表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
81/91

お目覚めの時

 ……うぅ……こ、ここは? 何がどうなった?

 いてて、全身が痛い。それに土煙がひどくて何も見えない。地面があるから少なくとも宙に浮いているわけではないけれど、わかるのはそれくらいだ。


 幸い、瓦礫に埋もれて動けないなんて事はないから移動してみよう。


 ぐに


 ぎゃっ、何か踏んだ!

 ……おや、これは……クラリッサじゃないか!


 あ、そうだ思い出した。

 空中でクラリッサを捕まえたまではよかったけど、それからふたりまとめて人間ミサイル状態でぶっ飛んだんでした。しかも巨大化したオウテツに向かって。

 なんとかクッションになろうとしたまでは覚えてるんだけど……そこから記憶が途切れている。


「クラリッサ、しっかり」


 とりあえず、倒れているクラリッサの頬をペシペシと叩き呼びかけてみた。


「……ぅ」


 お、小さいけど反応があった。よかった、とりあえず生きてはいるようだ。


 そのうちに土煙も晴れてきて周囲の様子が少しだけ確認できた。

 その『少しだけ』というのがなかなかの衝撃なんですけど。今まで壁か瓦礫だと思ってたものは、これまた倒れたオウテツであった。

 相変わらず大きいけどちょっと縮んでるような気がする、体長三メートルくらいか? こっちも気絶しているだけみたい。


 うん、どっちも死んでない。これでひと安心だ。


 ――とはいかなかった。

 ふたりの様子を確認した後、振り返った私の目に飛び込んできたのは、ヘッドスライディングの要領でぶっ倒れて豪快に街を破壊しているエビマルの姿だった。


 な、なんじゃこりゃあ……!?

 どうしてこんな事に? アリカたちは無事なんだろうか!?


 軽く混乱していると、ふと自分の尻尾が目に入った。

 あ、そうだ! 有線一号! 

 感覚を切り替えてみれば、いやその前に尻尾を伝っていけば誰か見つけられるかも。さっそく私は尻尾を跳ね上げ手に取った。これを伝って――


 ぷらん


 ……切れてる。おおい、ダメじゃん!

 そうか、衝突の衝撃で切れたのか。細いけど頑丈なつもりだったんだけどな。


 と、その時。


「有線一号ぉー!」


 どこからか悲痛な叫び声が聞こえた。

 この声はアリカの声かな? 私は声の方向を頼りに、倒れたエビマルの陰へと移動してみた。すると……あ、いた。アリカとシュイラ発見。

 特にケガはないみたいだけど……アリカったら何やってるんだ?


「アリカ」

「……わあっ! 有線一号のオバケ!?」

「違う! 本物、本物」

「なんだ、ああ驚いた。それよりリプリン、有線一号が……!」


 なんだとはなんだよ、心配して来てやったのに。

 とりあえず話を聞いてみると、私がオウテツに突っ込んでいった際に尻尾で繋がっていた有線一号も引っ張られてしまったらしい。

 エビマルのこの惨状はそのせいか。止まりはしたものの大惨事、よく無事だったね。


「それで、有線一号がふくらんでクッションになってくれたんだけど……そのせいか溶けちゃった……」

「ふくらんだ? それって……」


 うーん、クラリッサのクッションになった時に変に力が入ったせいか、どうやら有線一号も膨らんでいたみたいね。結果オーライという事で。

 で、エビマルの巨体を引っ張るほどの力がかかったんだ、尻尾が切れて当然だよ。


「切り離されると動かせなくなるからね。溶けたのはそのせいかな」

「グスン、ありがとう有線一号……」


 手なんか合わせてお祈りしてるし。

 だから、それ私なんだってば。泣くほどの事かよ。


「……ところでアリカ、私に何か言う事はない?」

「えっ!?」


 わざとらしく驚いてみせてるけどアリカの目は泳いでいる、ごまかせないぞ。


「さっきクラリッサを捕まえようとしてる時にね、脇腹とか耳とか誰かにイタズラされたんだよね」

「そ、それはけしからん事ですね~」

「……」

「……ごめんなさい」


 はあ、やっぱり。留守中の悪さがバレた子犬よりわかりやすいんだから。


「イタズラするなって言ったよね?」

「だって、じっと見ててもぜんぜん動かないから。見てたらなんだか触りたくなってきちゃって」

「耳、噛んだでしょ」

「あはは……それも見てたらつい、その……かぷっと」


 わざわざのようなものまでめくってコイツは……!

