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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第六章 粘土人間と変革する世界
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熱きお誘い

「パルバニっ!?」


 大きくこちらに吹き飛ばされたパルバニの体をキャッチする。

 どういうわけだかケガはしていない、理由はわからないけどケガしているよりはマシだからまあいいか。


「ケガは……してないみたいだけど、大丈夫?」

「……」


 大丈夫そうではあるけど、何故だかパルバニはじっと私の顔を凝視している。

 長い前髪が垂れて、その隙間からギョロっとした目で見ているもんだからちょっと怖い。

 何か言えよ。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「あ……いえ、その、誰かに優しくされたのは、は、初めてなもので……」


 別に特別優しくしたわけじゃない、目の前で誰かが倒れたら介抱くらいはするさ。

 だから……そんな顔を赤らめてこっちを見ないで欲しい。


 と、とにかく、問題は斧で斬りつけたほうだよね。

 そしてそれはどう見てもヒナァタなんだけど、少し離れた所でミツキと一緒にいるのもヒナァタだ。

 ようやく思い出した、さっきから忘れていた何かを。


「ああ……ああ……!」


 パルバニを斬りつけたほうのヒナァタが何やら喚いている。ちょっと様子がおかしい。


「何てこと! ヒナァタはアリア様以外の姿になんかなりたくないのに! ずっと敬愛するアリア様の姿でいたいのに!」


 おそらく偽物のヒナァタの顔が崩れ、滲んだ絵具のようになっている。

 この取り乱し方と言動、間違いなく偽アリア……ファルサだな。


「悪いね、あんたの事忘れてた」

「……ああ、リプリン様。少し変わられましたか? 残念ながら遊んでいるほど暇ではないので失礼いたします」


 挑発のつもりで皮肉を言ってみたが効果なし、ファルサはまるで液体のように空中にある切り口に体を滑らせた。

 ……って、何だよあの切り口は!? 空間にできた割れ目というか裂け目というか、見た事ある気がしないでもない。


「まんまとやられたな」


 得体の知れないものを前にうろたえているとゲッペルハイドがやってきた。

 どこにいたんだこいつ、大事なバニーが危ないとこだったぞ。


「これは〈サプライザー〉で切り裂かれた空間の裂け目だ、この中に入ればファルサを追う事ができるだろう。と言うよりは追って来いと誘っているのだろうな」

「罠ってこと?」

「ファルサはお前をルゾン帝国に連れて行きたがっていたのだろう? ならばルゾン帝国に繋がっていると考えるのが自然ではないか」

「あいつ、アリカを殺そうとしたんだけど。通って大丈夫なのかな」

「吾輩達がいつも使う手段なので危なくはない。むしろ〈サプライザー〉を取られてしまったので他に手段が無いとも言うがね」


 う……そう言えばそうか。〈サプライザー〉はそのままファルサが持って行ってしまった、このままではルゾン帝国に行く手段を失ったままになってしまう。

 どうする、これに入る?


「リプリン、行こう!」


 突然、アリカが私の手を取った。少し興奮しているようにも見える、どうした急に。


「行こうって……罠かもしれないのに」

「でもチャンスかもしれないよ?」

「それはそうだけど、私はアリカを危ない目には遭わせたくないんだよ」

「大丈夫! もう遭ってるから!」


 いやダメだろ、何が大丈夫なんだ。

 などと言い返す間もなく強い力で引っ張られ、私の体は裂け目の中へ。

 ぎゃあ! アリカさんなんて事を!?


 さらにアリカに握られている手とは反対の手にも力を感じた。


「わ、わ、私も……!」


 ぱ、パルバニ!? なんであんたまで付いて来るの!?

