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協力者 後編

 ヴァル達の拘束を解いた後、気絶してるネッコー国の兵士を昆獣に乗せ、来たところへ返した。その際にガナード達が乗る分の昆獣、クロスボウと矢筒をガナードが拝借した。

 彼は名乗る際にワシとしか言ってなかったが、顔や白い頭を見るからにハクトウワシのようだ。

 「これでここにいるのは我々だけだな」

 手に付いた土埃を払いながらグリフィスが言った。

 「さて、何か聞きたいことがありそうな顔をしているが、それは移動しながらでいいかな?」

 「いいけど、どこに行くんだ?」

 「私の秘密基地だ」

 微笑みながらグリフィスが言ったが、ガナード達の表情は暗く、互いの顔を見合わせる。

 「どうした?行かないのか?」

「行く前に、これだけは聞きたい。デスボナ帝国の幹部と言っていたが、裏切ったのか?」

 ガナードがそう訊くと、微笑んでいたグリフィスの表情は一転し、暗く淀んだ顔になった。

 「『裏切った』と言うより、『見限った』って言った方が正しいな」

 「見限った?」

 「ああ、私だって最初は忠誠を誓ってたさ。オディオ・ハベティストに」

 「それがデスボナ帝国の王の名前か?」

 「そうだ。彼は最初、『この世界を良くしよう』といい私を受け入れたんだ。だが、やってることはより悪くなっていく一方だ。そんなことを彼は見て見ぬふりならともかく、幹部にそれを奨励し、幹部もためらうことなく従っている」

「その奨励している事って、あの重税や宗教、ギロチンのことか?」

 そう訊くとグリフィスは頷き、話を続ける。

 「君たちも見ただろう?金がなくなったら農作をやらされ、作物を取られるだけ取られ、ないと嘆いたり、逆らったりすれば処刑されるか洗脳される。そして、神父という名の監視者はただの傭兵上がりの蛮族どもだ。しかも、人手が足りないというから囚人達も神父になっているときた。そんな連中のやることは高が知れてる。この大陸で起きている悲惨なことを思うと、見過ごすことはできなかった!だから私は見限ったんだ!」

 声が荒くなっていき、最後は叫ぶように言い放った。

 彼にも思うことはあったのであろう。これが本心から来た言葉で信頼したい。だが、彼はデスボナ帝国の幹部。いくら見限ったとはいえ信頼していいかわからない。

 そんな葛藤をガナード達が抱いてる中、グリフィスが訊く。

 「私からも訊きたいのだが、君達は何の目的でデスボナ帝国と戦おうとしている?こんな戦力差があるにもかかわらず、なぜ戦う?」

 グリフィスの目つきが険しくなっていき、そこから発せられる威圧は今まで戦ってきた兵士のモノではない。幹部という名は伊達ではないことを理解した。

 ガナードはその圧に屈することなく、それを理解したうえでまっすぐ見つめ返し言った。

 「元々は女神からの革命を起こせとの命だった。けど、俺にとってはもう違う」

「では、何のために戦おうとしている?」

 「未来だ!子供たちの未来のため!その子供と過ごし、幸せな生活を送る親の未来!その未来を守るために俺は戦う!」

 「自分の子を殺されたのか?」

 「いいや。俺と同じ境遇に立たされている子供がいたんだ。親がいなくなり、それでも周りは問答無用で攻めてくる。そんな子供達の心境は自分が一番に知っている。そんな子をこの大陸で増やさないために俺は戦う」

