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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第二章 粘土人間と異界遺物
20/91

異形注意報

 私の粘土みたいな体を生かした変形、少しずつ練習してた積み重ねを今こそ見せてやろうじゃないの。

 アリカの冒険の助けになればと思ってたけど、まさか本番が人間相手、それも治安を守るはずの騎士相手だなんてどうなってるんだか。

 でもここまで来たらやるしかない。相手だって簡単には見逃してくれそうにないからね。


 まずは足。

 普段のままでは普通の人より少し遅い、どうせだったらより早く動けるようにしたい。

 私の変形はしっかりとイメージする事が大切らしく、練習の時はよく知らないものを思い浮かべても上手くはいかなかった。

 というわけで、わりと身近でよく見た動物、ウサギの脚をイメージしてみました。

 伸ばすと意外と長いウサギの脚、これをバネのように使ってあいつの所まで一気に間合いを詰めてやるぞ!


 当然、そんな事をすれば矢による反撃が来る。

 それに対抗するために、手はカメの甲羅のようなシールドに変形させる。

 固いものといえばこれだよね。カニバサミの時みたいに固くして、甲羅のように面積を広くすれば盾になるはずだ。

 これで体当たりすればけっこうな威力になるんじゃない?

 素人だから戦法とかはわからないから、とりあえず強力な攻撃ぶっぱで!


 これらふたつを合わせ、名付けてウサギとカメ攻撃!

 ……名前のセンスはともかく、けっこういける気がするぞ。


 となればさっそく実行だ。

 イメージ通り甲羅の盾を構え、ウサギの機動力で一気に間合いを詰める!

 予想通り飛んできた矢はこの屈強な盾で弾き返――


 バギン!


 ギャー!

 さ、刺さった! ていうか、砕けた!?

 矢を盾状にした手で防いだまでは良かったけれど、完全に防ぐことはできず見事に貫通してしまった。

 それどころか、防いだ手が陶器を落としたように粉々に砕けるなんて想定外!

 防御に失敗した私は矢の勢いそのままに撃ち落され、間合いを詰めることなく尻餅をつく。

 ううっ、固いままだと再生しづらい、早く戻さないと……!


「……なにやってるんですかぁ」


 矢だけでなく、クラリッサの呆れたような視線も痛い。

 悪かったな、好きでやってるんじゃないんだよ。

 でも「何やってる」ってセリフはおまえに言われたくないけどな!


 くうぅ、何がいけなかったんだ。硬度? 靭性? その両方?

 何でもいいからこの状況を切り抜ける方法は……。


 ……ひとつ、思いついた。

 できたらやりたくない。やりたくないけど、やるしか……ないかな!?

 私は急いで体勢を立て直し、再び先程と同じ組み合わせで体を変化させる。

 足はウサギのままだから変化させるのは手だ。

 さっきと同じく、甲羅で盾状にしてウサギとカメ攻撃を決行する!


「またそれですかぁ、懲りないですねぇ」


 突進する私にクラリッサの強弓が放たれる。

 矢は寸分の狂いもなく、先程と同様に盾に命中、そのまま貫通した。


「……!?」


 しかし結果までが全て同様というわけではない。

 へへん、驚いてるな?

 この私が全く同じ事をただ繰り返すわけないでしょうっての。


 さっきと違う点、それは今回は盾が砕けなかった事。

 まだそれだけじゃないよ。今回は盾と、貫通して命中するであろう部分をうんと柔らかくしておいたんだ。

 だから矢はほとんど抵抗なく私の体をすり抜けていったってわけ。

 けっこう痛かったけどね!


 そしてさらに、盾に隠したもう片方の手、こっちはこっそり小さなカニバサミに変えておいたのだ。

 これを使って、やりたくないけど……盾の方の手を自切!

 痛った! でも狙い通り!

 ギリギリ固形に見えるくらいの固さにしておいた盾の部分が、突進の勢いそのままにクラリッサに叩きつけられ絡みつく!

 その間に再度ジャンプして走り抜け、このイカれ女からおさらばって作戦、見事大成功!


 まさかこんな事になるとは思ってもいなかったのだろう。

 クラリッサは不意打ち気味に顔面から粘りのあるドロを浴びせられ、視界を回復するのに手間取っているようだ。

 アリカの事、悪く言うからだよ。いい気味だね。

 これで浴びせた部分を動かし締め上げられたら良かったのだけど、そこは普通の人と同じ。切り離された部分は動かせないから、それはまあいいか。


 さあて、こっちもぼんやりはしていられない。

 再生ついでに手もウサギっぽく変形させて、四足歩行で全力疾走だ。

 うひょお、速い速い。まるで本当にウサギになったみたいだ。

 走るの楽しい! 走るの楽しい!


 ――不意に、疾走する私の体にロープが巻きつけられた。

 ぎゃっ、何!? 捕食者!?

 私の体はそのまま引っ張られ、地面に横倒しになった。

 さらには体の上に何者かが馬乗りになってのしかかる。

 く、食われる……!


「リプリン! しっかりして!」

「……!?」

「もう……! ごめんね、えいっ!」


 バチン!


