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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第一章 粘土人間とトレジャーハンター
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進化する粘土

 ――もうすでに結構な時間をピエロから逃げ回っている。


 岩場だと思っていたら、またしてもいつの間にか周囲の様子が変化していた。

 今度は平坦な荒野だから走りにくくはない、その代わり全体的に赤黒くて嫌な感じだ。

 焼け落ちたような残骸や、崩れた石壁みたいなものが点在し、その隙間から何者かの視線さえ感じる。

 なんだよ、精神的に追い詰めようって?


 一方のピエロはといえば、付かず離れず一定の距離で私たちを追い立てているようだ。

 玉乗りはやめて徒歩で追いかけてきているけど、攻撃の手を休めてはくれないらしい。

 狩りのつもりなのか、どこかへ向かわせているのか、目的があるのかどうかはわからない。

 確実なのは、油断していると確実に死ぬって事だけ。私はともかくアリカが。


「はぁ……はぁ……」


 アリカの顔に疲労の色が濃く現れている。

 無理もない、得体の知れない怪物からほぼ休まずに逃げ回っているんだ、体力自慢のアリカだってきついに決まっている。


「ほらアリカ、背中に乗って!」

「だ、だいじょうぶ……大丈夫だよ」

「いいから早く!」


 私は強引にアリカを背負い前に進む。

 どういうわけだか私の方はほとんど疲労を感じていなかった。

 これも私の特徴のひとつなのかな? この粘土ボディもこういう時は役に立つ。

 これであともう少し力があって機敏に動けたら文句なしなんだけどね。


「ああ~、ぷにぷにでひんやりしてて気持ちいい……」

「こら、あんまり顔を押し付けないで。跡が付いたらどうすんの」

「ねえねえ、これ帰ってからもたまにやっていいかな?」


 私は人をダメにするクッションじゃないぞ。

 こっちは非力ながら人ひとり背負って走っているのに、緊張感を持ってくれ。


 ん? 前方に何かいる。

 新手のピエロ?

 こっちは見ての通り手いっぱいだよ、挟み撃ちなんてやめてくれ。


「赤い雨と黒い岩の反目、明日の天気を占う店主は頂きに誘われる!」


 いや、ピエロじゃない。

 あの箱頭、この意味不明な語り、団長のゲッペルハイドだ!


 むむ、なんだか妙に怒りが込み上げてきた。

 文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない!


「おい、そこの団長! 私たちをどうするつもりだ!」


 私の声に反応したのか、ゲッペルハイドの箱状の頭がクルクルと回り、ガラス面がこちらを向いてピタッと止まった。


「戦火、木洩れ日、重き荷を背負い歩けば忘れ去られし歩みは止まる」


 ガラス面に映る口だけの人物の顔が意味不明な言葉を語る。

 耳を貸すな、こっちが混乱するだけだ。


「望めよ、さらば与えられん、トレシークの子よ!」


 聞こえない、聞こえない――

 ……えっ、何て言った!?

 ゲッペルハイドの発した突然の意味の通る言葉に私はぎょっとした。

 そして、それはアリカも同じだった。


「ねえ、今の聞こえた、よね?」

「うん、間違いなく言った。トレシークって……」

「わたしのファミリーネーム。どうしてあの人が知ってるんだろう」

「意外に知り合いとか? 遠い親戚の可能性もあるかも」

「リプリンにわたしの顔が四角く見えてるんならそうかもね」


 ゲッペルハイドはいかにもサーカスの団長といったコミカルな動きで、かつその場から動かずにこちらの様子を伺っている。

 ガラス面に映る顔はいつしか消え、そこには七色に輝くミラーボールのようなものが映し出されていた。

 何なんだろうアレ、ちょっと奇妙な雰囲気がある。


「アリカ、あのキラキラしたもの何だろう?」

「……」

「アリカ?」


 しかし、アリカは私の問いかけに答えなかった。


「うわ、ちょっとどうしたの」


 私の背中から降りると、アリカはゲッペルハイドの元へと歩き出した。

 明らかに様子がおかしい。

 私の声など聞こえていないといった様子で、ぼんやりとただゲッペルハイドの頭に映し出されたミラーボールを見つめている。


「アリカ、どこへ行く気!?」


 押さえようとしたけど、凄い力で突き飛ばされ私は倒れ込んだ。

 突き飛ばす時も私の方を見ていない、虫でも払うかのように淡々とやっていた。

 くそっ、アリカはあいつに何をされた? どう考えてもマズイ状況だぞ!