 ガナードが言うとグリフィスがガナードの前にまで歩み寄り、ハクトウワシ特有の鋭い目つきでジッと見つめる。

 緊迫した空気が満ちる。だが、ガナードは

 マコト達はどうしていいか分からず、ただ成り行きを見守ることしかできなかった。

 しばらく睨み合ってる中、グリフィスが最初に口を開き、

 「口先だけではないな」

 ガナードに手を差しだした。

 「それだけの覚悟があるなら背中を預けられる。共に戦おう」

 「あなたも我々の期待を裏切らないことを願いますよ」

 ガナードは差し出された手を取り、握手を交わす。

 「その点は安心してくれ。もう私はデスボナ帝国に尽くす忠義は皆無さ」

 フンと鼻で笑いながら言い、手を解いた。

 「えっと、敵じゃないんだよね?」

 ヴァルが恐る恐る訊く。

 「ああ。少し怖がらせて申し訳なかった。君達は一体どういう者なのか、私も少々不安だったのでね」

 「試したわけね。あんたも人が悪い」

 「そう言わないでください。実際、私達も警戒していましたし」

 「隠し事をしないようにと思ってベラベラと幹部を名乗ったのがマズかったな」

 「かと言って隠したら隠したで結構大変さ」

 な?とガナードが口角を上げ、ミールに言う。

 「うるさいわね!もうあのことはいいでしょ!」

 「もうトラブルが起きたのか?」

 「ああ、死にかけるほどのトラブルだったさ」

 ガナードが皮肉めいたように言うと、イラッとしたミールが『アクアウィップ』と呪文を唱えた。ミールの杖の先端から水のムチが伸び、それを振り上げる。

 「わかったわかった!もう言わない!悪かった!」

 ガナードが手を前に出し、ミールをなだめる。

 「仲良しなことはいいんだが、早く目的地に行かないか?」

 「そういえば秘密基地に行くと言ってましたね」

 マコトが思い出したかのように言った。

 「そうだ。残りの話はホージに乗りながらでも話そう」

 グリフィスが指でゲジゲジの昆獣を指す。

 


