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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第二章 粘土人間と異界遺物
27/91

これもある意味キノコ狩り

 迫るキノコ軍団、動けない私。

 お話だったらここで救いのヒーローが現れて、バッタバッタと敵をなぎ倒す!

 ……くらいの事をしてくれてもいいのだけれど、そんな人物は現れそうにない。

 こんな粘土っぽいヒロインもいないだろうし。


 しょうもない事を考えているうちに、デカキノコの一体が私の目の前までやって来た。

 デカキノコは自慢げにその剛腕を振り上げ、うずくまる私を思いきりキック!


 ドゴッ!

 ギャー!

 為す術もなく、ボールのように蹴り飛ばされる私。

 いや、そのマッチョな腕は使わないんかい!


 いてて……。

 けっこう痛かったけど、おかげで精神的なダメージの方はちょっと散った。

 こ、これでなんとか多少は動けそう。


 間髪入れず、私を蹴り飛ばしたデカキノコがさらに追い打ちを加えようと走って来る。

 ドスドス体を揺らしちゃって、太り過ぎだよ。

 蹴られた痛みと精神的ダメージが合わさってかなり怒りが湧いてきた。


「こんのぉ、そんな立派なもの持ってるんだからパンチを使え、こんな風に!」


 右手に力を集中し巨大化させる。

 この巨大化に使っているであろうルーペのプリズマスギア、こいつがかなり曲者らしい。

 大きさの変化ができるにはできるんだけど、その時々じゃないとどれくらいの範囲まで可能なのかわからないのだ。

 今は……当たりかハズレかどうなんだろうねコレ。

 固く拳に握った右手は人間一人分くらい、ちょうど走って来るデカキノコの体長と同じくらいの大きさに巨大化している。


 当たりってことでいいよね、てなわけで喰らえ必殺ジャイアントパンチ!

 以前のカニパンチの時もそうだったけど、でっかいものはそれだけで強い。

 考えてもみなさい、自分の体と同じ大きさのパンチが飛んできてタダで済むわけがないでしょうに。

 ゴッツーンと正面からパンチを喰らったデカキノコは勢いそのままに後ろへと転がる。

 さっきと逆だね、ざまあみろ!


 うーん、いいね。パワー最強。

 いっそのことゴリラ系女子でも目指してみようかしら。


 なんて事を考えている間にもう一体、いや二体。……三体、四体。殴り飛ばしたやつも合わせて五体。

 五体のデカキノコが私を取り囲むように近付いてくる。

 今回はそのマッチョな腕をちゃんと使うつもりらしい、私の動きから学んだとでも言うのだろうか。

 なあに、またブッ飛ばして――


 ……あれ、手が小さい。

 いや小さくはない、普通のサイズ。さっきと比べて小さいという意味。

 げげ、このタイミングで元に戻るか!? 気まぐれすぎるぞこのルーペ!


 ちょ、ちょっと、また巨大化してよ、お願いだから!

 力の入れ方が違う? なんかこうコツでもあるのか?

 キノコたちはもう目前まで迫っている、あれこれ試す時間なんか無いぞ。

 こうなったら仕方がない、指を刃物状に鋭くしただけのちっぽけクローでやってやる!


 ベシッ!

 ギャー!


 ダメだった。

 痛烈な平手ではたかれて、床に思いきり顔から叩きつけられる私。

 そもそもでっかいキノコに対してリーチがまるで足りてない。届かないなんて攻撃にすらならないよ。どうしたものか……。


(常識を疑いたまえ)


 こんな時に変な言葉が頭をよぎった。え、何?

 これ誰の言葉だっけ……? あ、ゲッペルハイドだ。

 常識を疑えって、今ここでかよ。

 マッチョなキノコに襲われてるって時点で、私の知る常識なんかとっくに外れてると思うんですけど。


 えーと、とにかくこの状況を乗り切らないと。

 まずどうしようかな?

 リーチが足りないのならのばせばいい、それこそアリカの自在剣みたいに。

 手はまだクロー状にしてある、ここから腕の部分を延長してリーチをカバー。

 骨なんか無いからロープのように扱える。アリカみたいに器用にはいかないけど、こいつらを撃退するくらいには十分だ! と思う。


「必殺、えーと、シューティングクロー!」


 矢のように高速で放たれる私の手。苦し紛れの作戦は成功した、……ただし半分だけ。

 キノコの一体に突き刺さるクロー、だがそこに腕は繋がっていない。


「痛っだぁ!」


 腕を長くして耐久性が落ちたのが原因か、私の必殺クローは手首から先だけが矢のように飛んで行ってしまった。

 ぐうう、い、痛いけど……これはこれでアリ、かな?


