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粘土少女はそれなりに  作者: マスドジョー
第一章 粘土人間とトレジャーハンター
10/91

任務完了すれば全て良し

 手練れのふたりが駆けつけて、迷子の私はようやく助かった……かに見えた。

 だが、このダンジョンの主と思しき巨人は予想外の抵抗を見せ、私の不運な冒険がまだ終わらない事を告げていた。


「くっ……、コイツ思ったよりも手強い!」


 アリカの助太刀に入ったシュイラも、巨人の予想外の強さに苦戦を強いられている様子だった。

 うう、なんか危険な雰囲気だぞ。このままでは三人とも危ないかもしれない。

 私も……、私も何かできる事はないか!?


「きゃあっ!」


 何をすべきかオロオロとしていると、アリカの悲鳴が聞こえた。

 見れば、アリカの決して頑強とはいえないスレンダーな体が、巨人の武骨な剛腕に掴まれている。


 だだ、大ピンチ!

 シュイラは……、ああっ! いつの間にか巨人の奴がもう片方の手に棍棒みたいな武器を持ってる!

 助けに入ろうにもそれをブンブン振り回されてうかつに近付けないみたいだ、やばばば!


 涙は出ないがもう半泣きで周囲を見渡し、逆転の策を探す私。

 ……あっ、散乱してる武具の中に弓があった!

 これなら離れていても攻撃できる、やったことは無いけどやるしかない!


 矢……、矢は……、ああ、矢が無い!

 いや待てよ、あったわ矢。他ならぬ私自身の背中に刺さってたわ、それも二本も。

 よおし順調、後はこれをつがえて狙いを定め、力いっぱい引き絞り――


 グシャッ


 ひっ!

 い、嫌な音がしたけどアリカたちがやられたわけじゃないよ?

 音はもっと近くから、そう、私の弓を引いた右手から。

 私の右手の指は握った形のまま、弓の弦に切断され床に落ちた。今のはその音。

 くっ、矢も指も問題は無いけど、粘土状ゆえに体の強度が弓を引く力に耐えられない!


 いったいどうしたらいいんだ……、何か、柔らかい体でも戦える方法は……。

 何かヒントは落ちていないかと周囲を探るも、落ちているのは古びた武具ばかり。

 ん……、これは、手甲……?


 その時、私の頭にカニが閃いた。

 お腹が空いているわけではない、外骨格生物の事を思い出したのだ。


 そう、私の答えはこれや!

 私は右手に古びた手甲を装着し、さながらカニの外骨格のように扱う。

 古くて汚いのは置いといて、ごつい戦士が使っていた物なのかサイズが合わずぶかぶか。

 だがこれは体が粘土っぽいのを利用し、肉? を多めに詰め込みパンパンにすることで解決した。

 よし、思ったよりしっかり動く! 想定以上に力も入るぞ、外骨格いけるかも!


 今度こそ弓矢をしっかりと構えサイクロプスを狙う。

 目標、もちろん目玉! 耐えておくれよ体と手甲!

 発っっっ射!


 スカッ


 体と手甲は望み通りしっかりと耐えてくれた、これで矢が虚空に向かって飛んでいかなければ完璧だっただろう。

 ……そう、私はド素人。いきなり格好つけて弓なんか撃っても当たるわけがない。

 なあに、まだ矢はもう一本ある。

 あるけど……闇雲に撃っても結果は同じ、どうすればいいのよコレ。


 矢を飛ばしたせいか、サイクロプスの注意がこちらに向いた。

 こうなったら囮でも何でもいいや、死なない体を生かしてふたりが攻撃する隙を作るのみ!


「おい、何やってる!?」


 シュイラの声を無視し、私はサイクロプスに向かって走る。

 ほら、そのでっかい目でこっちを見ろ! お前なんかの攻撃に当たってなんか――


 フッと目の前が暗くなった。

 目の前には大木のような棍棒、そりゃ目の前も暗くなる。いろんな意味で。

 私はそのままサイクロプスの振り下ろした棍棒の下敷き、思いっきり叩き潰された。


 うああぁ! ムチャクチャ痛い! 痛みだけで死ねる!