 ガナード達はホージに乗り、グリフィスの後に続く形で秘密基地に向かっていた。

 「そろそろホージに慣れて来たな?」

 グリフィスが後ろを向き聞く。それにガナード達は頷き返す。

 「よし、なら今の内聞いてくれ」

 「体が真っ二つになったけど、なんで生きているんだ?」

 ガナードが訊いた。

 「昔、この体にあるものを埋め込まれたんだ」

 「あるもの?」

 「黒くて鋭い物なんだが、いまだにその正体がわからん」

 埋め込まれたところなのか、自身の胸を撫で下ろす。

 「ある民族に拉致され、そこで贄として差し出され、埋め込まれたんだ」

 「それでその体になったのか」

 「因みに、私はいくつくらいに見える?」

 突然質問を投げかけられ、ガナードはえ?と声を漏らしうろたえる。

 「28?」

 「300だ」

 「「「「え!?」」」」

 グリフィスが出した答えに、ガナード達は驚き声がハモる。

 「300って、冗談じゃありませんよね!?」

 マコトが目を丸くし聞く。

 「大方300だ。年を取りすぎて途中で数えるのをやめたんでな」

 「埋め込まれただけで不老不死になったのか?」

 「そのようだな。埋め込まれた後、集落から脱出してあとは放浪の旅に出た。こんな体じゃあ、家族や友人に迷惑をかけてしまうと思ってな」

 「その後にデスボナ帝国に入って、今に至ると」

 「生きてきた中で一番の失敗だ。なぜ騙されたんだ?」

 「その失敗を今からでも取り返そう。協力する」

 「そうだな。だからこそ、次の作戦がこの戦いの肝となる」

 「いったい何をするんだ?」

 「秘密基地で話す。他に聞きたいことは?」

 「そっちに黒い鎧を着たトリ族っている?」

 ミールが聞いた。

 「黒い鎧のトリ族・・・いるな」

 ミールの顔が険しくなる。

 「何が遭った?」

 「私の妹がそいつにさらわれたかもしれないの」

 「そのさらわれた妹の名前はエスティナか?」

 グリフィスから出た名前を聞いた瞬間、ミールはグリフィスの横に並び、今にも飛び掛かりそうな勢いで、

 「エスティナは無事なの!?どこにいるの!!教えて!」

 すごい剣幕で叫ぶように言った。

 「エスティナは無事だ。今はデスボナ帝国の本拠地、ドゥージー王国にいる」

 グリプスは動揺することなく淡々と答え、それを見てミールは落ち着きを取り戻そうと咳ばらいをし続けた。

 「なんで私の妹がさらわれたの?何をされてるの?」

 「この大陸で土地が枯れるという現象を見たことがあるか?それをやっている。いや、無理矢理やらされている」

 土地が突然枯れる。ガナードが初めて訪れた村がまさにその現象にあっていた。

 「何の魔法を使ってるの?植物ならともかく、土地を枯らすモノはないはず」

 「杖だ。あの子だけが使える特殊な杖で天候を操って土地を枯らしたんだ」

 「そんな杖聞いたことない。魔法にしたって、天候を操るほどの魔法を出すにしたって、何千人の魔法使いが必要。妹にそんな力はない」

 「本来ならそうなんだが、杖がそれを可能にしてる。今まで見たこともないし、聞いたこともない」

 「何なのその杖・・・でも、妹が無事なのは確実なのね?」

 「ああ、デスボナ側も彼女を失うのは痛手になってしまうから、丁重に扱っている」

 「そうなのね。わかった」

 妹が無事だということにミールは安堵したが、まだ助けられないという歯がゆさに下唇を噛む。

 「大丈夫だ。彼女は従順だから逆らって死ぬことはない。時間はまだある」

 グリフィスに宥められるが、返答することなく列に戻る。

 「他に聞きたいことがあるか?」

 「あなた達はこの大陸にどこまで関与しているんですか?」

 マコトが聞く。

 「デスボナ帝国が動き始めたのは、狼王と獅子王、虎王の3人が一つの国としてまとめようとした時からだ。国を一つにまとめようとした時、反対する者が現れる。ドゥージー王国、ネッコー国なんかと手を取りたくないという者達を利用し、内戦を起こさせたと聞いた」

「あなたは関わってないんですか?」

 「関わっていない。私を中心とする白騎士派と黒騎士派の2つに分かれていて、内戦を起こさせたのが黒騎士派だ。私達は内戦を起こした後に攻め入る担当だった」

 「それで2つの国を落としたのですね」

 「いや、ドゥージー王国しか落とせなかった」

 「内戦が起きてボロボロなのにですか?」

 「獅子王と虎王が身に付けている鎧の力を侮ったのが敗因だったのさ」

 「鎧?鎧が敗因になったのですか?」

 「この大陸に伝わる鎧の伝説を知ってるか?」

 「私、聞いたことある!」

 ヴァルが反応し、続ける。

 「確か、鎧が3つあるんだよね?自然の理を超えた鎧と、神にも悪魔にもなれる鎧、そして、武器を宿した鎧の3つだよね?」

 「そうだ。ただの伝説かこの大陸に攻め入れさせないためのデマだと思っていたんだ」

 「けど、それが本当で返り討ちにあったと。では、ドゥージー王国が落ちたのはその鎧がなかったからですか?」

 「そうだな。私がドゥージー王国を攻め落とす際、先陣切って攻め込んだがあっけなく落ちた。ネッコー国はいまだ健在だが、武力で行くのは無理だと見切りをつけ、次の作戦で兵糧攻めに切り替えるらしい」

 「いつやるのですか?」

 「兵力と食料を集め次第すぐにやるそうだから、早くて1週間後だろう」

 「あまり時間がないですね。もしかして、今回やろうとしているのは兵量攻めを阻止するための作戦ですか?」

 「最終的にはそうなる。今回やるのは兵力を確保するための作戦だ」

 「当てがあるのですか?」

 「ああ、もうそろそろだ」

 グリフィスが向けてる視線の先には霧がかかった森があった。

 「一度ここで降りるぞ」

 森の前でグリフィスがホージから降り、兜を被る。ガナード達も続き降りる。

 「私について来い。逸れるなよ。逸れたら一生この森から出られなくなると思った方がいい」

 グリフィスの喚起にガナード達は分かったと返した。

 「よし、ついて来い」

 グリフィスを先頭に森の中へと入っていく。

 森の中へ入ると視界が一気に狭まり、前にいるグリフィスを捉えるのがやっとだった。

 グリフィスを見失わないように必死になって後を追う。グリフィスもまたガナード達に気を使い、時々後ろを見てガナード達を確認する。

 森の中を右に曲がったり、左に曲がったりと不規則に進んでいく。ガナード達はなぜそんなに曲がるのかと聞きたかったが、霧のせいでグリフィスに追うのがやっとで聞けずにいた。

 しばらく進むと、どこからか声が聞こえた。

 「動くな!」

 女性の声だ。

 その声はホールのように響き渡り、どこから発せられているか特定できなかった。

 グリフィスの足が止まり、ぶつかりなりながらもガナード達も止まった。

 「この森に何の用だ?」

 「グリフィスだ!マチルダに用があってここに来た!」

 兜から顔だけを出し、大声をあげる。

 しばらく沈黙が続くと、正面の霧の中に影が浮かび上がる。

 身の丈が2mほどで細身であるのが分かった。

 その女性が霧の中から現れる。

 「本当に白騎士か?」

 霧から出てきたが、顔のある場所に顔がなく、2つの耳があった。

 視線を落とし、やっと顔を確認できた。

 霧から出てきたのは槍を背負った純白のウサギの獣人であった。耳を立てていたから2mに見えたが、耳を無くせば実際の身の丈は1.5mくらいである。マコトとほぼ変わらない。

