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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第四章 粘土人間と世界情勢
40/91

監禁部屋と監視部屋

 ――落ち着かない。

 この部屋に閉じ込められて、体感だと数十分から一時間くらい経ったかな。

 私は何をするでもなく、そしてされるでもなく、ただガラス越しに魔術師によって監視されている。


 おかしな実験をされないだけマシだけど、ここまで何も無いと暇でしょうがない。

 もちろん、私だってただぼんやりしているつもりはない。

 こうしている間にもなんとか脱出する方法、もしくはアリカや他の誰かに知らせる方法を思案しているのだ。

 その成果は(かんば)しくないけどね。


 それにしても、ただひたすら見張るだけって担当の人も退屈じゃないのかね。

 楽な仕事と捉えるかどうかはその人しだいか、でも私は嫌。


 ……おや、ガラス窓の向こうで動きがあった。

 外から人が来て、私の監視を行っていた魔術師たちを連れて行ってしまった。

 何があったかは知らないけど、これは脱出のチャンス到来か!?


 監視の目が無くなったところで、私はさっそく部屋を調べてみた。

 壁や床は金属製、とても叩いて壊せるようなシロモノではない。

 金属製のドアには鍵穴もなく、ぴったりとはめ込まれた窓同様、わずかな隙間も見当たらない。

 窓のガラスも頑強だ、少なくとも私の力じゃびくともしないらしい。


 ちょっと、これ軽く詰んでないかい?

 プリズマスギアも取り上げられてるから特殊な力は使えないし、わあ、お手上げだあ。


 ――ふと見上げると、上に何かあるのに気が付いた。

 隙間の無いガッチガチの部屋にわずかな隙間が見える。

 あれって、いわゆる通気口?

 確かに、これだけ隙間なく作られた部屋なのだ、通気口でもなければ窒息してしまう。

 わざわざ不死身の私用にあつらえたわけでもないだろうし、たぶん間違いない。


 だとすればやる事は決まった。

 プリズマスギアは無くても、体の変形は私自身の特技なんだ、問題ないさ。

 ただ手をのばしたくらいじゃとても届かない、だからもっとのばす。

 他の部分がちょっと細くなってもかまわないくらいに思いっきりのばす!


 のびた手で通気口の格子を掴んだら、今度はのばした分を戻せばいい。

 そうやって自然に引っ張り上げられたら、全身を柔らかくして通気口に入り込めば……とりあえず監禁部屋からの脱出には成功!

 おっと、格子を通る時は尊厳という名の衣が破れないように気を付けて、と。

 こんなペラペラな布切れでもないと恥ずかしい。


 しかしこの脱出方法、どう考えても化物だ。アバラント呼ばわりされても仕方ない方法だなあと自分でも思うよ。

 今度やる時はのばした部分をハシゴ状にして見栄えを良くしてみようかな。


 通気口の中は人が通れるくらいの広さがあった。

 出口か知り合いを探して金属の管の中を這っていく私。モグラになった気分。

 進んでいると、入った時と同じような格子が時々見える。

 どうやらさっきまで私がいたような監禁部屋がいくつも存在しているようだ。


 でも……なんていうか、ここの人たち大丈夫かって思う。

 だって他の部屋ときたら、何もない部屋にポツンとリンゴがひとつ置いてあるだけだったり、隅っこに割れた板みたいなものが転がってるだけだったりとわけわかんないんだもの。


「……!」


 そんな中でも、見ていくうちに不気味なものが存在する事に気が付いた。

 部屋の隅でうずくまり、微動だにしない人間のようなもの。

 生物といっていいのかすらわからない謎の生物。

 酷い状態なのに放置されている……死体に見える何か。


 私はいたたまれなくなって、視線をそむけ足早に通り過ぎた。

 あまり見ていると気が狂いそうになる。

 ここに収容されているのは異界の影響を強く受けたプリズマスギアやアバラントという事か……。

 私もアレと同系列として収容されたんだな。ちょっとムカつく。


 気を取り直してモグラ続行、早く逃げ道を見つけたい。


 ガタン!


