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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第七章 粘土人間と終わりの挨拶
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クロウサギ

 こいつ……自分が何をやっているのかわかっているのだろうか。

 私の前にパルバニ、ディアマンテ、ラヴィ、三つもの名前を持つバニーガールが悪魔の形相で立ちはだかる。


 特に友人というわけでもない、でも少しは一緒に冒険した仲ではある。迷惑の方が多かったような気がするけど今はいい。

 できたら戦いたくはなかった、説得に応じて欲しかった。というかアリカの情報もあってあれだけ出自をはっきりさせたのに「それがどうした」だなんて、それ言われたらもうどうしようもないじゃないか。


「どうしようリプリン。パルバニったら正気じゃないっぽいよ?」


 アリカが心配そうに言う。

 うん、それは見ればわかる。……ん? 正気、正気か。


 もしかして、さっきのクラリッサのような状態と言えるのではないだろうか。

 それなら私が攻撃を加える事によって、ご自慢の悪魔パワーを削ぐことができるかもしれない。

 確証なんかないけど他に方法もない、ついでに世界が滅びるまでの時間もそうないと思う。だったら、やるしかないか!


「パルバ――」


 シャキン


 パルバニが斧を振るい、周囲の空間が揺れた。

 決意も新たに話しかけようとしただけじゃん……いきなりご挨拶だな。


「空間を断つ斧〈サプライザー〉、どこに居ようが、どれだけ硬かろうが関係ありません。どこであれ何であれ、存在する空間ごと断ち切ってしまうのですから」


 またパルバニが軽く斧を振るうと、シャキンとどこかで切れる音が聞こえた。

 私を近付けまいと威嚇のつもり?


「パルバニ」


 シャキン


 私が口を開くたび、一歩近づくたびにパルバニは斧を振るう。しかし、その様子に私は思うところがあった。


「ねえパルバニ、さっきからそうやって斧を振るってるけど、本当は戦いたくないんじゃないの?」

「……?」


 少しだけパルバニの動きが止まった。

 顔は真っ黒い覆面みたいになっているけど、これはきっと動揺しているに違いない。そんな表情してると思う、たぶん。

 なので、ここは畳みかける時であると私は判断する!


「その斧だって威嚇ばかりじゃない。私なんか簡単にバラバラにできる力があるのにやらないなんて、それって戦いたくないっていう証拠でしょ?」


 よし、言ってやったぞ。この推測は正しいはず。

 パルバニも気まずそうな感じになっている、これで行けるか……!?


「いや……当てています」

「へっ?」


 行けるかと思ったとたん、その返事に私は驚愕した。

 え、何? 当ててるって? どゆこと?


「ですから、しっかりと当てています。威嚇ではありません」

「……んん?」


 いまいちパルバニの言っている事が理解できず、私は無意識にアリカの方を見た。

 どうも私は混乱しているような救いを求めるような表情をしていたらしい。それを見たアリカがすかさず私に解説をしてくれた。ありがとう。


「えっとね、わたしのところから見ても思いっきり斬られてたよ。リプリン」

「マジ?」


 い、言われてみれば斬られたような気がしないでもない……ような気もする。

 しかしぺたぺたと体を触ってみても異常はない。


「でもでも、私はこの通りなんともないんですけど?」

「そりゃそうでしょ。だって水に棒をくぐらせるみたいに斬った瞬間からくっついてたからね」

「???」

「まだよくわかってない感じ? じゃあちょっとやってみよう!」


 え、何、やってみようってなんだ――


 スパッ!

 ギャー!


 いったい何を考えているのか、アリカは唐突に自在剣で私の腕をバッサリといった。それはもうハムでも切るかのように思いっきり。

 おかげで私の腕は切れてポトリと床に……落ちない。


 それどころか斬られたような痕跡もない。こ、これは……再生力が上がっている!?


「なるほど、こういう事ね」

「そういう事だよ」

「痛かったけどね?」


 私が痛かった事を申告すると、アリカは舌を出して自分の頭をコツンと叩いた。てへぺろっ……とでも言いたいのだろうか。かなり暴虐な事やりましたよ?


 まあいい、許す。実を言うと痛くはなかったのだ。斬られた瞬間を見ていたから精神的にショックを受けただけ、ごっこ遊びで痛くないのに「いてっ」って言っちゃうアレみたいなもの。だからパルバニの攻撃もスルーしちゃってたんだね。

 あと、そのてへぺろは今度やったら抱きしめるからな、覚悟しろ!


