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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第一章 粘土人間とトレジャーハンター
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キノコ狩り

 アリカたちに連れられて、やって来たのは深い森。

 ここって私が倒れてた所じゃないの? 行ったり来たり忙しいな。


「よし、それじゃ今日こそ終わらせるか。オレはあっちを探すから今度は邪魔するんじゃないぞ」


 森に着くなり、シュイラはそう言って茂みの向こうへと歩いて行った。

 人を連れてきておいて勝手だなあ、説明くらいしてほしいもんだ。

 ていうかゴブリンだし、一体どうなってんだか。


「よーし、じゃあわたしたちも探そっか」


 アリカはアリカで勝手にやる気を出している。

 こっちは全くと言っていいほど状況が飲み込めていないというのに。


「いや、よーしじゃなくて、探すって何を? それにゴブリン? どうなってんの?」


 ここのところ訳の分からないことが多くて疑問符ばかりだ。

 そんな私の質問の意味を、アリカがいまいちわかってなさそうなのが私の不安をいっそう掻き立てる。


「ゴブリンがそんなに珍しいの?」

「いや、だって魔物じゃないの。よく討伐隊とか組まれてるの見た事あるし……」


 私がそう言うと、アリカは何か考えているように首を傾けた後、ひらめいたと言わんばかりにパッと表情が明るくなった。

 正確にはいつもの感じに戻ったと言うべきか。


「ああ、そっか。リプリンは知らなくて当然だよね」

「何を?」

「ゴブリン族には大きく分けて二種類いるの。シュイラたちゴブリンと、狂暴なグリムゴブリンの二種類ね。ゴブリンとは十年くらい前に同盟が結ばれて、今ではすっかり交流も盛んになってるんだよ」

「ふぇ……、そうなんだ……」

「六十年くらい世の中を知らないリプリンなら仕方ないよ。でも他の人に言っちゃダメだよ? シュイラには特に。「どこの田舎モンだコラ!」って怒られちゃうからね」


 私が知らない六十年の間にそんな事になってたのか。

 いわゆる亜人族と言われる存在は知ってたけど、まさかゴブリンと友好関係にあるとは思わなかった。

 あの頃はリザードマンとかと同様に文明を持った魔物として扱われていたんだから。

 いや、そりゃ六十年も経てば世の中変わるよねえ。なんだか置いて行かれた気分。


「うわー、怖っ。……気を付けるよ、教えてくれてありがとう。あのお兄さん怖そうだからね」

「シュイラは女の子だよ」


 マジでか。

 そう言われればそんな気もしないでもない。荒々しい異国の剣士といった格好をしているシュイラだが、確かにところどころ丸みがあるような感じがあった。

 そうか、女の子だったのか。

 アリカが「女の子」っていうくらいだから歳も近いのかな? ゴブリンの年齢はよくわからない。

 わからないけど、大体の事はわかった。


「……わかりました」

「うむ、わかればよろしい」


 なんでアリカが偉そうなのかはわからないけど、余計なトラブルをふたつほど未然に防げたのには感謝するよ。

 ところで、私の疑問はもうひとつあるんだ。わりと重要なのが。


「それで、この森には何しに? 私が倒れてた森だと思うんだけど」

「うん、今日はキノコ集め!」


 キノコ……集め?

 ああ、私がモムモムしてたアレかな、美味しいって言ってたもんね。


「え、何? そんなに食費切り詰めてるの?」

「違います」


 真顔で否定されてしまった。違うのか。


「トレジャーハンターだけってわけにもいかなくてね~、たまにこうやって副業やるんだ。今日は珍しいキノコ集めってわけ」

「ああ、なるほど。それで、どんなの集めればいいの?」

「わたしもよくはわからないけど、この森にはとっても珍しいキノコが生えてる時があるんだって。それが見つかれば一番だけど、無かったらおいしいキノコたくさんでごまかすの」


 適当だな、そんなんでいいのか副業。

 よくわかんないのにどうやって見つけるつもりだよ。最初から美味しいキノコでごまかすルート見据えてるんじゃないの?