 クローが突き刺さったキノコは後ろに倒れ動かなくなった。しなった腕が簡易の投石器のような働きをして威力自体は十分みたい。

 だったらもう少し常識を疑ってみようか。


 手首まるごと飛ばすのは痛いし効率が悪いから……そうだ、指だけなんてどうかな。

 指をなるべく大きく硬く、ついでに鋭く。


「完成! 必殺、シューティングクロー改、えっと……指ミサイル!」


 とにかく名前を新しくしようと思っていたので、とっさに変な名前になった。

 ネーミングセンスがないのは自分でも分かってるよ、いいんだこれで。


 大事なのは結果よ結果。

 極太の円錐ドリルが三本、猛烈な勢いでキノコに向け放たれる。

 発射の推進力はどうなってるんだろうね?

 きっと何かうまい具合に力が働いてるんでしょう。根元の部分だけ瞬時に縮小拡大して反動を生み出している、とかね。

 指だけに絞っているおかげで先程の手首クローよりも痛みがちょっとだけ少ない、でも威力はむしろ上がっていた。


 ドリルミサイルは三つ同時に真っすぐシュート。

 威力も抜群、その破壊力はキノコの胴体なんて突き抜けてしまうほどだ。

 直撃したキノコ三体が、胴体に大穴を開け豪快に床に倒れた。

 よおし、あと一体!


 ボウッ!


 おわあ! 何、何!?

 デカキノコが最後の一体になったと思ったら、いきなり激しく炎上した!

 また私の未知なる力が発動しちゃった?


 呆然とする私の前に、メラメラ燃えるキノコの後ろからガッポガッポと妙な足音を立て現れる人影。

 鎧のような風船のような、全身を覆う黄色いスーツが丸いシルエットを作り出している。

 手には火を吹く不思議な筒、キノコを燃やしたのはこいつの仕業か。


「……」


 で、何者なんだこいつ。

 顔の部分は透明だけど、スモークがかかっているのかこちらからは中が見えない。

 妙な緊張感で押し黙っていると、向こうから話しかけてきた。


「リプリン!」


 謎の人影は私の名前を知っている。でも私にはこんな知り合いはいない。

 いや、ちょっと待てよ……。

 声がこもって聞こえ方が違うけど、どことなく聞き覚えがある。


「……え? その声、アリカ?」

「うん、そうだよ。遅くなってごめんね」

「それはいいけど……ていうか、なにその格好」

「防毒服に決まってるでしょ、わたしはリプリンみたいに毒がへっちゃらじゃないんだから」


 聞けばアリカは私がひとりで向かった事を心配し、防毒服と除草用の火炎放射器だけ借りて大急ぎで戻って来たらしい。


「それにしても驚いたよ。街の中に突然変なキノコが現れて、「我は王なり」とか「人類は滅ぶべし」とか騒ぐんだもん」


 あ、やっぱり。

 あいつ地下水道から飛び出して街に現れたのか。


「それで、そいつは?」

「危なそうだったからギルドの人がやっつけちゃった。あれって何だったのかな?」

「あはは……そいつ、あのサンショウウオの心臓みたいなもんだよ」


 簡単に経緯を説明すると、アリカも大体の事を理解したみたいだった。

 それから、アリカから報告を受けたギルドが準備ができ次第ここを大掃除に来るらしい。

 やれやれ、これでこの件は解決かな。


「あ、そうだ。はいリプリン、あーんして」

「……?」


 言われるままに口を開け、アリカの差し出したものを食べた。

 何だろうこれ、解毒剤? 毒の心配はいらないよ?


「変な味……これなに?」

「上でやっつけたキノコ」


 ブッ!

 な、なんてもの食わすんだ!

 うええ、飲んじゃった。私にもキノコが生えたらどうしてくれる。

 あれぇ? おまけに吐き出そうと思っても出てこないぞ、なんでだ!?


「キノコがいた場所に小さなしおれたキノコが落ちてたんだよね。たぶんこれプリズマスギアだし、ホウリさんもその可能性が高いって言ってたから」

「ああ、なるほど。って、だからっていきなり食べさせないで――」

「あとこれね。はい、帽子とマント! 人が来ないうちに戻ろ!」

「……ありがとう」


 怒られそうな時にお礼を言われるような事をするのは良いアイデアだと思った。

 機会があったら参考にさせてもらうよ。


 *****


 その後、ギルドの一斉掃討作戦により菌糸やキノコはきれいに排除され、地下水道は元の機能を回復した。

 私たちはといえば、なぜだか街を救った英雄という扱いになっており、アリカだけでなく私まで有名人になってしまった。

 あのまま気付かなければ猛毒によってアルマンディ全体が汚染されていたのだろう。それを思えば当然なのかもしれないけど、あまり目立ちたくない私にはちょっと複雑。

 もともと人気者のアリカは楽しそうだったけどね。


 なお、これによって報酬が増える……なんて事はなかった。

 でも街の人たちからあれやこれやとお礼の品をもらったから、これで長旅の準備は十分整ったと言える。

 準備にまわす予定だったお金も取っておけるし、またしばらくは余裕をもってやっていける。結果オーライだね。


「ところでさあ、リプリン」

「ん」


 細かな準備をしていた私をアリカが呼ぶ。

 何だろうと思い振り返ると、アリカの顔がすぐ目の前まで迫っていた。

 近っ……!?