「うわっ!」


 突然、通気口の底が抜け、私は下へ放り出されてしまった。

 やばっ!

 ……くはない、みたいかな。


 ここはどうやらどこかの通路らしい。

 誰もいないのも助かったし、ヤバいのが収容されてる部屋じゃないのも嬉しい。

 運が向いてきたという事にして先に進むとしよう。

 脱出するのもそうだけど、帽子だけは取り返しておきたい。

 見つからないように探さないと……最悪、プリズマスギアは諦めよう。


 ガン


 ん? 何か音が聞こえた。


 ガン ガン


 音は上の方からだ。

 通気口か? 私が通ってきたのとは反対方向から音がする。


 ガン ガン ガン


 音がだんだん近づいて来る。

 ここの魔術師ならそんな所は通らない。え、なに、怖いもの来てる?

 慌てて周囲を見渡すも隠れられそうな場所はない。

 仕方なく反対側に走ろうとしたその時。


 ガタン!

 ドサッ!


 目の前に音の原因だったモノが落ちてきた。

 私と同じく通気口を突き破って。


「あたた……」


 落ちてきたモノが、床に打ち付けたお尻をさすりつつ痛がっている。

 それは私にとって非常に見慣れたモノ、いや、人物であった。


「あ、アリカ!?」

「あれ、リプリン。偶然だね、見つかって良かった!」


 私を見るなりうれしそうに微笑むアリカ。

 そりゃ私も会えてうれしいけど……なんで通気口から落ちてきたの?

 ふたりで二か所も穴開けちゃって、見つかったら怒られるぞぉ。


「リプリン、どこ行ってたの? こっちは大変だったんだよ」

「大変さ加減で言えば絶対に私の方が上だと思うけど、とりあえず聞いとく。何があったの?」

「まず、わたしはホウリさんを追いかけて待合室から出たよね」

「そうだったね」


 ホウリとクラリッサの訳アリな様子を見て付いて行ったんだったね。

 貴重な話は聞けたけど、シュイラとふたりってのは緊張したよ。


「で、追いついたはいいけど微妙な空気だったから、結局話しかけられなかったの」

「アリカが言うんだからよっぽどだったんだな……」

「それから戻ろうとしたんだけど迷っちゃって。そのうちに警報みたいなものが鳴って、あちこち通行止めにされちゃった。「あばらんとが逃げた」とか言ってたけど、何の事だろうね?」