「はいこれ」

「?」


 すると、アリカが私に何かを手渡した。

 笛のような小さな筒、いや、そのまんま笛か。


「これは魔物避けの笛だよ、この間も使ったから聞こえてたよね?」

「……ああ、あの時の」


 確か、凄い音がして私も怯んだけど、クマもそれでどこかへ逃げていったんだっけ。こんな手のひらに隠れるような笛の音だったのか。


「これを吹くとクマさんみたいな大きなやつでも錯乱して逃げちゃうから、危ない時には使ってね」

「それって、危ない事があるって言ってるんだよね……?」

「……」


 アリカは笑顔のまま何も言わなかった。

 無言の了承ってやつかこんにゃろう。


「じゃあわたしはあっちを探すから、リプリンはおいしいキノコを集めててね!」

「え、あ、ちょっと!」


 引き留める間もなく、アリカはどこからともなく取り出したロープを木に引っ掛け、素早い身のこなしで枝に飛び乗るとあっという間に見えなくなってしまった。

 私を気にかけてくれてたんじゃないのか? 危険がある場所に私ひとりで放っておくなよなあ……。

 などとぼやいていても仕方がない、覚悟を決めてキノコを探すしかないか。


 改めて森の中を見回してみると、思った以上に豊かな森であることがわかる。

 小動物の気配、多くの木の実、大小さまざまな植物、慣れれば意外とサバイバルも難しくは無いかもしれない。……というのは素人考えかな。

 例の美味しいキノコもたくさん生えているみたいだ。

 本来の目的だと言った珍しいキノコはアリカたちが探すとして、私はこの美味しいキノコをなるべく多く持って帰ればいいわけね。


 ……うーん、キノコは多いけど、それだけに持て余す。

 着の身着のままでいきなり連行されて来たからキノコ狩りの準備なんてあるわけがない。仕方がないから帽子をひっくり返してその中に入れる事にした。

 帽子を脱いだ今の私はキノコを集めるかわいい粘土人間、冒険者とかに見つかったら魔物と勘違いされても文句は言えないだろう。


 ていうかシュイラにまだ素顔を見せていない事に気が付いた、ばったり会って弁解の余地なくいきなりバッサリやられたらどうしよう。「問答無用!」とか言って。

 あの人怖そうだったし、でっかい剣も持ってたし。……ダメだ、想像したら怖くなってきた。なるべく考えないようにしよう。


 アリカから具体的に必要な量を聞き忘れたので、とりあえず帽子いっぱいになるくらいの数を確保する事にした。

 嗅覚はまだほとんど戻っていない、でもなんとなくいい匂いがするような気がする。

 珍しいキノコのかわりになるくらいだからさぞかし美味しいのだろう、それだけ美味しいのならば森の動物たちも大好物なのかもね。


 ガサッ!


 ひっ!

 絶妙なタイミングで物音がした。

 なな、何だ、誰だ!?

 アリカ!? シュイラ!? 冒険者の人!? できればアリカで!


「ぶう」


 希望を述べてはみたけれど、実際はどれでもなかった。

 茂みからひょっこり顔を出したのは、なんともかわいらしいウリ坊であった。


「……ふう、なんだ、脅かさないでよ」


 安堵で肩の力が抜けた。

 イノシシは雑食、もちろんキノコも大好物、人間にも美味しいとあればなおの事だろう。


「悪いけど、この帽子に入ってる分はあげられないの。ごめんね」


 潤んだ瞳でこちらを見ているウリ坊には悪いけど、これもお仕事。

 まだその辺にあるから自分で取りなさい。


 と、ここで私の脳裏にあることが閃いた。

 そう、イノシシの赤ちゃんがひとりでうろついているわけがないという恐ろしい事実に!

 緊張で再び全身に力が入る。これって、絶対親が近くにいて襲い掛かって来るパターンではないでしょうか!?


 息を殺して周囲の様子を伺う。息してるのかわからないけど。

 …………、だ、大丈夫かな?

 よかった、周囲に親イノシシはいない。この大きな岩が触ってみたら意外とモフモフしているのもきっと気のせいだろう。

 そうだよ、岩に目があって牙があるとか信じないもん、私にだってまだ牙はないんだからね。


「ブルルル……」


 はい、わかってます、もうダメです。

 岩のような硬質の皮膚と巨体を持つイノシシ・ロックボア、どう考えても目の前にそいつがいます。

 ああ何というベタな展開、最近運が悪くてしょうがない。

 ……嘆いても仕方がない、起きてしまった事は致し方なし、ここは未来へと踏み出す時!

 すなわち魔物除けの笛をピーッとな!


 ふひ~~~


 笛から出てくる頼りない音色。いやもう音色ですらない、ただ空気がゆるく移動してるだけの音だコレ。

 あ、そうか。声は出るようになったけど、この胸の中にまともな肺があるのかどうか怪しい。今の私には勢いよく息を吐けるほどの肺活量が無いのか。


 なんて冷静に分析している場合ではない、笛がダメなら逃げるしかない!

 私はせっかく採ったキノコを帽子ごとあきらめざるを得なかった。

 地面にばら撒かれた美味しいキノコが囮になってくれている間に、ロックボアから少しずつ距離を開けて――


 ズルッ


 その時、少しぬかるんでいた地面に足を取られた。

 それだけならまだいい、転んで服が汚れるだけだから。でも当然ながらそれだけでは終わらない。

 転んで、もがいて、その間にロックボアに見つかって、さらには大木の根元にあった大きな穴にすってんころりん。

 もう嫌ァー! と、誰にも届かぬ汚い悲鳴を上げながら、私はどこへ続くとも知れない穴の中へと転げ落ちていった。


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