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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第五章 粘土人間と掃き溜めの島
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掃き溜めに狼

 翌日、約束通り私たちはヒナァタに連れられ、島に唯一あるという街へと向かっていた。


 昨夜はいつものごとく一睡もできませんでした。この体が眠らなくても問題ない性能をしていて本当に助かるよ。

 いけないな、こんな繊細な事では。爆睡していたアリカの神経を見習いたいものだ。

 眠れなかった原因のくせしてグウグウ眠りこけやがってこんにゃろう。


 そうだ、この体といえば私の心配事のひとつ、見た目について聞いておかなきゃ。

 ヒナァタとミツキがあまりに見た目についてスルーするから忘れそうになっていた。

 この島でもやっぱりちょっと珍しいくらいの扱いをしてくれるなら助かるし、そうでなければ帽子を失った今、対策を練る必要があるからね。


「ヒナァタさん」

「……ん?」

「今更なんですけど、私の見た目って気になったりしてません?」


 我ながら本当に今更な質問だな。

 もし気にしていたら出会った瞬間に何か言ってるだろうし、家になんか連れて行かないだろう。……アリカと同じ性格でもなければね。

 だからこの質問はあくまで確認のためだ。


「……別に。昨日言ったと思うけど、この島にはワケありな奴らばかり流れ着く。理由は多種多様、見た目だってそうさ。あたしにだってコレがある」


 ヒナァタは自分の頭を指差し、ケモミミをピコピコ動かしてみせた。

 やっぱりその耳、本物なんだ。髪の毛で見えないけど頭の側面には何も無いって事か。


 うーん、ワケありの島かぁ。

 私の見た目を気にしないでくれるのはありがたいけど、今度は治安が気になる。


「これから行く所ってどんな街なんです?」

「……島と同じく、ワケありの街。そんな連中が集まってできた街だから、お世辞にも治安が良いとは言えない。あたしから離れないようにね」


 やっぱりか、絶対に離れないようにします。

 とはいえ女三人、不安が無いとは言い切れない。


「聞いた? アリカ、勝手に出歩いちゃダメだよ」

「わたしの事、なんだと思ってるの」


 あれ、アリカの声のトーンがいつもと違う気がする。もしかしてちょっと機嫌が悪い?

 そういえば手を繋ごうって言ってこない、いつもならこうやって歩いてる時はほぼやってるのに。ヒナァタに遠慮しているなんて事はないだろうし。

 昨日の事が影響してるのかな……否定ばっかりしてたからな。

 フォローしておいたほうがいいのかな。


「アリカ……?」

「あ、見えてきたよ。あそこじゃない?」


 アリカに話しかけようとしたけど、目的の街が見えてきた事によって中断されてしまった。

 むぅ、タイミングの悪い。

 でもまあいいか、機会ならいくらでもある。


 ヒナァタたちの屋敷からしばらく歩き、丘ひとつ越えたくらいにある場所。

 海に面したその街が、この島唯一の街にして今回の目的地だ。


「……あそこが街だよ、掃き溜め街(ガベイジ)なんて呼ばれてる場所さ。さっき言った事、覚えてる?」

「も、もちろんです」


 治安が悪いから離れるなって事でしょ? もちろん覚えてます。

 私たちはヒナァタの後にぴったりとくっついて街へと入っていった。


 ここがガベイジの街か。

 まさに寄せ集めという言葉を体現しているかのような場所だ。

 様々なものが乱雑に積み重なり、家や商店などを歪に構成している。それでいて活気に溢れているのだから、都会とは違った意味で圧倒されそうだった。


 そんな街の入口近く、通りの一角にあるバラック小屋の前で、ヒナァタはとある人物に声をかけた。


「……やあ、ロット」

「おや、久しぶりですねアネゴ。一ヶ月……いや、二カ月ぶりですかい?」


 小屋の前に置かれた長椅子には軽薄そうな男がひとり、退屈そうに煙草をふかしていた。

 ロットと呼ばれたその男はヒナァタを見るなり姿勢を正した。アネゴって呼んでたし、上下関係みたいなものがあるのだろうか。

 その様子を見ていると、ヒナァタがこちらを振り向きその男を紹介してくれた。


「……こいつはロット、何でも屋。情報屋もやってるからこの島の事なら何でも知ってる」

「へへ、褒め過ぎですよアネゴ。ついでに言えば外の事も詳しいですぜ」


 謙遜しながらもロットはまんざらでもない様子だった。

 情報通の何でも屋か、胡散臭さに拍車がかかってるけどそれはそれとして、私とアリカは軽く頭を下げて挨拶した。


「こいつら、新入りですかい?」

「……あたしの妹達。色目使うなよ、殺すぞ」

「そ、そりゃあもう」


 さすがにそれは誰が聞いてもほぼ嘘だってわかるセリフじゃないでしょうか。

 ヒナァタなりに私たちに気を遣ってくれたのだろう。

 ちょっと可笑しくなった。


「妹だってさ」

「ふふ、悪くないんじゃない?」


 ヒナァタはシュイラとはタイプが違うけど、頼れるところはよく似ている。

 私もアリカもそんなヒナァタを好きになりかけているみたいだ。


「……ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「いやいや、それなんですがアネゴのいない間にこっちでもいろんな話がありまして。なんでも西側諸国が統一されてルゾン帝国なんてものになっちまったみたいですぜ」

