協力者 前編
新たに町の住民を助けた日の夜、就寝しようとベッドに入った瞬間、女神から招集のテレパシーをかけられ4人で教会に向かい祈りを捧げ、女神のところへ向かった。
「こんな夜中に何の御用ですか?」
寝る前に叩き起こされるようにテレパシーを送られたガナードが強めの口調で聞いた。
「悪いわね。ついさっき新たな協力者との連絡が付いたの」
相変わらず違和感しかないソファーに腰かけたまま女神が答える。
「新たな協力者?」
ガナードはマコト達を見て知ってた?と聞いたが、3人とも首を横に振った。
「ともかく、その協力者との連絡が取れたの。先日あなたが殴り込みをした鉱山で情報を交換したいとのことだったの」
「情報か。で、その協力者の特徴は?」
「たしか、白い毛並みで兜を付けているわね」
「それだけ?」
「普段ここに来るときも兜をかぶってるし、顔を見せてくれないのよね」
「そいつ信用できるの?」
「その事なら安心して。彼の心を何度も覗いているけど、デスボナ帝国の事を敵とみなしているし、実力もあるからあなた達の力になるわ」
「どう思う?」
ガナードは3人に聞いてみる。
「正直、会うのは怖いですけど、このまま何の情報もなしに進むのはあまりよくないと思うので会うのも一つの手ですよ」
マコトが顎をさすりながら答える。
「それは言えてるかもね~」
「じゃあ、会うことにしてみる?」
ガナードも含め、全員が会うこと自体賛成のようだ。実際、マコトの言う通り何も情報もなしに行くのは無理があると思っていた。
「鉱山で会うことになってるんだろ?あそこは隠れる所がたくさんあるから、会うのは俺だけで、皆は待ち伏せして万が一の時に備えることができる」
「作戦どうこうはあっちで決めてね。そろそろここを閉めないといけないから」
「呼ぶだけ呼んで、今度は出ていけか。冷たい女神様だ」
「私はそれでいいの。ともかく、明日鉱山で会いなさい。いいね?」
「明日!?」
「質問は受け付けないから。頑張ってね!」
反論する間もなく女神はガナード達をこの空間からシャットアウトさせた。
意識が戻り、教会で目が覚める。
ガナードは首を抑えながらため息を吐き、立ち上がる。
「明日は早いし、もう寝るか」
振り返りながらガナードは言う。
「そうですね」
「明日も大変になるね~」
「ほんと、無茶苦茶な女神ね」
マコト達が立ち上がり、口々に言いながら、明日に備えて自身の寝床に向かった。
そして、翌日。ガナード達は装備を整え、ミールのポータルを使って鉱山に向かった。
ガナードは開けた所に立ち、協力者が来るのを待った。
残りの3人は建物や岩陰に隠れて待ち伏せをする。
しばらく時間が経つと、遠くから兵隊らしき獣人がゲジゲジの様な昆獣に乗って向かってくる集団が見えた。その集団はネコ族だけで構成されており、背中にはクロスボウを背負い、腰には剣を身に付けていた。身に付けている防具は赤い装飾が施されている。見たことがない物ばかりだった。先頭には兜を被り、白い尻尾をなびかせてるのがわかった。
兜を被ったその者は手で何か合図を出し、後ろについて来ている者、全員を先に行かせた。
この鉱山に着くと、その集団はガナードの周りを囲み、逃げ道をふさぐ。
ジッとガナードを見つめ、警戒している。
ガナードは何もせず、囲んでいる者達を睨み攻撃が来ないか警戒する。
睨みあっている内に、兜を被った者も鉱山に着き、囲んでいる者たちの間を進みガナードの目の前に止まった。
ガナードはその者を睨み、相手もガナードを睨んでいるのが兜の隙間から分かった。
緊張が走り、マコト達はその光景に唾をのんでみていた。
そして、兜を被っている者が口を開いた。
「お前が夜明けのアサシンか?」
清々しい男の声だ。
「ああ、俺がそうだ」
「ほう、お前がそうか」
昆獣から降り、ガナードの前に立つと兜を外した。
