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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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本当の自分

 突如として空中に浮かび上がる巨大な女性の姿。

 人間と鉱石が融合したかのようなその姿は、美しさや畏怖をはじめ様々な感情を呼び起こさせた。

 何より、ただその姿を見ているだけなのに胸がいっぱいになり涙が溢れそうになる。

 無限の慈愛……温かく柔らかに包み込まれているような、まるで赤ん坊に戻ったような気持ちにさえなった。


「そんな……ありえない、早すぎるし!」


 皆が呆然としている中、アリアの様子だけが明らかにおかしい。

 だって、その反応はどう考えてもあんたの目的と真逆でしょう? プリズマの顕現、まさに今起こっているこの現象こそが、アリアの目的に他ならないはずなのだから。


「待って、我が母神よ! ここではダメ、まだ出て来ちゃ……!」


 いくつもの魔法陣が空中に描かれた。

 アリアは大慌てでプリズマの方へと向かい、必死でその顕現を押さえ込もうととしているように見える。

 何がどうなっているんだ、状況がまったく理解できない。


「くうっ……重っ! べ、ヴェルダナ! あんたの魔法で少しずつでも帝国領内に――」


 ズバッッッッ!


 ――スフレの力を借りようと振り向いたアリアを、一筋の光が貫いた。

 誰もが予想しえなかったタイミングで、想像だにしていなかった方向から。


「あ……アリア!」


 アリカの悲鳴も空しく、胸を撃ち抜かれたアリアが力なく地面に落ちた。

 だ……誰だ!? 誰が撃った!?


 見ると、スフレたちによって倒されていたルゾン兵士のうちの一体が起き上がっている。

 両手に抱える巨大な銃は己の熱に耐えきれなかったのか、先端からドロドロと溶けている。撃ったのはこいつに間違いない。……でもなぜ!?


「これで……プリズマの顕現は阻止された……」


 不気味な声でルゾン兵士が喋った。砂人形って喋るの?


 そんな事より顕現の阻止とは? プリズマの方を振り向くとその答えがわかった。

 アリアを貫いた光はそれだけに止まらず、その先にいたプリズマさえも撃ち抜いていた。


 頭部だけが現れていたプリズマに大きく亀裂が入っていく。その隙間から虹色の光がこぼれ、その強さを増していった。

 そしてついには強烈な閃光と共に大爆発を起こし、完全に姿を消してしまった。


 わけのわからない事態が続き理解が追い付かないけど、とにかくこれでプリズマの顕現は阻止された……のかな?

 いや、というかアリアは、アリアの容体は!?

 ハッと我に返ったところで、私とアリカは大急ぎで倒れるアリアの元へと駆け寄った。


 勝手な事を言うようで悪いけど、そりゃあ私たちだって最悪の場合はアリアを倒す事だって選択肢に入れてはいたよ。でもそれを横から他人にやられるのは気分の良いものじゃない。たとえ目的が同じだとしても。


 もう見るからに強力な光線でモロに胸を撃ち抜かれたのを見ているので嫌な予感しかしない。

 アリカと双子なんだから体の造りも同じかな? あの時みたいに再生させられるかな? そんな簡単にいけばいいんだけど。


「アリア、しっかり!」


 青ざめて涙目で訴えかけるアリカ。


「うっさい、このくらい平気だってーの」


 そんなアリカの額をアリカがコツンとつついた。

 ええ……軽っ。症状も軽そうで何よりだけど、してやった心配返せ。


 起き上がったアリアは本当に平気そうだった。

 胸の所に焦げた穴が開いていたものの、それもスッとひと撫ですると消えてしまった。


「ワタシの事はどーでもいいから、それより……ああ、なんて事! これじゃあ大変な事に……!」


 大変な事……この感じからして顕現を邪魔されたと言いたいわけじゃなさそうね。嫌な予感がどんどん大きくなっていくんですけど。


 すると、キラリと光る何かが見えた。

 何かと思い空を見上げると、昼間だというのに満天の星空が広がっている。

 いや、それだけじゃない。青く広がっているはずの空は血のように赤く染まり、白い雲は汚泥のごとくどす黒く変貌している。

 そして更なる問題はさっきの満天の星だ。

 ひとつ、ふたつ……どんどん数が多くなっていく。何がって流れ星だ、まるで雨みたいに次々と星が流れて落ちていくぞ!


「ひ、うわ、あああ!」


 流れ星はすぐ近くにも落下している、そのうちのひとつがさっき救助した魔術師のひとりに当たったようだ。


 奇妙なうめき声をあげ、魔術師の体が歪に膨らんでいく。右手ばかりが何本も生え、バランスを失い倒れたところで今度は体表が金属のように変質していった。

 マリウスをはじめ、他の魔術師たちがただ呆然と見ている間に、流れ星が当たった魔術師は生物と無生物の中間のような物体に変異して動かなくなった。


 こ、これは……まさしく異界のエネルギーそのものじゃないか!?

 今まで見てきたプリズマスギアやアバラントに近いものを感じる、もっとも比較にならないほど強い力を持っているのは明らかだ。

 再び空を見上げると、落ちていく無数の流れ星は世界中に広がっているように見える。

 こんなものが世界中に!? せ、世界は今、どうなっているんだ!?


