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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第二章 粘土人間と異界遺物
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力の代償は安いと助かる

「リプリン!? どうしたの!?」


 アリカの驚いている声は聞こえるものの、それに反応できないでいる。

 な、何なんだこの感覚。

 怖い、寒い、悲しい、いろんな感情が一度に押し寄せてくる。

 一瞬、目の前で故郷を焼かれ、親しい人たちを殺されるイメージが頭をよぎった。

 これは私が経験したものじゃない、じゃあ誰の?

 うう、立っていられない。

 私はその場にうずくまった、体がカタカタと震えている。

 アリカが一生懸命背中をなでてくれているけど効果は薄い。ごめんアリカ、せっかく気を遣ってくれているのに。


 それからしばらくして、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

 ホウリがどこからか戻って来たらしい。


「いやー、驚いちゃった。お姉さん、気が付いたら大門の前に立ってるんだもの。いったい何が起こったのかな……。わあ、リプリンちゃん、大丈夫!?」


 それと同じくし、私の謎の感覚も徐々に収まり、ようやく自力で立ち上がれるようになった。

 ふう……ああ驚いた。

 さっきのはいったい何だったのだろう。


「だ、大丈夫です。それよりホウリさんこそ大丈夫ですか?」

「うん、今言ったとおり、お姉さん気が付いたら門のところにいたんだよねー。突然ワープさせられたみたいだけど、何が起こったのかな?」

「……あ!」


 ホウリの話を聞いたアリカが声を上げた。


「ねえ、今のって〈裏の教会〉のやつじゃない?」

「〈裏の教会〉……。ああ、確かに」


 この間行って来たばかりの〈裏の村〉という怪異。

 そこの教会の入ってきた者をどこかに飛ばすアレ、言われてみればホウリの身に起こった現象とよく似ている。


「じゃあ、今のって……」

「そのロザリオの力だよ、きっとそう! しかもそれって、リプリンならプリズマスギアを使えるって事なんじゃない!?」

「私が? いやまさか……」

「思い出したんだけど、おじいちゃんが「あのルーペは実際に大きさを変えてしまう」とかなんとか言ってた事があるの。というわけで、大きさ変えてみて?」


 変えてみて、じゃない。

 そんな簡単にスーパーパワーが使えてたまるか。

 ていうか危ないな、そんな大事な事もうちょっと早く言え! そして散らかった部屋に放置するな!


「そんないきなり言われても、やり方なんてわかんないよ。それにさっきホウリさんが消えた時、怖いような悲しいようなイメージに襲われて大変だったんだから」

「やってみないとわか――」

「はいストップ!」


 アリカが何かを言おうとしていたタイミングで、ホウリによって中断された。

 ホウリは自分のデスクにつき、いつになく真面目な顔をしている。


「ここまでの話と騎士団からの報告をまとめるねー」


 でも口調は変わっていなかった。

 とりあえず黙って話を聞こう。アリカも口を閉じて神妙な顔をしている事だし。


「たった今、身をもって経験した事から推測すると、リプリンちゃんは何らかの理由でプリズマスギアに秘められた力を使えるみたいだねー」


 ホウリの推測によれば、この体の特性なのか、取り込んだプリズマスギアから何らかのエネルギーを引き出せるのではないかという事だった。

 しかし、同時に別のものも引き出してしまう可能性もある。

 例えば、さっきのワープのように、プリズマスギアに宿った恐怖や悲しみといったものまで引き出し、副作用として私に降りかかってくるという。


 うん、実際そんな感じだった。

 もしかして、あの時のカマキリ女が体験した事だったのだろうか?

 クラリッサがあの辺りは戦火で焼かれた村があったと言っていたし、あり得ない話ではない。

 今となっては知るすべはないのだけれど。


「なるほど。もしかしたら、手を大きくしたり伸ばしたりできるのも、ルーペのほうのプリズマスギアのおかげだったのかも」

「うん、きっとそうだよ。さすがはおじいちゃん!」

「なんでアリカが自慢げなの」


 アリカはドヤ顔でこちらを見ている。

 さっきも思ったけど、実際に物の大きさを変えてしまうようなものが身近に転がっていたんだから、下手をすれば目覚めたら小人だったとか酷い目にあってた可能性もあるわけだよね?