 それにしても気まずい。

 私はてっきり威嚇だけされてるものだとばかり思っていたから、まだ望みがあるような事言っちゃって。でも実際はしっかりと攻撃されていたわけだ。

 そんな事にも気付かず歩み寄ってくる奴って怖くない? 立場が逆ならめっちゃ怖いぞ。


「……」

「……」


 そんなわけで、私たちとパルバニの間には微妙な空気が漂っている。嫌な膠着状態だな。


「せ……先手必勝!」


 この微妙な空気に耐え切れず私は飛び出した。

 いいや、やっちゃえ。どうせブッ飛ばして正気に返す必要があるんだ、言い訳なんてこの際どうでもいい!


 ドスッ!


 鋼鉄のハンマーの如き私のパンチ、何がって硬さが。そのハンマーパンチがパルバニのボディに見事命中した。

 しかし手応えがおかしい、人を殴ったような感覚じゃない。ちょっと弾力のある岩山を殴ったとかそんな感じの手ごたえがする。

 実際、パルバニはまるで殴られてなんかいませんよ的な様子で微動だにしていなかった。


「……私のスーツは呪いのスーツ、脱げないかわりにあらゆる攻撃に耐える。お忘れですか? 私を抱き留めてくださった時の事を」


 えっと、それって確か……スクラスト島でヒナァタに化けたファルサの攻撃で吹っ飛ばされた時、だったかな。

 あの時、攻撃をモロに受けたにしては平気そうだったから驚いたけどそういう事だったのか。


 などと感心している場合ではない。攻撃が通じないんじゃどうしようもないぞ、困った。


「えいっ」


 ボフッ!


「きゃっ!」


 私が攻めあぐねているその間、何かが起こってパルバニが軽くのけぞった。

 他に誰もいないし、さっきの「えいっ」はアリカに間違いない。その後のボフッ! は低出力で撃った魔導銃かな?


「ほらリプリン、ぼんやりしてないで」

「いや……今のどうやったの?」


 あらゆる攻撃を防ぐという呪いのバニースーツ。しかしアリカは軽くとはいえいとも簡単にその防御を破って見せた。

 もしかしてその魔導銃が攻略のカギ……か!?


「どうやったもなにも、スーツのない所を狙っただけだよ」


 ……。

 確かに、今当たってたのは顔だったね。

 ケガさせちゃ悪いから低出力で撃ったのかな? 優しいね。


 シャキン!


 ギャー!

 アリカと話している隙を突き、パルバニの空間ごと切り裂く攻撃が炸裂! そりゃそうだ、私ったら油断しすぎだもん。


 ギャーとは言ったが精神的なもので痛くはない、しかしアリカはそうはいかない。

 どこにいようと空間ごと切り裂くなんてチート攻撃、私に効かないからってアリカを狙われたらひとたまりもないぞ!

 だが空間ごと切り裂くなんて、咄嗟に私が盾になっても意味はない。あれ、これかなりヤバいのでは?


 シャキン!


 ヒラリ


 案の定、今度は私ではなく確実にアリカを狙った斬撃が放たれた。……のはいいけど、いやよくないけど、それより今のヒラリは何だ?


 シャキン!


 ヒラリ


 ……どうやら、アリカはこのチート攻撃を華麗に避けているようだ。


「ア、アリカ!?」


 驚きと心配で呼びかける私に、なんとアリカはにこやかに手を振った。

 いや、状況わかってるの? 戦闘中! しかもかなり危険!


 そんな私の表情に気が付いたのか、アリカもこちらに呼びかけてきた。


「こっちは大丈夫! 殺気とか目線とか、斧の動きや空気の揺らぎとか、ちゃんと観察してればいつどこに来るのかわかるから。だからそっちはそっちで集中してもいいよ!」


 いいよって……かなり高度な事をさらりと実行しているのは気のせいか?

 あいつそんな事もできるのか、凄いな。でも当たったらヤバいのは同じ事、感心と心配が半々なんだよ、気を付けてね。


 まあともかく、私にもアリカにも必殺の斬撃が効かないのなら負ける要素なくない?

 後はスーツで守られてない所を狙って攻撃を叩き込み、パルバニの力も吸い取ってしまえばいい。それで正気に戻って大人しくなる……ハズ!


「だあああ!」


 そうと決まれば先手必勝その二だ。私はパルバニに向かいがむしゃらに突進する。

 今度は勢いなんかじゃなく、ちゃんと目的を持って!


 空間を切るサプライザーは移動にも使えると思うけど、今は攻撃にエネルギーを回しているのか動きそのものは早くない。抱きしめられるほど間合いを詰めるのはそう難しい事ではなかった。

 よし、捕らえ――


「!?」


 あ、あれ? 変だな……力が、うまく入らない……?

 おまけに目も少し霞んできたぞ、これはいったいどうなっているんだ……!?


 せっかくこんな間近まで距離を詰めたというのに、私はずるずるとパルバニの体を伝うようにずり落ち、膝の高さに這いつくばる体勢になってしまった。



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