他の色が混じってない奇麗で純白の毛で覆われたネコ顔が露になった。
「私と同じネコ族のようだが、お前のような者は見たことがない。どこの部隊だ?」
「部隊?俺はそんなんじゃあない」
「貴様ネッコー国の者ではないのか?」
囲んでいた兵士が一斉にクロスボウを構え、ガナードに狙いを定める。
「何者だ?どこの国の者だ?」
「ちょっと待ってくれ、女神様からの使いじゃなかったのか?」
「女神?貴様何を言っている?」
「え?」
クロスボウの引き金に指をかけているのが分かる。
マコト達はガナードに異変が起きている事に気付き、攻撃を仕掛ける準備をする。
「一度我々と来てもらおう。貴様には聞きたいことが山ほどできた」
白猫が手枷を取り出し、ガナードに近づく。
「抵抗しなければ傷つけない。おとなしくしろ」
ガナードの手を取り、手枷を付け始める。
「もう片方の手を出せ」
「少し話そう!俺達に敵意はない!」
「俺達?」
しまった!と思い、ガナードは余った手で口をふさぐ。
「あたりを探せ!他の者もいるかもしれないぞ!」
白猫が指示を出すと、ガナードを囲んでいた兵士の半数が散り散りになり捜索し始めた。
「ちょっと待って!」
「言い訳はお仲間と共に聞こう。さあ、大人しく捕まってもらう」
ガナードの余った手に手錠をかけようとする最中、マコト達は攻撃を仕掛けようと構え、身を乗り出そうとする。
一触即発の中、高速で向かってくるモノがあった。
「ちょっと待てくれ」
「なんだ?」
「なにか聞こえないか?」
ガナードはあたりを見回し、音の正体を探る。
「見え見えな時間稼ぎはよせ」
「いや、聞こえる!あそこからだ!」
ガナードは振り返り、空に向かって指さした。
「貴様いい加減にしないか!」
白猫が腰に刺してる剣に手を伸ばす。
ガナードはそれを瞬時に察し、刀に手を伸ばす。
異変を察したマコト達は攻撃をしようと身を乗り出す。
マコト達を見つけた兵士が一斉にクロスボウで狙いを定める。
争いが始まろうとする。
だが、次の瞬間空気ががらりと変わった。
空から来たものが、ガナードの後ろに落下する。
その衝撃はまるで岩が落ちてきたかのような衝撃で、ガナードと白猫は飛ばされてしまった。
その異変に兵士とマコト達が気付き、一斉にその方向に視線を向ける。
「なんだ!?」
ガナードは受け身を取りながら落ちてきたモノに目を向ける。
土埃が舞い上がって認識ができなかったが、落ちてきた所にはまるでクレーターのように土が抉れていた。
ガナードは刀を抜きながら立ち上がり、警戒する。白猫も立ち上がり剣を構える。
土埃が舞う中から突風が吹く。台風のような風圧に2人は踏ん張り留まる。
土埃が飛ばされモノが露になる。
そのモノは背中に黒い翼を生やし、頭からつま先まで純白の甲冑を身に付け顔は見えず、両腰には刀身の長い剣を差していた。
「なんだ、あれ?」
ガナードが警戒している一方、白猫の様子が普通でないことに気付く。
先程のような眉間にしわを寄せている顔がより険しくなり、牙をむき出しにし、今にも飛び掛かりそうだ。
「白騎士ィィ!!」
鼓膜が破れんばかりの怒号を上げると、地を蹴り、白騎士と呼ばれるその者に跳びかった。
白騎士は抵抗することなく、腹に剣を刺され、押し倒される。
「グレイブソード!」
白猫が呪文を唱えると剣と地面が繋がり、みるみる剣が岩で覆われ、身の丈ほどのある巨大な岩の剣になった。
「虎王様のカタキィィィィ!」
そして、白猫は上半身を捻り、戻る反動と腕の力で地面をえぐりながら白騎士を真っ二つに切り裂いた。
上半身が回転しながら飛ばされていくが、なぜか血は一滴も出なかった。
ボトリと地面に落ち、ピクリと指ひとつ動くことなく倒れた。
「隊長!ご無事ですか?」
兵士達が昆獣から降り、白猫に駆け寄った。
マコトとミールは縄で縛られ、昆獣に乗せられていた。