 で、でもまだ……、こんな事を考えられるのは死んでないからだ!


 サイクロプスはといえば、獲物を一体仕留めたといわんばかりに雄叫びを上げる。

 アリカをまだ掴んだままだけど、そのポーズが命取りだよ。

 なぜって、私はまだ生きている。自慢の棍棒にくっついたまま、ちゃんと使える弓矢を持ってね。

 見た目は棍棒にこびりついた汚れみたいになってるけど、かなり目玉までの距離が近くなった。

 ――この距離なら!


 ドスッ!


「ガオオオオ!」


 やっ……やった! 大成功!

 私の放った矢は見事に巨人の目玉へと命中した。ど真ん中ではないけど当たったから問題なし!

 目玉に矢を食らったサイクロプスはアリカを放り投げ、両手で目を押さえながらのたうちまわっている。

 棍棒と一緒に私も放り出されてまた潰れちゃったけど……、こ、これで何とかなりそう?


「うわ、すごいね。リプリンてば弓使えたんだ!」


 力を振り絞ったせいでへたっている私の元にアリカが駆け寄ってきた。

 どうやら無事みたいだ、よかった……。


「いや、初めてだけど上手くいって良かったよ」

「はじめて……?」


 アリカの顔はにこやかなままだが、心なしか青ざめているようにも見えた。

 あ……、そうだね、外れる可能性だってあったね。

 あの時は無我夢中だったからその可能性を考えてなかった。アリカに当たらなくてよかったです、ごめんなさい。


「まったく、離れていろと言ったのに。素人がムチャするんじゃない」


 今度はシュイラからのお叱りの言葉。はい……、ごもっともです。

 なんだか体が縮む思いだ、今の私にはシャレにならないけど。


「あれ見てみ。凄いぞ」


 シュイラに促され、その示す方を見てみる。

 そこには倒れ動かなくなった巨人の姿があった。


「……うっ」


 問題なのはその死に様。

 矢が刺さった目と、その周辺の顔がどす黒く変色し、半ば腐るようにして息絶えている。

 これって……やっぱり私がやった事?


「まったく、エグいやり方するなあ」

「い、いや違います! 私はただ矢をですね……」

「矢?」


 シュイラもアリカも不思議そうな顔で私を見ている。


「その矢ってどこにあったの? ここに落ちてるものは朽ちてて使えないと思うんだけど」

「あ、途中のトラップにかかった時に刺さりっぱなしで……、それを」

「ああ、なるほど」


 何か納得されてますけど、素人の私にもわかるように教えてくれないかなあ。

 と、顔に出ていたのかアリカが説明してくれた。


「ダンジョンのトラップで矢が飛んでくる時はたいてい毒矢なんだよね。危ないからわたしは再利用したくないかな」


 な、なるほど、納得。 

 というかそんなものが刺さってたのか私。

 新たな情報、私ったら毒が効かない体なんですって、わあ良かった。

 良かったけど効いてたらと思うと素直に喜べない。怖っ。

 ……あと、アリカに当たらなくて本当に良かった。


「それにしても、ここまで強力なのは初めて見るな……」


 シュイラがボソッと呟いた声が聞こえた。

 けど聞こえないふり、これ以上は勘弁してください。


 *****


 安全が確保できたのでみんなで少し休憩。

 シュイラが調べた結果、この広間から地上に抜けられそうな隠し通路があるらしい。これまでの苦労は無駄ではなかったみたい、よかったよかった。


「よくねーよ」


 まるで心を読んだかのようにシュイラが文句を言う。

 あれ、顔に出てました?


