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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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妹の想いと姉の覚悟

 他ならないアリカに『話を聞かなかった』という罪状での刑罰を受け、私は彼女の目の前で正座して話を聞いている。

 ただし、話をしているのはアリカではなくアリアだ。『この世界を守るため』だと、そうアリアは言った。


「ワタシたち姉妹の身の上は聞いてるよね? おジイのあたりとか」

「う、うん、聞いてる」


 身の上、か。両親が異界に関わったせいで亡くなり、お爺さんに引き取られた。そしてお爺さんは死の真相を知るために異界を調べていた、そのあたりの事を言っているのだろう。

 アリカにとっては、その後さらにお爺さんが亡くなって、姉も異界に消えたという続きがあるのだけどね。あんただよあんた。


「なーんか変な目でワタシを見てんね」

「そりゃそうでしょ、私たちの冒険はあんたを探すためだったんだから」

「だから、世界を守るためだって言ったし。ワタシは偶然手に入れたプリズマスギアで異界と繋がって、その世界の神の……プリズマの意思を感じ取ったんだ」


 アリアの話では、その手に入れたプリズマスギアには僅かながら異界と直接繋がる力があったという。


「プリズマは、ワタシたちの両親が異界に触れたことがきっかけでこちらの世界に興味を持った。それだけならいいんだけどねー、バカでっかいパワーを持ってるのにムリヤリこっちに来ようとしたもんだから、あやうく世界そのものが壊れるかってトコだったのよ」

「仮にも神様がそんなムチャする?」

「神様って言ってもいろいろあんの。純粋で無垢でそれゆえ危険、要するにとんでもない赤ちゃんみたいなもんね」


 神の力を持つ赤ちゃんか……想像したくない。ベビーシッターを頼まれても世界ごと命がいくつあっても足りないだろうね。


「そのままじゃアッチもコッチも壊れちゃうってんで、しょーがないからワタシが巫女になってガイドしてあげることにしたのよ」


 ガイド……?

 それって前に聞いた、『力を小分けにして送り込む』というやつかな。


「それを、どうしてわたしに話してくれなかったの?」


 ここで、黙って聞いていたアリカが口を挟んだ。話自体はさっきも聞いていたのだろうけど、私が関わるのを待っていたのか。

 アリアがプリズマの事を知りながらアリカに話さなかった理由、少しだけわかる気がする。


「プリズマがこっちの世界を知ったのはお父さんのせいだし、娘のワタシが責任を取るべきだと思ったし」

「だったら、わたしも同じでしょ!」


 姉妹なのだからアリカの言い分もごもっとも。それでもアリアはアリカを、妹を巻き込みたくなかったのだろう。

 そしてそれは単に異界が危険だからというだけではない。そうだな……これにはうちの妹も関わってくる話になるだろう。


 ボウッ!


「熱っ!」


 噂をすれば、熱を帯びた風が吹き付けた。

 今までに何度か体験したこの感覚、その主はもちろん私のかわいい妹、スフレだね。

 私がアリアと追いかけっこで暴れている間もずっと考え込んでいたスフレが、何やら思いつめた様子で私たちに迫ってきた。


「妾は……まだ納得しておらんのじゃ。アリアよ、王都を攻めるはずのキサマが何故、ここ魔術師会などに現れた? 妾を……騙しておったのか?」


 さっきからずっと考え込んでいると思ったら、そんな事を考えていたのか。

 ルゾン王国(今は帝国だけど)の復興と世界への復讐のため、ブリア王国王都へ攻め込む計画だったらしいけど、部隊を送り込む転移の力は魔術師会本部を襲撃するのに使われていた。

