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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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ルゾン急襲

 私たちはスフレのワープで王都まで来たはずだった。

 王都に行った事はないけど、ここが王都でないという事ははっきりわかる。場所に見覚えがあると言うのも、ここが王都ではないという証拠のひとつだ。


 そう、見覚えのある場所。辿り着いたその場所は、どう見ても魔術師会本部であった。


「こ、この場所は……!?」


 すぐそばでワープさせた本人であるはずのスフレが驚いている。

 なんでだ? 座標を決めたのは自分でしょ?


「スフレ、ワープさせたのはあんたじゃないの? ここ魔術師会なんだけど」

「そんな事はわかっているのじゃ。妾は『アリアのいる場所』にワープした、つまりアリアが王都ではなく魔術師会に来ているという事じゃ。……何故かはわからぬが」


 その口ぶりから、スフレにとっても想定外の事態である事が見て取れた。

 王都じゃなくて良かったけど、それでも戦闘は行われている。これを指揮しているのがアリアだとしたら、いったい何のために?


 激しい戦闘が繰り広げられているであろう魔術師会の建物を、私たちはただ見つめるばかり。

 するとそこへ何者かが近づいて来るのが感じられた。

 予想外の事態で油断していたとはいえ、あっさりとここまでの接近を許してしまうなんて。これが敵だったら大変だ。


「やあ、約束通りヴェルダナを連れて来てくれたようだね」


 幸いにも敵ではなかった。声の主はマリウス、マリウス=マギクラフトだ。

 ……いや、完全に敵ではないとは言えないかも。なんせ私はスフレをここに連れてくる気なんかこれっぽっちも無かったのだから。


「マギクラフト所長……」


 体に変に力が入っているのがわかる。

 マリウスの正体が敬愛するマギクラフト所長である事も知ったし、そのうえでスフレを引き渡さず逃がそうとしていたんだ、そりゃ緊張くらいするさ。


「僕の事も彼女に聞いたみたいだね」

「所長は……ヴェルダナの、スフレの事を知ってたんですか? 私の事も?」

「そうだね、君の事は一目見てわかったよ。だからこそ、君の妹であるヴェルダナを何とかできると思って依頼したんだ」


 以前と変わらぬ無邪気さを含んだ微笑み、何もかも見透かしたようなその表情が私を混乱させる。


「それならそうと言ってくれれば……!」

「詳細を言わなかったのは万に一つということもあるからね。先入観なしに君自身で確かめて欲しかったのさ」


 そんな……そんな事……。

 あの時は、半ば勢いで依頼を受けたようなものだった。それがまさか、私たち姉妹を引き合わせる結果になろうとは。

 なんなんだよもう、気持ちがぐちゃぐちゃで言葉がうまく出てこない。


「うう……アリカ、癒して」

「よしよし、大変だったね」


 思わず後ろにふらついてアリカに体を預けてしまった。

 私の体を抱き留めたアリカが頭を撫でてくれている。ああ、癒されるなあ。


「はは、ちょっと君達、雰囲気変わったかな?」


 マギクラフト所長……いや、今はマリウスか。

 マリウスがこっちを見て笑っている。たぶん苦笑いだなあれ。

 そうなんですよ、ついに付き合いだしたんです私たち。

 ついでに、人前でこんな事するくらい今の私は混乱しているわけですよ。


「仲が良い事は素晴らし……うっ」


 不意にマリウスがバランスを崩し膝をついた。

 見ると、手で押さえている脇腹に血が滲んでいる。


「そのケガは!?」

「はは……ルゾン帝国の戦力は凄まじいね、僕としたことが不覚を取ったよ」


 そ、そうだ、そうだった!

 アリアがルゾン帝国軍を率いてここを攻めているんだった!


「魔術師会本部は強力な結界で守られてはいるが、まさか内側に転移できるプリズマスギアがあるとはね。結界も破壊されてしまった今、残る魔術師達がどこまで食い止められるか……」

「ルゾン帝国の目的は何なんですか!?」

「さあ、僕にはわからない。君はどうだい、ヴェルダナ」


 少し息が荒くなったマリウスの視線の先には、もちろんスフレの姿がある。

 でも期待はできないと思います、だってスフレは王都にワープするつもりだったんですから。

 ルゾン帝国が、アリアが魔術師会本部を攻める理由なんて知らないんじゃないかな。

 ねえ、スフレ。


「……プリズマの顕現、そのためのプリズマスギアか」


 え、知ってたの? 

 あー……そういえばルゾン帝国の大幹部だったか。昔のスフレのままのイメージしか頭にないから完全に失念してた。

 プリズマの顕現、ゲッペルハイドもそう言っていたっけ。


「それって、プリズマスギアを集めるためにここに来たって事?」

「そういう事じゃな。妾は興味が無かったゆえ真面目に聞いておらぬが、巫女であるアリアに力を集めるとかなんとか言っておったのじゃ」


 スフレの言葉を受け、私の肩を抱くアリカの手に力が入るのを感じた。


「アリア……ここに、いるんだね」


 力強い眼差しで魔術師会の建物を見つめるアリカ。

 長い間探し続けていた双子の姉がようやく見つかろうという時なのだ、力だって入るだろう。


「どうするアリカ、突入するんなら私が前に出るよ」


 マリウスの様子や今も続く音からして、建物内には多くのルゾン帝国兵が戦闘を行っているはず。そんな所に飛び込んでいくのは危険に決まっている。

 一応聞いたけど答えまでは聞く気はなかった。私が盾になるのは決定事項だからね。


「ふふ、リプリンたらすっかり逞しくなっちゃって。ちょっと残念」

「え、何か言った?」

「なんでもないよ。それじゃあ、お願いしようかな!」

「任せて、今の私は負ける気がしないんだから」


 やる気満々、さあて今度こそ本物のアリアとご対面といくか。

 前に見つけたらひっぱたいてやるとか思ったような気もする。でもそれはアリカに対する態度が問題で、そしてそれは偽物のアリア・ファルサのせいだったから……チャラ?

 あ、でもアリカを置いていった理由次第かな。私みたいにどうしようもない理由だったらまあ、許す。


 ……私みたいに、か。

 うっ、スフレの事を思うと他人事じゃないような気がしてきた。あんな事の後だから気持ち的に責めづらいじゃないか。


「どうしたのリプリン、早く行こうよ」

「あ、うん」


 おっといけない、それは本人から直接聞けばいい事だ。ここで考えても意味はない。

 そのためにも突入だ!


 ズズズズ……


「うわっと!?」


 突入だと意気込んだ瞬間に大きく地面が揺れた、要するに地震だ。

 ちょうど踏み出そうと足を上げたところだったからバランスを崩して転んじゃったじゃないの。なんてタイミングの悪い……。


「……どうやら、君達が突入する余裕は無いようだね」


 マリウスが言った。

 そして、その言葉をそこにいた全員が思い知っていた。

 皆の視線の先にあるもの、魔術師会の大きな建物の上空に、黒く巨大な穴が開いていた。


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