 「ああ、こんなハンサムな顔、忘れちまったのか?」

 クチバシに手を当て、キメ顔で自慢する。

 「白騎士だな。後ろのは、連れか?」

 「ああ。詳しいことはアレックスのところで話す」

 「わかった。ここから先は私も行く」

 ウサギを先頭に進み始めた。

 しばらく進むと一際大きい木の前に止まった。

 先頭にいたウサギがしゃがみ込み、地面をさすり、何かを探している。

 砂の中から取っ手が見え、それを掴み持ち上げる。

 土で作られた扉が開き、明かりが灯り、地下へと続く階段が現れた。

 「白騎士。持ってろ」

 「わかった」

 グリフィスはその扉を代わりに持った。

 「ついて来い」

 ウサギが先に階段を下りガナード達も続けて下りた。グリフィスは扉を閉め入った。

 しばらく進むと分かれ道があった。ウサギはそれを迷うことなく進んでいく。中は迷宮のようになっており何度も分かれ道にぶつかったが、ウサギが先導してくれてるおかげで迷わずスムーズに進むことができた。

 そして、最後に鉄でできた扉にぶつかった。扉にはのぞき窓があり、そこから誰かが顔を覗かせた。

 「女は」

 扉越しに女性の声が聞こえる。

 「聡明で儚い花のような女神」

 ウサギが答える。

 「男は」

 「糞尿製造孕ませることしか能がない家畜以下の存在」

 ウサギから出た言葉にガナードとマコトは驚きのあまり、互いを見つめ合う。

 「よし通れ」

 鍵が開く音が聞こえ、扉が開かれる。

 中に踏み入ると、そこには町があった。ガナードが拠点としているような町が地下の世界に広がっている。しかも、地中にいるとは思えないほど明るかった。ドーム状に掘られた穴のなかに建物が並んでいるが、これを作るのにどれほどの時間がかけられたのであろうか、ガナード達は想像もできず、ただ圧倒するしかなかった。

 「行くぞ。観光したいなら違う日にするんだな」

 ウサギが素っ気なく言い、先を進む。

 「なんで今日はダメなんだ?」

 ガナードが聞く。

 「今日は『転生祭』だ。ほぼ町は機能していない」

 「転生祭?」

 「男は聞くな。この町で無事でいたいなら黙ってることだな」

 顔を半分だけ振り返り、睨みつける。

 ガナードは黙って頷き返し、ウサギは前を向き直した。

 辺りを見回しながらあるく。通りを歩いてる獣人はいない。声すらも聞こえてこない。時々、家に入っていく獣人を見るが、みんな女の獣人で暗い顔だった。一部の獣人はこちらの存在に気付き笑顔を見せるのかと思えば、ウサギのような目つきで睨みつけられるばかり。通りにある建物には人の気配があるが、だれ一人と顔を見せやしない。途中、噴水を見つけたが、噴水の縁に火の灯ったロウソクが隙間なく置かれていた。まるで生きたゴーストタウン。

