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彼の騎士道 前編

 その後、ガナードはミールからの伝言を貰い、自分の馬車へと戻り、どうやってエスティナを取り返すか考えていた。だが、案らしい案は浮かばなかった。せいぜい浮かんだのは2つ。

 1つ。敵と正面からぶつかったとき、敵の本部らしいところを見つけ、そこに正面突破で突き進む。

 2つ目はぶつかった時に殺した敵の服を奪い、逃げてきたテイで本部に行き、そこでエスティナを取り返す。

 だが、それぞれ共通するとても厄介な問題がある。

 まず、敵とぶつかったとき、本部の場所をどう特定するか。仮に、本部にたどり着いたとして、どのようにしてエスティナを連れていくか。グリフィスの話を聞くと、彼女はデスボナ帝国にとってとても重要な『兵器』。警備も厳重であろう。下手をすれば、そこの警備をしてるのは超越者である可能性が大いにある。それをどう突破するか。

 だが、なんやかんや問題はあるが、一番はガナードが1人で行くことをこの部隊が納得するかどうかだ。

 (参ったな・・・)

 思わず頭を抱え込んでしまう。

 「大丈夫か?」

 先程、声をかけてくれた兵士がガナードを心配する。

 「さっきの天気を見てから、なんか様子がおかしいぞ?ウェザー・ウィッチと何か関係があるのか?」

 「ウェザー・ウィッチ?」

 顔を上げ、兵士の顔を見つめる。

 「ああ。天気を操る黒猫なんだが、俺達はそう呼んでいる」

 「名前を聞いたことは?」

 「いや、ないな」

 「そうですか・・・」

 「なあ、何があったんだ?」

 「・・・ウェザー・ウィッチは、仲間の妹なんです」

 「仲間の?もしかして、あの三毛猫の妹なのか?」

 「ええ。探していた妹が、あと少しの所にいる。1人でも助けに行くと暴れていました」

 「君は、それをどうにかしてあげたいと言うわけだな?」

 はいと言いながら頷き返す。

 「なるほどな・・・」

 腕を組み、考える。

 「何か案はあるのか?」

 「あるにはあるのですが、問題がありすぎて・・・」

 「戦場でモヤモヤされても困る。話してみろ」

 ガナードは一度深く呼吸し、口を開いた。

 「戦場で自分だけが離れるのは、皆さんに迷惑がかかってしまう。だから、そこの所をどうしようかと悩んでるんです」

 「なるほどな。確かに、難しい問題だ」

 「グリフィスも自分がいる前提でこの作戦を立てたんです。だからこそ、余計難しい」

 「私も力になりたいのだが、こればっかりは何も思いつかない。すまない」

 「謝ることはないですよ。私が勝手に言ったことですから」

 「だが、ウェザー・ウィッチがいるとなれば私達の作戦も変更せざるを得ない」

 「え?」

 兵士は翼を片方だけ広げ、ガナードに見せながら言った。

 「俺達は攪乱、および足止めだが、もしもの時この翼を使って飛んで逃げる。大隊長もそれが前提で作戦を立てたと思う。その時、君を連れて行かなくては行けない状況になるやもしれん。

 だが、我々トリ族は飛ぶとき、天気に最も左右されてしまう種族なんだ。雨が降ったりすれば、低く飛んでしまう。そうすれば、魔法や弓矢で簡単に撃ち落とされてしまう。全滅もありゆる。知ってるだろ?」