 またひとつ、近くに流れ星が落ちた。

 今回当たったのはさっきアリアを撃ったルゾン兵士。そういえばお前は何なんだ? 喋るし勝手に動くし砂人形じゃないよね?


「ふは、ふははは、アリア様ぁ、見えますか? ついに、ついに手に入れたのですよ!」


 兵士の全身がボコボコと沸騰するように泡立ちながら膨れ上がっていく。

 こいつ、砂人形でも鎧でもない、ルゾン兵士に化けていた何かだ。そしてこの物言い、私はこいつを知っているぞ!


「どこに行ったかと思えば、こんな所に紛れてたのね……ファルサ!」

「おやおやリプリン様、嬉しいですね、名前を知っていただけるなんて」


 やっぱりファルサだ、まさかルゾン兵士に化けていたとは。

 それにしても何だその姿は? 長い髪を振り乱した顔の無い女が、巨大な芋虫の先端に突き刺さっているような異形の姿。おまけに至る所に様々な顔の面が鱗のように張り付いている。

 いや、人違いでした。こんな人知らないよ!?


「どうです、これが『私』です! ファルサ! ファルサ、ファルサ! ファルサ自身なのです!」


 ファルサは歓喜の声を上げ、自らの名前を連呼している。欲しいものが手に入った子供のように、嬉しくて仕方がないといった様子で。

 そういえば、あいつの一人称は『化けている人物の名前』だったっけ。あれはそういう縛りだったのか、自分の名前を言えるのがよっぽど嬉しいらしい。

 たとえそれがどんな異形の姿であったとしても。


「アリア様、憧れていた貴女がとても矮小な存在に見えます。リプリン様も、もはやお役御免となった貴女に敬意などありません」


 敬意を感じていたのか、それは驚き。

 なんて余裕ぶってる場合じゃないよね、これどう考えても襲ってくるやつでしょ。


 ファルサの体に付いている顔のいくつかが、ドボドボと例の黒い影を吐き出している。 ほらきた、前に見た物質化した影だ。

 あの時は逃げたけど今度はそうはいかないぞ。アリカを殺そうとした罰、受けてもらう!


生命の枝翼(セフィロト)!」


 増幅装置である枝翼を使い、重力の力を増強する。

 今回は上向きと下向きの重力を拮抗させて、留まりたい位置に自分の体を置く、つまり空中で浮遊しているというわけ。

 こうやって上手く調節すれば私だって空を飛べるんだ、凄いだろ!


「少しは多芸になられたようですね。しかしその不死の力がどこまで続くか見物です」


 あらそう。あんたが大幹部であるスフレより強いって言うのなら試してみてもいいんじゃない?

 沼のように広がる影から繰り出される無数の攻撃、でもこの程度は今の私ならかわす事は難しくない。当たったところで効かないし!


「うりゃ!」


 ドガッ!


 攻撃をかいくぐって渾身のパンチを顔の無い顔面に叩き込んでやった。

 グラリと大きく体勢を崩すファルサ、でもこんなもんじゃ終わらせないぞ。

 右、左、質量百倍の重たいパンチをこれでもかと次々に打ち込む。でもなんだか……気持ち悪いな。

 当たってはいるけど、ブヨブヨと水風船を殴ってるみたいで手ごたえが感じられない。

 ならこれはどうだ!


滅尽火砲(デスレーザー)!」


 怪獣みたいだけど口から撃つのがイメージしやすくて手っ取り早い、ので今回も口から発射!

 ファルサの上から下までくまなく貫通するように地獄の炎を浴びせかけた。

 浴びせかけた……のに、なんで全然効いてないんだよコイツ!?


「ご苦労様ですリプリン様。ですがその程度の力で、万物の影たるこのファルサをどうにかしようなどお考えが甘いのではありませんか?」


 ムキー、煽ってるつもりか!?

 滅尽火砲(デスレーザー)はスフレの溶岩魔人だって叩き壊せる破壊力なんだ、威力が足りないなんてことはないはず。

 じゃあなんで効かないんだ? 威力が十分なのに効かない時は……当たってない時?


 いったんタイム、私ひとりじゃちょっとしんどい。ひとまず後退してアリカたちと合流だ。


「アリカ、前にやったあの明るいやつ出せる?」


 せっかくアリアと再会できたところ悪いけど、またちょっと手を貸してちょうだい。

 何て言ったっけ、フレアー? とにかくあれを使いたいんだ。


「フレアーだね、オッケー! じゃあ発――」

「わっ、ちょっと待った待った!」


 私は慌ててアリカの構える魔導銃を押さえた。

 いやいや、とりあえず明るくすりゃいいってもんじゃないんだよ。空は変な色になったけどまだ昼間だし、明るいし。


「作戦があるのよ、撃つのはそれから。いい?」

「う、うん」


 作戦をアリカに説明している間、ふとスフレの視線が気になった。

 そういや姉が戦ってるのに手伝ってくれてもよさそうなもんだけど。でもなにやら複雑そうな顔してるなあ、スフレにも思うところはありそうだし後にしておこう。


 さあて、ぼやぼやしてるとそこらじゅう沼みたいにされそうだから再開といきますか。


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