 全くもって町の実態をつかめないまま目的地に着いた。

 目の前にあるのは洋風の屋敷だった。豪邸のように派手ではなかったが、民家のような質素な雰囲気はない。

 ウサギが屋敷の扉についているドアノッカーを使い、ノックする。

 「入りな」

 屋敷の中から声が聞こえた。

 「失礼します」

 ウサギが扉を開け、扉を持ったまま脇に立った。

 玄関に入ると、2階へと続く階段が目に入った。肌に密着しているドレスを身にまとい階段を下りてきている女性がいた。

 細い腰つきに、自身の頭と同じくらい大きく豊満な胸と整ったヒップ。思わずそこに目が行ってしまう。タヌキやハクビシンにも似た毛並みだがどこか違う。そんな彼女は―

 「ようこそ。女の町、『イブの花園』へ。私がこの町の町長、ジャコウネコのカテジナです」

 色気のある声で自己紹介する。

「カテジナ!会いたかったぞ!」

 グリフィスが駆け足で階段を上り、カテジナに抱き着く。

 「白騎士、あんたとは一晩限りの関係だと言ったじゃないか。しつこいのは嫌いだよ」

 呆れた顔で胸に顔を突っ込もうとするグリフィスを止める。

 「カテジナちゃぁん♡そんな冷たいことを言わないで~。こんなにアタックしているのに、それはないだろう?」

 先程まで勇ましく凛々しい態度から一変、デレデレの気色悪い酔っぱらいのオヤジのような性格になる。 

 その光景に呆気を取っていると、ガナードの足に激痛が走る。

 「イッテェ!」

 「カテジナ様に色目を使うんじゃない!」

 ウサギが槍の石突きでガナードのつま先を潰し、殺気を向けながら通り過ぎる。

 ガナードは潰された足を持ち上げ、跳び跳ねまわる。

 「シャニィ。その方は客人だ。無礼なことはおよし」

 カテジナが静かに叱り、ウサギ―シャニィが申し訳ありませんとガナードにではなくカテジナに謝罪した。

 「グリフィス、話があってここに来たんじゃないのかい?」

 「おお、そうだ。そうだった」

 顔をうずめるのをやめ、カテジナから離れる。

 「シャニィ。あなたはコーヒーの用意を。あたしはお客人と応接室に案内するから」

 「わかりました」

 「では、こちらへ」

 カテジナは階段を下り、玄関から近いドアに近づく。

 「どうぞ。カテジナ様」

 グリフィスがドアを開け、紳士的に手を添える。

 どうもね。とお礼を言い、中に入る。ガナード達も中へと入っていく。

 広い部屋にシャンデリアが吊るされ、大きいテーブルを取り囲むように豪華な椅子が設置されてる。

 カテジナが椅子に腰を掛け、その向かいにガナード達は腰かけた。

 「さて、あなたがお仲間を連れてくるということは、遂に動き出すというわけね」

 「そうだ。彼等とは会ったばかりだが、信頼はできる」

 先程までの猫なで声から一変、真剣な眼差しで淡々と言う。

 「長年生きた勘ってやつかい?」

 「そんなところだ」

 「なるほどねぇ・・・まあ、あたしから見てもこの子らは大丈夫だと思えるね」

 ガナード達の顔をまじまじとみる。

 「じゃあ、そろそろ本題に入るかしらね」

 「そうだな。これを見てくれ」

 グリフィスは鎧の中から1枚の紙を取り出し、テーブルに広げた。

 そこには建物の設計図のような物が書かれていた。大きい湖に囲まれ、その中央に大きな要塞が建てられている。

 「今回、このワンフール刑務所もとい要塞を攻略する」

 「攻略!?」

 唐突にでたその言葉にガナード達は驚愕のあまりグリフィスの顔に視線を向ける。

 「攻略って、この人数で!?」

 「何をしでかすっていうの!?」

 「正気なのですか!?」

 「こんなに広いと迷っちゃいそう~」

 ヴァル以外不満を漏らす。

 そこへカテジナが落ち着きなと一喝し、ガナード達は黙り込む。

 「コーヒーが入りました」

 シャニィがお盆にカップとティーポット、茶菓子を乗せて入ってきた。

 みんなの前にコーヒーの入ったカップを並べていく。だが、ガナードとグリフィスに並べるとき、やたら睨んできているのが分かった。

 なんかやらかしたっけ?とガナードが疑問を持つが、すぐに答えがでない。

 お盆に乗せている物を並べ終えると、カテジナの後ろに立ち待機する。

 「ありがとう。シャニィ」

 「いいえ、これもカテジナ様のためです」

 カテジナがコーヒーを一口飲む。

 「やっぱりあんたの入れるコーヒーは絶品だねぇ」

 「ありがとうございます」

 シャニィが深々と頭を下げる。

 「続けてもいいか?」

 グリフィスが聞く。

 「わかった。今回、ここを攻略すと言ったが、狙う相手はただ一人。コーチピックの嫁、サマルーンただ一人だ」

 「サマルーン?」

 「そうだ。最近、結婚したばかりらしいが、コーチピックが原因不明の病で死んでしまった。そのコーチピックは黒騎士派の幹部だ」

 「幹部が死んだなら、なんでサマルーンを狙わないといけないの?他の狙えばいいじゃないの?」

 ミールが不満気に聞く。

 「それはそうだが、今回ばかりは話が違う」

 「どういうこと?」

 「まあ、まずは作戦を聞いてくれ。この要塞に入り込むの際、侵入できるのは1つの道だけ、この陸路だ」

 グリフィスは設計図に指を立てた。

 要塞に一つの道が伸びていた。陸に繋がっている唯一の道。

 「水は探知の魔法がかけられていて、入水、魔法の解除をすれば警報がなってアウトだ。雑菌がかなり入ってるとのことだから、口や傷口に入ればただじゃすまない。空から行けば問答無用で大砲や矢の嵐を食らうことになる。だから、この陸路を使う」

