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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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義理ギリ

「離れよ。妾は落ち着きを取り戻した、心配はいらぬのじゃ」


 本人の言葉通り、スフレは落ち着いた様子で私を見ている。

 ただ、私の希望では無邪気に再会を喜んで欲しいんだけどな。そうはいかないのか。

 うーむ、なんて声をかけたらいいものやら。


「姉上」

「は、はいっ?」


 おっとしまった、思案している所に向こうから声をかけられたものだから変な声が出た。

 せっかくスフレが落ち着いてくれたのに私が動揺してどうする。


「姉上も大人。その身辺の事に関しては、妾からは何も申しませぬじゃ」

「え、あ、そう?」


 大人って言われたけど自覚ないなあ。

 思えば、私はこの体になってからの六十年間、ほとんど意識が無かった。

 そう考えると過酷な経験は同じでも、それをフルに味わってきたスフレの方がよっぽど大人になっているんじゃないだろうか。

 なんだか申し訳なくなってきた。


「しかし一言だけ言わせていただければ、二股はどうかと思いますじゃ」

「違うってのに」


 またその話か、お前までそれを言うのか。

 ええい、こうなったらはっきりさせておこうじゃないか!


 私はこの件に区切りをつけるため、スフレ、アリカ、パルバニの三人を並んで座らせた。

 いいかお前ら、ちゃんと聞けよ?


「まずはスフレ、私のかわいい妹。お互い死んだと思ってたけどどっちも生きてた。見た目は十歳のロリババアだけど実年齢は六十八くらいだよね?」

「間違ってはおらぬが、あまりはっきり言って欲しくない事じゃな。あとスフレって呼ぶな」


 ロリババアはいいのか?

 と、ここでアリカが手を上げた。はい、アリカさんどうぞ。


「さらっと流してるけど、スフレちゃんの見た目と口調はどうして?」


 良い質問ですね、そういえばなんでだろうね。

 本人がいるんだから聞くのが一番手っ取り早いかな。


「スフレ、なんで?」

「……魔力が覚醒したのは良かったのじゃが、そのせいか肉体が年を取らなくなってしまったのじゃ」

「おかげですぐスフレだってわかったよ」

「せめてもう数年してから覚醒しておればのう……口調はせめてもの箔をつけようと試行錯誤していたら癖になったのじゃ」

「あんたも苦労してきたのね、よしよし」

「撫でるな、いい年しておるのはお互い様じゃろ。そしてスフレと呼ぶなというに!」


 まあそれはさておき、次はパルバニ。


「えーと、この人はパルバニ。ゲッペルハイドとかいう変なおじさんの付き人。なぜか付いて来た。合ってる?」

「……うう、ひどいです」


 幽霊みたいなバニーガールはかなり不満そうな様子でこちらを見ている。

 だって仕方ないじゃない、私の認識それくらいよ?

 おまけに話をややこしくした原因でもあるんだからね。


 さて、次はいよいよアリカの番だ。


「で、えーと……問題の彼女が、その……」

「リプリン、ちゃんと紹介して」


 もう、自己紹介してくれてもいいのに、あえて私に言わせようとするんだから。


「オホン。彼女はアリカ、いろいろあって付き合う事になりました。というわけでお姉ちゃんの恋人です」

「では改めて。わたしはアリカ=トレシーク、リプリンの恋人だよ。よろしくねスフレちゃん」


 アリカの言葉を受け、どう見てもスフレの様子がおかしい。

 さっきスフレは「もう何も言わない」と言っていたけど、こう正面から事実を突きつけられるとさすがに動揺しているみたいだった。


「どうも……姉上がお世話になっておりますじゃ」

「そういえば、わたしもスフレちゃんのお姉さんみたいなものだね。だからそんなにかしこまらなくてもいいよ?」


 おい、まだ恋人段階だぞ。

 たとえ義理の姉妹になったとしてもスフレのほうが実年齢は上だ、この場合もやっぱり義妹でいいのだろうか。


「スフレちゃんからも言ってあげて、浮気は良くない事だって」

「うむ、妾もそう思うのじゃ」


 おお、まだ言うか。いい加減にしたまえよ君たち。

 私はアリカの肩を捉え、真っすぐに目を覗き込んだ。


「アリカ、はっきりさせとく」

「う、うん?」


 顔を背けるんじゃないぞ、ちゃんと私の言葉を聞くんだ。

 いつもとは違う私の態度に動揺しているのが伝わってくるけど逃がすものか。


「私が好きなのはアリカ、他の誰でもない。順番なんてものもない、アリカただひとりだけ。この世で唯一の大好きな人は他ならないあんただけ、わかった?」

「わ、わ、わわ、わかった……!」


 ふう……やっと伝わったか。

 これだといつもと立場が逆だ、何にしてもこれで収まることだろう。

 スフレとパルバニにも私の考えがはっきりと伝わって――


「なんと……はっきり言うのじゃ」

「はわわわ……だいたん……」


 スフレもパルバニも目を丸くして呆然としている。ちゃんと私の話聞いてた?