ヴァルは鉱山にあった鎖で縛られ、兵士にクロスボウを突き付けられ膝立ちさせられていた。
「私は無事だ。それよりも、問題はこいつだ」
白猫が岩の剣をガナードに向ける。
剣先は目と鼻の先まで届き、一歩踏み込めば間合いに入るくらいだ。
「貴様がいる所に白騎士がきた。これは偶然ではない。デスボナ帝国の諜報員かもしれないな」
「捕えますか?」
「いや、下手に捕まえて拠点がばれるとマズイ。こいつはここで殺せ」
冷たい声でそう命令すると、白猫の傍にいた兵士がクロスボウで狙いを定める。
マコト達が捕まって逃げるわけにもいかない。だが、抵抗すればマコト達が殺されかねない。どうすればいいんだと思考をめぐらせるが、ガナードが殺される以外解決の道がなさそうだと諦めかけた瞬間だった。
切り離されていた白騎士の胴体がビクンと波打ち、大きな翼をバサッと広げた。
その音に反応し、この場にいた者の注意が一瞬それる。
「グアァッ!」
兵士の一人が高く飛ばされ、ガナードと白猫達の傍に落ちた。
「なんだ!?」
次々と兵士が飛ばされていく中、奥から奇妙なモノが見えてきた。
白騎士の下半身が一人で動くだけでなく、蹴りだけで兵士を倒している。
その様に理解が追い付かず、兵士たちは逃げ腰になっている。
「何をしている!撃て!撃て!」
白猫が命令すると兵士達が意識を戻し、クロスボウを構え、白騎士の下半身に向けて撃った。
矢は鎧を貫通し、突き刺さる。
何本も刺さり、身動きが取り辛くなり、最後には片膝をついて動かなくなった。
兵士達は矢を装填しながら引き下がる。
「今のはなんだ!答えろ!」
「知らない!」
「ウソをつくんじゃあない!」
白猫が岩の剣を突き付けながら距離を詰め、それに合わせてガナードも後ろに下がる。
途中、ガナードは石に躓き、尻餅をついてしまう。
白猫は容赦なく距離を詰め、ガナードの喉元に剣を突き付ける。
「貴様が答えぬのなら用済みだ。消えろ!」
白猫が剣を振り上げる。
それと同時に空から高速で白騎士の上半身が落下し、白猫の剣を巻き込みながら着地した。その時の衝撃で剣は岩と共に粉々になり、白猫の肩は脱臼し、力なくぶら下がる。
さらに白騎士は白猫の頭を掴み、兵士に向かって投げ飛ばした。
兵士は彼を受け止めきれず、飛ばされる。
残りの兵士たちは白騎士に向けて矢を放つが、白騎士が翼を羽ばたかせ風を起こし、矢を吹き飛ばす。
「矢ではダメだ!白兵戦だ!」
兵士達は剣を抜き、白騎士に向かって突撃していった。
白騎士は武器はおろか何も持たず、身一つで立ち向かった。
兵士達は剣で白騎士に攻撃するが、白騎士は腕で回避行動をとり、翼で相手を切りつけるが、腕や足といった所を切りつけ、隙ができた瞬間に相手を無力化させている。
殺した方が早いというのに、あえて無力化させている。余裕だというのが理解できる。
この光景を見た者はこう思うであろう。相手が悪すぎると。
上半身だけの相手に対して多数の兵士が傷一つ負わせることができず、一方的にやられているのをガナードは尻餅をついたまま黙ってみることしかできなかった。
最後の兵士を倒し終えると、白騎士は下半身のところへ跳び、切断したところが合わさると何事のなかったようにくっついた。
下半身に刺さった矢を引き抜き、立ち上がるとそのままガナードの前に止まり、手を差し伸べた。
「すまない。少々遅れたばかりにトラブルに遭わせてしまったようだ。立てるか?」
兜で声がこもってはいたが、凛とした低い声だ。
「え、ええ」
ガナードは差し伸べられた手を取り、白騎士に引っ張られながら立ち上がる。
白騎士は兜を取りながら言った。
「女神様から話は聞いた。君がガナードだね?私はグリフィス・ファーナー。鳥族のワシだ。そして、ネッコー国の兵士が言ったように私は白騎士と呼ばれている。デスボナ帝国の幹部だ」
「ウソだろ・・・」