 「陸路は警備で溢れかえってるから、女王様気分の幹部に謁見するっていう形であなた達を輸送するわ」

 「輸送っていうけど、どうやるんだ?」

 ガナードが聞く。

 「贈り物を積んだ荷車にあなた達を入れる。大きな箱の中に入れるけど、大きさが限られてるわ。だから、私が編成する」

 カテジナが顎に手を当て考える。

 「あなたとあなた。当日私と来なさい」

 カテジナがミールとヴァルを指さす。

 「あなた達2人と、シャニィの3人で私の護衛をさせる。いいかしら?シャニィ」

 「はい。問題ありません」

 「わかった。サマルーン暗殺はガナードとマコトの2人に任せる」

 「あれ~?その間グリフィスさんは何をするの~?」

 ヴァルが首を傾げ聞く。

 「私は要塞に他の幹部がいないか見回する。それが終わり次第、カテジナに合流する」

 「じゃあ、俺とマコトは孤立するってことか?」

 「ああ。要塞に着いたら、最上部の玉座の間を目指してくれ。そこにサマルーンがいる。だが、2人を積んだ箱はどこに行くかわからんから、そこからはアドリブで頼む」

 「マジか・・・」

 「それと、中にいる兵士は誰一人と殺してはいけないからな」

 「攻撃されてもか?」

 「ああ、殺してしまうと交渉がしづらくなる」

 「交渉?だれと」

 「この要塞を取り仕切っているウルフェンとだ」

 「ウルフェン。ウルフェンってたしか・・・!」

 「そう。狼王の息子、ウルフェンだ」

 ウルフェン。亡き狼王の息子との交渉。これはいったいどういう意味を表すのか。その答えがすぐに出た。

 「この大陸にいる全てのドゥージー王国の兵士がサマルーンの命により、今、この要塞に集まっている。サマルーンを暗殺し、ドゥージー王国の解放。そして、ドゥージー王国を味方につけ、ネッコー国が兵量攻めにあう前に叩く。2つの国の戦力を集結させたら、そこからデスボナ帝国を打ちのめしていく。これが、この作戦の全容だ」

 「そんなこと、できるのか?」

 あまりにも大規模な作戦に対し、実質、実行するのはガナードとマコトの2人。不安のあまり、無理だと言い出したかった。

 「できるできないではなく、やるしかない。やらなければ、この大陸は滅ぶ」

 やらなければ、この大陸は滅ぶ。その言葉を聞いたとき、町にいる皆の顔がよぎった。

 ここで退けば、あの獣人たちがまた苦しい思いをする。それだけは絶対に避けなければならない!

 「そうだな。やるしかない」

 ガナードはグリフィスにそう決意する。

 「あたしらもそんなことは気に食わないし、何より、この町ができたのも先代狼王、オースタイン様のおかげだしね。借りをきっちり返す時がきたから協力するのが半分ってとこさね」

 カテジナが目を鋭くさせ、やる気に満ちた顔を見せる。

 「半分?」

 ガナード達の疑問に答えることなく話は続く。

 「彼女たちは、今も無事なのか?」

 グリフィスが訊く。

 「ああ、後で様子を見に行くといいさ」

 「後は何を伝えればいいんだ?」

 グリフィスが顎に手を当て考える。

 「その、聞きたいことがあるのですが、聞いていいですか?」

 マコトが手を挙げる。

 「なんだ?」

 「サマルーンって、何族ですか?」

 「ああ、そうだ。言い忘れてた。サマルーンはサル族だ。白髪交じりのな」

 「なるほど。ちなみに、いつ出発するんですか?」

 「準備にどれくらいかかる?」

 グリフィスがカテジナに訊く。

 「明日だね。今日は転生祭だ。仕事はさせない」

 「その、俺も聞いていいか?」

 ガナードが手を挙げる。

 「さっきから聞いてるけど、その転生祭ってなんなの?」

 「転生祭かい?そうさねぇ、一言で言えば鎮魂祭さ。『流れた者達』がもっといい所で生まれなさいという願いを込めた祭りさ」

 流れた者。女たちの住む町でそれを意味するもの。そして、噴水の縁に置かれていたロウソクの意味。ガナードはそれを理解し、追求するのをやめた。マコト達も転生祭に関することを聞こうとしたがやめた。