 うっぷ、裂け目の中は相変わらずグニャグニャしていて気持ち悪い。振り返ると裂け目の入口がどんどん遠くなっていくのが見えた。


 *****


 ワープに要した時間は大したものではなかった。

 スクラスト島に送り込まれた時は意識まで失ったけど、今回は隣の部屋に行くくらいの労力で済んでいる。これを幸いと言うのかは微妙な所だが。


「ここがルゾン帝国なのかな?」


 アリカが周囲をキョロキョロと見回している。

 どうやらどこかの建物の中に出たらしい。見た感じは高級そうな装飾が多い建築物、王宮とかそういった高貴な場所だと思われる。


 それにしてもだなあ……。


「アリカ、ちょっといきなりすぎ」

「だって……」

「だってじゃないよ。ヒナァタさんたちに何も言わずに来ちゃったし、ガベイジが元に戻ったかどうか確認もしてなかったのに」

「……」


 アリカが不満そうにそっぽを向いている。

 そりゃあ、〈サプライザー〉を取られて他に手段がなくなった状況、裂け目だっていつ消えるか分からなかったけど、ヒナァタたちに一言くらいは言っておきたかったよ。


 アリカの事だから悪気があったわけじゃないだろうし、私もそんなに怒るつもりは無いよ? なのに……そんなふてくされた態度とらなくてもいいじゃないの。

 ちょっと私の方が悪い事してるような気分になってきた、どうしたもんかなこれ。


「あ、あの、ケンカはよくないですよ。そそ、それよりあちらに何か、あります」


 何故だか付いて来たパルバニが私の手を引っ張っている。

 どこか知らない立派な建物で得体の知れないバニーになだめられるこの状況、我ながら奇妙だとつくづく実感するなあ。

 でもちょっと困ってたから話題を変えられて助かった。それで何だって? 何かあるって?


 少し居心地が悪かった私は、パルバニが示した方へとそそくさと移動した。

 そこにあったのは……いわゆる祭壇(さいだん)とか篝火(かがりび)


 うわ、暑いなここ。

 見れば広めのホールのあちこちに火が焚かれている、暑いわけだよ。

 真ん中には少し高くなった祭壇と……おや、カーテンに人影が見える、誰かいるようだ。


 ここは何かの儀式でも行う場所なのか? それにしてはカーテンの人影以外に誰もいないようだけど。

 あんな熱が集中しそうな場所にいて暑くないのかな。などと謎の人物の心配をしている場合ではない。

 あそこにいるのは私たちをここに誘い込んだファルサかもしれないし、もしかしたらルゾン帝国幹部の誰かかもしれない。お目当てのヴェルダナかアリアとか。


 まあそれはちょっと都合が良すぎるかな。とにかく見つからないように様子でも探ってみるべきだろう。

 壁や柱に隠れながら少しずつ移動して、と。


「待っていたぞ、侵入者たちよ」


 はい、バレバレでした。

 そういえば誘い込まれたようなものなのだった、私たちが来ている事は知られていて当然か。

 もう隠れていても仕方がないので堂々と前に出て行く事にした。


「やっぱり、私たちが来るのは想定済みだったのね」

「当然じゃ、妾を誰だと思っておる? 妾は業火の大魔女ヴェルダナなるぞよ」


 カーテンに映る人影がヴェルダナを名乗った。

 マジか、いきなりの大当たり。目的の人物その一だとは。


 魔術師会でもきっての実力者だというヴェルダナ。その声は若い女性……というよりももう少し幼い、子供の声のように聞こえる。口調は尊大だけど。

 そういえばカーテンに映る影も小柄だな。


 私はここでフィオナ王女の事を思い出した。

 彼女もブリア王国の王女にして勇者、騎士団でもそうそう止められないほど強いんだったね。それでいて十三歳くらいだったかな?


 そういった天才の系統なのだろう……これはちょっと厄介だぞ。

 だって私の目的のひとつはヴェルダナを魔術師会まで連れ帰る事なのだから。

 なんとなくここまで来てみたものの実際無策のまま、さあどうしたもんか。


 考えを巡らせ立ち尽くしていると、周囲の篝火がゆらめいた。

 次の瞬間、いくつもの篝火が激しく燃え盛り、その炎が台から飛び出し宙を舞う。


「フフフ……客人にはもてなしをせぬとな。せいぜい楽しむと良い」


 炎は渦となって私とアリカ、それからパルバニの周囲を巡る。

 不思議と熱気はそんなに感じない。

 渦巻く炎の壁の中に、何かが見えた気がした。とても懐かしい何かが……。


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