「う……わっ!?」

「ひゃっ」


 思わずのけぞった動きが大きかったのか、アリカまで驚いた顔をしている。


「あーびっくりした」

「び、びっくりしたのはこっちだっての。何なのいきなり」

「だってリプリンから変わった匂い? みたいなものがするんだもの」


 そりゃ風呂に入ったとはいえ地下水道でネバネバだらけになった後ですから。

 乙女だって臭いときは臭いものよ。

 腕を嗅いでみるけどよくわからない、自分の臭いには気付きにくいって言うし、そもそも私はちょっと感覚が鈍い。でもそんなに臭いかなあ。


「そんな臭うか。洗い方が足りなかった?」

「そうじゃなくて、うーん、何て言ったらいいんだろう。不自然な気配というか……」


 アリカは私の周りをぐるぐると回りながら、あちこち調べるように考え込んでいる。

 まるで浮気でも疑われているような気分だ。実際、勘の鋭いアリカを彼女にしたら大変だろうとは思う。いや、やましい所がなければいい話なんだけど。

 て、そうじゃなくて。別に私は誰に会ったわけでも……。いや、会ってるか?


「もしかしてアレかな」

「お、白状する気になった?」

「何の話だ。冗談はさておき、実は地下水道でゲッペルハイドに会ったんだよね。それでいつか見た鏡の玉みたいなプリズマスギアを貰ったの――」


 ぺしっ


 いたた、ちょっと何?

 話の途中だってのにアリカがかわいらしくポカポカ叩いてくるんですけど。


「アリカ、痛いって、やめてよ」

「リプリン! 団長さんに会ったんならどうして言ってくれなかったの!」

「だってアリカはみんなに知らせに行ってたじゃない。それに私だって会いたくないのに会うとは思ってもみなかったし」

「うう~」


 まだ納得はいっていないようだけど、とりあえずポカポカはやめてくれた。

 あの箱頭にそんなに会いたかったの? プリズマスギアは手に入れてるけど。


「それにしても、よくわかったね」

「……うん、最近ちょっと感覚が冴えてる気がしてたんだけど、なんかキノコの毒で刺激されてから一気に凄くなったんだよ。……たぶんだけど」

「たぶんて」


 そういえば、ゲッペルハイド(かもしれないサメ)がアリカに何かを渡したとか言ってたな。

 あの時、アリカとゲッペルハイドの間で物がやりとりされた様子はなかった。


(かのじょはよいかんかくをしておいでですよ)


 ――もしや、渡されたものって……『感覚』なのか?


「ねえアリカ、私からする匂いって、他にどこかで感じた?」

「えっ、そうだなあ……街でやっつけたキノコからも同じ匂い、っていうか気配がしてた、と思う」

「やっぱりね」

「?」

「アリカ、前にゲッペルハイドに会った時の事、覚えてる? アリカがおかしくなってた時」

「う……覚えてます。その節は……」

「怒ってるわけじゃなくて、ゲッペルハイドが言ってたのよ。アリカにも何かをすでに渡したって」

「わたしに?」

「おそらくだけど、『感覚』を受け取ってるんだと思う。それも異界を探知できるような」

「あっ、確かにそんな気がする! リプリンからするの、きっとプリズマスギアの匂いなんだよ!」


 疑問が解決したにもかかわらず、アリカはさらに私に向けて鼻をクンクンさせている。


「いや、もう理由分かったんだからいいでしょ」

「うふふ、けっこうクセになるかも」


 ならなくてよろしい、やめなさいっての。


 ――ところで、どうしてゲッペルハイドがそんな事をしてくれるのか、私には全然わからないんだよね。

 でも、それが異界を調べるのに役に立つのなら大歓迎だ。

 裏がありそうでちょっと怖いけど。


「さ、謎がひとつ解けたところで……ほらアリカ、準備準備!」

「あ、それなんだけど、もう大丈夫だよ」

「どうして? まだ持って行くものを選んだり荷造りとかしてないんだけど」

「いいからいいから!」


 理由を聞いてもアリカは笑うばかりで答えてくれない。

 大丈夫かな……これで出発の準備ができたと言えるのだろうか、不安だ。


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