 「なーに。そんな悲しい顔をすることはないさ。ここの町の女はみんな強い。今日だけ弱みを見せる日なだけさ。明日になれば、またみんな逞しく生きているさ」

 笑顔でそういうが、どこか強がってるようにも思えた。彼女も経験したのであろう。

 「他の質問は後で聞くことにする。今から女王に謁見するから、お前たちも来い」

グリフィスがテーブルに置いた設計図を鎧の中にいれ、立ち上がる。

「女王って、ここの?」

ミールも立ち上がりながら聞く。

 「いいや、ドゥージー王国のだ」

 「どうしてここにいるの?」

 「私が見限る直前にここに避難させた。ウルフェンを説得するうえで彼女は必要不可欠だ」

 「それって、道具としてただ助けたわけ?」

 「いいや。ウルフェンが裏切ったとなれば、真っ先に彼女は殺される。それを防ぐためにやっただけだ。大丈夫だ。脱獄したかのように細工はした」

 グリフィスは応接室から離れていった。

 その後を追うように、ガナード達も応接室から出ていった。

 「彼らは信用してもいいのですか?特に、あのチーターとグリフィスは」

 出ていくのを確認した後、シャニィがしかめ面になる。

 「逆にあいつらでないといけないのさ。特にその2人は信用しても大丈夫。チーターの子の実力次第だけどね」

 胸の間からキセルを取り出し、煙草を詰め、火をつけ咥える。



ガナード達は屋敷の2階へ上がり奥の一室の前に止まった。

 グリフィスはドアをノックする。

 「どうぞ。お入りください」

 ドア越しでもわかる澄んだ声が聞こえた。

 「失礼する」

 ドアを開け、中へと入るとすぐにグリフィスは女性の前に跪いた。

 一方、ガナード達は女性の美しさのあまり、立ち尽くしていた。

 女性はオオカミの獣人。顔立は美しく、全身の毛が白く輝いてるように思えた。彼女は中世西洋特有の平民の格好をしていた。

 ベッドに腰を掛け、その膝には幼女がいた。こちらも全身が白い毛のオオカミで平民の格好をしていた。

 「ブレ―モノー!頭が高いぞ!」

 幼子が指さし、かわいらしい声で叱責する。

 ガナード達は慌ててグリフィスの横に並び、跪いた。

 「よしなさい。リリィ」

 女性がリリィの手をそっと下ろす。

 「申し訳ありません。娘のリリィが失礼しました」

 丁寧に謝罪する。

 「私がドゥージー王国、いえ、今はタダの女。ドゥジーヌです。よしなに」

 リリィを膝から降ろし、頭を下げ自己紹介する。

 「あなた達が白騎士殿のお仲間ですね。名は何と言うのです?」

 「おれ——じゃなくて、私の名は―」

 「私はマコト・クラウチです!お会いできて光栄です!ドゥジーヌ様!」

 ガナードが名を名乗っている最中、マコトが興奮気味に割って入り、ドゥジーヌの前に跪きなおした。

 「シバ族ですね。あなた方種族の噂は聞いています。この大陸のためにヒノ国から来てくださり、何といっていいのやら」

 「いえいえ、滅相もない!こうして謁見できただけでも私は胸いっぱいです!」

 尻尾をブンブン振りながら胸に手を当てる。

 「クマ族の方も感謝しています。あなたはフォレスト・ガンプ共和国の方ですか?」

 「はい~。私はヴァル・ヴォデ・マキュリーです~」

 「やはりそうでしたか。そちらのネコ族はネッコー国からですか?」

 「私はネッコー国からでは―」

 「私達はマハールジーン国から来ました」

 ガナードが名乗っている最中、ミールがガナードの声をかき消すように言った。

 「私はミール・マルーシャル。で、こちらが―」

 「ガナード・グウォーデンです」

 「あなた達も他の大陸から来たのですか?失礼ですが、何故あなた達は戦うのです?」

 「私達はこの大陸の女神『ヴァルキリー』に命じられたのです。この大陸からデスボナ帝国を撃退せよとお告げが下ったのです」

 「なんと!ヴァルキリーからのお告げ」

 ドゥジーヌはハッとした表情になり胸に手を当てる。

 「まだ見捨てられてないのですね。女神様」

 「この理由でもご納得ができませんか?」

 「いいえ、もう充分です。失礼なことを聞いてしまい、申し訳ありません」