 「ええ」

 前の世界で低気圧が近づくと、ツバメが低く飛ぶというのを覚えていたガナードは、話がすんなり入ってきた。

 「そこでだ。もし、君がウェザー・ウィッチを取り返してこれれば、私達は君達を連れ、戦線を離脱することが出来る。だからこそ、お願いだ」

 兵士はガナードの手を取る。

 「我々のためにも、ウェザー・ウィッチを取り返してくれ」

 「え?そ、それって、行っていいってことですか?」

 「ああ。異論のあるやつはいるか!」

 馬車の兵士達に訊き、返答を促すが誰も反論はしないはおろか、

 「俺からも頼めるか?」

 「仲間の妹なんだろ?意地でも取り戻してこい!」

 と励ます兵士も出てきた。

 余りにも意外な反応が出てきたガナードは、ただ呆然とする。

 「それで、何か作戦はあるのか?」

 兵士の声で我に返る。

 「・・・『前提』が無くなった今、1つ、思いついた」

 「何だ?」

 「暗殺。これしかない」



 その後、ガナード達は散開し、それぞれの所定の位置へと向かった。

 「しかし、万はいると行ったが、万は万でも10万はいるんじゃないのか?」

 遠くから城を取り囲む大規模な兵士を見て、ガウェインは思わず言葉を漏らす。

 「怖気づいたか?」

 鎧を脱ぎ、身に着けてる物といえばパンツと腰に差してる武器しか無いという、ほぼ裸になったグリフィスが言う。

 「・・・何で裸になってるんだ?」

 「あんたを掴んで運ばなきゃいけないんだ。それも、出来るだけ速くな。だから、こんな格好になってるんだよ」

 「なるほどな」

 「じゃあ、後ろから援護を頼むぞ。2人とも」

 ミールとエスティナにそう告げながら羽ばたき、ガウェインの上で止まる。

 「足をつかめ」

 「はいよ」

 ガウェインはグリフィスの足をガッチリと掴む。

 「行くぞ!」

 翼を大きく羽ばたかせ、ガウェインと共に飛び、ライオネル城へと向かった。

 ガッチリとした筋肉質の男だからか、いつもより遅く、低く飛んでいる。だが、城壁は超えられるほどの十分な高さはあった。

 「おい!あれはなんだ!」

 デスボナ帝国の兵士がグリフィスの存在に気付く。

 「トリ族?てか、あいつの足にいるのって・・・」

 「ありゃあ・・・『虎王』だ!なんで虎王がここにいるんだ!?てか、誰だ!あのトリ族は!?」

 「笛鳴らせ!笛!」

 「あ、ああ!」

 兵士は胸に下げてる笛を取り出し、息を思いっきり吸い込んで吹いた。

 ピィーーーーーーーーーーーーーと甲高い音が鳴り響く。

 その笛の音は南側に設置している本部の所まで届いた。

 「なんだ?人が寝てるってのに」

 グヌトゥフスが目を擦りながらテントの中から出てくる。

 「何があった?ベルベル?」

 「あれを!」

 「あ?」

 グヌトゥフスはベルベルが指さした方へと顔を向ける。

 それを見たグヌトゥフスは眠たそうに細めた目を一気にカッと開き、

 「ありゃあ、虎王!それに、鎧を脱いでるが白騎士じゃねえか!」

 「どうして、彼が虎王を連れここに?彼はワンフールの管理としてあそこにいるのでは?」

 「彼は裏切ったのさ」

 首を傾げ、考えを巡らせている所にキエノフがどこからともなく現れる。

 「裏切る?会議から外されたり、不当な扱いを受けただけでか?器のちいせぇ奴」

 「そうではない。彼は以前から帝国の政策が国を滅ぼしかねないと忠告していたが、改善をする気配がないから裏切った。というより、見限ったという方が正しいか」

 「で?それと虎王がどう関係してるんだ?てか、虎王はドゥージー城で幽閉されてるんじゃないのか?」

 「虎王がなぜそこにいるかは分からぬが、このまま彼等を行かせるのはマズいな」

 「じゃあ、潰すか!」

 グヌトゥフスはテントから杖を取り出した。

 だが、杖にしては異様な見てくれをしている。まるで、エレベーターに使われるワイヤーのような形をしている。

 「ロックボール!」

 「マズい!逃げろ!」

 グヌトゥフスは杖を空に向かって掲げると、周りの土や石が一カ所に集まってきた。

 その間、ベルベルは『総員、退避!隊長が暴れるぞ!』と叫びながらグヌトゥフスから離れた。その声を聴いた兵士は顔色を変え、一斉に逃げ出した。

