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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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スマートにいかないハウス

「しっかりつかまっててね!」


 大至急、離れた区画に行かなくてはならなくなった。

 こういう時は自分で行くよりもアリカに頼った方が速い、というわけで私はアリカに後ろから手を回してしっかりと掴まった。


 むむ、髪がサラサラでいい匂いがする。

 今更かつこんな時に考えている場合ではないかもしれないけど、そういえば私たちって付き合ってるんだよなあ。

 でも恋人として付き合うってなんだろう? 普段と何か違うの? ……いけない、よくわからないのに妙に照れ臭くなってきた。


「どうかした?」

「い、いやなんでも!」


 うう、ホントに何なんだ私は。いつまでたってもグラグラと揺らいでばかり。

 世界の危機なんだ、集中しろ!


「じゃ、行くよ! ファンタスマゴリア!」


 私が掴まったのを確認すると、アリカは離れた場所にある建物めがけ自在剣を投げつけた。


「……からのワイヤーウォーク!」


 遠くに自在剣を刺し、そこに体を引き寄せてはまた違う場所に自在剣を投げる。魔力を帯びた複数のワイヤーが、まるで長い脚のように屋根の上をヒョイヒョイと進んでいく。

 さすが、自在剣という名のごとく色々な使い方ができるものだねと素直に感心した。これなら下のお祭り騒ぎに邪魔されることなく移動できるね。


 それにしても、どうしてエビマルが王都内に入って暴れているんだ? まさか流れ星に当たってアバラント化したなんて事はないよね……?

 などと不安な気持ちを抱えつつ、かなりエビマルに近付いて来た。と、ここで私はふたつのものを目撃する事となる。


 ひとつはシュイラ。

 手分けをした際にスフレと一緒に行ったはずのシュイラが、なぜだかエビマルの屋根の上にいた。一見して振り落とされそうになっているのか必死な感じが伝わってくる。

 もしかして、シュイラがエビマルを持ち出したの!?


 それからもうひとつ、こっちのほうが衝撃がでっかい。

 近付くにつれ、大きな建物の陰に隠れて見えなかったものが見えてきた。エビマルと対峙するように立つそれは何と言ったらいいのか……そう、巨大なトカゲだった。

 それだけでもかなりの衝撃だけど、その姿に見覚えがあったものだから受ける衝撃は半端じゃなかったもんよ。


「アレさあ……もしかしてオウテツさんかな……?」

「……うん、たぶん」


 エビマルより少しだけ小さい巨大トカゲ。その顔は紛れもなく、かつてギルドの仕事(偽物だったけど)で出会ったリザードマンの騎士、オウテツであった。

 巨大化しているせいか何も着てないのでどう見てもただのトカゲ、でも二足歩行してるから間違いないと思う。

 よく見たら尻尾があるのかないのかわからないくらい小さい。一応、あるかないかでいえば『ある』みたいだけど。

 あれなら鎧を着るのにも邪魔にならなくていいかもね。尻尾がどこにあるのか気になってたけどそう言う事か。


 なんて冷静に分析してる場合ではない。

 王国の騎士であるオウテツが、なぜ巨大化してウチの移動ハウス(エビマル)と怪獣大決戦をやっているのか。

 まあ、エビマルに関しては怪獣がいるからってシュイラあたりが呼んだのかもしれない。


 こちらの区画もお祭りのような雰囲気ではあるが、パレードが来ていないぶん人は少ない。被害が出ないうちに何とか止めないと。


「アリカ、とりあえずエビマルに飛び移ろう!」

「オッケー!」


 自在剣がエビマルめがけて放たれた。この距離ならもう直接移れるはずだ。


 ドスッ!


 よし命中! ……じゃない!

 アリカの投げた自在剣は、エビマルの屋根にしがみつくシュイラの真横に突き刺さった。

 そりゃ会いに行く予定だったから近いほどいいんだけど、近けりゃいいってものじゃないでしょ? 当たったらどうすんの。

 とりあえず飛び移りはするけども。


「お、オマエら……殺す気かあ……!」


 ほら、シュイラも怒ってるし。

 でもいつものような迫力はない、ちょっと疲れてる感じ。やっぱりエビマルの屋根の上にいたのは不測の事態だったのかな。


「ごめんね、近い方が手っ取り早いと思って。でもシュイラならわたしの投げナイフの腕前は知ってるでしょ?」

「……ああ、そうだな。二割のほうを引かなかった事に感謝するよ」


 なるほど、アリカの投げナイフの命中率は八割ほど、と。まだ知らない事も多いもんだ。


 ドォン!