 下手したら大惨事だったんだぞ。


「でもあとちょっとのところで急に動き出すもんだからびっくりしたよ」

「さっきの膨らんでクッションになったってやつね。私も制御しきれてなかったみたいだけど、結果的にはそれで……」


 ……ん? 『あとちょっと』とは?


「アリカ、耳を噛んだ後に何しようとしてた?」

「え? な、なーんにも? 唇が同じかどうかなんて思ってないよ」


 ポカリ


「いたーい! リプリンがぶったー!」

「やれやれ、失敗だったなあ。もう通信機がわりに分身なんか出さないからね」

「えー、面白いのに」


 それだよそれ、アリカが面白がってるから出せないんだよ。


「下手したら大惨事とか思ったけど、これもう十分に大惨事だぞ。引き起こした原因だって――」


 ボッ!

 ドスッ!

 ギャー!


 なな、何だ何だ!?

 アリカを叱っていたら何かが私の体に刺さった! 痛ででで!

 刺さった何かを掴んで地面に投げ捨てる。ムカデのような気色の悪い矢がギチギチと不快な音を立てながら消えていくのが見えた。

 今のは魔導矢!? と、いうことは……!


「リプリン……」

「うん」


 わかってる。目の前に立っているのだから嫌でも。

 今、私たちの正面に、目を覚ましたクラリッサが立っている。イタズラするなとかどうとか言っている間に意識を取り戻したのだろう。


 問題は、いまだ敵意を持っているのかどうかだ。といっても私は激突したくらいで特に何もした覚えはないのだけれど。

 異界の力への対処、私がダメージを与えたらOKとかそれぐらいでやってくれないかなあ。


「おやおや、この偉大なる王都に魔物が入り込んでいますねぇ。ボクの前に現れたのが運の尽きですよぉ?」


 ううむ、これはどうなのだろう。審議。


「アリカ、どう思う?」

「どうだろうね。撃ってきたけど、それもある意味いつも通りな気がするし」


 私の事を魔物呼ばわりする事もね。知り合いとして認識できているのか微妙なところだ。

 惜しいなあ、もう一歩というところか。それならば。


「えい、マッハデコピン!」


 バシッ!


 なんのことはない。ちょっと手をのばして、この場合は常人ならざるくらいの長さにのばして、手だけ間合いを詰めつつ不意をつく形でデコピンしただけだよ。


「あたっ!?」


 頭部にムチがしなるような痛烈な……は言い過ぎとして、けっこうな衝撃を頭に直接受けたクラリッサは大きくのけぞり後ろに倒れた。

 え、倒れた!? やっぱり痛烈な一撃だったのか? そんなに力を入れてはなかったんだけど。


「!?」


 しかし、正確には違った。

 後ろに倒れたクラリッサを優しく抱き留めていた人物がいた。もちろん、それはホウリであった。


「クレア……」

「……」


 ホウリは慈しむような目でクラリッサを見つめている。

 クラリッサは何も言わない、ただ無言のままホウリの顔を見ているようだった。


 ボッ!

 ドスッ!

 ギャー!


 まるで時が止まったかのような穏やかな時間が――とでも思っていたのに、その瞬間にムカデ矢二発目、ノールックでさりげなく放たれた魔導矢がまたしても私に直撃。

 あだだだ! 痛い! 気持ち悪い! もうこれやめろって!


「フン……」

「あっ、クレア……」


 なごり惜しそうなホウリを押しのけ、クラリッサが立ち上がる。


「相変わらずの魔物ぶりですねぇ、撃たれたいんですかぁ?」

「いや、もう撃ったじゃん?」

「そうですかぁ? 記憶にありませんねぇ」


 このセリフ、冗談半分、本音半分といったところかな。私に悪態をつくのもいつも通りとも言えるし、ホウリの方を見たくないという思いもあるのかも。

 何にせよ、いつもの調子には戻ったみたいだね。正気に返った理由が私のデコピンなのかホウリなのかはわからないけど、とりあえず今はおめでとうと言おう。


 しかし……正気には返ったようだけど見た目は戻ってない。

 あれだけ魔物嫌いのクラリッサが魔物みたいな姿になってしまって、本人はどう思っているのかちょっと怖いぞ。

 さっきからでかいボウガン状になった虫みたいな右腕を見つめているし。やっぱり気にしてるだろうなあ。


「……クラリッサ、その……」

「なんですかぁ? 強力かつ撃ちやすくなったボクの右腕に撃たれたいんですかぁ?」

「だから、もう撃ったじゃん」


 言葉は相も変わらずの憎まれ口。でもその目にはちょっとだけ元気が無いような気がした。目だって右側は大きな複眼になっているんだ、どういう見え方してるんだろう。


「フフフ、ブリアローズ一の弓使いもこうなってはオシマイですかねぇ。偉大なる騎士団が魔物を飼っていては示しがつきませんよぉ?」

「いや、そうでもないぞ」


 ん、誰?