 頭を下げ謝罪する。

 「事情を知らない者からしてみれば不思議なことですから、聞くのも無理はありません。どうか、お気になさらずに」

 「そう言っていただけると、助かります」

 「そろそろ本題に入ってもよろしいですかな?女王様」

 グリフィスが顔を上げ訊く。

 「ええ、大丈夫です」

 「我々は明日、ワンフール刑務所へ向かいます。それに伴い、ウルフェン様に文を書いていただきたいとお願いしたのですが」

 「文ならできています」

 ドゥジーヌは立ち上がり、化粧台へ向かい、その引き出しから手紙が入ってる封を取り出した。

 「これを」

 近くにいたマコトに渡す。

 「どうか、ウルフェンを。兵士達を解放してください」

 「任せてください。必ず成功させます」

 グリフィス達は立ち上がる。

 「では、明日に備えるため失礼します」

 「わかりました」

 深々と頭を下げ、グリフィス達は部屋を後にした。

 部屋を出て、しばらく廊下を進むと、

 「私、感激でした!ドゥジーヌ女王に会えるなんて!」

 マコトは感銘の声をあげる。

 「そんなに嬉しかったのか?まあ、奇麗だったけど」

 ガナードが言う。

 「嬉しいも何も、イヌ族のあこがれですよ!?」

 「へー」

 ネコ族、もといこの世界の住民ですらないガナードはいまいちピンとこなかった。

 「そう言えば、どうして自分の出身を言うのを邪魔した?」

 グリフィスがミールに訊く。

 「どうしてって言われても、答えたら混乱するだけだからよ」

 「ほう・・・そう言われると気になるものだ・・・ガナード!お前の口から聞きたい!どこの生まれだ?」

 「俺?俺の生まれは日本って呼ばれている国から来た。この世界の生まれじゃない」

 「なるほど。これはあんたがかばって正解だったようだな」

 ガナードが嘘を吐いてるかもしれないという疑問を持たず、グリフィスは平然と流す。

 「ミールもこのくらい流してくれれば―オオッ!」

 ガナードの足に何かつまずき、前のめりに倒れる。

 それに気づいたグリフィス達は足を止め振り返る。

 「ごめんなさいね。足が滑っちゃった」

 上品ぶった声でミールが言う。

 ガナードが倒れたのは、ミールの出した足につまずいたものだった。

 「いつまでもウジウジ引っ張るんじゃないの。そういうの嫌われるだけだからね」

 ミールはガナードに構うことなく先へ進む。

 「ガナードちゃんもそう引っ張り出さないの」

 ヴァルがガナードの体を軽々と持ち上げ、立たせる。

 「ありがとう。ヴァル」

 埃を叩き落としながらガナード達は歩き出した。

 「そうだ。マコト君でいいのかな?」

 グリフィスが振り返りながら訊く。

 「マコトで大丈夫ですよ。この手紙の事ですか?」

 マコトは先程受け取った手紙を差し出す。

 グリフィスはそれを受け取り、鎧の中へしまう。

 「ああ。ありがとう。マコト」

 「何が書かれてるんです?」

 「これか?そうだな・・・切り札といった所だな」

 「はい?」

 答えになってない答えが返ってきてマコトは首を傾げる。

 「私にも何が書かれているかわからん。説得の手紙を書いてくれとしか言わなかったからな」

 「どうして指示しなかったのです?」

 「下手に指示を出して書かせて、女王が脅迫されて書かされてるとなれば面倒になるだろ?」

 「たしかに」

 「とまあ、納得したところで、私はこれで失礼する」

 グリフィスは足早になり、進んでいった。

 「お前たちの部屋はウサギの子に聞いてくれ!私はマチルダの所へ行ってる!」

 そう言い残しながら消え去ってしまった。

 「夢中ですね」

 「まあ、わからんでもないな」

 「女の子は胸とおしりだけじゃないからね。ガナードちゃん」

 「たしかに。両方ないけど、頼りになるやつなら知ってる」

 「それって、私の事?ガナード」

 ミールのドスのきいた声が何故か後ろから聞こえ、爪を伸ばした手がガナードの喉にかかる。

~協力者 Fin~


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