 キエノフはいつの間にかグヌトゥフスから離れていた。

 何故、味方が離れていくのか、その理由はすぐに分かった。

 「なに、あれ?」

 ミールとラーブルはその異様な光景に驚いていた。

 敵拠点のど真ん中に屋敷と変わらぬ位の大きい岩が浮かんでいた。

 「あんなに大きい岩の呪文、あるんですね」

 「いや、あれ初級の呪文のロックボールっぽいけど、あそこまで大きくするのは初めて見た。ていうか、飛ばせるの?あれ」

 「どういうことですか?」

 「ロックボールは周りにある石や土といった物を一カ所に集め、飛ばす呪文なの。だけど、集めることは出来ても飛ばすのは魔術師の魔力で左右されてしまうの」

 「ということは、あれを飛ばせるということは、凄い魔術師って事なんですね!」

 「凄い魔術師だったら、もっと違う呪文を使ったほうが効率がいいし、飛んでる相手に土の呪文使う事態効率が悪い」

 「じゃあ、あれはいったい?」

 「分からない。とにかく、あれ止めたほうが良いじゃないの?」

 「そうですね!」

 よーしと言いながらラーブルは指を鳴らし、岩に向かって片手をかざした。

 「え?それで呪文が発動してるの?」

 「はい!」

 「まあ、発動してるならそれでいいか」

 そして、その岩がやっと完成した。

 「よーし」

 グヌトゥフスは杖を手放し、両手を空にかざす。

 「・・・あ?」

 岩が落ちてくるはずがラーブルの能力でそれが止められ、空中で浮遊してる。

 「何で落ちてこねぇんだよ!」

 岩に向かって跳び、何度も動かそうと力を籠める。

 「クソ!何で落ちてこねぇんだ!・・・あ?仲間がいるだと?どこにだ?・・・知らねえなら声かけてくるんじゃねえ!クソ!ベルベル!」

 岩から降り、手をメガホンにしながらベルベルを探しに向かう。

 「岩が止まってる?」

 岩が集まるのを見ていたガウェインは首をかしげる。

 「ラーブルのおかげだろう。もし、彼女がいなければ、あれは私達に向かって飛ばされた」

 「ともかく、今が好機だな!」

 「ああ、そのようだ」

 羽ばたいて加速しようとした瞬間、したから矢や呪文といった物が飛んできた。

 それに真っ先に気付いたガウェインは、足でそれらすべて蹴り飛ばす。

 「すまない」

 「いいさ。ともかく、ボヤボヤしてらんないぞ」

 「ああ」

 先程の攻撃が発射された所にはキエノフと複数の兵士がいた。

 「ふーむ。あれをすべて足だけであしらうとは、流石虎王だ。彼と一戦交えたいものだな」

 ガウェインをジッと見つめ、腰に差してるレイピアの柄を撫でる。

 「キエノフ様、いかがいたしましょうか?」

 後ろにいた兵士が聞く。

 「集合の合図を!これより、攻城戦に持ち込む!」

 「はッ!」

 兵士達は散り散りになり、集合の合図を送るためのフレアがあるところへと向かった。

 


 本部は南側にあるだろうと兵士に教えられ、急いで西側から南側に走って向かっていく。近くには都合のいいことに林があり、木と木を伝って南にあるであろう本部へ向かっていた。

 林の中には等間隔で広がり、3人一組で見回りしている兵士が多く見かけられた。もし、このまま下を通ってれば厄介なことになっていただろう。

 「ん?」

 1人の兵士が1本の木に注視する。

 一見、何の変哲もない一本の木。

 「どうした?」

 連れの2人の兵士が気にかける。

 「いや、あそこの木に何かが移ったような・・・」

 ゆっくりとその木に近づき、後ろに回り込む。

 「速くいくぞ。どうせ昆獣だ」

 「・・・まあ、そうだよな」

 回り込む直前、彼は呼び止められ、隊に戻る。

 「危なかった・・・」

 ガナードは両手にナイフを持ち、木に刺し、上手いこと隠れてやり過ごしていた。

 こうして、何度かバレそうになりそうにもなったが、問題なく進行していった。そして、出口が近づいてくると向こう側の景色が見え始めた。

 「あそこが、本部か?」

 林を抜けた先には、本部へと続く道が続いていた。距離にして約500mの所に城下町を取り囲むように拠点があった。拠点の周りには丸太を尖らせ、それを並べて壁を作り、その中にはモンゴルのゲルのような物が幾つも建っていた。