 自身を嘲笑するクラリッサに向かって誰かが言葉を放った。男の人の声だ。

 誰かと思って周囲をキョロキョロ見ていると、ガラリと瓦礫が動く音がして何かがゆっくりと起き上がった。

 あ、忘れてた。これ壁じゃなくて倒れてるオウテツだった。そう、声の主はオウテツだったんだ。オウテツもまた正気に返ってるみたいで良かった。


「この俺の存在を忘れたか? リザードマンである俺がブリアローズにいる事実をどう説明する?」

「それは先代国王の話ですよぉ? ちょっと変わったかたでしたからねぇ」

「今も変わらんさ。その証拠に俺はいまだ除隊されていないからな」

「それはどうでしょうねぇ。オウテツさんはずいぶん大きく変わってしまいましたよぉ?」

「む? そうだな、これでは食事一人分では腹が減りそうだ」


 虫人間と怪獣が話してる……なんともファンシーな絵面。

 意外と仲が良いのか、オウテツの懐が広いだけなのか。実際のところ、オウテツは怪獣みたいだった時よりも縮んではいるがそれでもまだ大きい。物理的に大きくてどうする。

 きっと、私を挟むようにしてクラリッサと激突したせいで、多少なりとも異界の力が私に吸われ薄れたんだと思う。


 あ、いや、そんな場合じゃなくて。


「クラリッサ、オウテツさん、どこまで覚えてます? というか、状況どのぐらい飲み込めてます?」


 ふたりが正気に戻ってくれたのは嬉しいけど、ちょっと今は世界の危機なんですよ。

 私はクラリッサとオウテツ、それとホウリにも話していなかった事を思い出し、現在どういう状況に陥っているのかをかいつまんで説明した。

 謎のお祭り騒ぎだけでは済まないんですよコレが。


「ふぅん。それじゃあボクたちをこんなにしたのも、その悪魔のせいなんですかぁ?」

「えーと、ちょっと違くて。人や街が変異したのはまた別というか……」


 思えばややこしい状況だ。

 でも言ってみればプリズマが爆散したのも悪魔のせいと言えなくもない。アリアの計画が利用された形になるのだろうか。


「おい、ヤバいぞ!」


 私が苦労して説明しているところに、シュイラの焦ったような叫び声が聞こえてきた。

 声の方向を見ると、倒れたエビマルの上で遠くを指しながら何か言っている。その横にはスフレもいるようだ。


「どうしたんですか、そんなに慌てて」

「悠長にしてられないぞ、パレードが来る! 急いで移動した方がいい!」


 パレード? パレードっていうと、お祭り騒ぎの中心になってたあれか。

 それがこちらの区画に向かっているという事だろう。確かに見てると頭おかしくなりそうだけど、ヤバいってほどの危険度もなかったような。


 ……なんて、自身の考えの甘さを思い知らされる事態だった。

 自分でも見てみようと高い場所に登って見えたもの、それは確かにあのパレードであった。

 ただし、王都に入ってすぐに見た時とは違う点がある。

 パレードが進むにつれ、その通った場所にいたもの、あったものが、黒くドロドロしたものへと変わっていく。

 祭りに騒ぐ街の人たちは黒い影の中にへたり込み、起き上がった際には赤黒い影へと変貌している。これ、どこかで見たような感じだぞ。


 ――そうだ、まさにクラリッサたちと最初に会ったあの仕事。あの時に見た〈影村人〉にそっくりだ。ツノのようなウサギ耳のような突起が頭にある以外はだいたい同じなんだ。

 だとすると……うかつに触れるのはマズイ!


「み……みんな走って! 王城まであと少しだから、急ごう!」


 あの場に居たメンバーはもちろん、そうでないスフレたちも危険を察したのか、私の声でみないっせいに王城目指して走り出す。


 何か予想外の事があってはいけないから、一番後ろは不死身の私だ。さて、そろそろ私も移動しないと……。


「リプリン、大変! アリアがいないの!」


 そんな時になって、エビマルの中を探し回っていたであろうアリカが叫んだ。


「えぇ!?」


 こ、こんなギリギリであいつは……!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