 そのへんどうなんですアリカさん、可愛い顔してもごまかされませんよ。


「それでリプリンちゃん、これからどうするの?」

「え?」

「それは未知数の力を持つもの、危険な可能性も十分にあるわ。それでも持って行く?」


 ホウリの口調を忘れた言葉に緊張が走る。

 確かに危険かもしれない、でも、これはチャンスだと私は捉えた。


「……私は、強くなる方法を探してました、元の姿に戻る方法も。治療も失敗して、魔法も使えないこの体なら、未知なる可能性に賭けてみたい……です」

「あなただけじゃなく、周りの人も危険に晒す可能性もある。ちゃんとわかってる?」

「……」


 そう言われると言葉に詰まる。

 最悪、世界規模で影響が出る可能性だって無いとは言えない。

 もしそうなった時、私に何ができるのだろう。もちろん、謝って済む問題じゃないよね。


「もしそうなったら、ふたりで謝ろ!」


 アリカが後ろから私の背中に両手を置いてそう言った。

 いやいや、そんな簡単な問題じゃないでしょ。


「ふたりで謝るってあんた……」

「大丈夫、今までだってなんとか解決してきたじゃない! きっとこれからもなんとかなるよ!」


 その能天気さ、羨ましい。

 でも、そうだね……。そのくらいの気持ちじゃなきゃ、できるものもできないか。

 何より、こいつがいるとできそうな気がするから不思議だ。


「ホウリさん、私、やります。危険かもしれないけど、アリカとふたりで何とかしてみせます、きっと」

「……」


 しばしの沈黙が続いた。

 そして。


「うーん、青春! いいなー、お姉さんもそれやりたいなー!」

「……あの、ホウリさん?」

「できたらルーペのほうもよく調べておきたいんだけどねー。こちらの世界でも影響力を持っているという事はタイプA、危険性が高いと推測されるもの。でもリプリンちゃんの体内にあると何故だか安定するみたいだから、今はそれでいいかなー」


 えー、何それ。葛藤して損した。

 まあいいや。これで強くなるにしても元に戻るにしても希望が繋がった。

 私にだってできる事が、いや、私にしかできない事があるんだ!


「それで、あなた達にはこれから魔術師会本部と王都に行ってもらいたいの」

「魔術師会はともかく、王都ですか?」

「そう。騎士団からリプリンちゃんの事をいろいろ聞かれちゃってねー。お姉さんの権限だけじゃ限界だから、いっそ王都に行って王国議会に掛け合おうかなって」


 あ、そうだった。

 三つ目の問題、それは騎士団にバレた私の立場だ。

 騎士団っていうか具体的にはクラリッサ。私を目の敵にしてるアイツ。


「でもねー、今はちょっと王国議会の方は忙しくてダメかもしれないなー」

「何かあったんですか?」

「実はね、最近になってブリア王国の西側に存在する小国に大きな動きがあったんだよー。西側諸国を統一したその集団は〈新生ルゾン帝国〉を名乗って国を立ち上げたの、だから王国議会はその対応に大忙しってわけだねー」


 新生……ルゾン!?

 それは私にとっては忘れられない名前だった。

 当然だ、私が住んでいた生まれ故郷、今は滅んだその国と同じ名前なのだから。

 あれ、でも帝国? 以前は王国だったんだけどなあ。

 かつてのルゾンの生き残りが立ち上がったとかそう言う事なんだろうか?

 だとしたら……きな臭い。戦争にならなきゃいいけど……。


「大丈夫?」


 困惑していたのが顔に出ていたのか、アリカがそっと話しかけてきた。


「うん、大丈夫。知った名前だったから驚いただけ」

「本当に?」

「本当に。もう六十年経ってるんだもの、私の知ってる国と同じだとは限らないし、いまさら特に思うところもないよ」

「そう……」


 不意を突かれた形で聞き覚えのある名前を聞いたために動揺し、アリカに余計な心配をかけてしまった。

 でも本当に大丈夫だから。うん、大丈夫。


「それで、王国議会がダメって事は魔術師会本部のほうへ行けばいいんですね」

「だねー。お姉さんから魔術師会に話を通しておくから、ふたりで行ってみるといいかもねー!」


 魔術師会か……ちょっと魔錬研を思い出すなあ。

 いつからある組織なのだろう、マギクラフト所長は魔術師会に属していたのかな?

 懐かしい名前を聞いたせいもあり、さまざまな思いが私の頭をよぎった。


「……わかりました、お願いします」

「うん、お姉さんにお任せー!」


 こうして、私たちはアルマンディを離れ魔術師会本部へと向かう事となった。


「魔術師会かあ、どんな所かなあ」

「アリカは行った事ないの?」

「うん、ダンジョンとかはあちこち巡ったけど、魔術師会には行った事ないの。ホウリさんと知り合ったのもわりと最近の事だからね」

「そうなんだ」

「プリズマスギアを探すにあたっていつか行かなきゃと思ってたから、むしろわたしにとってもグッドタイミングってやつ?」


 アリカが一歩、跳ねるように前に出てこちらを振り向くとイタズラっぽく笑った。


「リプリン」

「な、何?」

「楽しみだね!」


 そ……そうだね。うん、私も楽しみ。

 長旅になりそう、しっかり準備しておかないとね。


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