 そりゃ私だって地の色が赤っぽい体でなければ耳まで赤くなっているところだよ。だが私はすでに覚悟を決めたのだ、覚悟完了。

 もうハッキリ言う、正面から。まさに今やった通りに。

 いつもグイグイ押してくるアリカが急に反撃されると意外に弱いのは面白い発見だった。

 ああ、でも私も今になって恥ずかしくなってきた。少しクールダウンしよう。


 私たちは四人そろってちょっと休憩、その間は誰も何も言わなかった。


 *****


 さて、熱も冷めて誤解も解けたところで改めて。

 私は立ち上がってスフレに呼びかけた。


「スフレ、一緒に帰ろう」


 姉妹ゲンカも私の勝ち、互いの事情を話して落ち着いた今なら言う事を聞いてくれるかもしれないと思った。

 そして、私はある考えを決意している。


「それは……魔術師会に行けと言う意味か?」

「ううん、行く必要なんかないよ。もし追われるような事があったら一緒になんとかしよう」


 私はチラリとアリカの方を見た。

 この決定はアリカを大きく巻き込むことになるだろう。でもそんな事は気にしなくてもいいと言わんばかりに、アリカは私に向けてウインクした。


「……」


 意外な提案だったのか、スフレは黙ったまま何やら考え込んでいる。

 おっと、大事な事を忘れていた。私たちの用件はヴェルダナの事だけじゃなかったんだ。


「あ、帰ると言ってももうひとつの用事が済んでからね」

「……?」

「見た目で気付いたかもしれないけど、アリカとアリアは双子なの。ここへはアリアを探しに来ていたというのもあるんだ」

「ああ、どうりで」


 最初にアリカを見た時、そんなような事をつぶやいてたものね。これで納得できたでしょう。


 ずっと考え込んでいた様子のスフレも立ち上がった。

 表情がやや険しい、基本的にはかわいいのに。


「せっかくの提案じゃが、やはり受ける事は出来ぬ」


 重苦しく、スフレの口から言葉が吐き出される。私にとって非常に残念な言葉が。


「どうして!?」

「……アリアを探していると言ったの? それもまた理由のひとつじゃ」


 部屋(といっても壁もなにもボロボロだけど)の温度が上がってきている、スフレが魔力を身に纏っているのか?

 再びヴェルダナとしての立ち振る舞いをしようとしているのだろう。スフレのままでいいのになあ。私は長い月日のせいで妹が妹じゃなくなってしまう気がして、できればヴェルダナなんて呼び方はしたくないんだ。


「姉上、今までルゾン帝国に動きが無かった理由がわかるかの?」

「……? 準備してた、とか?」

「そう、準備じゃ。その最後のピース、〈サプライザー〉が手に入った事により準備は完了した。複製された空間転移能力によって、王都に直接大軍勢を送り込むためにの」


 なん……だって!?

 てことは、国交を一切シャットアウトしていたのは、国境の警備を強化させたうえで手薄になった王都に直接攻め込む算段だったという事か?


「今頃はアリアの指揮で王都を攻めておるところじゃろうな。もっとも、手薄な王都など相手にもならぬであろうが」

「スフレ、なんてことを……!」

「そもそも、妾は異界の力まで使って西側諸国を征服しておる。……もはや、後に引けぬ所まで来ておるのじゃ」


 なんということだろう。

 六十年の月日はあまりに長かった。もし……せめて私が生きている事を伝える事ができていれば、少しは変わっていたのかもしれない。だが今となっては遅すぎた。

 ……いや、姉の私があきらめてどうする。


「……空間転移能力を複製したって言ったね? じゃあ今からワープできる?」

「無論じゃ。……そうじゃな、せめてアリアの所にくらいは送ってさしあげようかの」


 スフレが手をスッと差し出し合図すると、空間にきれいな丸が炎で描かれた。これで移動するのかな?

 じゃあその前に準備だ、私はスフレの手をしっかりと掴んだ。


「何を……!?」

「スフレ、一緒に来て。あんたルゾン帝国の幹部なんでしょ? 今からでも戦いを止めなさい!」

「だが、もはや……」

「自分のやったことに責任を持ちなさい! 私もできる限り手を貸すから!」

「姉上、どうしてそこまでするのじゃ」

「決まってるでしょ、あんたのお姉ちゃんだからよ。あんたは私にとってかわいいスフレ、ヴェルダナになんかなる必要はないの」

「……」


 スフレは黙って私の手をぎゅっと握り返した。

 いいよ、後の事は後で考えよう。それより今は今起こっている事を止めるんだ。


 反対側の手をアリカが握った、ついでにパルバニも。

 これで準備はオッケーだ。


「さ、行こう」


 炎の輪が激しく燃え上がる。

 迫ってくる炎の輪が私たちの周囲をスッと通り抜けると景色が変わった。こんなあっさりワープできるものなんだ。


 ガキン! ドカッ!


 激突する音、金属の音、これはおそらく戦闘の音だ。

 いけない、もう始まっているのか!? なんとかして止めないと!


 あれ……? でもちょっとおかしいぞ。

 だってここ、どう見ても王都じゃないんだもの。


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