「あー、それ私かも」


 私は検査と称して連れていかれた後の事をかいつまんで説明した。

 あまり心配かけたくなかったから手心を加えて話したけど、それでもやっぱりアリカは怒りだした。


「ひどい! そんな事するなんて!」


 そりゃ怒るよね。

 私だってアリカと立場が逆だったら怒る。もうこの上ないくらい怒る。


「ねえアリカ、この事ホウリさんは知ってると思う?」

「わかんないけど……わたしの知ってるホウリさんはそんな人じゃないよ。話を聞いてみてもいいと思う」

「だね、まずはホウリさんを探そうか」


 帽子とか見つけたいものはあるけれど、追い回されていたんじゃ何もできない。

 まずは話の通じそうな人を探して――


「誰だ!」


 あ、しまった。

 追われてる立場にも関わらず通路で話してたもんだから見つかっちゃった。

 フードを被った魔術師がふたり、手には細長い箱のようなものを持ってこちらに向かってくる。


「アリカ、逃げ……」


 逃げようと言おうとして言葉を飲んだ。

 アリカは魔術師たちの方をまっすぐ見て、細長い箱のようなもの……魔術師たちが持っているものと同じものを目の高さに構えていた。


「このお!」


 アリカの声と共に衝撃波が発生、空気が渦を巻き魔術師たちを吹き飛ばした。


「ぐあっ!」


 ふたりの魔術師は壁に叩きつけられ、そのまま力なく床へと崩れ落ちる。

 痛そうにうめき声を上げているから死んではいない、そこまでのケガもしていないようだし大丈夫でしょ。

 なんというか……便利な道具だね。


「それ、何?」

「えっとね、確か魔導銃だったかな。誰でも素早く魔力で攻撃できるようにする道具なんだって。慌ただしく配ってたからひとつ借りてきちゃった」


 借りてきたって……おそらく『無断で』が付くなこりゃ。

 まあ今はいい、とにかく逃げるチャンスだ。

 道はわからないけどとりあえず魔術師が来た方向とは逆方向に、私たちは通路を駆け抜けていった。


「ところでアリカ、どうして通気口から落ちてきたのよ」

「さっき言ったでしょ、通行止めされちゃったって。でも危なそうな雰囲気だったから、リプリンが心配で探すことにしたの」

「それで通気口ね……」


 私の場合はそれしかなかったとはいえ、考える事は似たようなものか。


「ここの通気口、古いのか底が抜けやすいよね」

「ほんと、おかけでお尻打っちゃった」

「それにしてもムチャするんだから。このあたりの部屋の中ってヤバそうなのが入ってるんだよ、変な所に落ちてたら危なかったんだから」

「……アバラントってやつ?」


 アリカが何やら考えている。

 あ、しまった! アバラントが異界の影響で変異した生物だって説明したばかりだった。

 まさか調べたいとか言い出すんじゃないでしょうね。


「ちょっと、何考えてるの」

「……ん? あはは、大丈夫だよ。危ない事は考えてないって」

「本当に?」

「だって、リプリンが一緒に探してくれるんでしょ? もうひとりでムチャする必要ないもん」

「う……なら、いいけど」


 ここで変な気を起こさないのならそれでいいか。

 じゃあふたりでムチャしようとか言い出さないだけまだマシだ。


 それにしても広い場所だ。もう結構な距離を走っているのにまだ通路ばっかり。

 分かれ道もあるから同じ場所を回っている可能性もある、印でも付けとこうかな。


「あっちだ!」


 前方の通路から声が聞こえた。

 やばっ、じゃあ曲がった先へ――


「この先だ、逃がすな!」


 うわ、こっちからも来た!

 しょうがない、ここは一旦引き返すしかない。


「どっちへ行った!」


 と思ったら後ろからも!

 三方全塞がりだって!? どど、どうしよう!


「リプリン、こっち!」


 不意にアリカに手を引っ張られ、私は近くにあった扉の中へと吸い込まれた。

 扉を背にふたりで息を殺し様子を伺う。


「いたか?」

「いや、向こうを探そう」


 ……。

 足音が遠ざかっていく、とりあえずは助かったかな?


「ふう、危なかった」

「なんとかやり過ごせたね」


 アリカがとっさに部屋に隠れさせてくれて助かったよ。

 それにしても魔術師たちは間が抜けている、必死に探しているなら途中にある扉の中くらい調べなさいっての。


 それにしてもこの部屋はなんだろう。

 そう思い振り返った瞬間、私は何の部屋であるかを理解した。

 部屋の構造が同じなのだ。さっきまで私がいた部屋や、ここに来るまでに見てきた部屋と。


 背筋にゾッと冷たいものを感じた。

 こんな部屋、何がいるかわかったものじゃない。さっさと出ていこう。


「アリカ、出よう。この部屋ちょっと嫌な感じがする」

「それはわかってるんだけど……開かないんだよね、ドア」


 え、マジで?

 交代して扉をあれこれいじってみるけど、アリカの言う通りびくともしない。

 なんで……? さっきはあんなに簡単に開いたのに!


「閉じ込められちゃったね」


 アリカは軽く言ってくれるけど、状況はかなり悪い。

 孤立無援で追われている上に得体の知れない監禁室、その横の監視部屋とはいえ閉じ込められてしまっているんだ。

 ……私たち、閉じ込められる状況多くない?


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