 そうだね……アリカが止められないのなら、あっちの箱団長の方を止めてやる!

 私は意を決してゲッペルハイドの方へと走り出した。

 戦いなんててんで素人だけど、体当たりするくらいはできる!


 そんな私に襲い来る影。

 目の前に現れた何かに勢いよく弾かれ、私は後退を余儀なくされた。

 こいつ……キモピエロ!? 後ろから追いかけて来てたお前がどうして目の前にいるんだよ!?


「くっ! ちょっと、どいてってば!」


 苦し紛れにパンチを繰り出してみるが、当然ながらそんなものは通じない。

 体重も乗っていなければ腰も入っていない、そもそも体が脆くてまともに拳になっていない。

 何発繰り出しても、ピエロの体にポヨンとはじかれてお終いだ。


 こんな事をしている間にも、アリカとゲッペルハイドの距離が縮まっていく。

 ゲッペルハイドがエスコートするようにアリカに向けて手を差し出すのが見えた。


「ダメだアリカ! そいつの手を取らないで!」


 精一杯叫んでも、私の声はアリカに届かない。

 こんな時こそ冷静になれ私。なにか解決策はないのか……!?


 ……そういえば、必死で気付かなかったけどこのピエロ、さっきまでと明らかに違う点があったよね。

 さっきアリカが自在剣で攻撃したときはすり抜けていたと思うんだけど、私が殴ったら弾かれはしたけどすり抜けはしなかった。

 うーん、よくわからないけど、私ならこいつらに触れるって事?

 じゃあ単純に威力が足りないのか。


 威力を上げるには……どうしたらいい?

 素人だから武術とかテクニック的な事は無理だ。そもそも知らないし。

 じゃあわかりやすく強いものがいい。

 前に見たサイクロプスみたいなパワーがあれば一番なんだけど……。


 そうだ、あの時のやり方を再現してみよう!

 外骨格にできる鎧はここにはない、なら作ってしまえばいいんだ。

 食事用に歯を作ったんだ、他の部分だって固くできるはず。

 さらに右手を大きくする、手甲のサイズに合わせて多めに体を詰め込んだように。


 よし、考え方はこれでいいはず。

 窮地が人を成長させるとはよく言ったもので、私の右手は劇的な変化を遂げた。

 今、私は右手だけアンバランスにサイクロプスのようなサイズにまで肥大化していた。

 まあ、不格好だけど成功って事でいいよね。

 あの時サイクロプスに追いかけられたのが強烈に印象に残っていたのが良かったのかもしれない、何事も経験よ経験。

 それでいて他の部分が縮んでいないのはどういう事だろう?

 右手に送り込んだ分、他の部分で埋め合わせする必要があるかと思ったけど……まあいいや、わかんないけど好都合だ。


 次は拳の表面を外骨格のように硬質化する。

 どうすればいい? カニの気持ちになればいいのか?

 私は目を閉じて深く集中する。

 カニ……食べたら美味しいカニ。

 あいつら水棲の虫なのかな……。

 いやそんな事はどうでもいい、時間が無いんだ集中しろ私。

 カニカニカニカニ! 何なら横歩きだってやっちゃうよ。


 ……お、なんだか表面が固くなってきたような気がする。

 そう、こんな感じで固くてギザギザとんがってて……って、カニバサミだこれ!


 カニばっかりイメージしすぎたのか、巨大なゲンコツを作ろうとしてカニのハサミができてしまった。

 ああもう、予定と違うけど時間がない。

 どうすんだ私、いけるのか私!?


 ――いや、むしろパワーアップしてる感さえある、このままいっちまえ!


「必殺! 名付けて……、えーと、カニパンチ!」


 勢いに任せてそのままの名称を叫んでしまった。

 うわ、これめっちゃ恥ずかしい。

 名乗りは格好良くいかなかったけど、これだけでっかいカニバサミが弱いわけがない。

 素人パンチで振り回すだけでも十分な破壊力だった。

 私の前に立ちはだかったピエロは大きなカニバサミに為す術もない。

 魔法生物だから手加減しなくていいんだよね?

 遠慮なくジャキンとハサミで断ち切ると、ピエロは切れた部分からバラバラと崩れ霧散していった。


 うおっとと、右手だけが重くてでっかいから体のバランスを保つのが難しい。

 それでも今だけ強くなったような気がして気持ちいいぞ。


 おっといけない、本命がまだ残ってるんだ!


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