ」


 言葉と共に、フィオナ王女が槍を収める。

 倒れたゲッペルハイドからはもう何の力も感じない。これって……勝った、の?


「ふぅう、何とかなったなあ」


 シュイラが大きなため息をつくと、すかさずフィオナ王女が飛びついた。


「ぐわっ、や、やめろって!」

「ああ~、お姉様! 助けに来てくださってとても嬉しいですわ!」


 どうやら勇者タイムはここで終了、いつもの王女様に戻ったようだね。戦闘で疲れているだろうに、シュイラを抱きしめる凄まじい力は相変わらずのようだ。


「これで終わりですかぁ? あっさりしたものですねぇ」

「うむ……。それにしても、悪魔を倒しても俺達の姿が戻るわけではないのだな」


 クラリッサとオウテツもお疲れさまでした。

 確かにちょっとあっけなかったね。そんな時に考えられるのは、まだゲッペルハイドが生きていて、やられたフリをしながら何か手を打とうとしている事だ。


「……どう、アリカ。何か感じる?」


 私の質問に、アリカは無言で首を横に振った。

 アリカの超感覚でも何も引っ掛からないのなら、私の心配は取り越し苦労だったのかな? まあそれが一番だけど。


 キィン!


 ……!?

 一瞬、何かが……とんでもない速度なのか見えもしなかったけど、確実に何かが現れた……気がする。

 ただ、確実に言える事は、その『何か』は一直線にパルバニの体の中へと消えていったという事だろう。

 だって――


「フフフ、幕引きにはまだ早い。真・ナイトメアサーカス第二幕、とくとお楽しみいただけますよう」


 こんな事言ってるんだもの。


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