 倒れた私に馬乗りになった人影、それはアリカだった。

 痛烈なビンタでようやく認識できた。……危ない危ない。


「アリカ……?」

「気が付いた?」

「ふ……ふぇ~ん! アリカぁ~!」

「わあ!」


 自分でもよくわからないけど、気が付いたら感極まって泣いちゃってた。

 涙は出ないけどその分アリカに抱きついちゃったりなんかして。しかも押し倒し気味に。

 ハッと我に返ったら恥ずかしいったらない。


「あ、ご、ごめん」

「あはは、こっちこそごめんね、叩いちゃって」


 あれ、そうだったっけ? その辺の事があまり記憶にない。

 えーと、クラリッサから逃げ出して……どうしたっけ。


「リプリンたら完全に挙動がおかしかったよ、呼び止めても聞かないし」

「耳はウサギに変えてなかったから聞こえなかったんじゃないかな」

「冗談言ってる場合じゃないでしょ」

「すいません……」


 いや、いろいろあって会えて嬉しかったからつい、ね。

 どうやらあまり大きく形を変えすぎたり、長く他の生物を模したりすると精神が形に引っ張られてしまうらしい。

 今もだいぶウサギの気持ちにのめり込んでた。

 アリカが止めてくれなかったらどうなってた事か、気を付けないと。


「それよりアリカ、早くここを離れないと。あのクラリッサとかいう奴に見つかったらマズイよ!」

「えっ!? もしかしてあの人も影村人に……?」


 アリカもオウテツに大体の事情を聞いたらしい。

 でも違うんだなこれが、そっちのほうがまだマシだったかも。

 私は体を戻しつつ、クラリッサに襲われた事をアリカに説明した。

 アリカにまで危険が及んだらたまったものじゃない。

 あいつ、アリカの事も危険人物だとか言ってたし、まだ許してないからね。


「そんな……。だ、だいじょうぶだったの!? ケガはない!?」

「私はケガはしないって。それより早く行こう、クラリッサもだけどこの村自体もかなりヤバイよ」

「う、うん。シュイラたちは教会近くにいるはずだよ、わたしたちも合流しよう!」


 *****


 私とアリカは教会へとひた走る。

 不思議な力で中には入れないけど、この村で他に目印になるようなものがないから合流地点にできるのが教会くらいなんだ。入れたらまだ籠城なりできるのに。


 途中、例の影村人にも遭遇した。

 物陰から突然現れるそれは、村人に偶然出くわしたのと確かに同じ感覚であった。

 しかし距離が近付くにつれ、はっきりと認識しようとするにつれ、その輪郭がぼやけ赤黒い影へと変わっていく。


「にげころおおぐり」


 奇妙な言葉を何度も繰り返しながら、明確な意思をもって襲い掛かって来るその影は、やはり見ていると気分が悪くなってくる。


 アリカが自在剣で切り払うと、こちらも先程と同様に泥や葉っぱの塊になって消えた。

 あくまで実体代わりにしているだけなんだろうか?

 捕まったらお仲間にされてしまうらしいけど冗談じゃない。


 魔物の事は一般常識として知っている。

 でも魔物といえば普通は狂暴な野生動物とか、交流の無い敵対的な亜人種なんかを指す言葉なのだ。

 こんな幽霊みたいな得体の知れないものなんて聞いた事もない。

 これもゲッペルハイド……もとい、異界の存在が関わっているのだろうか。


「アリカ! リプリン!」


 シュイラの声がした。教会のすぐ近く、横にはオウテツの姿もある。

 どうやらシュイラたちも影村人を一通り蹴散らしたところのようだ。


「オマエら、無事だったか」

「まあなんとか。ちょっとオウテツさん、あのクラリッサとかいう人、何なんですか!?」


 合流の喜びもそこそこに、私は勢いに任せオウテツに不満をぶちまけた。

 あの女も騎士ならこの人も騎士だ、同僚の不祥事をどうしてくれる。


 ――と、ここまで言ってハッと気が付いた。

 そう、この人も騎士なのだ。

 そして私は今、服はボロボロで帽子は脱げかけ化粧もとっくに落ちている。

 つまり、いつもの魔物スタイル全開というわけだ。


「あ、あはは……」


 慌てて取り繕い、察してくれたアリカとシュイラの後ろに隠れる。

 やっば、あのクラリッサが危険なやつなのは間違いないけど、そのスタンスが騎士団全体のものかもしれないという事を考えてなかった。

 最悪、この場で処分される可能性も……?


「ちょ、ちょっと待って。この子は魔物じゃ――」

「……そうか、お前もか」


 そうなんです、アリカの言う通り私は魔物では……。

 ……へ? 「お前も」ってなんですか?


 するとオウテツがゆっくりと兜を脱いだ。

 兜の下から現れたのは人間でもゴブリンでもなく、つるっとしたトカゲ人間。

 まさしくリザードマンに他ならなかった。


「えっ、オウテツさんて……、リザードマン!?」


 私もアリカも、シュイラまでもが驚きを隠せないでいる。

 それもそのはず、リザードマンは排他的で多種族との交流など一切持とうとしない種族なのだ。

 こうやって一緒にいるだけでも奇跡、ましてや王国の騎士団にいるなんて……とてもじゃないけど信じられない。

 尻尾はどこにしまってるんだろう?


「話せば長くなるが、とにかくそう言う事だ、クラリッサが俺を嫌う理由でもあるな。こういう事情もあって俺は他人を外見で判断しない、大事なのは心と筋肉だ、心配するな」


 そう言いつつもあまり見られたくないのか、オウテツはまたすぐ兜を被ってしまった。

 今日は驚きすぎて頭が追い付かないなあ。

 え、筋肉? 無いですけど。

 まあいいや、とりあえずこっちの心配はいらないみたいだし、この村からの脱出に本腰を入れていきたい。

 ひとりを除き、みんな揃ったところで何か脱出法はないものか。


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