「……聞いた。船はどうなってる?」

「さすがはアネゴ、耳が早い。ルゾンに変わってから交易は止まっておりやすね、ブリアとは相変わらず取引がありますが」


 このロットという情報屋の話では、ルゾン帝国からの船は無く、また今はこちらからも出していないという話だった。

 つまり、交易船のついでに乗せていってもらうことはできないって事か。

 最悪、ブリア王国には戻れるだろうけど、そこからさらにルゾン帝国に行く道を探すか……? でも確証は無いし、どれだけ時間が必要かもわからないぞ。

 表情は読めないけど、紹介してくれた手前、ヒナァタも残念そうな様子だ。


「……ルゾンに行く手立ては無いって事か」


 するとロットが小声で言った。


「それなんですが、妙な噂がありやして」

「……噂?」

「へえ、オードルの奴を覚えておいでで?」

「……ああ、あの趣味の悪い男か。隅っこで威張ってるチンピラだっけ」

「それが最近になって随分と幅を利かせるようになったんですよ。オードルファミリーが力を持ったワケはルゾン帝国と取引があるなんて噂ですけどね、なんせ船を見た奴がいないもんで実際の所はどうだか」


 オードルという人の事は知らないけど、ルゾン帝国と取引があるかもしれない人物って事?

 あ、でも聞く限りマフィアだなその人。船の目撃情報もないから眉唾な噂で終わるかもしれない、会いに行くのはリスクが大きそう。

 それはヒナァタも同じ考えらしい。


「……ロット、情報屋のくせに曖昧な情報出すんじゃないよ」

「まあ、そんな噂があるって話ですよ。それからもうひとつ」

「……まだ何か?」

「最近ちょいと失踪者が増えてやして、タイミングがアレだけに、ちょっと」

「……オードルの仕業かもって事か」


 それからしばらくロットから話を聞き、私たちはロットの小屋を後にした。


「……あたしは失踪した奴の家を見に行くから、あんた達は帰ってな」


 どうやらロットから調査を頼まれたようだ。街の人からも頼りにされてるんだね。

 さて、私たちはどうするか。

 これからの事を考えるためにいったん屋敷に戻ろうかと思っていると、横にいたアリカが声を上げた。


「ヒナァタさん、わたしならもしかしたら手がかりが見つけられるかも!」

「……?」


 突然の事に戸惑っているらしいヒナァタ。しかしアリカはお構いなしに自分の感覚の事を説明する。

 確かに、古い足跡とか痕跡が見えるほどのアリカの感覚なら、失踪した人の手がかりを見つけられるかもしれない。

 他にやる事のアテも無いし、こういう時は意外な所から発見があるかもしれないし、私としてはいいんじゃないかと思うよ。


「……わかった、付いて来て」


 熱意に押されたのか、ヒナァタは意外にあっさり同行を許可してくれた。

 よし、それじゃあ捜査協力といきますか。

 アリカが、だけど。私は付き添いです。


 商店が立ち並ぶ通りを抜けて、私たちは一番最近に失踪したという人物の家へとやってきた。

 鍵はかかっていない、家主が居なくなったからって不用心だなあ。


「うわっ」


 家の中の様子を見てつい声が出た。

 鍵がかかっていなくて当然だ、家の中はすでに荒らされた後だったのだから。

 これは失踪した際に荒らされたのか、それとも失踪したから荒らされたのか、どっちにしても捜査が難航する事には変わりない。


「アリカ、ひどい有様だけど大丈夫?」

「うーん、とにかくやってみるよ」


 アリカが痕跡を探して集中している間に、私も何か手伝えればと周囲を見渡す。

 そんな中、ふとぬいぐるみが目に入った。

 これってヒナァタの屋敷にもあったやつだ。そういえば、ここに来るまでに通った商店街でもやたら見かけた。流行っているのだろうか。


「ヒナァタさん、このぬいぐるみですけど流行ってるんです?」

「……さあ、知らない。最近は街に来てなかったし」

「でもヒナァタさんの家にもありましたよ。私たちが使わせてもらってる部屋に」

「……知らない。ミツキかな、あいつ黙って街に行く時があるから。本当に稀にだけど」


 どちらの趣味なのかと思ってたけど、どうもミツキの方らしいね。ワイルドなヒナァタだったらギャップがあって面白かったんだけどな。

 それにしても、一緒に暮らしてる恋人同士でも知らない事はあるのか。

 ま、そりゃそうか。

 私だってアリカについて知らない事もある、アリカにしている隠し事もある。


 そういやそのアリカはどうした?

 見れば床を見つめながらうんうん唸っている、大丈夫かな。


「どうかした?」

「えっとね……人の出入りはあったみたいだけど、争ったような痕跡はない」

「つまり?」

「怪しい痕跡はないって事」


 無いかぁ、無いものはしょうがない。

 ヒナァタも最初から期待してはいなかった様子だ。


「……とりあえず、ここには何も無さそうだね。出ようか」


 こっちから協力を申し出ておいて、なんかすいません。

 アリカと一緒になってしょぼくれちゃって、おかげでヒナァタが苦笑している。


「……こんな事もあるさ、気にするな。気晴らしにガベイジでも案内しよう、美味いもの奢ってやるよ」

「わあ、ありがとうございます!」


 今の一言で大喰らいが簡単に釣れた、チョロい。

 かくいう私もちょっと楽しみだな。


 ドン


 いてっ。

 家の外に出ようとしたら、扉の前で立っていたヒナァタにぶつかった。

 そんなところで立ち止まって何してるんです?


「ヒナァタさん、お久しぶりです」


 声が聞こえた、高い男の声。

 ヒナァタは家を出たところでその男に出くわし、足を止めていたようだ。

 色の趣味が悪い小綺麗なスーツを着た痩せた男の姿が、ヒナァタの肩越しに見えた。


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