「あはは……。そ、そういえば、ふたりともよくここがわかったね。まさか助けが来るとは思わなかったよ」

「うん、シュイラに「素人をひとりにするな」って怒られちゃって。戻ってみたら帽子が落ちてたから、大変だって探して穴を見つけたの」

「あ、うん、……まあ、助かったからいいよ」

「本当に、ごめんなさい!」


 姿勢を正して謝るアリカ。

 それを少し離れた場所で見ていたシュイラがフンと鼻で笑った。


「ここらにダンジョンがあるらしい事は把握してたんだが、重要性が低い事もあって調査は行われていなかったんだ。現に、ここにあるのはガラクタばかり、お宝のひとつもありゃしない」

「もうそろそろ帰らないとね……。珍しいキノコも見つからなかったし、今日も任務は失敗かあ」


 う、すいません。私もここに落ちてくる時に帽子ごとキノコをぶちまけてしまいました。

 あれイノシシが食べちゃったんだろうなあ。


「キノコか……、そこにあるようなのじゃダメですか?」


 さっき周囲を調べた時に、隠れるように生えていた小さいキノコはあった。それどころじゃないからスルーしてたけど、そう言えばどこかで見た事あるような……。


「ん……、こいつは、プラチナムマッシュじゃねーか!」


 ああそうだ、プラチナムマッシュ。魔錬研で見た事があったんだ。

 とっても貴重だから所長でもなかなか……扱えな……い、ものでしたよ!?


「ははっ、こりゃいいや! これひとつで余裕で任務完了だ!」


 拾う神ありってやつ?

 最後の最後で訪れた幸運にシュイラも上機嫌だ。怖そうな人だからこっちまでホッとするよ。


「よし、そんじゃ長居は無用だ、とっとと帰るか」

「そうだね。あ、リプリン、はいこれ」


 アリカがどこからともなく帽子を私に差し出した。

 あ、これ拾っておいてくれたんだ。


「ありがとう……。その、これもだけど、助けてくれて」

「ふふっ、それじゃ帰ろっか」


 隠し通路を開き、私たちはようやくダンジョンの外に出る事ができた。

 あー、だいぶ傾いてるけどお日様最高! もうダンジョンはごめんだね。


 その帰り道、陽気に前を歩くアリカに聞こえないようシュイラが私にささやいた。


「アイツ、面白いだろ?」


 アイツって、アリカの事? それ以外いないけど。


「ええ、まあ、面白くはある……かな?」

「一緒に暮らすとかはゴメンだけどな。オマエも面白いやつだよ」


 そうなんですよね。私の場合は仕方がないっていうか成り行き?

 あと面白いとか言わないでくれます? 私だって好きで同居してるわけじゃないし、ほとんど拉致だよ拉致。


「アイツはひとりぼっちの辛さをよく知ってる。オマエをほっとけないのもそうだろうよ、辛いときは何かしてたほうがいいってな」

「めっちゃ強引なんですけど」

「まあ、押しつけがましい所はあるけどな。でもいいヤツなのは保証するさ」


 ……良い奴ってのはわかるよ。

 そうでもなきゃ、私みたいな得体の知れない生き物を住まわせたり、ダンジョンまで助けに来てくれたりはしないだろうからね。

 ただちょっと、それを補って余りある何かがあるような気がしないでもないんだけど。

 もしかしたらただの物好きなのかもしれないという思考は今は置いておこう。


「あの、シュイラさん」

「シュイラでいい。ゴブリンだから歳がわかりにくいだろうが、オレもオマエらと同じかちょっと上くらいだ、遠慮するな」

「あ、私、七十四歳です」

「マジでか」


 あはは、その反応。

 シュイラが女の子だって聞いた時に同じ反応したんですよね私。

 これで貸し借り無し、なんてね。何言ってるのか自分でもわからないけど、たぶんハイになってるんだと思う。


 呆然とするシュイラをよそに、私はアリカのもとへと駆け寄った。

 だって、何故だかはわからないけど、そうしたいと思ったから。


「アリカ!」

「ん? どうしたの?」

「何でもない!」

「ええ~?」


 はは、やっぱり今ちょっと私のテンションおかしいや、早く帰って休もう。



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