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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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怒れる隠し玉

 私は真っ直ぐアリアの目を見て言った、祈るような気持ちを込めて。

 素直に渡してくれれば争わなくて済む、アリカも傷つかない……そう思いながら。


「いやホント、マジで何なの? なんで〈心臓石〉の事を知ってんのよ」


 アリアのこの反応、やはり〈心臓石〉を持っているようだ。


「アリア、私にはあなたがどうしてそこまでプリズマに心酔するのか、どうしてこっちの世界に連れてこようとしているのかはわからない。でも、私たちの世界を壊させるわけにはいかないの。自分のためだけじゃなく、アリカのためにも」


 平静を装って格好つけた事を言っているけど、心の中じゃ「お願い頼む!」をひたすら繰り返している。

 戦いたくないんだよー、頼むよー。


「はあ、ワケわかんね。心臓石……さっき撃たれた時に半分割れちゃったんだよね。まだ半分あるからいいようなものの、コレがどんだけ大事なものかわかって言ってる?」


 アリアの目線が動き、その先の懐にチラリと虹色に輝く何かが見えた。

 言われなくても、その態度で重要さは伝わってくるよ。

 ああ……やっぱりダメなのか、はいどうぞとは渡してくれないか。


 私はアリカのほうを振り返り、その目をまっすぐに見つめた。


「え……な、なに?」


 決意を含んだ真剣な眼差しにアリカが照れている。

 真剣な話をするんだから照れないでよ、ちゃんと見て。


「アリカ……ごめんね。許してくれなくていい、平和になったらどんな責めでも受けるから」

「それって、どういう意味?」


 聞き返すアリカに答えるかわりに、私は素早くアリアに飛び掛かった。

 もうやるしかない。私が、やるしかないんだ!


「アリア! 心臓石を渡して!」


 体を捕らえようとする私をまたしても羽のようにひらりとかわすアリア。

 すばしっこいと言うよりはフワフワしている、まずはこれを捕まえない事にはどうしようもないぞ。


「いきなりそんな事言われて渡せるわけねーし! てかありえないし!」


 少し怒りを孕んだアリアの言葉と共に、周囲に大小さまざまな魔法陣が現れた。


 うわっ、体が引っ張られる!?

 魔法陣のひとつが強力な磁石のように私の体を引き付けている。抵抗できないほどの強さじゃないけど、う、動きが、鈍い!


「アリカの彼女だか知んないけど、ワタシに勝てるわけねーし」


 むむむ、なんのこれしき。

 業を煮やして距離を詰めるべくダッシュ! よし、磁力は振り切った、このまま勢いに任せて捕まえて――

 ……あれ? 走ったつもりなのにむしろ距離が遠くなってる。

 なんだかアリアもニヤニヤしてるし。


 前方に走る、魔法陣に触れる、距離が遠くなる。

 また走る、魔法陣に触れる、触れたくないけど多いし突然現れるから触れてしまう、また距離が遠くなる、今度は空中に放り出された。

 あー、これ魔法陣同士の間をワープさせられてるな。このままだと永遠にたどり着かない。

 こうなれば強引に決めてやる。


 ゴゴゴゴゴ……


 ははは、どうだ! 魔法陣がゴミのようだ!

 もはや見た目も手段も選んではいられない、私は迷うことなく自身の巨大化に踏み切ったのだ。


「んなっ……デカくなるとか!?」


 驚いてるねアリア、でもそれだけじゃないよ。

 背中に枝翼を生やして全体の力をブースト、足はクラーケン式のタコ足だ。手は自由度の高い普段のままだけど、見た目はまさしく怪獣大戦争。


 うーん、これ傍から見たらどう考えても悪い怪獣と魔法少女が戦ってるように見えるな。

 現に周囲で見ている人たちの反応はどうだ。

 マリウスは笑っているものの、あれは苦笑いというやつだね。パルバニは相変わらずキョロキョロしているし、スフレは何か考え込んでいるのか表情が読めない。

 そう、私のかわいいスフレはまったく動きを見せていない。アリアにつくでもなく、私に協力するでもなく、ただずっと何やら考え込んでいる。どうした?


 そんな中でアリカが私に何かを訴えているのが見えた。

 わかる、わかるよ。でも話は終わったら聞くから。


「さあアリア、心臓石を渡しなさい!」

「ちょ、近寄るなし!」


 十倍近い大きさになった私は多少の事では止まらない。

 磁力の魔法陣も瞬間移動の魔法陣も踏み越えて、実際には効果は発揮されているけれどものともせず、二本の腕と八本のタコ足でアリアを追い詰めるのだ。


「なんてムチャすんの……あっ!」


 雲のように捉えどころのないアリアといえど、死角からの予期せぬ攻撃には対処しきれなかった。

 やたらと振り回したタコ足の一本がアリアの脇腹のあたりをかすめたのだ。

 しかもそれが意外にクリティカル、その衝撃によって懐からさっき見た虹色の何かがポトリと地面に落ちた。

 半分に欠けたような歪な形の石。……間違いない、これが〈心臓石〉だ!