 だが、その中でも異様な光景が目に付いた。

 「何だあの岩?」

 拠点のど真ん中にひと際大きい岩が空中で浮遊している。その横をグリフィス達が飛んでいくのが見えた。それに続き、拠点からフレアのような閃光が撃ち放たれる。

 「始まったのか?」

 何かの合図ではあるというのは状況からして分かった。

 「時間がない!」

 ガナードは木から降り、その拠点に向かい始める。

 ガナードが立てた作戦。拠点に直接行き、エスティナ(ウェザー・ウィッチ)を取り返すというシンプルな作戦だが、制限時間がある。

 今回、グリフィスは仲間に足止めをするよう作戦を立てたが、東側の軍隊は足止めされることなく、スムーズに合流できる。もし、その軍隊が合流されてしまったら、脱出はより困難になり、見つかる可能性は大幅に上がってしまう。だから、この作戦はスピードが命。彼女を見張っている兵士、もしくは超越者を暗殺し、取り返す。そして、その後は西に向かって走り、部隊と撤退要因のミールに合流するか、ライオネル城に逃げ込むという作戦だ。

 考えてる時間と共に行動できる仲間はいないため、こんなスカスカな作戦となった。だが、これはミールのため、第1部隊の命のため、やるしかない。

 林を抜けようとした瞬間、問題がすぐに発生する。

 拠点まで約500m道中、隠れる所がない。その上、見張りの兵の数が多く、隙が無い。

 これじゃあ、拠点に入ることができない。

 「参ったな・・・」

 周りを見渡しても何もない。あるのは林だけ。

 顎に手を当て、何か案がないか考える。

 「ん?」

 顎に当ててる手を離し、ジッとその手を見つめる。次に、後ろにある林を見つめる。

 自分の手、林・・・

 「そうだ!」

 そして、少し時間が経った。

 「火事だー!」

 林の中から兵士が叫ぶ。

 「火事が起きてる!水魔法を使える魔術師を呼べ!」

 林の中で木が燃えている。それも、バラバラなところで数カ所。

 ガナードは『浄化の炎』の力と足の速さを生かし、林の数カ所に火をつけたのだ。

 騒ぎを聞きつけて拠点から兵士がバケツに水を入れ、林に向かって駆けつけ、その後ろには魔術師がいた。

 (よし。今だ!)

 ガナードはバケツに水を入れに戻る兵士に紛れ、拠点に向かう。

 騒ぎの中、誰もガナードの存在に気付かない。そのはずだった。

 「おい!お前!」

 拠点の入口の前で肩を捕まれ、無理やり振り返させられる。

 「お前、見ない顔だな」

 厳ついイノシシの兵士がガナードを睨みつけ、肩を力強く握りしめる。

 「え、えっと、その」

 一部、周りの兵士も足を止め、ガナードを睨みつける。

 言葉が詰まり、頭が真っ白になる直前、とっさに

 「新人です!」

 と苦し紛れに言った。

 (いやいや、絶対無理があるって!こんな典型的なウソは!)

 「新人?ホントかぁ?」

 顔をしかめ、首をかしげる。

 (これは・・・行けるか!?)

 「そ、そうです!自分、こんな身なりですし、昔から影が薄くてよく忘れられるんです。かくれんぼとかしたら、見つからずに夜まで隠れてるタイプなんです。すみません。疑いをかけるような存在で」

 ペコペコしながら何とか説得を試みる。

 (いけるか!?)

 「え、あ、いや、そうなのか。悪いことしたな」

 イノシシは手を放し、申し訳なさそうにする。

 周りの兵士も水を取りに向かい始める。

 (いけた!これはチャンスだ!)

 「まあ、今は火を消すのが先決だ。行くぞ」

 「え、あ、あの!」

 水を取りに行こうとするイノシシの兵士を呼び止める。

 「なんだ?」

 「こんなに数カ所で燃えてるんです。ウェザー・ウィッチを使ったほうが良いのでは?」

 「う~ん。名案だが、使えるかどうか分からんぞ?」

 「ですが、説得する価値はあるのでは?私が説得しに行くので、そのウェザー・ウィッチはどこにいるんですか?」

 「新人が言っても聞いてもらえないのがオチだが・・・まあ、聞くだけ聞いてみてみるか?」

 「それで、ウェザー・ウィッチはどこに?」

 「せっかちだな。牢屋の所にいると思うぞ?場所は入って左の休憩場の所の奥だ」

 「ありがとうございます!」

 ガナードは深く頭をさげ、拠点の中に入り、左に曲がった。

 進んでいくと、鍋がつるされてる焚火とその周りに幾つものテーブルや椅子が並べられてる休憩場に着いた。

 食事の最中だったのか、テーブルには食いかけの料理が並べられていた。

 (確か、奥って言ったな)