 それを指揮していたのがアリア。スフレにしてみれば話が違うのにも程がある、問いただしたくなるのも無理はない。


「……ワリーね、ヴェルダナ。『世界を守る』のは大変な事なんだ、あんたを騙してでもその力を利用したかったってのは認めるよ」

「キサマ……!」

「スフレ、待った」


 私は杖を構えようとするスフレの前に立ちはだかった。


「スフレ、まだ世界が憎い?」

「……」

「確かに家族も故郷も無くした、でも私は生きてるよ。スフレは全部無くしたわけじゃない」

「……」


 スフレを包む魔力の熱気が少しだけ治まった気がした。


「姉上が生きていたせいで、妾の大義が少しずつ崩れてゆくのを感じたのじゃ。正直、アリアが王都を攻めなかった事に安堵している自分も感じておる。じゃが……」

「じゃが?」

「小国群を滅ぼし、帝国と定めた妾に後戻りなどできるはずがないのじゃ。なのに……いくら考えてもどうしたらいいかわからなくなったのじゃ……」


 その目にはうっすらと涙が浮かび、小さな肩が震えていた。

 私はそっとスフレの肩を包むように抱きしめた。今度は突き飛ばされる事もなく、私たち姉妹は互いの存在を確認し合うように、無限にも感じる一瞬を噛みしめていた。


 ――話を戻そう。その事に関わる話もアリアからあるはずだから。

 確認をとるかのように私がアリアの方を見ると、それを待っていたかのようにアリアは頷き、再び言葉を口にするのであった。


「騙した事はワタシも悪いと思ってる、でも他に方法が思いつかなかった。なんせ相手は幼いとはいえ神様だかんね、どうあがいても『止める』ことはできなかったのよ」


 そのまま世界を渡れば何もかも壊してしまう神、それを止める事ができないのならばどうするか。

 アリアの語った方法は、私も知る『力を小分けにする』というものだ。しかし、それにはまだ続きがあった。


「力を小分けにして、こっちの世界を見たいっていうプリズマの欲求を満たす分だけ送り込む。でもやっぱ神様だかんね、それだけでも影響は計り知れないのよ。だから……」


 少しだけアリアが言葉に詰まった。

 軽い感じで話しているアリアだけど、この先の事はさすがに思うところがあるのだろう。

 スフレに目をやるアリアの表情がそれを物語っていた。


「だから……ワタシはヴェルダナの力を利用して、顕現の犠牲になる土地を用意した」


 ――ここまでの話とアリアの行動を考えて、なんとなく想像できていた。

 ルゾン帝国を興しておきながらほぼ動きはなく、準備が整ってからのスフレの計画とは違う魔術師会への襲撃、そしてさっきの『世界を守る』発言。

 正直言ってアリアが何をしたいのかわからなかった、わかっていたのは何が何でもプリズマを顕現させようとしている事のみ。

 まさかそれが、世界の『全部を』壊さないようにするためだったなんて。


「いくら力を小分けにしたって、国ひとつくらいの影響力はある。だから、ヴェルダナをそそのかしてルゾン帝国なんてものを興した。西側諸国は土地に対して人口が少ないしちょうどよかったからね」


 話によると、事は一瞬で戦争状態にはならなかったらしい。それほどまでにスフレの魔法は凄かったという事か。

 占領した城のひとつを中心に新たな首都を構え、民衆はその外へ強制疎開させたとの事だ。


 それでも……犠牲がなかったわけではないのだろう。

 小国とはいえ王をはじめとした権力者たちが首を縦に振るわけがない。異界の力とスフレの魔力、これらを使って何をしたのかは知らないけど、平和的な事でないのは明らかだった。


「だから、アリカには黙っていたのね。世界のためとはいえ許されない汚れ仕事、それにアリカを巻き込みたくなかった、そうでしょ?」

「そんな……」


 アリアは目を逸らしている。アリカもこれには言葉がうまく出ないようだ。

 私の妹は見事に巻き込んでくれたみたいだけど……スフレのあの様子だとアリアのお誘いがなくてもいつか事を起こしていたかもしれない。


 目を逸らしていたアリアが不意に天を仰いでため息をついた。


「にしても、せっかく計画を練っていたのに台無しだし。散らばったぶんの力を回収して帝国領内で顕現させるつもりが、なんだってこんなトコで……?」


 散らばった力とはもちろん、各地にあったプリズマスギアやアバラントの事だろうね。

 もしかして……それらを集めつつ、自身も異界の影響を多分に受けている私が接触したせいで、アリアの計画が狂った……とか?


「で、でも、プリズマは爆発しちゃったけど!?」

「それよそれ。被害を抑えようとしてるのにあんなに散らばっちゃって、世界中でとんでもない事になってるだろうし、また回収しなきゃいけないし」

「顕現自体は阻止されたんじゃないの?」

「さっきも言ったけど、神様だかんね。こんなもんじゃ死なないし。また帝国に戻って集め直しの計画でも練るかぁ」


 様々な思惑が交差するルゾン帝国、その実態はこちらの世界の被害を最小限にするための『生贄』だった。

 でもこの状況どうすんの? 準備してたことが台無しになって、結局世界は壊れないにしても大変な事になっている。収拾つくのかよこれ。


 ……あれ、そういえば気になる事が残っている。


「ねえアリア」

「何?」

「スフレは復讐のため、アリアは世界のため、じゃあディアマンテは何のために協力しているの?」

「……?」


 私が聞いた話ではルゾン帝国の中心人物は三人。ヴェルダナことスフレとアリア、そして皇帝ディアマンテだ。

 ディアマンテはここまで全く名前の出ていない謎の人物、その目的も不明のまま。仮にもルゾン帝国の皇帝なんだから何もないって事はないでしょうよ。


「誰、それ」


 しかし、私に返ってきた反応は意外なものだった。

 いや、ルゾン帝国の皇帝でしょ? 誰って事は無いと思うんだけど。


 私はそう思うのだけど、アリアの表情が本当に知らないであろう事を物語っている。

 それはスフレもまた同じ……いや、ちょっと違った。


「姉上、その名は妾が帝国の体を成すため、設定だけ考えておった名前なのじゃ。それをいったい誰から聞いたのじゃ?」

「え、誰って――」


 ……。

 ……あれ、誰だっけ。というかどこで聞いたんだっけ?


 するとその時、呼びかける声が聞こえた。


「私を、お呼びですか?」


 その声は意外な方向から、そして意外な人物からのものだった。


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