「いただき!」

「ちょ、待っ!」


 アリアは素早いけど、今の私は巨大生物。体格でブロックしながら先に拾うなんてわけはない。

 それに、私にしてみれば壊すのが目的なんだから、いっそ思いきりぶつかってもいいくらいなんだ。この勝負、もらった!


「ファンタスマゴリア!」


 ここで、心臓石を巡るチェイスに水を差す聞き慣れた声。

 ほぼ同じ声だけどアリアではない、アリアは武器を持っていないから。これはもちろんアリカの声。


 アリカの持つ自在剣は最大で六本、そのうち〈ファンタスマゴリア〉と呼ばれるお爺さんの形見の名剣は一対二本。刀身とワイヤーに文様があるやつ。

 なんでも聞いた話では流し込む魔力によって長さや形状を変化させる事もできるらしい。


 ……なぜ今こんな話をするかと言うとだね、そのファンタスマゴリアのワイヤーが私の体をぐるぐる巻きにして縛っているからだよ。


「アリカ!? 気持ちはわかるけど、今は世界の――」

「……何度も言ってるのに」


 ヒッ。

 あ、アリカの雰囲気が何か違う。いつもはほら、怒った時だってどこかかわいくて、そのせいでむしろ和んじゃったりもするよね?

 だけど今はとっても静かに……冷たい沼みたいな怒りを感じる。


「話を……聞きなさい!」

「ぐへっ!」


 ドスーン!


 巨大化した私を絡め取れるほど伸びたワイヤーが、それはもうこれでもかってくらい私の体を締め付け、最後には勢いよく地面に引き倒してしまった。


「ファンタスマゴリア、フルチャージ!」


 体に食い込むワイヤーに電流のような魔力のほとばしりを感じる、熱っつ! 焼ける!

 さらには頭上へと飛来した〈ファンタスマゴリア〉の頭身が、流れ込む膨大な魔力によってその形を変えていく。なんかもう壁みたいな巨大な刃になってるんですけど!?


巨人の断頭台(ギガスパニッシャー)!」


 ギャー!

 壁のごとく巨大な刃が私めがけて死刑執行! ドスッと炸裂してそりゃあもうめっちゃ痛かった。もう少し刃に大きさがあれば輪切りになっているところだ。

 ううう……アリカもこんな大技を持っていたのね。なにも私に使わなくてもいいのに。


 身も心も痛くて巨大変形が解けてしまった。

 しぼむ風船のようにシュルシュルと元の大きさに戻り、体の形を整えているところにアリカが立ちはだかる。

 まだ、怒ってる? 顔が怖いよー。


「……リプリン、何回も聞いてって言ってるんだけど」


 え、そうなの? アリアを追いかけるのに夢中で聞こえてませんでした。

 確かスフレと姉妹ゲンカをかました際にもそんな事を言われたような。私ってけっこう思い込み激しくのめり込むタイプだったのか……。

 そんなわけで私は正座した状態でアリカに怒られている、ついでにバッサリいかれている。身も心もかなり痛い。


「さっきね」

「は、はいっ!?」

「さっき、リプリンがお饅頭みたいになっている時に、アリアが話してくれたの」

「……?」


 怒られるか殴られるかすると思って身構えていると、アリカはついさっき聞いたばかりだという話をしてくれた。お饅頭って事はファルサが爆発した直後かな。

 その内容はアリアが皆に話した事であり、私たちに誤解があるという事であった。


「アリアが異界に行ったのは、プリズマを顕現させようとしたのは、この世界を守るためだったんだよ」

「この世界を……守る?」


 いや、おかしいでしょ。だってアリカも見たはずだよね、プリズマスギアにしろアバラントにしろ、さっきの爆発した際のエネルギーだってそうだ、こちらのモノが変容してしまうあの力を。


「ま、そのままじゃおかしいと思うのはフツーよな」


 私の隣にアリアがふわりと舞い降りた。

 あ、いや正確じゃないな。だってアリアの体にもファンタスマゴリアのワイヤーが巻きついていたのだから。

 どうやら、追いかけっこで怒られたのは私だけではないようだ。正確には引きずり降ろされたというところかな。


「にしても、アリカもやるようになったじゃん」

「そう、わたしも強くなったの。これで認めてくれる?」

「……少しはね」


 おおう、アリカとアリア、見つめ合う眼光が鋭くて怖い。

 アリアの体からワイヤーがほどけていく様子を黙って眺めていると、アリアがこちらを向いて話を始めた。


「さっきアリカが言ったとおり、ワタシはこの世界を守りたかったワケ」


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