 辺りを見回すと一本だけ奥に続く道があった。

 ナイフを鞘に収めたまま取り外し、それを尻のポケットに入れる。

 見張りの者がいたら、武器は刀だけだと思わせるために使うものだ。

 少し進むと、鉄格子が並べられている道に代わる。その檻の中には生気が抜けたかのように俯き、座り込んでいる人。微かに息があるが、カラカラに渇きミイラになる手前の人が何人もいた。

 それに怒りを覚えつつ、ガナードは道を進む。そして、道の終着地点に檻の中、黒くて丸い物体があるのが見えた。

 もしやと思い、それに近づき片膝をつく。檻の中で黒い球体から2つの黄色い球体が浮かび上がる。

 「あ、あの、また天気を変えるんですか?」

 それは今にも消えてしまいそうな弱々しい声でそう語りかけた。

 「いや、俺は君を助けに来た」

 「たす・・・けに?」

 彼女はそう聞き返し、首をかしげる。

 「ああ。君は確か、エスティナだよね?ミールお姉さんが待ってるよ」

 「お姉ちゃん!お姉ちゃんが居るの!」

 エスティナは鉄格子に体を押し付け、ガナードの顔をジッと見つめる。

 彼女も意外だったのだろう、嬉しさのあまり、大きい声を上げる。

 ガナードは口元に人差し指を当て、静かにするよう促す。彼女も思わず、あっと声を漏らし、口元に手を当てる。

 「少し離れて。今、その檻を焼くから」

 「焼く?」

 彼女は首を傾げつつ、ガナードから離れる。

 ガナードは檻を握り、手から炎を出した。

 「これを熱しながら、広げるッ!」

 檻を左右に引き、入口を作る。

 キィッっと鉄のきしむ音が聞こえた。

 「もう少し!」

 「まさか、ここまで侵入を許すとは、私達もまだまだというわけだな」

 突然男の声が聞こえた瞬間、目の前の景色がガラリと変わった。

 「なにッ!」

 今いる場所は、先程の食堂だ。

 だが、周りの椅子やテーブル、焚火といった物は全部端に避けられていた。

 (なぜ今ここにいる?さっきまでいたところは、檻の前のはず!)

 あたりを見渡し、状況を理解しようとしてると、どこからか声が聞こえた。

 「無詠唱で炎を出したな?」

 「誰だ!!」

 「これは申し遅れた」

 ガナードの正面から数歩離れた所に突然、何の前触れもなくそれは現れた。

 「私の名前は『キエノフ』。ヒツジ族アイベックスのキエノフだ!」

 2つの立派な角が生えたヒツジがそこにいた。

 「して、名は?」

 「え?」

 「名前を聞いてるんだ。これから決闘をおこうなう。それにあたり、名を知らずにやるなど、我が騎士道に反するッ!」

 「き、騎士道?」

 「答えよ!」

 腰からレイピアを抜き構える。

 唐突な事で頭の整理が付かないが、取り合えず、ガナードは答えた。

 「・・・ガナード。俺は、ガナード・グォーデンだ」

 「ガナードか。よし。では、ガナード。貴様は何の目的でここに来た?」

 「それ、答えなきゃいけないのか?」

 「決闘で勝利したものは、勝者が望みを叶える権利がある。私はそれを叶えると言ってるんだ」

 「正気か?敵の望みを叶えるなんて」

 「正気さ。だが、もし私が勝てば貴様の正体。そして、その力の秘密を答えてもらうぞ」

 「・・・本気で言ってるのか?それ」

 「ああ。逆に勝ったら、何でもする。打ち取りたい者がいるなら喜んで協力する。私に死ねというなら、死ぬ。先程の黒猫を助けたいというなら、それを黙って見過ごし、兵士にも手を出させないように協力する。それで、何が望みだ?」

 「その話が本当なら、乗った」

 ガナードは刀を抜き構える。

 「何でそんなことをするのかは謎だが、そんな好条件、見過ごすわけにはいかないな」

 「して、望みは?」

 「俺が勝ったら、彼女を連れていく!」

 「来い!暗殺者!貴様の『強さ』、私に見せろ!」

 


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