 うわっと、エビマルの動きが激しさを増している。このままだと私たちも一緒に放り出されかねないぞ。

 とにかく話は後! 私がシュイラの体を掴むと、アリカはワイヤーを保持したまま壁を蹴り、戻ってくる反動で窓を割って室内へと転がり込んだ。


 ガシャーン!


 ギャー!

 が、ガラス! ガラス刺さった! いてて……うまく受け身が取れないの私だけじゃないかまったく。


 ひっくり返ったままガラス片を取り除いていると、何やらモコモコしたものが目に留まり、ついでにこちらに話しかけてくる。


「なな、何、なんなのいったい!?」


 転がり込んだのはどうやら寝室だったようだ。

 エビマルが二足モードで暴れているため家具があちこちひっくり返っている。そしてその隅っこで毛布を被ったアリアが目を白黒させていた。

 寝てるとこ悪かったね。


「なぜだかエビマルが大暴れしてるんだけど。アリア、理由知ってる?」


 中にいた人物だからなんとなく聞いただけの質問だったけど、アリアは聞くなり表情が険しくなる。どうやら怒らせてしまったようだ。


「知らないし! こっちは忙しいんだから集中させろし!」


 そう言うとそのまま毛布にくるまって完全防御形態に突入してしまった。

 さっきまでぼんやりしてたのは何か集中してたの? まあ、今となってはそれも答えてくれそうにはないけど。


 それより操縦室だ。……あ、今は自動なんだっけか。

 とにかくエビマルを止めよう。


「えーと……。ヘイ、エビマル! 止まって!」


 これでいいんだよね……?

 ……。

 …………。


 あれ!? しばらく待ってみたけど全然止まらないぞ!?

 どうなってんだ? 何か間違えた?


「ムダだ、それじゃ止まらない」


 私が困惑していると、そこにシュイラがフラフラと起き上がってきた。

 まだちょっと具合が悪そうだ。


「シュイラさん、顔色悪いですよ」

「オマエにゴブリンの顔色がわかるのか?」


 むう、確かに。色で言うなら私もずっと赤っぽいですけど。

 というかゴブリンに限らず顔色ってなんだろう。体調悪いときは明確に青色になったりしたらわかりやすいのにね。

 もしくは点滅するとかね。もしそうなら今のシュイラはけっこうピコピコ点滅してるのかも。ふふっ。


「おい、何か変な事考えてないか?」

「い、いえめっそうもない!」


 うわ、あっぶな。私の方こそ顔に出ていたのかな?

 話を逸らそう、というか本筋に戻そう。


「そ、それよりムダとは?」

「あのガ……いや、オマエの妹だよ」


 妹って……す、スフレですか? あの子が何か致しましたでしょうか……?

 少しだけ聞きたくなくなってきた。それでもシュイラは自分たちの身に起こった事を話し始める。

 聞きますよ、必要ですから。


「オマエ達と別れてしばらく進んでいると、あの大トカゲが道を塞いでたんだ」

「あれってオウテツさんですよね、前に会った」

「ああ、言われてみればそんな顔してるな。トカゲの顔はよくわからんが」


 そういやそうだ。いや凄いな私たち、一目見て知り合いのトカゲだってわかるんだから大したものよ。


「で、なにしろ道を完全に塞いでたからな。気付かれないように迂回路を探してたら、オマエの妹が「でかいものにはでかいものなのじゃ」とか言ってな」


 それでこんな所までエビマルが乱入して来たわけですね。……なんかすいません。


「でっかいもの同士をぶつけたまではいいが、アイツ何か魔法もかけてたぞ。そのせいか恥ずかしいのをこらえて何度も呼びかけたのに止まりやしないってわけだ」

「そ、それは重ね重ね……。で、そのスフレは今どこに?」

「さあな。しばらく二人して屋根に乗ってたが、妙なものが飛んできてそれに付いて行っちまった」


 妙なものが飛んできて? そ、それってまさか――


 カッ!


 絶妙なタイミングで窓の外が真っ赤に光る。

 今や空は赤いけれどもそういう事ではない、これは爆炎の光だ!


「スフレ!?」


 慌てて窓から身を乗り出し空を見上げると、思ったとおりそこにあるのはふたり分の人影。

 炎を纏い宙を舞う大魔女スフレと、無数の虫を引き連れた蟲姫クラリッサが対峙していた。


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